共謀罪が強行採決され、国会が閉会して加計学園問題がうやむやにされようとしている。あまりの理不尽に憤死しそうになっていたある日の午後、この本を開いた。2012年に発表された自民党憲法改正草案を俎上にのせた、ファッション評論家のピーコ、全日本おばちゃん党代表代行の谷口真由美、評論家佐高信の毒舌3人による鼎談である。タブーなし、忖度なしの本音炸裂、言いたい放題。実名もばんばん出てくる。「沢木耕太郎って、姜尚中よりもっとすごいナルシスト」(ピーコ)とか、本題とは直接関係ない話や、森友学園など旬の話題も豊富だから、ついつい引き込まれる。愉快、爽快、痛快。溜飲を下げ、膝を打ち、快哉を叫ぶ。憤死なんてするもんか、安倍独裁に鉄槌をと、さっきまでの鬱々たる気分が吹き飛んだ。
テーマは憲法だが、いきなり本丸の9条ではなく、まず24条の家族、婚姻に関する章から入るところが、このメンバーならではの妙味だ。谷口は自民党改憲草案24条の「家族は互いに助け合わなければならない」という、一見もっともな話の裏に隠された真意を読み解く。さらに「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」としている現行憲法の条文から「のみ」を削除し「両性の合意に基づき」としている点に着目、「のみ」の二文字がいかに重要かを指摘する。そしてピーコは「なにかというと『家庭』『国』になるわけ。『個』というものがここからは抹殺されているの」と喝破する。
「週刊金曜日」での対談に加筆してまとめたものなので、気楽に読める軽い1冊だが、巻末に現行憲法と自民党草案の対照表、谷口による草案の大阪おばちゃん語訳(一部)がついていてお得感がある。居酒屋談義的なおしゃべりのなかにも、「日本国憲法前文は実はポツダム宣言の返答……もう戦争しませんという反省文とこれからの展望が書かれている……短歌で言うと返歌みたいなもの」(谷口)といった重要な指摘もあって、深くうなずくことしきりである。
5月3日の安倍総理による「9条加憲」発言を受けての街頭インタビューをテレビで見ていて、仰天したことがある。子どもを抱いた30代くらいの男性の発言「憲法は70年も経って古くなって、今の時代の新しい問題に対処できていないでしょ、たとえば待機児童問題とか……」。もう一人は巣鴨のおばあちゃん「自衛隊の皆さん、がんばってくださって、ほんとみんな感謝してますよ。ちゃんと憲法で認めてあげなくっちゃ、ばちが当たる」。このあまりに無邪気な善良なる老若男女に、一読を勧めたい。
(板倉久子)