「先生」と呼ばないで~チームの一員としての弁護士 講師:鹿野 真美氏

大学でロシア語を専攻していた鹿野真美さんは社会人になり、あることをきっかけに「検察官になる!」と決意し、司法試験に挑戦します。その原動力となった「思い」とは、何だったのでしょうか。人との縁を大切にしながら真摯に業務に携わっていらっしゃる鹿野さんの講演には、法曹を志す人に限らず、多くの人にとって将来を描くヒントが詰まっています。[2018年3月17日(土)@渋谷校]

印象だけで嫌うなんておかしい!

 私は大学でロシア語学科を専攻していましたが、初めてロシア語に興味をもったきっかけは中学生のときに行った「好きな国・嫌いな国アンケート」でした。当時、嫌いな国としてソ連(ソビエト社会主義共和国連邦、今のロシア)を挙げる人が圧倒的に多い一方で、嫌いな理由をうまく説明出来る人はあまりいませんでした。理由もなく決めつけで嫌いというのはおかしいと思った私は、「好き嫌いを言う前にまずはソ連のことを知るべきだ。そのためには、まずは言葉を学ばなくては」と考えるようになりました。
 ロシア語学科に行きたいと言うと、母親から「共産主義国家の言葉を学ぶなんておかしい!」と大変な反対を受けました。私は反対されればされるほどムキになり、我を通してロシア語学科へ進学しました。最近、当時のことを母と話したところ、驚くことに母は自分がそのように反対したことをすっかり忘れていました。周りの人から言われたことを鵜呑みにして、自分で考えて自分の言葉で話していなかったから、覚えていないのかもしれないね…と、母は言っていました。

よし、検察官になろう!

 社会人になり社内結婚を機に法律事務所の事務職員へと転職した私は、何か資格を取りたいと考えるようになりました。そんなときにテレビでたまたま観たのが、1981年に大分県で起きた女子短大生殺人事件のドキュメンタリー番組でした。
 この事件では、「自白したら10年くらいで出て来られるぞ」「お前が部屋にいた物的証拠がある」「黙っていてもお前の情状が悪くなるだけだ」などと警察から脅されて自白した調書をもとに、第一審では有罪判決となりました。しかし後に、警察が証拠を捏造していたことが判明し、控訴審で逆転無罪となった事件です。結果として無罪判決を得たものの、犯人とされた人は人生を無駄にしてしまったのです。
 警察の行為は当然許されるものではありませんが、検察がきちんと証拠を見極め不起訴にしていれば真犯人を探す方向へと捜査が変わっていたかもしれません。この番組を観て、「検察さえしっかりしていればこんなことは起きないはず。よし、私が検察官になろう」と決心しました。それまで法律の勉強をほとんどしたことなかったので試験勉強は大変でしたが、外国語の学習と似ているところもあり、何とか合格することが出来ました。

あなたは検察官に向いていない

 司法研修所の最初の面接では、いきなり「あなたは検察官に向いていない」と言われてしまいました。ムキになった私は「こういう志望動機の検察官がいることも検察組織にとって良いはずです」と発奮し、より一層頑張ったのですが、取り調べ修習を受け自分が検察官に向いていないことを実感しました。
 事務所荒らしで捕まった被疑者を取り調べたときのことです。「僕は仲間に言われてついていっただけで何も知りません。金庫も見ましたが中には何もありませんでした。何も盗んでいません」との被疑者の言葉どおりに調書を作成し指導検察官に報告にいくと、「ばかもん! 彼が主犯だぞ」と怒られてしまいました。検察官のストーリーを被疑者に「その通りです」と認めさせるのが検察官の仕事という現実に、私はショックを受けました。
 検察官にとって、相手の言っていることを鵜呑みにせず、相手の話に嘘や矛盾がないか細かく取り調べることは大事な仕事です。しかし、強制的に捜査が出来る権限を持っていることの力強さや、それを自分が行使することの重みを自分自身で戒めていないと行き過ぎてしまうおそれがあります。どんな職業に就く人も同じだと思いますが、特に国家権力をもつ職に就く人には謙虚になって頂きたいと思います。
 自分が検察官に向いていないことが分かっても、弁護士になりたいとは思えませんでした。以前、自分の依頼者を救うために他人を傷つけることも厭わない弁護士が出てくるアメリカのドラマを観たことがあり、弁護士に対するイメージが悪かったのです。だからといって裁判官になるには、もっと私自身に人生経験が必要だと思いました。そのように悩みましたが、「『弁護士』になるかどうか、一度、弁護士業務に精一杯取り組んでから決めたらどうか」という先輩の言葉で弁護士になることにしました。

人の縁で繋がっていく仕事

 弁護士の仕事の良いところは人のご縁が繋がっていくところです。一生懸命仕事をすると依頼者との間に信頼関係が生まれ、その人からまた新たな依頼者へ繋がっていきます。そしてそれは依頼者との関係だけでなく弁護士同士でも同じことです。
 弁護士会には様々な会派があり、どの会派も人を増やすために新人弁護士へ声をかけていきます。弁護士登録後間もなく、私も「無料でご招待するので新人歓迎会に来ませんか」とお誘い頂きました。無料でご飯が食べられるなら! と参加してみたところ、そこで出会った先輩弁護士は非常に気さくな人ばかりで、とても居心地が良かったのです。誘われるままに忘年会にも参加したところ、1人で事務所をやっている20期ほど先輩の弁護士から「自分は外での仕事が多く事務員も暇しているから、話し相手にでもなってあげてくれないか」と声をかけて頂きました。私は今で言う「即独」だったのですが、「軒弁」のような形で入所させて頂き、実際には手当をもらえることになりました。
 その後も会派の飲み会や勉強会などに顔を出しているうちに、弁護団のお誘いなど様々な方面で声をかけてもらえるようになりました。会派に所属する弁護士の中には、私のように主に一般民事を扱う「マチ弁」もいれば、企業法務を専門にする人や渉外など海外案件を扱っている弁護士もいます。そういう人たちと話をするのは非常に勉強になります。

チームの一員としての弁護士

 弁護士になって最初の5年間は、少年事件を含む刑事事件に積極的に取り組みました。原爆症認定訴訟の弁護団にも加わりました。誘ってくれた知人が人権活動家の鑑のような人だったので、こうした事件に取り組む人たちは高尚な理想を掲げた堅苦しい人たちばかりだろうと思っていましたが、実際にお会いしてみると面白くて楽しい人たちばかりでした。そのような誤解が、自分の思い上がりによるものだと気づかされ恥ずかしく思いました。
 現在、私が最も力を入れている業務は成年後見の仕事です。成年後見の対象となる人はそれまでずっと困った状況が続いていた人が多いので、どのような法的支援を必要としているのかを調査するために、本人や本人にかかわっている人々に話を聞く必要があります。ケースワーカーや精神保健福祉士などの福祉関係の方々、お医者さん、マッサージ師さん、大家さんなど、様々な立場の方から本当に多岐にわたるいろいろなことを教えてもらいます。本人をサポートしている人たちが疲弊しないように、支援者側へ法的アドバイスをすることもあります。一つのチームとして協力しながら仕事をしている中で、弁護士という理由で私だけ「先生」と言われることには恥ずかしさを感じます。

「クレーマー」対応を生きがいとして

 「こうして欲しい」という不満を訴えている人の話を、私は貴重な意見として聞かないといけないと思っています。人に怒られた経験のない若い弁護士の中には、苦情を受けると非常に疲弊してしまう人もいるようですが、私は人に罵倒されたり文句を言われたりすることに忍耐力があるようです。これは私の個性であり、貴重な取り柄だと感じています。
 今は放送大学で心理学の勉強もしています。まだ模索中ではありますが、法律家として法的三段論法を知っていること、プラスアルファで自分の個性を伸ばしていけたら、ますます幅広く仕事を引き受けられるのではないかと思っています。
 みなさんの中には、今、弁護士がおかれている現状に不安を感じている人もいらっしゃるかもしれませんが、弁護士会も徐々にサポート出来る体制が出来てきているので何か困ったことがあればぜひ相談してみてください。一緒に頑張りましょう。

講師:鹿野 真美氏(「うなての法律事務所」弁護士、元伊藤塾塾生)
1986年、千葉県立東葛飾高校卒業。1990年、上智大学外国語学部ロシア語学科卒業。同年、株式会社山一證券入社。山一証券経済研究所経済調査部配属(マクロ経済分析担当)。1993年、同社退社。濱田松本法律事務所(現 森・濱田松本法律事務所)入所(事務員・秘書)。1996年、同所退所。1998年、司法試験最終合格。1999年、司法研修所入所(53期)。2000年、修習修了・弁護士登録(東京弁護士会)。 2011年、うなての法律事務所開設。