第49回:嫌なニュースばかりだけれど、 安倍首相、そろそろお後がよろしいようで(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 少し気分が落ち込んでいる日、ぼくは動物園に行く。ぼんやりと秋の風に吹かれながら動物たちを見て回ると、なんとなく気持ちが穏やかになる。
 中でもぼくの好きなのは、犀や河馬、象、それにターキンなどの大きな動物。彼らは何の屈託もなさそうに、ゆっくりと草を食んでいる。見ていると、あくせくしている自分がバカらしく思えてくる。
 でも、彼らだって好き好んでこんな狭い場所にいるんじゃない。ほんとうは、大草原で悠々と暮らしていたいんだろうな。そう考えると、ちょっと悲しくなるけれど…。

 ひどいニュースばかりのこのごろだ。毎朝、新聞を開くのもイヤになる。気分が落ち込むのも仕方ない。

サウジアラビアのジャーナリスト殺害の陰に

 政府批判を繰り返していたジャーナリストのジャマル・カショギ氏が、トルコのサウジアラビア領事館内で、なんと生きたまま切断されたらしい。まさに猟奇犯罪。しかも実行部隊は王家直属の暗殺部隊らしい。
 サウジ側の言い訳がスゴイ。
 「口論から殴り合いになって、相手が死亡した」
 こんなバカな言い訳、世界中で信用する人がいたら不思議だ、と思っていたら、信用するふりをする人物がいたから驚く。
 トランプ米大統領は「サウジアラビアの発表を理解する」と、あっけらかんと表明してしまった。12兆円にも上る米国からサウジアラビアへの武器輸出に支障が出ないようにという配慮のつもりだろう。だが、さすがに国際的非難の嵐にたじろいだか、「サウジ側の説明には明らかなウソがある。信用できない」と前言撤回。撤回癖は日本政府高官とよく似ている。
 高まる国際非難に、サウジアラビアも「調査委員会を立ち上げる」と発表せざるを得なくなった。ところが呆れたことに、委員会の責任者は関与が疑われている当事者のムハンマド皇太子自身が就任するという。これで通ると思っているところが独裁者の独裁者たるゆえんだ。
 なにしろ「サウジアラビア」とは「サウード家のアラビア王国」という意味で、そのサウード家の現在の実力者がムハンマド皇太子なのだ。国家など自分の持ち物だと考えていてもおかしくはない。
 武器輸出に狂奔するトランプ氏と軍需産業の癒着ぶりは有名だ。陰で武器商人が暗躍しているのは間違いない。独裁者、諜報機関、暗殺部隊、軍需産業、武器商人、大国の大統領と、悪役キャラクターに事欠かない。まるでハリウッドが得意とするポリティカルサスペンス映画そのものだが、現実はフィクション以上にスゴイ。

 殺害されたジャマル・カショギ氏には、実はとんでもない叔父がいる。昨年死去したアドナン・カショギという人物だ。この男、世界でも群を抜いた“武器商人・死の商人”として超有名人で、その資産は3400億円とも言われていた大富豪でもあった。しかも、この“死の商人”はトランプ大統領とも深いかかわりがあったという。トランプと武器商人。確かに関係があってもおかしくはない。
 ジャーナリストのジャマル・カショギ氏は、ムハンマド皇太子と武器商人カショギ氏との裏の関係をつかんでいて、それが殺害動機になったのかもしれないという説や、逆にジャマル・カショギ氏が反対派のスパイだったのではないかという説など、ほんとうに魑魅魍魎の世界だ。

 トランプ氏が、わが安倍首相としきりに親しいふりをするのも、実は裏で兵器売り込みの強い要請が“戦争企業”からあるからだと言われている。安倍首相は、イージス・アショアなど、不要不急の超高額兵器を言い値で買わされる。それが米大統領に“親友づき合い”していただくための代償らしい。なんのことはない。カネで友情(?)を買っているだけの淋しいおつき合い。
 トランプ氏は安倍首相に、武器とカジノを押し付ける。政治家というよりも“死の商人”であり“博打の元締め”でもあるようだ。

安倍政権、沖縄辺野古に「行政不服審査」申し立て

 ふざけるな! と言いたい。
 「沖縄に寄り添う」だの「沖縄の基地負担の軽減に努力する」などと言った舌の根も乾かぬうちに、岩屋毅防衛相は10月17日、行政不服審査法を用いて、沖縄県による「辺野古の埋め立て承認の撤回」の効力を停止させると発表した。なにが「沖縄に寄り添う」だ!
 玉城デニーさんの沖縄県知事選圧勝からわずか半月。沖縄県民の民意はこれ以上ないというほど明らかになったのに、それを踏みにじる。右手で握手をしたようなそぶりを見せながら、左手で沖縄県民の頬っぺたを権力という名の暴力でぶん殴る。それが、安倍と菅のやり方なのだ。安倍茶坊主の岩屋防衛相はこう言った。(朝日新聞10月18日付)

 沖縄の皆さんのお気持ちもしっかりと受け止めなきゃいけないと思っているが、最終的な目的は普天間(飛行場)の危険性の除去と全面返還。そこへ向かって進みたい。

 この白々しい言い草はなんだ! 「お気持ちをしっかり受け止める」ならば、話し合いを重ねて解決策を模索するのが筋だろう。たった1回だけの安倍首相との面会で、まるで免罪符でも得たような手のひら返し。ひどすぎる。
 安倍首相には、今後、玉城知事との対話を模索する考えはまったくないという。玉城氏と12日に官邸で初会談したのも、単なるパフォーマンスに過ぎなかった。
 かつて、翁長前知事の面会要請を、4か月間も冷たく拒否し続けて“ひとでなし”との猛烈な批判を浴びたことに、ちょっとだけ考慮したに過ぎなかった。だが、その冷酷さはまるで変っていない。

 ところで「行政不服審査法」とはどんなものか?
 これは、行政(政府や地方自治体)の施策によって、個人(または複数の住民たち)が利益を侵害されたり人権を傷つけられたりした場合、それに対する不服を申し立てて救済を求めるというものだ。つまり、権力をもたない個人による、権力を行使する側への異議申し立てを保障する、いわば住民救済制度なのだ。
 ところが今回は、その法を政府自体が行使するという、法制定の趣旨とはまったく正反対の事態が起きているのだ。つまり、沖縄県の「埋め立て承認“撤回”の決定」を、政府がその効力を停止させるために使う。本来は、個人が行使することを想定して作られた法律を、個人ではない政府が使うというメチャクチャなやり方だ。政府はいったいいつから「個人」になったのか? 法学者の大多数が呆れ果てている。
 しかも、防衛省が訴え、その訴えを国交相が判断する。おなじ政府内で訴えと判断の両方をやってしまう。こんなデタラメがあるものか。
 こんなデタラメを安倍政権がやるのは、実はこれで2度目だ。2015年10月に、翁長知事(当時)が、埋め立て承認を「取り消し」(撤回の前段階)した際にも、安倍政権は対抗措置として、この法律を悪用した“前科”がある。一度ならず二度も悪行を繰り返す安倍政権。まさに戦後最低内閣である。
 それでも、沖縄の抵抗は止まらない。
 10月21日の那覇市長選では、玉城知事と二人三脚で戦った城間幹子さんが、安倍政権の推す翁長政俊氏を大差で破った。玉城知事の圧勝以来、沖縄では豊見城市長選での山川仁氏の圧勝に次ぐ米軍基地反対派の3連勝だ。沖縄の民意が、これほど明確に示されたのは、2014年の翁長雄志氏の大勝利以来のこと。それでも安倍官邸は、沖縄を殴り続けるのか。

 沖縄では余波もあった。自民党沖縄県連会長の国場幸之助氏が「3連敗の責任をとって県連会長を辞任する」と表明したのだ。しかし実際のところ、国場氏の地元での評判は最悪。女性連れで酔っぱらって国際通りに繰り出し、観光客と揉め事になり自分の足を骨折という、醜態をさらけ出したばかり。
 そこへ文春砲、国場氏が女性へほとんど“エロじじい”としかいえないような卑猥なメールを送っていたことを暴露されてしまった。今回はメールだけだが、まだネタはあるらしい。こりゃ、県連会長なんかやらしておけん、と地元沖縄県連がさっさと辞任に追い込んだ、というのが真相だろう。

腐臭漂う安倍改造内閣

 いやはや、出るわ出るわ。真夏のお化けだって、こんなにゾロゾロと出やしない。まるで、腐った魚の大安売り。誰も買いやしない。それが、安倍改造内閣だ。少し腐りかけたほうが旨い、なんてバカなことを言うのは安倍官邸だけか。

 まず初っ端は工藤彰三国土交通政務官。
 100人を超す政治パーティーを開きながら、その収入を政治資金収支報告書にまったく記載していなかった。完全無欠の政治資金規正法違反だ。こんなにあからさまな違反も珍しい。それでも本人は「これはパーティーではない。実費の集会だ」などと無理な弁解。しかも上司である石井啓一国土交通相(公明党)は「本人がまずきちんと説明なさること」と他人事のように言ったきり。
 さらにこの工藤政務官の後援会会長を務めていた医療法人・偕行会グループの川原弘久会長が、選挙のたびごとに偕行会の職員を工藤氏の選挙運動へ派遣していた疑惑も浮上。もし報酬を支払っての派遣が事実なら、明らかに公職選挙法違反である。

 続いて出たのが本命か?
 片山さつき地方創生担当相。初入閣に浮かれている場合じゃなくなったぞ。週刊文春が「国税庁への口利きの見返りに100万円を受け取った」と、証拠の書類とともにすっぱ抜いた。“パワハラ女王”とも呼ばれている片山大臣、かつての財務省官僚の経歴をひけらかしての口利きだったらしい。
 片山氏は記者会見で「名誉棄損で文春側を訴える準備中なので、詳しいことは今は言えない」と、記者の追及には答えなかった。訴訟よりも先に、まず国民の疑惑を晴らすのが大臣としての務めだろう、などという正論は、さつきの鯉の吹き流し、カラッポ頭には響かなかったのだろう。疑惑がバレて「さつきばれ」なんて、シャレにもならない。

 さつきサンだけじゃカワイソウ…とでも思ったか、はい、お次は宮腰光寛沖縄北方担当相の出番。この人は、談合で行政処分を受けた企業から献金を受けていたという、これも明確な政治資金規正法違反。責任を問われて「返金します」とのこと。カネは返す、問題はないだろうって言い訳。
 はいはい、まだいますよ。渡辺博道復興相。この人の場合は、国から補助金を受けていた企業からの政治献金受領。
 新幹線工事を巡って談合が発覚、指名停止処分を受けていた企業から献金をいただいていたのが平井卓也科学技術担当相。この人も「返金します」で幕らしい。
 さらに「教育勅語には現在に適用できるいい部分もある」などと発言して物議をかもしている柴山昌彦文科相にも、女性後援会バスツアーの収入が報告書に不記載という、公職選挙法の利益供与違反の疑惑が出てきた。
 もっとも、疑惑は安倍内閣だけではない。立憲民主党副代表の近藤昭一議員の後援会親睦会の収支(2014~16年)が、政治資金収支報告書に記載されていなかったことが判明した。まったくなあ、と慨嘆するしかない。

東電裁判の全員無責任

 福島第一原発事故からすでに7年半が過ぎた。あの事故が、日本という国にもたらしたのは、金銭的な被害も天文学的だが、それ以上に「人間そのもの」に与えた衝撃は、とても金銭で測れるものではない。
 いまだに「あの事故で直接的に亡くなった人はいない。その意味で原発の安全性は揺るがない」などと、それこそ超弩級のバカもいるけれど、いったい何人が亡くなったと思っているのか。
 一旦は検察が諦めた東電幹部の起訴だったが、それに納得いかない人たちが提起したことで認められた、幹部3人の強制起訴の裁判が始まっている。東電元会長の勝俣恒久、元副社長の武黒一郎、元副社長の武藤栄の3名である。
 武藤栄被告は16日の公判で、冒頭、次のように詫びた。

 事故で亡くなられた方々、ご遺族の方々、ケガをされた方々、ふるさとをなくされ避難生活を送られている方々、とても多くの方に、言葉では表せないご迷惑をおかけしました。まことに申し訳ございませんでした。

 おお、立派な謝罪。これで自分たち東電幹部の責任を認めるのだな、と思いきや、自分には一切責任はなく、訴えられていることははなはだ遺憾であり、無罪である…と開き直ったのだ。
 じゃあ、冒頭の謝罪はいったい何だったのか? 責任はなく事故に関してもまったくの無罪であるのなら、あの謝罪は誰に向けたものだったのか?
 さらに、19日の武黒一郎元副社長の言葉にも、呆れ返るしかなかった。武黒氏は、事故の3年前に部下から「津波対策の先送り」の報告を受け、それを了承していたのではないかと、検察役の弁護士に追及されても「了承はしていない」と繰り返した。
 しかし、2008年3月の東電の常務会の議事録には「津波評価が従前の試算を上回る可能性について了承された」と記されていた。ところが武黒氏は「記憶にない」「常務会ではそんな決定はできない」と繰り返すばかり。つまり、議事録の記述を否定してしまったのだ。
 では、何のための議事録か?
 都合の悪いことは「記憶にない」と言うし、議事録という証拠を突きつけられても「そんなことは常務会では決定できない」と突っぱねる。
 勝俣恒久元会長の公判は30日に予定されているが、当然、3人は話を擦り合わせているだろうから、勝俣氏もまた「責任はない、無罪だ」と述べるのは目に見えている。
 安倍首相が例の「私や家内が関係しているなら、総理も議員も辞める」と言いながら、どんな証拠を示されてもウソつき呼ばわりされても、何の責任も取らずに居座る情景を、東電の元幹部たちも“真摯に丁寧に”見習っているわけだ。
 ぼくの(いや、ぼくだけじゃなく多くの人たちの)気分が落ち込むのも無理はない。

安倍総理、そろそろ「お後がよろしいようで…」

 確かにイヤんなるようなニュースばかりだけれど、でも希望の灯も見えてきている。
 沖縄だけではなく、このところの地方首長選で、自民公明が推す候補が、次々と落選している。そのため、来年7月に改選期を迎える自民党参院議員たちの間に、動揺が広がっているという。
 「安倍ではもはや選挙の顔にはならない。ポスターに安倍とのツーショット写真は使えない。総理を代わってもらうしかない」という、悲鳴にも似た声が、自民党の参院選立候補予定者からは上がっているのだ。
 身内にそっぽを向かれたら、いかに権力亡者だとしても、その権力を維持し続けることは難しい。
 何とかのひとつおぼえみたいに、ひたすら「改憲」ばかりを追いかけ、その布陣として超ウルトラ右翼ばかりを、憲法関連の要所に集めたけれど、党内からは「もういい加減にしてほしい。改憲で選挙は戦えない」と怨嗟の声も上がる始末。
 船田元氏や中谷元氏らの協調派のように、「安倍改憲」に明確に背を向ける自民党議員も現れ始めている。この流れは連鎖するだろう。それはそのまま、安倍退陣につながる。

 安倍首相よ、そろそろ「お後がよろしいようで…」ではないかな。
 
 
 

ゆったりゆったりの犀、なんだか懐かしい

ちょっと淋しげなゴールデンターキー

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。