世界最高の国際弁護士を目指して! 講師:中山達樹氏

日本で弁護士資格を取得した後、シンガポール国立大学法学部大学院アジア法専攻を卒業し、シンガポールの法律事務所に勤務した経歴をもつ中山達樹先生は、中山国際法律事務所の代表弁護士として国際取引などを担当する傍ら、一般社団法人グローバルチャレンジの代表理事や、環太平洋法曹協会の役員を務めるなど、国内外の多方面でご活躍中です。今回の講演では、貴重なご経験に基づき、世界最高の国際弁護士になるために必要な心構えなどについてお話しいただきました。[2018年11月17日(土)@渋谷本校]

真っ白なスーツに身を包む理由

 なぜ弁護士になったか。その話をする前に、今日の私の装いについて触れたいと思います。真っ白なスーツに身を包んだ私に対し、「怪しい」という印象を抱く人もいるかもしれません。ちょっと話が飛躍するように思われるかもしれないのですが、私は、自分がリーダーシップを発揮することで、日本を変えたいと本気で思っています。そのためにもまずは、自分を変革する必要があります。日ごろから目立つ装いをしているのも、自己変革の一環なのです。人の目を気にしているようでは、周りを巻き込んで変革を起こしうる人にはなれないからです。
 さて、私は現在、中山国際法律事務所の代表として、東南アジアを中心とした海外での日系企業のM&Aや契約交渉のサポート、グローバル・コンプライアンスを踏まえての企業法務、世界で活躍するプロスポーツ選手の代理人などの仕事を請け負っています。
 国際渉外弁護士を志すまでには、三つのターニングポイントがありました。一つ目は、父が与えてくれた気づきです。中学生くらいの頃、「ブラジルの人口は1億人で、日系人はその1%程度。だけどとても尊敬され、大事にされている」と聞いて、「日本人ってすごい。僕も将来は日本人の強みを発揮しながら、海外で活躍したい」と思うようになりました。二つ目は、中学2年の夏休みに出会った、キング牧師の演説です。当時の私の英語力では、全文を翻訳し、理解することはできませんでした。でも、キング牧師の言葉のパワフルさに圧倒され、「英語ってすごい!」と感動したのです。そんなわけで、中学生の頃には、「将来は海外で活躍したい」という漠然としたキャリアプランが頭にありました。そして高校生の時、世界的ロックバンドの代理人として世界を飛び回る渉外弁護士と話をする機会があり、「かっこいい」と憧れたことで、私のキャリアは決定づけられたのです。
 今日、少年時代の夢を叶えて国際渉外弁護士として日々の業務にあたっているわけですが、いつも胸には「信頼される弁護士たれ」「日本人の代表として誇りある仕事を」「世界の架け橋たれ」という目標を抱いています。

AIに代替できない能力を身に付けるには

 急速なテクノロジーの進化を背景に、近い将来、様々な職業がAIに取って代わるといわれています。すでに機械翻訳はTOEIC950点程度の精度がありますし、法的にセーフかアウトかといった単純な判断なら、AIでも可能です。これからの時代を弁護士として生き抜くには、一段高いレベルが求められるのは必至ですから、私も強い危機感を抱いています。
 「人生のVSOP」という言葉をご存知でしょうか。20代のうちは「バイタリティ」(Vitality)を発揮して仕事に没頭し、30代では「スペシャリティ」(Speciality)を、40代では「オリジナリティ」(Originality)を身に付け、50代以降は、それまでの仕事人生で身に付けたあらゆる能力や人脈を生かして「パーソナリティ」(Personality)を武器に仕事をするといった、ライフステージに応じたビジネスキャリアプランです。
 私自身、20代の頃には、バイタリティを発揮して、司法試験に落ちては奮起し、勉強に没頭するといった生活を乗り越えました。晴れて弁護士資格を得た30代からは、「人の3倍働く!」と意気込み、実務にあたりながら弁護士業務の基礎を心身に叩き込みました。34歳からの2年間は、シンガポールの弁護士事務所で勤務し、国際渉外弁護士となるためのスペシャリティを身に付けました。
 海外留学で得たものはたくさんありますが、痛感したのは「渉外弁護士に求められる英語のレベルは相当高い」ということです。例えば、市場で競争優位性をもつ商材を売るメーカーなら、最低限の意思疎通ができれば商談は成立するでしょう。しかし弁護士の場合、クライアントに共感しながら議論をリードし、深めていけるだけの英語力がなければ信用されないし、そもそも弁護士の本分であるところの代理人業務を果たせません。改めて、英語力の大事さに思い至りました。
 帰国後、弁護士事務所で勤務しながら海外法実務の経験を積み、40代で現在の事務所を開業しました。企業のアジア進出とグローバル・コンプライアンスを専門としながら、労務や腐敗防止、競争法を取り扱う案件に絶対の自信をもつ事務所です。
 私は現在、44歳。これから50代に向けてパーソナリティを磨いていきたいと思っています。特に、AIには提供できない価値を提供できる弁護士になるために、私が大事にしているのが「Inspire(鼓舞)する」ことです。そもそも弁護士事務所に駆け込むクライアントは、何らかの深刻なトラブルを抱えて落ち込んでいるわけです。そういう人に対し、法律のプロとして的確なアドバイスをした上で、「今まで大変でしたね。でも、大丈夫。きっと何とかなりますよ」と言ってあげられるのは、弁護士だけです。

弁護士の情熱が世界を変える!

 中山国際法律事務所の理念は大きく3つです。
 1つはミッション(Mission)。明日の食料に困る人が大多数を占める今日の世界で、現代の日本で生活できるのはとても幸運なことです。恵まれているからこそ、身の周りのことだけでなく、世の中全体をよりよくするという使命があるはずですし、私の事務所でも、業務を通してその使命を果たしたいと思っています。
 2つめはパッション(Passion)です。以前、ある案件を担当した時に、外国人のクライアントから“Thank you for your passion”(「情熱をありがとう」)とお礼を言われました。私はその言葉が忘れられません。口はばったい言葉かもしれませんが、情熱なしに、ピンチを切り抜く知恵にたどりつくことはできません。「先生、できないのは分かっています。でも、他に頼れる人がいないんです。なんとかならないでしょうか」。そう懇願するクライアントに対し、弁護士は何ができるでしょうか? まずはクライアントと一緒に憤りましょう、涙を流しましょう。warm heart(暖かい心)をもって、sympathy(思いやり)よりもさらに踏み込んで、クライアントと同じ目線に立ってempathetic(共感的)に事件と対峙するのです。そしてcool head(冷静な頭脳)でプロとして論理的な判断をして、打開策を考えましょう。そうするなかで戦略を練り、戦略を実現するために緻密な戦術を実行するのです。不可能を可能にしてやるのだ――弁護士には、それくらいの気概と情熱をもって、案件に対峙する姿勢が求められます。
 3つめはインテグリティ(Integrity)です。誠意を尽くしてそれぞれの案件に向き合い、日系企業や日本人の世界進出を応援したい。英語を活かして、日本と世界の架け橋になるような仕事を積極的に引き受け、ひいては世界全体に貢献したい。その思いで、日々の業務にあたっています。

Be the change! 自らを厳しい環境に置き続ける

 私の事務所で大事にしているのが、次の言葉です。
 「世の中を変えたいと思ったら、まず自分が変わらなければいけない」(You must be the change that you wish to see in the world)。
 冒頭の、なぜ私が人目をひく装いをしているのかという話にもつながりますが、大きなことを成し遂げるには、何よりもまず自分を変えなくてはいけません。現状、国際渉外弁護士という資格は存在しませんから、誰でも即座に「国際渉外弁護士」を名乗ることが可能です。しかし実際にキャリアを積んで活躍できるのは、日本では司法試験合格者の100人に1人程度です。高いハードルですが、これから志す方には、「絶対に国際渉外弁護士になってやる」という強い意志をもって、日々、自身を高めてほしいと思います。
 自分を変革するには何が必要でしょうか。私は、20代前半、何度も司法試験に落ちた経験から、「努力は実らない」という教訓を得ました。人と同じことを、人と同じ量やっても、目指す成果を上げることはできません。自分にとって快適で居心地の良い環境を抜け出して、人より重い負荷をかけながら日々を過ごすことが重要なのです。「圧倒的な努力のみが、実る可能性を宿している」のだと思っています。
 これまで話してきたように、国際渉外弁護士として活躍できる能力を身に付けるには、各国の法実務に精通しているのは当然として、ネイティブスピーカーに対して「Yes or No!?」と喧嘩を売れるほどの英語力も求められますし、またそうした場面で臆さずにふるまえるだけの度胸も必要です。これからの時代は、「AIに代替できない弁護士になる」という課題も乗り越えなければいけません。
 今後、人工知能が人の能力を超えるシンギュラリティ時代を生き抜くためには、エクスポネンシャル(指数関数的)思考が必須です。1の次は2、2の次は3……といった直線的な変化よりも、エクスポネンシャルに、1の次は2、その次は4、その次は8……といった具合に変化したほうが、より早く高みに到達できます。
 確かに、これからの時代に国際渉外弁護士として生き残るのは、困難な道です。けれども自分を変革して道を切り拓き、国際渉外弁護士としての一歩を踏み出せたなら、誇りと情熱をもって日々の業務に熱中する、刺激的な日々を過ごすことができるでしょう。
 私もまた、自分の仕事に誇りをもち、子どもたちの生きる社会が今よりもより良くなるよう、日々精進している国際渉外弁護士の一人です。若いみなさんの活躍を、心から応援しています。

中山達樹氏(弁護士、中山国際法律事務所代表弁護士、元伊藤塾塾生)
1974年生まれ。2005年、司法試験合格。2007年、三宅・山﨑法律事務所入所。2009年、シンガポール国立大学法学部大学院へ。卒業後の2010年から一年間、Drew & Napier LLC(シンガポールの法律事務所)にて、初の日本人弁護士として勤務。2015年、中山国際法律事務所開設。代表弁護士となる。弁護士業務の枠を超え、「世界に挑戦して世界的な課題を解決する」ために「一般社団法人グローバルチャレンジ」を設立するなど、多角的に活躍中。