第2回:ミュニシパリズムとヨーロッパ その2(岸本聡子)

長期化する安倍政権、自民党一強の国会という国政状況のなか、さまざまな法律が国会でのきちんとした議論もないままに成立していきます。「デモクラシーは死んだ」とも言われていますが、日本の市民運動にはもう「希望」はないのでしょうか? 「この人に聞きたい」に登場いただいた岸本聡子さんは、いまのヨーロッパでは、地域に根付いた自治的な民主主義や合意形成を元に、革新的な市民主体の政治「ミュニシパリズム」が始まっていると言います。日本でも今年は、春に地方統一選挙、夏に参議院選挙が控えています。私たちの「希望」はどこにあるのか? そのヒントとなる、岸本さんによる不定期連載の「ポリティックスレポート」。前回から引き続いての第2回目です。

 先週公開した「その1」では、ミュニシパリズムの成長と実践、具体的な政策を見てきた。「その2」では、このような市民生活を重視する革新的な政策の発展を、欧州連合(EU)や各国中央政府の法律が脅かしている事実に注目する。

 私が所属するトランスナショナル研究所は2017年からEUの様々なルールやEU指令がどのように進歩的な自治体政策を阻むか、それを克服するための戦略や自治体間の協力について議論や調査をしてきた。「その1」で紹介した、昨年11月にEU議会内で開催した討論会「Municipalize Europe!」での内容から考えたい。

私も公共サービスの再公営化の傾向について報告

問題となるEUのルール

 進歩的な自治体政策を行うときに問題になるEUの政策は、EU単一市場(※)、貿易投資協定、国家補助金(の禁止)、緊縮財政のどれかに関係することが多い。

※EU加盟国間での資本、労働、商品、サービスの移動の自由を容易にすることを目的とし、そのために参加国間に存在する物理的(国境)、技術的(基準)、財務的(税制)な障壁の除き単一市場としてのルールを持つ。

 少しややこしい話なので、それぞれ例を挙げてみよう。

 EU単一市場:個人が登録し空いている部屋や家屋を民泊として旅行者などに提供するサイトAirbnb(エアービーアンドビー)が現れたときは、高価なホテルの代替案として歓迎されたし、世界中で大人気となった。しかし、数年たって「個人の空いている部屋」をはるかに超えて、企業、資本家が大規模に不動産を買い占めたり、大家が従来住んでいる住人を追い出したりしてAirbnbで提供する部屋に変えるといったことが特に大都市で起こったことがわかってきた。従来の住人に賃貸するより儲かるからだ。
 旅行者が急増し、街の中心部で従来の居住地が観光用の宿泊施設に取って代わり、アパートの賃貸価格は急騰し、低所得者が追い出され、もともと地価の高かった首都はますます普通の人々にとって住めない場所になってしまった。過剰な観光問題や住居不足に直面したバルセロナ、アムステルダム、パリ、ベルリン、ブリュッセルなどの市はAirbnbの規制に乗り出した。ところが、住める街(liveable)を守るための市による規制が、EU単一市場下のサービス指令(域内市場におけるサービスに関する指令──後述)に抵触するとAirbnb社が主張している。

 貿易投資協定:つい最近、署名・発効された大型貿易協定が、EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)と日本・EU経済連携協定(JEFTA)であるが(JEFTAは2019年2月発効)、いずれもサービス分野の自由化が促進され、いったん自由化したサービスのレベルを後退させる(規制する)ことが許されない。これに、近年様々な領域で起こっている再公営化(水道事業など、いったん民営化したサービスを公的所有や事業に戻すこと)が抵触する恐れがある。

 緊縮財政:2008年の世界金融危機以降、国や市政府の歳出を抑制する緊縮財政政策はEUの確固たる経済政策になり、とくに財政危機下の国家支出を厳しく抑制している。例えばイタリアでは、国家から地方自治体への国庫補助金が実に75%削減された。厳しくなる環境規制(例えば大気汚染対策)や多様化するニーズに応えなくてはならない最前線の自治体は大幅な財源の縮小に身動きが取れず、サービスを削減したり資産を民間に売り飛ばさなくてはならない状況が広がっている。またEUの緊縮財政をメンバー国家が拡大解釈する傾向もある。例えばスペインの(前)国民党政権は2016年にモントロ法という法律を通し、退職した公務員に代わる新規採用を禁止し、新規に地方公営企業を設立することを禁止した。

 国家補助金の禁止:例えば、地産エネルギー会社や障がい者を積極的に雇用する地元エンタープライズを支援するための補助金を、市や州政府が出すのを禁止するといった例がある。

企業による市場自由化のビジネスロビー

 「Municipalize Europe!」討論会に先駆けて、EUの政策をウォッチするコーポレートヨーロッパオブザーバトリー(CEO)は、『アンフェア BnB』というレポートを発表した。Airbnb社が、自治体が市民への住宅確保のために将来行うであろう民泊の規制をEUルール(EUサービス指令)が許さないよう、EU政策担当者にロビー活動を激しく行っていることを突き止めたものである。折しも、EUは現在サービス指令の改定を行っており、私たちトランスナショナル研究所はこの改定案を問題視している。

 EUサービス指令とはもともと、サービス提供の自由のために障壁を除去しEU域内のサービス市場自由化を達成することを目的として2006年に制定されたもの。当時ヨーロッパでは労働組合とNGOがこれに対する大規模な反対運動を展開し、その結果サービスの範囲を多少減らすことができた背景がある。それでも、この指令は広範囲なサービス業を網羅しており、例えば土地利用について一定の許可や禁止をするゾーニング(都市計画)、住宅供給政策、電力、水道供給、ごみ処理サービスなど市民生活に影響する公共政策もその対象である。

地方自治を脅かすEUルール

 このサービス指令の改定案として「EUサービス通知手続き」というものが出てきた。これはサービス指令を強化するだけでなく、市や州政府の政策決定の主権や地域自治の原則を脅かすものだ。「EUサービス通知手続き」は、EUメンバー国の自治体がEU単一市場やサービス指令に抵触する恐れがある規制や条例を採決する3カ月前にヨーロッパ委員会(EUの政策執行機関)に申し出ることを義務付けるというものだ。

 一見、「それがなんで問題なの?」という気がすると思うので少し解説したい。

 現行では、メンバー国からの報告は条例指定後であり、ヨーロッパ委員会は各国の規制がEUルールに抵触する可能性がある場合は勧告を出し、解決をさぐるとなっている。このような「手ぬるい」措置を強化したい国際的なサービス産業は、数年にわたってロビー活動を行い、今回の「EUサービス通知手続き」にこぎつけた。これが成立すると、EUが自治体条例を事前にチェックし、必要な場合はヨーロッパ司法裁判所に持ち込むことができるようになる。自治体の政策決定を萎縮させることは間違いなく、また条例の制定に膨大な時間がかかる故、事実上効果的に条例設定を妨害できることになるのだ。

 アムステルダム市は昨年9月、いち早く、このEUサービス通知手続きに反対決議を上げた。決議文はEUサービス通知手続きが「地方自治体の自治に影響するもので、地方自治と民主主義を脅かす」と非難している。オーストリア連邦議会も「メンバー国家の立法の主権を深く侵害する」と強い懸念を表明した。

 EUサービス通知手続き制定の過程は企業ロビーを許す一方で、市民には一貫して秘密主義と不透明性のベールに包まれている。企業ロビー以外に気づかれないままこの12月には決定されようとしていたが、市民団体の抵抗に遭いぎりぎりのところで止まっている。市民団体による緊急声明には、100以上のNGO、労働組合、自治体などが署名した。巨大な会計コンサルタントや建築事務所に対抗できない小規模な建築家協会なども懸念を表明し始め、決定は2019年に持ち越された。

日本でも芽生える地域主権

 日本では、2018年に安倍政権によって、種子法が廃止された(※)。種子を開発するには膨大な労力と時間がかかる。今後は、種子の安定的な生産と普及の役割を「国が果たすべき役割」を放棄し、種子を守るための予算が付かないことになる。さらには、国内の品種がいずれ大企業の品種に置き換わっていくと専門家は懸念する。

※種子法廃止:戦後に、稲や麦、大豆などの優良な種子の開発・安定供給を都道府県に義務付けるため1952年に制定された「主要農作物種子法」が、民間の種子開発意欲を妨げるとして2018年4月に廃止。

 これに対し、2018年12月、岐阜県議会が「種子条例」を制定すると報じられた。岐阜県は種子の安定供給に国に代わって県が責任を持ち市場任せにしないことを明確にしたことになる。埼玉県・新潟県・兵庫県・山形県も、種子法廃止と前後して、種子の安定供給を促す条例をすでに制定し、長野県では、2019年6月に条例制定の予定だという。

 また、12月には多くの懸念を残しながら、コンセッション(※)を含む改正水道法が成立した。これに対して福井県議会は「水道法改正案の慎重審議を求める意見書」、新潟県議会は「水道民営化を推し進める水道法改正案に反対する意見書」を提出した。新潟県がコンセッション方式の導入は水道法の目的である公共の福祉を脅かす事態となりかねないとはっきりと決議で述べ、「…水道法改正案は、すべての人が安全、低廉で安定的に水を使用し、衛生的な生活を営む権利を破壊しかねない」と住民の権利に言及したことはすばらしい。

 このような地域主権、地域自治の表明は、民主的な議会での議論や地方自治をないがしろにし続ける強権的な中央政府を持つ国では特に重要である。

※コンセッション:水道サービスの運営権の譲渡を含む自治体と企業の長期の商業契約で典型的な水道民営化の一形態。

自治体のリーダーシップをEU議会へ

 さて、2019年は日本もヨーロッパも選挙イヤーとなる。日本では4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙。ヨーロッパ議会議員選挙は5月23~26日で、スペインの地方選挙は26日の同時開催である。バルセロナ・コモンズが第一党となったバルセロナでも4年間の成果が問われる。

 「Municipalize Europe!」討論会で、バルセロナ・コモンズはEU議会議員選挙に向けたミュニシパリストビジョンの原則を発表した。地域主権の視点をヨーロッパ政治に反映させるもので、観光ビジネスの投機から住民を守る、電力・水道供給の民主化、不安定雇用を促進するオンラインプラットフォーム(自動車配車のウーバーなど)の規制、ビジネスロビーから自治体を守る、難民を守る、多国籍企業の脱税を許さないなど20の原則を定めている。

 そして、現在はバルセロナ第一副市長を務めるピッサレロは、このミュニシパリストビジョンをもって、自身がヨーロッパ議会選挙に出馬することを発表した。

 「私たちはミュニシパリズムを中央政府やカタロニア州政府から守らなくてはならない。極右の台頭を防ぎ、基本的なニーズを優先し、グローバル企業の独占に対抗するためにますますEUというフィールドが重要になってきた。恐れから来る差別主義が増大している今日、市民が住む自治体からオルタナティブを発信しEU政治に参画するは自治体の使命であり、必要不可欠な共同のプロジェクトである」

 ミュニシパリストビジョンはバルセロナを超えて、多くの自治体のリーダーシップをEU議会に送ろうとする共同のプロジェクトとして発案された。地域主権を掲げるミュニシパリストがEU政治の舞台に上がることには矛盾があるのでは、と考える人も少なくないかもしれないが、バルセロナ・コモンズの国際委員会を代表するケイト・シア・ベエアートの締めくくりが分かりやすかった。

 「強権的で新自由主義が長年独占的なEUの民主的な改革を目指すか、改革不可能なEUを解体するべきかで左派は分裂してきました。しかしこの終わらない上から目線の議論を続けるよりも、EUをミュニシパリストビジョンの原則で運営したらどうなるかという具体的な議論にシフトしていきたい」

 ヨーロッパ議会議員選挙では、ミュニシパリストビジョンを掲げる候補者を多くの国から立てられるか、どこまでミュニシパリストの政策をEU選挙の政策議論のテーブルにあげられるか、そして極右の台頭を防ぎ中道左派の支持を集められるかが注目される。

岸本聡子
きしもと・さとこ:環境NGO A SEED JAPANを経て、2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。水(道)の商品化、私営化に対抗し、公営水道サービスの改革と民主化のための政策研究、キャンペーン、支援活動をする。近年は公共サービスの再公営化の調査、アドボカシー活動に力を入れる。