司法サービスへのアクセス改善をめざして 講師:石田愛氏(弁護士、「桜丘法律事務所」所属)

今年弁護士になって10年目を迎える石田愛先生は、裁判所書記官時代に、法律問題を抱えてもなかなか法律の専門家にうまく繋がることができないという人々の現状を目の当たりにして、司法サービスへのアクセス改善を目指し弁護士になることを決意したそうです。今回の講演では、石田先生が実際に司法過疎地域で働いてみて感じたことや、現在の活動の様子、弁護士という仕事の魅力についてお話しいただきました。[2019年2月16日(土)@渋谷本校]

「使える」弁護士になりたくて桜丘法律事務所へ

 法律家が極端に少なく、法律サービスへのアクセスが容易でない状況を「司法過疎」といいます。私は「使える」弁護士として司法過疎地に行きたい! と思っていたので、弁護士登録後は弁護士過疎地域解消のパイオニアである桜丘法律事務所へ面接を受けに行き、無事に入所することができました。
 桜丘法律事務所では、若手弁護士を育成し、その人の特性や現場でのニーズなどを総合的に判断したうえで最も適当だと思われる場所へ派遣しています。事務所内には地方から帰ってきた先輩がたくさんいるため、過疎地に行ったら何が必要か、何が大変だったか、どういうふうに乗り越えていったかなどを身近に聞くことができ非常に勉強になりました。様々な事件を経験させてもらいながら、1年間で一通りのことをなんとか一人でできる素地が身につくように育ててもらいました。

法テラス(司法支援センター)とは

 司法支援センター、通称「法テラス」は、誰もが容易に弁護士に繋がれるようにと、総合法律支援法に基づき2006年に国費で設立されました。
 まず、みなさんに覚えていただきたいのが法テラスの情報提供ダイヤル「0570−078374(おなやみなし)」です。こちらの番号にかけていただくと、みなさんが抱えている問題を誰に相談すれば良いのかを教えてくれます。
 法テラスでは無料で法律相談をすることもできます。法テラスの事務所に直接行って相談することもできますし、法テラスと契約している法律事務所へ相談に行くこともできます。金銭的に困っている場合は、弁護士費用を立て替えたり分割払いにしたりする制度もあります。
 法テラスには全国各地に自前の法律事務所があり、そこで働く常勤弁護士をスタッフ弁護士と呼んでいます。私は入所して半年くらい経った頃に所長の指示で法テラスのスタッフ弁護士として赴任する方向で調整を始め、無事に法テラス福知山法律事務所に赴任することが決まりました。

司法過疎地域で働いてみて感じたこと

 京都府北部に位置する福知山は、山に囲まれた地域で空も広く、車で10分ちょっと走れば田んぼや畑が続くようなのどかな町です。それまで縁もゆかりもない場所でしたが、当時弁護士になって1年2ヶ月ほどだった私は、弁護士1名・事務員2名が配置されるこの法テラス福知山法律事務所の所長弁護士として働くことになりました。
 そもそも法律家が少ないうえに、当時は私が京都北部エリアで初めての女性弁護士だったこともあり、毎日相当数の法律相談が舞い込んできました。県をまたいで相談に来た人の事件では、県外の裁判所へ出張することもありました。周りを山に囲まれているので山の境界画定の事件などもあり、現地視察に行く日は行って帰るだけでも3時間以上かかることもあるなど、移動するだけで一苦労でした。弁護士として必要なのは、法律知識もさることながら時間をうまく使うスキルと体力だなと思いました。
 あるとき、DV被害を受けていた女性が「今までずっと相談したかったけれど男性弁護士には話せなかった」と言って2〜3時間かけて相談に来てくれたことがありました。そんなふうに、これまで弁護士に繋がることができずに本当に大変だっただろうなと思うことがたくさんあり、赴任して良かったと実感できることが多くありました。
 稲刈り、畑仕事、自治会の役員やイカ釣り漁など、都会ではできない体験もたくさんしました。地元の人と一緒に生活をすることで、地元の人々の暮らしのサイクルが分かり、自然と依頼者の目線に立って物事を考えられるようになっていきました。
 幅広い業務を一人でこなさなくてはならないので、扱ったことがない案件でも一から勉強しなければなりません。必死で向き合っているうちに一通りのことが一人でできるようになりました。今振り返れば、この3年間で弁護士としてのスキルを飛躍的に伸ばせたと思います。常にセルフチェックの日々で、孤独を感じることも多く、大変なこともたくさんありましたが、今思い返せば、総じて楽しかったです。

法務省で1年間の研修員生活

 福知山での勤務を終えて次のステップをどうしようかと考えているときに、法務省で1年間研修してみないかという話をいただきました。
 当時私は、司法過疎の現場で悩みを抱えている方々と向き合う中で、制度そのものの限界も感じていました。そのため、法テラスを所管している法務省にいけば何かもっと大局が見えるのではないかと思いました。そもそも法務省で研修できる機会なんてめったにありませんので、単純に面白そう! という気持ちもあり、スタッフ弁護士の研修員として法務省へ行きました。
 法務省での研修内容は多岐にわたりましたが、大きなものとしては法テラスの制度を規定している総合法律支援法の改正にかかわることでした。たとえば司法過疎の現場で見てきたニーズも踏まえて制度設計を考え、企画立案し、条文に落とし込んでいくという作業などです。官僚の仕事を垣間見ながら、各関係部署と様々な調整を図ったり、国会対応をしたりと、非常に刺激的な日々を過ごさせていただきました。

法テラス本部、東京事務所での勤務を経て

 その後、1年弱ほど、法テラス本部において部付弁護士として法テラス内での仕組みづくりに携わった後、法テラス東京法律事務所に赴任しました。東京には弁護士が約1万5千人いますが、それでもなお司法サービスへアクセスできない人はたくさんいます。そのような方々へ弁護士の側からアクセスすることがここでの重要な役割でした。
 同事務所では、警察、医療、福祉、行政など様々な関係機関と連携しながらチームで依頼者に対応する「司法ソーシャルワーク」という手法と、様々な障がいがあって自分で動けない人や、病気で入院している人などのもとへ弁護士の側からアクセスしていく「アウトリーチ」という手法を用いていました。かつての弁護士のイメージにあるような、事務所のイスに座って依頼者が相談に来るのを待つ時代から、弁護士の側から依頼者へと駆けつける時代へと変わっていっていると感じました。
 同事務所で約1年間働いた後、私はマチ弁(主に地域住民からの依頼を受ける「町の弁護士」)へ戻る決断をしました。法テラスのことに特化してしまうとそのことにしか目がいかなくなる可能性があるので、もう少し大きな視野をもって働きたいと思ったのです。そこで、地方での勤務経験がある先輩や後輩がたくさんいて、初心に帰って自らを振り返れる場所として、古巣の桜丘法律事務所へ戻ることを決めました。

通常業務の傍らで力を入れていること

 現在は、通常の弁護士業務の傍らで後進を育てることに力を入れています。その一環として、2017年から司法研修所で、刑事弁護教官所付という、教官の補助の仕事を始めました。司法アクセス改善の基本は、都会でも田舎でもきちんとした法的サービスを提供できる弁護士を育てることです。それをダイレクトにできるのが司法研修所です。新しく法曹になった人たちが今どのようなことを考えているのかを知ったうえで、司法過疎の問題についても考えていければと思っています。
 また、私が所属する第二東京弁護士会での委員会活動としては、裁判員センターで副委員長を務めさせていただいている他に、高齢者委員会にも所属しています。委員会での活動のメリットはいろいろありますが、法律相談会を企画するなど、自分で市民の人と触れ合える機会を作れることも醍醐味の一つです。
 さらに、いじめ問題にも関心があり、NPO法人「ストップいじめ! ナビ」の弁護士チームに所属し、中学校や高校で出前授業を行っています。直接の触れ合いを通して、生徒のみなさんに弁護士を身近な存在として感じてもらえればいいなと思っています。ちなみに今、スクールロイヤーという仕組みが少しずつ広がっているのをご存知でしょうか。出前授業のフィードバックをもとに、今年2月に仲間たちと一緒にスクールロイヤーに関する本『スクールロイヤーにできること――学校現場の悩みを法でサポート』を出版したので、関心があればぜひご一読ください。

自分を縛らず自由な発想でチャレンジを

 これまで「司法サービスへのアクセス改善」をテーマにいろいろなところを渡り歩いてきました。職場もどんどん移っていますし、この先どこに行き着くのか自分でも分かりません。しかし、無駄なことは一つもないと思っています。
 私は、自分のやりたいことも大事にしつつ、自分はいま何をなすべきか、ニーズは何かということを常に考えるようにしています。弁護士はサービス業ですから当たり前と言えば当たり前ですが、新鮮な情報を新鮮な感覚で取り込んでいけるように、なるべく人と触れ合うように心がけています。
 弁護士の魅力は自分の知見や興味を活かしていろいろなことにチャレンジできるところだと思います。「弁護士はこうあるべきだ」と縛る必要は全くありません。柔軟で臨機応変にいることが次の可能性に繋がります。ぜひみなさんにも、たくさんの人との出会いや体験を大切にしながら、物怖じせずいろんなことにチャレンジしてほしいです。

石田愛氏(弁護士、「桜丘法律事務所」所属)
早稲田大学法学部卒。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。裁判所職員として勤務した後、早稲田大学大学院法務研究科修了。2009年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。桜丘法律事務所入所。2011年~2017年、司法支援センター(法テラス)の常勤弁護士として、過疎型事務所である法テラス福知山法律事務所、法テラス本部、都市型事務所である法テラス東京法律事務所に赴任するとともに、法務省大臣官房司法法制部における研修等を経験。 2017年、桜丘法律事務所へ復帰。