参議院議員初当選から6年、今年4月に政治団体「れいわ新選組」を立ち上げた山本太郎さん。夏の参院選に向けて一般から寄付金を募り、またたく間に1億円以上を集めるなど、大きな話題を呼んでいます。なぜ「れいわ新選組」を立ち上げたのか、どんな政策を実現したいのか、参院選に向けての思いは……コラム「言葉の海へ」でもおなじみの鈴木耕さんに聞き手になっていただき、たっぷり、じっくりお話をお聞きしました。前編・後編を一挙公開!
■政治に緊張感を持たせたい
──今年4月に発売された、太郎さんの国会議員としての歩みを収めた本『僕にもできた! 国会議員』(筑摩書房/取材・構成は雨宮処凛さん)、とても面白く読みました。その中の「ホームページから寄せられた質問に答える」という章で、「今後の展望」を問われて「総理になります」と答えていますね。現時点では「まさか」と思う人も少なくないと思うのですが、これはどういう思いでおっしゃった言葉なのか、まずそこからお聞きできますか。
山本 「総理大臣になる」というのは、政治家ならば絶対にそう思わないと嘘だと思うんですけど……ただ私は、究極的には別に「私がなる」のではなくてもいいと思っているんです。私の代わりに、私が実現したいと思っている社会をつくってくれるような人が他にいれば喜んで応援したいんですけど、今のところ誰もいなさそうなので(笑)、自分でやります、ということですね。
でも、言うからにはもちろん本気です。わざわざこんな面倒くさい仕事を、前より年収がずっと下がっても(笑)やってるんですから、本気度は分かるでしょう、という感じですね。
──作家の島田雅彦さんがこの本の書評で、〈「山本太郎が首相になる」と聞いて、「まさか」という人は政治の本質をまだわかっていない〉と書いていますが、私もまったく同感です。夏の参議院選でも、太郎さんの存在は一つの「台風の目」になるんじゃないかという気がしています。「れいわ新選組」を立ち上げたのには、参院選でそんなふうに「台風」を起こしてやろうという思いがあったんでしょうか。
山本 今、日本の政治に足りないものって緊張感だと思うんです。それ以外も、人々への投資も愛も、何もないんですけど(笑)、まず重要なのは政治に緊張感を持たせること。そう考えたときに、本来政治がやるべきことは何なのかということを一人でも多くの方に気づいていただくことが必要だと考えました。それが「れいわ新選組」を立ち上げた理由ですね。
──立ち上げてからの反応はどうですか。
山本 一番分かりやすいバロメーターとしては、やはり寄付の額だと思うんですが、4月10日から受付を開始して、6月19日時点で1億9928万円になっています。「5月31日までに1億円集める」というのを最低ラインにしていたんですが、それがスタートから40日間で集まって。ここからどのくらい金額が上積みされていくかによって、参院選でれいわ新選組として立てる候補者の数などを決めたいと思っています。
※取材後の5月31日に、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会の元事務局長である蓮池透さんがれいわ新選組からの立候補を発表。
──他の野党との連携は考えていますか。
山本 政策面でしっかりと一致できる野党が出てくれば、私たちは旗を降ろして一緒に闘います、ということはずっと言っています。単なる「野党共闘」で勝てるのであれば、これまでの選挙ももっと違う結果になっていたはずなのに、そうならなかったのはやっぱり野党の掲げる政策、特に経済政策が弱いからではないでしょうか。もし、そこで複数の野党が一致して一緒に闘うということができたら、争点もはっきりして面白い選挙になるんじゃないかと思っています。
──経済政策の一致というと、やっぱり消費税をどうするかでしょうか。
山本 一番分かりやすいところでいえばそうですね。でも、本質的には「この国に生きる人々を救うんだ」という観点で一致できるかどうかだと思います。20年続くデフレの中で人々は苦しみ続けていて、それに対して国は脱却策を打てなかった。国の失策によって人々の生活がどんどん厳しくなっている状況を思えば、今やるべきことは明らかだと思っています。
■最大のテーマは「経済格差の縮小」
──私が太郎さんに初めてお会いしたのは、まだ議員になられる前、福島の原発事故があった2011年でした。そのころから原発の問題についてはいろいろと発言されていましたが、議員になられて6年が年経った今、他のさまざまな問題についても非常に勉強して発言されているのに驚かされます。失礼な言い方になりますが、ものすごく成長されたなあ、と。いつもどういう情報の集め方、勉強の仕方をされているんですか。
山本 もともと私は、学校の勉強がすごく苦手で、そこから逃げ続けていたんですよ。芸能界に入るときも、もちろん役者っていう仕事がやりたいというのはあったけれど、半分くらいは「芸能界に入ったらテスト受けなくて済む」というのもあったかもしれない。実際には役者の仕事も、台本の台詞を暗記してみんなの前で言わなきゃいけないわけで、「人生は逃げたことから追いかけられるんやなあ」と思ったんですが(笑)。今の仕事はもっと膨大な情報量と向き合わなくちゃいけないので、さらに大変です。
でも、自分1人でやるというよりも、周りにいる人たちにそれぞれの問題の専門家の方につないでもらって、お話をうかがって……という感じですね。たとえば貧困問題なら、今回の本をまとめてもらった雨宮処凛さんにもたくさんの方を紹介していただきました。
──貧困問題といえば以前、太郎さんが雨宮さんと一緒に「マガジン9」の忘年会に来てくださったときに、「すごいな」と思ったことがあります。参加者の一人と話していた雨宮さんと太郎さんが「ちょっと行ってくる」と言って、さっと店を出て行ってしまった。後で聞いたら、その参加者の方が「ここに来る途中で見かけたホームレスの人が、何か困っているみたいだった」と言うので、様子を見に行ったというんですよね。
たしか1時間くらいして「何とかなりました」と戻ってこられたんだったと思いますが、緊急のSOSにそれだけフットワーク軽く飛んでいくというのは、今までの政治家とは全然違うなと思って。太郎さんの軌跡に注目するようになったのは、それからかもしれません。
山本 正直言って、政治の世界に入ったときは、私は「ホームレス」という存在の人がいることについてさえ、ちゃんと考えたことがなかったんです。自分の生き方としてそういう道を選んでるのかな、と思っていたくらいで。実態は全然そうじゃないんだということを、雨宮さんはじめ現場の人たちに教えてもらって。炊き出しにもたびたび参加させてもらいながら、そこら辺の現場感覚みたいなものを知っていった感じです。
──それも含めて、これから特に力を入れなくては、と思っている問題はありますか。「これだけは」とはなかなか言えないかもしれませんが……。
山本 いろんな社会問題に気づかせてくれた入り口はやはり原発なので、原発や被曝の問題は今でも私の中で重要課題です。国が「もう帰宅しても大丈夫」というのは、事故前より基準を引き上げて「大丈夫」にしているに過ぎません。帰還の要件に、空間線量だけでなく、土壌などの測定も含めるべきです。他にも、国や東電は未来永劫、影響があった土地に住み続ける人々に対する健康診断やサポートをしっかりしていく義務があるし、避難した人へのサポートも同時に続けなくてはならない。避難する、しないというどちらの権利も守りながら、当事者に選んでもらうということをやっていく必要があると思います。
一方で、原発の問題だけでは「みんなの力で状況を変えていこう」という勢いがなかなか生まれにくいとも感じています。というのは、原発も間違いなく人権侵害につながる問題ではあるんですが、多くの人はもっと目の前の人権侵害──自分自身の生活が押しつぶされそうになっているという問題で手一杯だからです。その意味で、やっぱりまずは一人ひとりの生活を底上げするということをやっていかなくてはならないと思うんです。
だから、今自分の中で一番大きなテーマは経済格差を縮小し、人々の生活を引き上げていくこと。そこに取り組むことが、原発にしても、TPPや憲法改正の問題にしても、いろんな問題へとつながっていくんじゃないかと思っています。
◆憲法改正の「本丸」は緊急事態条項
──憲法という言葉が出たので、そこについての意見も聞かせていただきたいと思います。『僕にも〜』でも憲法学者の木村草太さんと対談されていますが、太郎さん自身は、安倍政権が進めようとしている「改憲」についてはどうお考えですか。
山本 改憲というと、やはりよく語られるのは9条についてだと思いますが、私は安倍政権がいう「9条改憲」は、ある意味「ダミー」だと思っています。
──どういうことですか?
山本 実は、2015年に安保法制が成立した時点で、9条はすでに反故にされている。憲法を飛び越えた、明らかに違憲の内容の法律がつくられてしまったわけですから。あえて憲法を変えて自衛隊の存在を明記しなくても、事実上、集団的自衛権の行使も容認されているわけです。
だから、「9条改憲」はあくまでダミーに過ぎなくて、政権の本当の狙いは「緊急事態条項」をつくることだと思っています。これがあれば、極端にいえば選挙もしなくていい、国会を通さずに法律がつくれて、予算も自分たちだけで管理できて、地方自治体も思うがままにコントロールできる。そうなればもう、9条がどうであろうが関係ない、そういう世界にされちゃう恐れがある。
そう考えると、9条も含めて今出てきている「改憲4項目」のうち緊急事態条項以外の三つは「ダミー」なんだろうなと。項目が複数あれば、議論が分散して、緊急事態条項に関する議論に割ける時間がどうしても減っていきますから。
──ただ、まずは「自衛隊の存在を明記する」という9条改憲案が出てくる可能性もあると思いますが、その場合はどうしますか。
山本 私は、「絶対に憲法を変えてはならない」と考えているわけではありません。変えなきゃならない時はあるだろうと思うし、安保法制成立のときのような、詐欺みたいなことができないような文言に直す、そういう改憲は必要なのかもしれない、と思っています。
ただ、改憲案の内容にかかわらず、現状では私は賛成できないと思います。だって、議論もまったく深まっていないし、それ以前に憲法というものがどのくらい重要なのかということさえ、一般に広く理解されているとはとてもいえない。この状況で憲法を変えるのはリスクが大きすぎると思うんです。誰もが当たり前のように憲法のことを街中で話すことができる、しっかりと理解が広がっている、そういう状況になればまた違うのかもしれませんが。
──今は、「憲法改正が……」なんて話すと、「危ないやつ」みたいに言われかねないですからね。
山本 「このド左翼が!」とかね(笑)。本来、憲法と左翼は何の関係もないんですけどね。左翼でも右翼でも、誰もがどちらの立場でもいられる権利を守るために憲法というものがあるんだと思います。
(構成/仲藤里美 写真/マガジン9編集部)
山本太郎(やまもと・たろう)1974年、兵庫県生まれ。90年「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「ダンス甲子園」に出場、91年に映画デビュー。『バトル・ロワイアル』『GO』などに出演。反原発の活動を経て、2013年7月に参院選初当選。自由党共同代表を経て、19年4月に「れいわ新選組」を立ち上げ。著書に『みんなが聞きたい 安倍総理への質問』(集英社インターナショナル)、『山本太郎 闘いの原点──ひとり舞台』(ちくま文庫)などがある。
鈴木耕(すずき・こう)1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長を務める。集英社新書編集部長を最後に退社後は、フリー編集者・ライターに。著書に『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』『原発から見えたこの国のかたち』(ともにリベルタ出版)、『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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