紛争解決・紛争予防を通じて社会正義を実現する~私の活動レポート 講師:岩﨑 崇氏

「中小企業が経営を伸ばすことは、日本を救うということだ」を合言葉に、中小企業向けの顧問弁護士業務に特化して、日々業務に取り組む未来創造弁護士法人。その横浜オフィスの代表を務める岩﨑崇さんは、依頼者に真摯に向き合う中で「裁判をやりたいのは弁護士だけではないか?」と疑問が生まれたことから、今では「日本一裁判しない弁護士」を目指し紛争予防に力を入れているそうです。本日の講演では、具体的な経験をもとに、ふだん依頼者に向き合う上で心がけていることや、今後の展望などについてお話しいただきました。[2019年11月9日(土)@渋谷本校]

漠然とした興味を抱いていた法律の世界

 弁護士の中には、もともと弁護士になりたくて法律を勉強したタイプと、法律が好きで勉強を続けているうちに弁護士になったというタイプがいますが、私は後者です。子どもの頃から『HERO』『ビギナー』『踊る大捜査線』といったドラマが好きで、ずっと法律や司法の世界に興味を持っていました。
 実際の裁判に触れたのは高校生のときの社会見学です。刑事事件を傍聴しましたが、テレビで見るより生々しい司法の現場を目の当たりにしてドキドキしたのを覚えています。責任をもって冷静に職責を果たしている法曹の姿に感動しました。
 大学では法律学の面白さに惹かれました。法律学というのは、相反する価値にどうやって折り合いをつけるのかを考える作業です。対立する両者のどちらにも言い分があります。いかに論理立てて相手を説得するかを考えるのが楽しく私の思考に合っていました。法律をもっと勉強したいと思い、大学卒業後はロースクールへ行きました。
 刑事司法が好きで漠然と検察官になりたいと思いつつも、警察庁へインターンシップに行った経験から官僚にも憧れがあり、進路に迷いながらも2011年に司法試験に合格。結局、縁あって弁護士という職業を選択しました。現在の事務所を志望した理由は、代表である三谷淳弁護士の常に全力で物事に向き合う姿勢や仕事に対する厳しさに惹かれ、一緒に仕事をしたいと思ったからです。

日本一裁判しない弁護士を目指して

 弁護士になったばかりの頃は、紛争を解決することが弁護士業務のメインだと思っていました。しかし、様々な事件に携わるうちに、紛争解決方法として法律や裁判ができることの限界を感じるようになっていきます。既に起こってしまった紛争を長い時間とお金をかけて解決しても、事件が終わる頃には依頼者は疲れきってしまっていることに気付いたのです。裁判をやりたいのは弁護士だけではないか? そうであれば、紛争が起きても裁判以外の方法で解決できないだろうか。そもそも、事前に紛争が起きない仕組みを作っておけばよいのではないか―。そんなふうに考えるようになりました。
 私が弁護士になって2年目を迎えた頃、事務所が法人化することになりました。きっかけは、三谷弁護士が京セラの創立者・稲盛和夫氏の経営塾「盛和塾」に入ったことです。それまでは三谷弁護士が新人を育てて独立させるという伝統的な形の弁護士事務所で、私自身も入所時に三谷弁護士から「6年間修業して、7年目には独立してね」と言われていました。しかし、三谷弁護士は盛和塾で経営を学ぶうちに、事務所を大きくすることでメンバーそれぞれの強みを活かすことができ、サービスの質も向上するのではないかと考えたようです。
 法人化を契機に、事務所は中小企業向けの顧問弁護士業務に特化するようになりました。日本の企業の99%は中小企業です。中小企業が経営を伸ばし可能性を広げていくことが日本を救うことにつながります。また、個々の事案にスポットで対応するのではなく、顧問契約を結び中長期的に企業とお付き合いすることで、会社の強みや弱みを理解した上で、働いている人の顔を見ながらより早くより深くお手伝いすることができます。今年から新たに税理士法人とコンサルティング会社を設立し、グループ化したことで、法務だけでなくトータルで中小企業をサポートできる仕組みを作りました。個々人でなくチームで企業を応援していくというのが私たち事務所の特徴です。
 現在、事務所全体で顧問契約していただいている会社は150社ほどあります。業種は様々で、IT、人材派遣会社、製造業、建築、運送、病院などです。「顧問弁護士がどんなことをするのか分からない」といった声に応えるために、自分たちでパンフレットもつくりました。
 顧問先との出会いも様々です。例えば、私が顧問契約して頂いている不動産会社とは、経営者が集まる勉強会でその会社の若い事業部長さんと出会ったことがきっかけでした。その会社では既にベテランの弁護士2者と顧問契約を結んでいたのですが、当時20代だった事業部長さんは、もっと年が近くて相談しやすい弁護士を探していたそうです。彼は非常に勉強熱心で、勉強会に参加する度にお会いしていました。最初は軽く挨拶をする程度でしたが、次第に仲良くなると、社長に「自分が売上目標に達したら岩﨑弁護士と顧問契約をしたい」と直訴してくれるほどになりました。社長も男気のある方で、その後事業部長さんが売り上げ目標を達成すると、快く顧問契約を結んで下さいました。今では、その不動産会社のオーナーを紹介してくださったり、一緒にセミナーを開催したりしています。

夢は誰もが挑戦できる機会をつくること

 税理士法人、コンサルティング会社を設立し、中小企業の経営をトータルでサポートする体制を整えたことで、今後はより一層クライアントを増やしていきたいと思っています。その一つの取り組みとして、自社でセミナーを開催しています。自分自身もなるべく学べる機会をもつようにしていますし、法律家を増やす仕事として、出身のロースクールでは教員として行政法を教えています。教え始めて3年目ですが、先日1年目に教えていた学生から司法試験に合格したという報告を受け大変嬉しく思っています。
 将来の夢としては、勉強したくてもできない人が挑戦できる機会を作っていきたいです。私の父は、2歳の頃に父親を亡くし勉強したくても出来なかったという経験から、私には同じ思いはさせまいと私に思う存分勉強させてくれました。次は私がその思いをつないでいきたいと思っています。
 あまりこのような話は他人にしたことがなかったのですが、先日、岐阜市内の弁護士が私財1億円を拠出して奨学金の財団をつくったという記事を見て、私の中でくすぶっていた思いに火がつきました。同じように奨学金の財団を作れたらいいですが、必ずしも財団という形ではなくてもいいかもしれません。ひとりでは無理なことでも、思いに共感してくれる人が集まれば実現できます。これからも自分を磨きながら、夢を実現していきたいと思います。

岩﨑 崇氏(弁護士、「未来創造弁護士法人」横浜オフィス代表、慶應義塾大学大学院法務研究科助教、元伊藤塾スタッフ)
2009年、首都大学東京 都市教養学部法学系卒業。2010年、行政書士試験および国家公務員I種試験(法律職)合格。2011年、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。同年、司法試験合格(司法試験受験後から司法修習開始まで伊藤塾スタッフとして勤務)。2012年に弁護士登録し、三谷総合法律事務所入所。2014年、事務所法人化に伴い「未来創造弁護士法人」に改称。2017年、慶應義塾大学大学院法務研究科助教に就任。2019年、未来創造弁護士法人横浜オフィス代表就任。

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