司法試験は、絶対に合格する試験なのです。ただ、勉強の方法と、その表現の方法について、考え直して見ませんか? 講師:松尾翼氏

弁護士生活60年目を迎える松尾翼さんは、これまでにポール・マッカートニー、マイルス・デイヴィスら海外著名人の代理人をはじめ、イスラエルでの日本赤軍・岡本公三氏の弁護など刑事事件の弁護、また日本の大企業に対するアメリカ連邦裁判所係属中の民事、商事事件などで現地法律事務所と共同受任するなど、国内だけでなく海外でも多岐に渡って活躍してこられました。
「司法試験は、絶対に合格できる試験!」と力強く仰る松尾さん。講演では、司法試験に合格するコツとともに、これからの時代において弁護士に求められるスキルや心構えなどについてお話しいただきました。[2020年2月1日(土)@渋谷本校]

司法試験はゴールではなくスタート

 司法試験は絶対に合格する試験です。ただ、自分の知っていることを書こうとすると落ちますよ。試験問題を見たときに、1分でいいから、「出題者はなぜこのような問題を出したのか。何を書かせたいと考えているのか」について考えてください。実務的な問題ではいくつか仕掛けがあります。一つは、試験問題の訴権に隠されている実体法的な権利関係をうまく説明できるか。二つ目は、それが訴権に転化したときにどうなるかについてうまく説明できるか、です。解答するときに絶対に慌てて書いてはいけません。必ず下書きをしてください。下書きをすると必ず修正すべき箇所が見えてきます。それをせずに自分の書きたいことをばーっと書いてはダメですよ。これが受験のやり方です。
 僕は1931年に東京で生まれました。今年で弁護士になって60年ですが、弁護士になって本当によかったです。先日89歳になりましたが、今でもこうして実務がやれるというのはとても有り難いことです。働きながら勉強でき、毎日好きなことができています。
 僕は14歳のときに大空襲で親兄弟が死んだ「生き残り」なんです。戦後は本当に貧乏な生活でした。働きながら勉強して司法試験に通りました。弁護士になってからも勉強を続けていると、アメリカのダラスで6週間アメリカ法の入門を学べるという奨学金がとれました。それだけでも嬉しかったのですが、その直後、さらにワシントン大学で比較法を研究するマスターコースをつくるということで、フォード財団が奨学金を出してくれる面接試験に合格し、2年かかって比較法学修士をとりました。
 司法試験に受かったら、そこが新たな人生の出発点です。試験に受かることが人生のゴールだなんて絶対に考えないでください。

海外でも通用する弁護士になるために

 必ずしも流暢な英語を話せなくてもいいですが、せめて海外通用力のある英語だけは習得してください。通訳や翻訳は雇えばいいです。僕が言っているのは、海外でオペラを見ても意味が分かる人になってほしいということです。
 『フィガロの結婚』というオペラをご存知ですか。この西洋のオペラの中では領主がメイドに「初夜権」という物権を持つことができ、フィガロとスザンヌは、この物権の為に領主と争いました。かつて女性は人ではなくモノとして扱われていたからです。
 モンゴルの草原では季節によって生える草が違うので、羊も馬も移動しながら生きています。そこへ日本の民法しか知らない人がやってきて、日本の不動産法の考え方で土地を区分けし自分のものにする立法をさせようとしたらどうなりますか? イスラムの世界では男性は4人まで妻をもって良いことになっています。なぜか? その権利の発生原因を考えると、戦争で男性が死んじゃったので人口を増やすためにそういう権利を与えたところから、そうなったことが分かります。
 日本の法律だけを勉強していると、そういう法の生成の原因が分かりません。試験に受かったら日本法はできて当然。そのうえで、諸外国の法体系や権利の発生原因、沿革などを勉強してみてください。
 60年弁護士をやってきて思うのは、やっぱり現場が一番ということです。貧乏な人の相談でも、お金持ちの人の相談でも、土地の紛争でも不動産の境界争いでも船舶の強制執行でも、とにかく実務をやってください。実務は世界中に通用します。“大きな国際事務所に入らなければ意味がない”と天狗になっている弁護士が山ほどいますが、彼らは縦に書いてある文章を横書きに直すばかりで、実務をやっていません。法廷活動をできない人間に海外事件の現場のイロハは分かりっこありません。

弁護士としての自覚と教養を

 今日、僕は真っ赤なシャツにノーネクタイで教室に来ました。これは法廷出席の予定も、依頼者とお目にかかる予定も無いからです。聴講に来られた皆様に反面教師にしてもらうためにわざとこのような派手な格好で来ました。人は70%は見た目で判断されます。弁護士になろうと思う者は日頃からこういう格好はしないほうがいいです。弁護士は依頼者の権利と財産を守るために仕事をします。自分のためではありません。だからこそ常に謙虚である必要があります。僕はいつ呼ばれてもいいように、真夏でもダブルカフスのシャツを着てネクタイを締めています。たとえどんなにトップの成績で試験に受かったとしても、ぼさぼさ頭でネクタイもつけないような格好をしていると、人は信用してくれません。
 海外通用力の話をしましたが、短期留学で良いので海外で学ぶ機会をつくることをおすすめします。ダラスでは毎年世界三十数カ国から50人ほど厳選して6週間みっちり勉強させるというプログラムがあります。オランダのアムステルダムやアメリカのデービスでも同様のプログラムがあります。ハワイ大学のロースクールも狙い目です。京都大学を卒業し日本で15年間弁護士として働いた人が3人の子どもを連れてハワイ大学のロースクールへ行って1年8ヶ月勉強して来られましたが、帰って来たら海外事件が来るようになったそうです。人間としての幅も広がったからでしょう。

弁護士は一生勉強です

 勉強を続けて行けば、勉強がどんどん楽しくなります。人があまりやっていないようなことをテーマにするといいですね。
 これからは知的所有権や著作権は面白くなると思います。日本でのフラダンス講演の振り付けを著作権登録して訴訟で勝ったという大阪の女性弁護士の活躍がありますが、IT技術が進み、動画や映像に価値が生まれることによって、これまで考えられなかったような訴訟が出てきています。法律というのは生活と地続きです。弁護士になってしまえば色々な道が広がっていますので、ぜひ試験に受かってください。

1953年、早稲田大学法学部卒(法学士)。1960年、弁護士登録。1969年、ワシントン大学ロースクール卒(比較法修士)。1984年、コロンビア大学ロースクール客員講師。1989年、ベルギー ルーヴェン・カトリック大学法学部客員教授他、メルボルン大学、早稲田大学、日本大学法学部、日本大学法科大学院講師等。現在も数多くの海外及び国内の民事・刑事紛争の現場で活躍中。