第1回:否決された豊島区の「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

「マガジン9」スタッフが、なんと区議会議員に転身!? 昨年春、豊島区議会議員に立候補・当選した「チャコ」こと塚田ひさこさんのコラムがスタートです。区議会議員って何やるの? 議会でどんなことが話されてるの? などなど、なかなか知る機会のない地方議会のリアルを、不定期連載でお伝えしていきます。

 こんにちは。マガジン9では、コンテンツの企画やインタビューの聞き手として、また「こちら編集部」や「メルマガ」では、水島さつきの名前で執筆を担当していました。ひょんなことから2019年4月の統一地方選挙に出て、昨年5月より豊島区議会議員をやっています。区議会議員になったらマガジン9にコラム書いてね! と言ってもらってたのに、スタートするのに1年近くもかかってしまいました……遅すぎてすみません。

 コラムタイトルだけは、ずーっと前から決まっていました。マガ9でおなじみ鈴木耕さんがつけてくれたのですが、「チャコの海岸物語byサザン」のダジャレを言いたいだけなんだと思いますが、ちょっと正直恥ずかしい。でも、かた苦しくないトーンで、言うべきところにはズバッと斬っていきたいと思います。

 一般の人にとっては、たぶん謎の多い区議会や区議会議員の仕事。本当は地方議会こそ、一番身近で私たちの生活に直結した「政治」の場であり、参画できる機会も多くなくてはならないはず。まずは「今、何が行われているのか?」を、みなさんにお伝えしたく書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。

3月の定例会は盛りだくさん

 さて、私が席をおく豊島区議会においても、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、本会議が1週間前倒しになり、3月17日が今年最初の「第1回定例会」の最終日でした(ちなみに「定例会」とは、定期的に招集される議会のことで、豊島区においては年に4回行われます)。この定例会に出された議案は、目玉の令和2年度の予算案をはじめ議案28件、陳情と請願などが15件、議員提出議案の意見書が3件、それに加え4月からの新しい人事案件や任期4年の選挙管理委員会の選挙もあり、最終日は採決だけでも本当に盛りだくさん。意見が分かれている議案については、起立と着席によって自分の意思を示すのですが、立ったり座ったりと慌ただしいのなんのって。ですが、そこは慎重に「賛成は起立」「反対は着席」と、タイミングがずれて間違ったカウントをされないように。この一連の動きが妙に難しくて、まだ緊張します。

 そんな中、今回ショックだったのは議員提出の決議案「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」が否決されてしまったことです。この決議の署名議員にもなり、決議をするべきとの賛成討論をしたひとりとして、決議案を提出するに至った経緯やなぜこのタイミングで出したのか、などについて書いておきたいと思います。

ある議員の心ないツイートが与えた影響

 まず、この決議案を出すきっかけとなった出来事があります。昨年12月18日、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之氏から性暴力を受けたとして損害賠償を求めていた民事裁判で、東京地裁は伊藤さんの訴えを全面的に認めて、山口氏に慰謝料など330万円の支払いを命ずる判決を出したことです。勝訴は当然のこととは言え、ほっとした伊藤さんの笑顔や言葉、支援者の女性たちのコメントや涙に、良かったと心からうれしく思ったものです。
 しかしその後、ある豊島区議会議員がこの判決について、「性交承諾書」なる文書とともに、伊藤さんの人権を踏みにじるような内容のツイートをしました。当人は自分のフォロワーだけに向けて書いたつもりだったのかもしれませんが、弁護士ドットコムのコラムに取り上げられ、またそれがヤフーニュースにも転載されるなど、私もリアルタイムでSNSを追っていましたが、どんどん拡散されていく様子がわかりました。アカウント名を見るとはっきり公人だとわかる形での発信ですから、悪い冗談としても明らかに一線を越している、との思いを抱きました。知り合いから直接、「あなたと同じ豊島区議会議員が、女性に対してひどい発言をネット上でしているね」と言われもしました。

 すぐに同じような思いを持った有志の区議たちと、これは見逃すことはできないのではないか、と話し合いをしました。そこで1月6日に有志の区議と一緒に区議会議長の部屋をたずねて、この発言に対する抗議をしました。この時すでに、区議会事務局や議長あてに区内外から苦情や意見が50件ほど寄せられていたとのことですが、議長は「議会外の発言であり表現の自由は保障されるべきとの理由から、問責には当たらない」との受け止めでした。
 議長は、議会の活動を主宰し議会を代表するものとして、議会の運営をスムーズに執り行うことも重要な役割ですから、そのことを意識されての発言なのだろうかとも思いました。
 ちなみに議長というのは、議員による選挙で決まります。当然最大会派から選ばれますから、豊島区議会の場合は自民党選出の議員が議長を務めています。議会の構成員である議員は、法的には対等であり「すべて平等」です。いかなる優遇措置も、逆に差別や嫌がらせといったものを受けない、のが公式ルールです。

 私は、もちろん公人といえども思想信条や表現の自由はあるし、選挙によって区民から選ばれ議員になったわけですから、その人の権利は尊重しなければならないと当然思います。しかし女性への性暴力を肯定するような発言や、勇気ある告発に対しふざけた方法で侮辱する行為があっても、苦い顔をしながらも黙認するのは「大人の対応」かもしれませんが、それでいいのだろうか? と思いました。しかも議会の外とはいえ区議会議員とわかる名前を入れたアカウントでの発信です。それでは「権力の前には、傷ついた人がいても、やはり泣き寝入りするしかない」とのメッセージにも受け取られかねません。
 そんなことがあっては、困ると思いました。

区民から直接抗議の声をうける

 実際にこんなこともありました。私は1月中旬の土曜日に池袋東口で、憲法と沖縄の問題に関するリレートークに登壇者の一人として参加をしましたが、その時に通りかかったお一人の男性から、ツイートを発信した議員に対する激しい言葉を聞きました。「あの議員は、豊島区の子どもや教育のことを審議する子ども文教委員会にいるらしいけれど、あんな発言をする人には即刻にやめてもらいたい。やめさせる方法はないのか」というものでした。私は、問責決議で責任を問うことや個人攻撃になるようなことは考えていないが、「豊島区は、性暴力に加担するような発言は許さないし、区議会議員も同様に問題だと思っている」ことを示す必要があり、それをこの会期中にできる方法を模索していきます、と答えました。

 またある区民の方からは、「区政へのご意見・ご要望」フォームを通じて「K議員(ツイートをした議員)の性暴力被害者を侮辱する内容のツイートに区議会をあげて抗議をしてください」と題した区議会議長あてのご意見もいただきました。発信者は性被害者の当事者でもあり、匿名を希望されていましたが、要望の内容については議員への回覧希望がされており、全議員が読んでいるはずです。投書の最後は「区議会議員のみなさん、黙っているのは女性蔑視を容認することになるのではないですか? どうぞ女性の尊厳をとりもどすべく、行動してくださるようお願いします」と結ばれていました。

 他の議員も支持者や地元のお知り合いから、この件についてはさまざまな意見を受け、また認識を問われたことだと思います。区議会議員は、そういう意味では有権者との距離が近いと感じます。そういった中、どの議員が言い出したということでもなく、「豊島区はあらゆる性暴力は許さない」といった意見書の提案をして、全会一致で採択されることがのぞましいよね、と声があがってきました。会派は違っても、この考え方に賛同する議員たちは少なくなく、打ち合わせも何度か重ね、共に動いてきました。

 具体的には、立憲としまの3人、共産党の4人、無所属の会2人、新しいとしまの会1人、無所属元気の会1人とで打ち合わせを持ち、決議の素案を作成。大きな会派(自民党、公明党、都民ファースト・民主)の控え室をたずね、各会派の幹事長にはたたき台ですからと素案を渡してこの決議の目的をお話しし、「全議員が賛成できるような決議の文章にしたいので、修正・削除・加筆については何なりと言って欲しい。私たちは柔軟に応じますから」と何度も機会を捉えては、申し上げてきました。

少数会派から議員提出決議案を出すということ

 さて、議会においては「手順」がありますので、まずは2月に入り初回の正副幹事長会(※)において、立憲としまの幹事長より、「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」を提出する旨の発言を行いました。

※正副幹事長会:会派の代表者が集まり、議会の運営などを協議する重要な会議の場だが、委員会や本会議とは異なり一般に公開されていない。また幹事長会の構成員は、会派の人数によって割り当てが決められている。

 その後、議長より当該議員から謝罪をしたいとの申し入れがあったとのことで、2月12日の本会議前の議員協議会において、謝罪発言がありました。ちなみに内容は、議会事務局作成の議事録で確認しましたが以下のようなものでした。
 「私自身は自分の考えについて、率直に述べたつもりですが、SNSの表現上の制限もあり、私の考えが十分に伝わらず、多くの誤解を招いた結果の問い合わせであると思料しています。結果として区議会議員のみなさまや事務局各位にご心配をおかけしまして、まことに申し訳ありませんでした。事態を重く受け止め、再発防止に努めます」
 迷惑をかけたとのことで区議会議員や事務局へのお詫びの言葉はありましたが、伊藤詩織さんや、ツイートによって傷ついた性被害者当事者への謝罪はなく、今回の彼の発信や行為の何が問題であったのかの本質が理解されていないのだなと思わざるを得ませんでした。と同時にこの「謝罪」では、心配や怒りの声を寄せてきていた区民も納得はしないだろうと思いました。

 そんなわけで、最初から話をしてきた有志の議員とは、議会最終日には議員提出で決議案を出すことになるでしょうね、という方向性で動いていました。

 そして、途中行われた9日間に渡る予算特別委員会も終わり、本議会の最終日前日を迎えました。実は議決の前日に開かれる「正副幹事長会」で議決がどのようになるのかはほぼ決定され、当日までに議会事務局が「本会議順序案」(シナリオ)を用意することになっています。ちなみに私は、一人会派で無所属扱いなので、この幹事長会は傍聴すらできません。しかし出席した議員によると、自民・公明・都民ファースト・民主の姿勢は、「決議にはのらないが、反対はしない」という、曖昧なものだったとのことでした。私は態度を明確にしなかった会派の中には「退席」の判断をされる議員もおられるかな、と思っていました。なぜなら「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」に反対する、というのはなかなかできないだろうと、普通の感覚では思ったからです。

 しかしながら、本会議最終日では、私と共産党の議員が「賛成討論」を行いましたが、賛成が12(豊島ネット、共産党4、立憲としま3、無所属の会2、無所属元気1、あたらしい豊島1)、反対が23(自民党、公明党、都民ファ・民主、しきしま会)(合計35)で、あっさりと否決されてしまいました。

なぜ否決されたのか、その理由を考えてみた

 今回、この決議を出そうと動いた人たちの思いは様々だったでしょうが、各人が真摯にツイートの一件について怒り、そして正していこうと動いたと思います。私は、心配をしている区民の声にきちんと応えたかった、というのもありますが、女性に対する意識の遅れを象徴するような発言が、議会外とはいえ豊島区議から出たことは大きな問題であり、こういった旧来型の認識は、ジェンダー平等を大事と掲げるのならば、決して見過ごすべきではない、と考えたからです。
 一方で、決議に反対にまわった議員のコメントを新聞記事などで見る限り、「方針には大半賛同しているが、決議内容に精査や議論が足りない」とあります。ベテラン議員のそうした指摘は真摯に受け止めたいと考える一方で、話し合いのテーブルにつこうという雰囲気がなかったことは、残念に思います。そういったオープンで真剣なやりとりができなくなったことの要因の一つには、やはり議会内の数のバランスがあるのでしょう。

 地方議会は二元代表制(※)をとっているので、本来議会の中には国会の中のような、与党や野党はないはずなのですが。豊島区議会においては、国会における与党の自民党・公明党、そこに区長が支持を表明している都民ファーストが加わって、議会内で2/3を占める圧倒的多数を握っています。そんな中、否決にはいわゆる「政治的な力学」も働いたのかな、と言われています。また、私は鈍感なのかあまり感じないのですが、以前は「議会のしきたり」というか慣習として、1期目の議員がものを申すなんて「生意気」だと言われ、発言もろくにさせてもらえないことがあったそうです。

※二元代表制:国の議員内閣制とは異なり、地方自治体は憲法93条の定めにあるように、首長と議会議員は住民から直接選挙で選ばれる二元代表制をとる。議員は、法律や予算の審議・決定する権限を持ち、執行においては行政の長が責任を持つ。議会と首長はお互いに緊張関係を持ちながら、自治体運営の基本的な方針を決定していく。

 しかし、そんなことを気にしている場合でもないな、とはすぐに思いました。FBで否決されたことを簡単に報告したところ、「どうしたの豊島区? (女性にやさしいまち、といいながら)近くに高い壁があるね」「今回なぜそのようなことになったのか、詳しくどこかに発表して欲しい。そして区民として何ができるのかも教えて欲しい」といった声がたくさん寄せられましたから。

 議会の決定がおかしいと感じるのならば、今回反対にまわった議員や会派に次回は投票しない、のが主権者としての一つの意思表示でしょう。また、区民からの陳情をあげることも有効です。陳情のやり方については、次回にでも詳しく書きたいと思います。

 今回反対にまわった党は、次の定例会で自らが作成した「性暴力をゆるさない」決議提案をしてくるかもしれない、とも予想されています。それならそれで、今回のことが一つのきっかけになったのなら、私は内容をみた上でですが、素直にその提案にはのりたいとは思います。

 「党利党略」とか「議会のしきたり」のようなもので、今回のように「性暴力をゆるさない」とするまっとうな意見が、議員どうしの話し合いを持ちかけたところでまともに応じてもらえないままつぶされる、のなら、区議会は残念ながらあまりに閉鎖的です。
 区議会をより開かれた場にしていくことも、区民から送り込まれた議員の役目なのだと思うと、私のやるべきことはたくさんあるな、と感じています。こうやって、メディアに発信していくこともその一つです。

 次回以降も、議会の中で今起きていることや、一般的にはよくわからない区議会議員の仕事についてなど、タイムリーな話題と共に、お伝えしていきます! 質問や聞いてみたいこともあれば、ぜひ、こちらからお寄せください。

 【賛成討論】

 私は「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」について、賛成の立場で討論をいたします。

 昨年12月、男性ジャーナリストによる性暴力に対し、民事裁判判決において性暴力の認定がされ、原告女性ジャーナリストが裁判で勝訴しました。

 このことを受け、豊島区議会議員名でツイッター上に、被害を受けた当事者の人権を踏みにじると感じられる表現が発信されました。ネット上でも様々な反応があり、被害女性に対し言われもない事実誤認の投稿に発展してしまったことは否定できません。
 この事実を重く受け止め、昨年末に女性区議の有志で、声を上げようと活動を続けて参りました。まず1月6日には豊島区議会議長に、これは許しがたい発言であると抗議しました。

 豊島区内外から数多くの抗議の電話やFAX、メールがあったと聞いていますし、実際に私のところにも「性暴力被害者を侮辱するツイッターの文言には深く傷ついた」「区議会をあげて抗議をして欲しい」「同じ区議会議員として黙っているというのは、認めているということですか」と、区民の方からの厳しい声が、女性・男性問わず複数ありました。

 私自身もこれまで性被害の当事者が声を上げることが困難だったこの日本社会の中において、勇気を振り絞って、顔と実名を出し訴えた女性ジャーナリストの行動を嘲笑するような行為に対し、激しい怒りの気持ちも沸きましたし、ここで見逃してしまったら、せっかく声をあげて戦ってきた全ての人たちを踏みにじることにもなるのでは、とも思いました。
 彼女の勇気が、「性暴力のない社会へ」という日本独自のMeToo運動とも言える「フラワーデモ」にもつながり、これらの連帯が「刑法の見直し」にもつながっているところだからです。

 このようなことから、「あらゆる性暴力の根絶を目指す」決議をあげるべきと有志議員と共に考え、区議会第一回定例会初回の正副幹事長会において、性暴力根絶の決議を提出する旨の発言を経て、全会派一致での決議を目指して参りました。

 豊島区は掲げる4つの政策の一つに『女性にやさしいまち』を謳い、豊島区男女平等推進センターエポック10では「女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた」社会を実現するために、問題意識の向上、啓蒙・調査やまちづくりなど効果的な政策を実行しています。

 国の動きとしては、2017年6月に110年ぶりに刑法が改正され「強姦罪」が「強制性交等罪」に変更されましたが、まだ多くの課題が残されており、その刑法見直しが今年、2020年に行われます。
 また、フラワーデモのきっかけにもなった、昨年3月に相次いだ4件の性暴力事件の無罪判決のうちの一つが、19歳の実の娘に性的暴行をした父親が、一審では無罪判決、二審での名古屋高等裁判所での判決が、懲役10年の実刑判決に変わったことは、「性暴力を許さない」という声をあげつづけ、連帯した運動があったからこそと考えます。(しかし3/16被告の父親は、判決を不服として最高裁に上告しています)

 性暴力を受け、声をあげたくてもあげられなかった人たちが、ようやく自らの意思で動きはじめ、それがじわじわと広がり、司法をも動かし始めています。長らく私たちは、「声をあげても変わらないよね」「嫌だけど、このぐらいは目をつぶろうか」と、真面目にきちんとこの問題に向き合ってこなかった。そのことが、今の女性にとって生きづらい社会を作ってしまったのではないかという自戒も込め、私は直ちにこの区議会において、「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」に、全議員が賛成すべきと考えます。
 以上、賛成討論を終わります。

議員提出議案第4号「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」

       

塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9