布施祐仁さんに聞いた(その1)「軍事力に頼らない安全保障」こそが、もっとも合理的な選択だ

今年の憲法記念日、安倍首相は改憲を訴える団体の集会向けにビデオメッセージを送り、「憲法への自衛隊の明記」を訴えました。「戦力不保持」を定めた9条2項を維持しながら自衛隊の存在を憲法に書き込むという、いわゆる「安倍改憲案」については多くの対案が出されていますが、その多くが自衛隊や日米安保の存在を前提としたもの。かつて「護憲」世論の主流ともいえた「軍事力の撤廃」の主張を耳にすることは少なくなりました。そんな中で、一昨年「非軍事中立戦略のリアリズム」という言葉を掲げた共著を出版したのが、自衛隊「日報隠蔽」問題の取材などでも知られるジャーナリストの布施祐仁さん。「軍事力に頼らない安全保障」は、本当に現実的なのか? マガ9創刊15周年の今年、「非軍事中立」について、そして改めて憲法9条について、お話をうかがいました。

「軍事力の強化で安全が高まる」は本当か

──2018年末に出版された『9条の挑戦 非軍事中立戦略のリアリズム』(大月書店、伊藤真さん・神原元さんとの共著)では、安倍政権が進める〈「9条改憲」の対案はこれだ!(帯の惹句)〉として、どこの国とも軍事同盟を結ばない「非軍事中立」の安全保障戦略を提示するとともに、「軍備撤廃という目標をあきらめてはならない」とも述べられています。
 「戦力の不保持」を定めた憲法9条がありつつも、こうした「非軍事」を主張する声は多数とはいえないのが日本の現状だと思いますが、布施さんがそのお考えに至った理由をお聞かせください。

布施 まず前提として、現代の安全保障を考える上で無視することができないのは、世界に1万数千発ある核兵器の存在です。核兵器を持っているのがアメリカだけだった第二次世界大戦の時代とは違って、今は広島・長崎型の数百倍数千倍の威力がある核兵器を保有している国がいくつもある。万が一、核保有国間で戦争が勃発し、それがエスカレートして核戦争になったら、最悪の場合は人類全体が絶滅してしまう危険性があるわけです。
 ですから、それをいかに防ぐかということが重要になります。もちろん、軍事力を強化すべきだと主張する人たちも、そこは同じでしょう。皆さん「軍事力は、戦争をするためではなく、戦争を抑止するために持つのだ」と言いますよね。つまり、強大な軍事力を持つことで、他の国々に「攻撃したらその何倍もの反撃があるだろう」と思わせ、攻撃を踏みとどまらせることができるのだというわけです。

──いわゆる「抑止論」ですね。

布施 僕も、それを全否定するわけではありません。確かに、強大な軍事力を持つことである程度争いを防げるという面はあるでしょう。
 しかし、その逆の面もあります。ある国が軍事力を増強すれば、その国に「攻撃されるかもしれない」という不安を持つ国は、攻撃されないためにさらに強い軍事力を持つ。そうすると、相手もさらにそれを越える軍事力を持とうとして……というふうに、とめどない軍拡競争になり、相互不信が強まっていく。「戦争を止めるため」であったはずの軍事力が、かえって緊張感を高め、戦争を誘発するリスクを高めるのです。
 そして抑止論が、どんな場面でも常に機能するわけではないことは、これまでの例からも明らかです。わかりやすいのは、今年初めのイランとアメリカの関係悪化でしょう。

──新年間もない1月3日に、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が、訪問中のイラクで米軍の空爆によって殺害されたのが直接のきっかけですね。トランプ米大統領はその理由を「アメリカ(米軍)へのテロ攻撃を計画していた」と述べ、「自衛のためだった」と主張しました。

布施 あのとき、報復攻撃を宣言したイランに対し、トランプ大統領は「もし報復があれば、イランの関連施設52カ所を攻撃する」と脅しました。軍事力で見れば、圧倒的にイランよりもアメリカのほうが強いですし、アメリカは核兵器も持っていますから、もし抑止力が機能していれば、イランは報復をあきらめたはずです。しかし、実際にはイランは、イラク国内の米軍基地にミサイルを撃ち込むという形で報復攻撃を実行しました。つまり、抑止力は働かなかったのです。
 幸いにして、この対立がエスカレートして本格的な戦争になることはありませんでした。トランプ大統領が、「イランからの報復攻撃において人的被害が出なかった」ことを理由に、さらなる反撃を踏みとどまったからです。しかし、もし甚大な人的被害が出ていたらどうだったでしょうか。もちろん、イラン側も全面戦争になるのを避けるため、人的被害が出ないように狙ったとは思いますが、それが成功する保証はどこにもなかったはずです。

──ミサイルが落ちた位置が少しずれていれば、米軍に大勢の死者が出ていた可能性はあったでしょうね。

布施 そうなっていたときに、トランプ大統領が反撃を踏みとどまれたかどうかは分かりません。米国内で「報復しろ」という世論が沸騰するような状況になれば、抑えることは難しかったのではないでしょうか。
 そう考えると、軍事力に頼る安全保障は、実は薄氷の上を踏むような危うさを持っているということが、よく示された事例だったと思います。
 さらに言えば、冷戦時代に機能していたとされる「核抑止論」も、実は非常に危ういものであったことが、冷戦の終了とともに明らかになってきました。
 たとえば、アメリカは本土復帰前の沖縄に1000発以上の核兵器を配備していましたが、実は1962年のキューバ危機(※)の際、沖縄のミサイル部隊に核弾頭を搭載したミサイル4発の発射命令が誤って出されたことがあったのです。幸い、現場の司令官が「何かおかしい」と疑問を持ち、すぐにはボタンを押さず踏みとどまったので、核ミサイルは発射されずに済みました。命令を忠実に実行する軍人が司令官だったら発射していた可能性もあります。これは、実際に在沖米軍基地のミサイル部隊にいた元兵士が証言している事実です。
 こうした事例から見ても、軍事力、抑止力による安全保障というのは非常に危うい面がある。「核の時代」においては、抑止に失敗したときには「人類絶滅」という最悪の結果を招いてしまう可能性さえあるわけで、あまりにもリスクが大きいといえます。

※キューバ危機…1962年、ソ連によるキューバへの核ミサイル基地建設をめぐり、米ソが激しく対立。アメリカはキューバの海上封鎖を実施、核戦争寸前ともいわれる危機状態となった。最終的には両国首脳の直接交渉を経てソ連がミサイルを撤去した。

──イランがアメリカに反撃したように、そもそも抑止力が働かないケースもあるし、沖縄の場合のようにミスや手違いで核戦争が勃発してしまうことも考えられるわけですね。

布施 そうです。では、そのリスクをどうなくしていくかといえば、やはり最終的なゴールとして、人類は核兵器も軍事力もない世界を目指すべきだと思っています。「核戦争による人類絶滅」というリスクのある時代においては、軍縮を進め、軍事力に頼らない安全保障を目指すことこそが、実は日本だけでなく人類全体にとって一番合理的な選択だと思うのです。
 二度の世界大戦を経て作られた国連憲章が武力による威嚇と行使を原則禁止し、国連総会の第1号決議が核軍縮を国連の最優先目標にすることを確認したのも、「核戦争による人類絶滅」というリスクを踏まえたリアリズムがあったからです。

「軍備を増強する」ことのリスクとメリットを検証せよ

──ただ、ご著書を読むと、布施さんは「すぐに軍備撤廃すべきだ」とおっしゃっているわけではないのですね。

布施 周辺の国々が軍備を増強している時に、日本だけがいきなり軍備を全部なくしますというのは現実的ではないし、民主主義の制度の下でそのような合意が形成されることは難しいと思います。
 でも、今すぐにできないからと言って、永遠にできないとあきらめる必要はありません。大事なのは、「軍事力に頼らない」という目標を掲げて、そこに一歩ずつ近づいていくための段階的なロードマップを構想することです。軍拡競争とは別のベクトルを、どうつくっていくかを考える必要があると思うのです。
 僕は、将来軍備を撤廃するにしても、その国の領土・領空・領海を警備するための最低限の国境警備隊みたいなものは必要だと考えています。昔の本当に「専守防衛」だったころの自衛隊はそれに近かったと思います。
 これと真逆なのが米軍です。アメリカは、脅威が自国の領土に及ぶ前に摘み取るという安全保障の考え方なので、海外に出撃して戦うということに重心が置かれています。自衛隊は最近、この米軍と一体化していこうとしているので、空母や長距離巡航ミサイルなど「専守防衛」を超える軍事力を強化しようとしています。まずは、これを元に戻していくことが必要だと考えています。

──とはいえ、それについてもさまざまな反論はありそうです。たとえば、北朝鮮からしばしば日本に向けたミサイルが発射されているような状況で、それを放っておくのか、といった声にはどう答えますか。

布施 ミサイルに軍事力で対抗するのであれば、現状のようにミサイル防衛システムを強化していくということになるでしょう。日本海に浮かべたイージス艦からの迎撃ミサイル、そして全国の自衛隊基地に配備されているパトリオットミサイルで、飛んできたミサイルが着弾する前に迎撃するというシステムです。
 しかし、現実的には、北朝鮮から十数分で日本に到達するミサイルを完璧に迎撃するのは困難です。同時に何発ものミサイルが飛んできた場合は、必ず数発は迎撃できずに着弾するでしょう。
 北朝鮮の場合は、すでに核兵器を保有し、ミサイルに搭載できる核弾頭も持っているといわれます。万が一、迎撃できなかったミサイルにその核弾頭が搭載されていたら、とんでもない被害が出ることになります。
 それと、最新のミサイル防衛システムを導入しても、ミサイルの技術が進歩したら迎撃は難しくなります。どうしても「いたちごっこ」にならざるを得ないのです。結局、莫大なコストがかかるわりに、効果に疑問符が付くのがミサイル防衛なのです。 
 北朝鮮は、アメリカが攻撃してきたら米軍基地のある日本に反撃を加えると明言しています。しかし、北朝鮮の側から、いきなりミサイルで日本を攻撃してくる可能性はゼロに近いでしょう。
 そう考えていくと、北朝鮮のミサイルの「脅威」への対応としては、アメリカが北朝鮮を攻撃し、北朝鮮がその反撃として日本にミサイルを撃つという事態になるのをどう止めるかが最も重要になります。つまり、撃たれた場合にどう迎撃するかということよりも、どう撃たせないかという外交の方を優先的に考えるべきなのです。

──軍事力を縮小すると、勢力拡大を狙う中国が攻めてくるのではないかという声も多そうです。

布施 中国は近年、南シナ海で国際法上根拠のない領有権の主張をして「人工島」の建設を進め、尖閣諸島周辺で日本の領海への侵入を繰り返すなど、強引な行動が目立っています。だからといって、「中国が日本に攻めてくる」というのは、現実に中国がとっている行動や戦略を見ない議論だと思います。
 今は、かつての植民地が当たり前だった時代と違い、他国を武力で侵略して領土を奪い取る行為は、デメリットがメリットをはるかに上回ります。
 経済のグローバル化が進んだことで、世界中で経済的な相互依存関係が強まっています。中国にとって日本やアメリカは重要な貿易相手国ですし、その逆もそうです。その相手と本格的な戦争状態に陥ってしまったときの経済的な打撃は計り知れません。
 日本政府も、現在の国際関係においては「主要国間の大規模武力紛争の蓋然性は低い」と「防衛計画の大綱」(2018年)で認めています。中国が日本を本格的に侵略することなど、日本政府も想定していないのです。
 中国が国外での国益追求を強めているのは事実ですが、「戦争をしてでも」という方法はとっていません。勢力拡大も、「一帯一路」構想に代表されるように、主に経済的な手段によって行われています。東南アジア諸国と領有権を争う南シナ海でも、「漁民」や「海警」(日本の海上保安庁に当たる組織)を表に立て、軍は一歩後ろに下がることで武力衝突を回避しようとしています。戦争は経済発展の障害になると考え、極力軍事力を使わない形で国益を追求しようとしているのです。
 中国も領有権を主張する尖閣諸島については、日本が警備も何もしないでほったらかしにしておけば、漁民を上陸させて実効支配の既成事実化を図るということもあり得なくはないですが、これを防ぐために必要なのは海上保安庁などによる隙のない警備態勢であり、実際日本はそれをやっています。 

──軍事力を持つこと自体が「よくない」わけではないけれど、それによって本当に私たちの安全は高まるのか? ということですね。

布施 「非軍事中立」というと、絶対平和主義の思想に基づき、頭から軍事力を全否定しているように取られがちですが、僕自身の考えはそうではありません。あくまで、日本の安全を守っていくために何が最も理にかなった道なのかを考えた結果、軍事力に頼らず、自主・中立の外交を展開するのがベストだという結論に至ったのです。
 軍事力の必要性を全否定するわけではありませんが、今の状況で軍事力を高めることが、本当に安全保障上のリスクを下げることにつながるのか。むしろ、かえってリスクを高めることになってはいないか。そこを、現実を見ながらリアルに検証する必要があると思います。
 たとえば、沖縄・南西諸島の宮古島や石垣島で、新たに自衛隊のミサイル基地が建設されました。これは、沖縄の島々を、あるいは日本を守るためというよりは、アメリカの対中戦略の一環という面が強い配備です。この地域におけるアメリカの軍事的優位を維持するために、いざという時に南西諸島を「壁」のようにして中国軍を東シナ海に封じ込めようという戦略です。
 アメリカにとっては自国の戦略に日本が協力してくれるというのはありがたいことでしょうが、南西諸島に新たな基地ができることは、この地域の緊張感を高める要因になります。
 東シナ海が米中の覇権争いの最前線となり、軍拡競争が激しくなれば、偶発的な衝突が発生する危険性も高まります。万が一にも米中間で武力衝突が発生した場合、まっ先に戦場になるのは米本土でも中国本土でもなく、沖縄であり日本なのです。
 そういうリスクを見た上でとるべき道を考えていかないと、「抑止力の強化」と言いながら、逆に危険が高まりかねないのではないでしょうか。

(その2)につづきます
※2020年5月20日更新予定

(構成/仲藤里美)

ふせ・ゆうじん 1976年生まれ。ジャーナリスト。『日報隠蔽』(共著、集英社)で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約』(岩波書店)、『経済的徴兵制』(集英社新書)、『主権なき平和国家』(共著、集英社クリエイティブ)など。