「公法系弁護士」の面白さ~近時の補助金不交付問題等を題材として~ 講師:平 裕介 氏

「公法系弁護士」──憲法訴訟や行政訴訟、また自治体からの法律相談などで活躍する平裕介さん。 憲法訴訟や行政訴訟の意義とは何か、公法系の事件を中心に担当する弁護士の実務はどのようなものなのか、お話しいただきました。[2020年9月12日(土)@渋谷本校]

「公法系弁護士」とは

 「公法系弁護士」というのは私の造語ですが、憲法訴訟や行政訴訟に興味・関心を持って力を入れている弁護士を指します。今日はその公法系弁護士の実務を中心にお話をさせていただきます。将来どういう弁護士になるのかをまだ決めかねているという方には、公法系の憲法訴訟や行政訴訟に関連する仕事にはこういうものがあるんだなと、参考になるのではないでしょうか。
 後ほどもご紹介しますが、公法系の実務というものは、立憲主義や法治主義に直結する部分があります。こういった問題に、どのように弁護士あるいは研究者が向き合っているのかということは、受験生でなくとも多くの方々に知っていただきたいと思っていますし、この国で市民として憲法や行政法をいかに守っていくべきなのかということも伝えていければと考えています。「憲法の伝道師」である伊藤真先生のようにはいきませんが、憲法あるいは行政法の精神を、私からも伝道していきたいと思います。

公法系弁護士としての三つの業務

 「公法系弁護士の実務」というテーマから入っていきたいと思います。これは大きく分けて、三つあります。
 一つ目は、原告の立場で行う市民の訴訟です。これが一番イメージを持ちやすいかもしれませんが、訴訟代理人としての活動があります。
 二つ目は逆の立場で、行政の側に立って行う業務です。行政機関に法的助言等をする活動もしています。もしかしたら市民側の代理人をやる人は行政側の代理人をやらないんじゃないかと思われるかもしれませんが、こういった形で公法系の弁護士もいろいろなことができます。いわゆる利益相反にならなければ、一つの立場からだけではなく幅広い立場で仕事ができるのは面白いことだと思っています。
 三つ目に、公正中立な立場で行う業務というものがあります。たとえば、行政不服審査会や建築審査会といった審査会の場で、中立的な、いわば裁判所的な立場から、特定の行政処分が適法なのか違法なのかを審査する委員として関与します。それと、自治体職員の研修というものもあります。あまり知られていないかもしれませんが、たとえば職員の方の昇格に際して、行政法や憲法の試験をパスしなければいけない自治体があるんですね。それは立憲主義や法治主義のために行われているものだと思いますが、そのための研修の講師や試験問題の作成などもやっています。
 それから、訴訟外の活動もあります。これも少し意外に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、社会で起きている問題について憲法的あるいは行政法的に考えてみましょうという趣旨のセミナーの企画や、Zoomなどでの研修会の講師等を担当しています。訴訟とは関係ないようですが、こうした企画や研修会を通じて弁護士が得る情報は少なくありません。それが訴訟に活きることがありますので、有益だと思っています。
 また最近、私は二つの事件に関連して、クラウド・ファンディングを通じて支援を集めたりもしています。憲法訴訟あるいは行政訴訟というのは、原告の方がお金をそれほど出せないというケースが少なくないです。そうした資金をクラウド・ファンディングなどで集められれば、たとえば訴訟の際に出す研究者の意見書を多数だせたりするわけです。研究者の意見書が1本の場合と、5本、6本出せる場合とでは訴訟の勝率が変わってくることもあると思います。その意味でも、こういった活動も重要です。

行政訴訟・憲法訴訟の意義と持続化給付金問題

 行政訴訟や憲法訴訟に関連し、規制行政と給付行政という二つの行政作用あるいは行政活動があります。
 規制行政―侵害行政とも言いますが―というのはつまり、市民の権利・自由を制約する市民の側にとって「マイナスの行政」のことをいいます。これについては「比例原則」という、規制をしすぎないようにするための原則があります。一方、給付行政とは主にお金を交付する「プラスの行政」のことで、こちらでは「平等原則」という原則が重要になります。
 つまり、規制行政に対しては比例原則によって行政作用を統制し、給付行政に対しては平等原則によって統制をしていく。それにより、法治主義すなわち法律による行政の原理や、立憲主義を実現していくということが、行政訴訟・憲法訴訟の大きな意義といえます。
 給付行政と平等原則に関連して具体的な一例をあげますと、「持続化給付金」の問題があります。持続化給付金というのは新型コロナウイルスの感染拡大に伴って休業をし、売り上げが大幅に下がってしまった事業者に対して支給される給付金をいいます。少なくとも国が給付規程で示している趣旨・目的からすると、この給付金は、業種を問わず、すべての事業者に交付されるべきものです。それがなぜか、風営法上の性風俗事業者については給付の対象者から除外をするということになっていました。
 ここでは、給付行政の平等原則に対する考慮事項というものが大きな問題になってきます。行政裁量の判断に際して、嫌悪感や忌避感といった国民感情を考慮していると思われるからです。困っているすべての事業者に交付するというのが給付金の趣旨・目的であるにもかかわらず、特定の事業者には支給すべきではない、あるいは支給するのは不謹慎だとまで考える「感情」を国家が支持してしまうわけです。
 しかし、それは憲法や法制度の趣旨にそぐわない考え方で、職業差別ではないか。憲法22条の職業選択の自由を実質的に制約するものではないか。真面目に風営法等の関係法令を守って、ちゃんと確定申告をして納税もして誠実に営業活動をしている事業者がいるにもかかわらず、また、反社会的勢力とつながりのない事業者であるにもかかわらず、全部を一括りにして、とにかく性風俗事業者というのは全部が全部いかがわしいものなのだとか、あるいはそういうものにお金を出すのは不謹慎だとかいった一部市民の誤解や偏見に基づく差別的な感情を、国が考慮しながら行政裁量を行使してしまっているのです。これはやはり、弁護士であり研究者でもある私としては、司法によって行政の誤りが正されるべきだと考えています。

 刑事事件や民事事件でも当然社会は変わるわけですが、公法系の事件の醍醐味というのは、ある種の市民感情や国民感情みたいなものを大きく変えていける可能性のあるところにあるのではないかと考えています。これによってストレートに法治主義や立憲主義を守っていけるというところが、公法系弁護士のやりがいです。また、一人ひとりの情報発信が社会を変えていくことにもなると思いますので、ぜひ公法系事件にご注目いただきたいと思いますし、受験生の皆さんも力を入れて勉強していただければと思います。

弁護士、日本大学法学部助教、元伊藤塾塾生。2004年、中央大学法学部法律学科卒業。2006年、日本大学法科大学院修了。2008年、弁護士登録(鈴木三郎法律事務所、東京弁護士会)。行政事件や自治体からの法律相談等を中心に担当する「公法系」の弁護士・研究者。日本大学法学部・法科大学院のほか、國學院大學法学部などの大学で非常勤講師を担当しながら、東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長として、憲法の法教育(小学生~高校生)にも携わる。著書(実務書)に『法律家のための行政手続ハンドブック』(共著・山下清兵衛編、ぎょうせい、2019年)、『新・行政不服審査の実務』(共著・青栁馨編、三協法規出版、2019年)『実務解説 行政訴訟』(共著・大島義則編、勁草書房、2020年)など。