辻元清美さんに聞いた(その2):ポスト安倍の新しい政治の担い手は誰なのか?

今年9月、『国対委員長』という本を出版した衆議院議員の辻元清美さん。安倍政権下で立憲民主党の国対委員長を務めた経験が詳細に綴られています。登場する政治家たちもすべて実名、国会の裏側をありのままに描いたこの本を、なぜいま書こうと思ったのか。そして、安倍首相の退陣と菅新政権の成立、野党再編という大きな変化を経て、野党第一党として考えることは? 辻元さんと親交の深い、コラム『言葉の海へ』でおなじみ鈴木耕さん、同じく『チャコの区議会物語』を連載中の塚田ひさこさんが聞き手になって、突っ込んだお話をうかがいました。(その1はこちら

菅義偉という人

辻元 さっき廊下で安倍さんにばったり会ったんです。目が合っちゃったので、「お疲れ様でした。総理とはそうとうやり合いましたから、辞められてさびしいなあ」と言ったら、「そうですか、今度は菅さんとやってください」ですって(笑)。なんだか憑き物が落ちてひと回り小さくなった印象でした。

――菅さんとも個人的に話をすることって、あるんですか。

辻元 菅さんと私は1996年当選組で同期なんです。当時は自社さ政権でしたから、お互いを意識し合う議員同士でした。菅さんは、当時官房長官だった梶山静六さんの薫陶を受けていた。一方私は土井たか子さんのお供として動いていました。
 当時は加藤紘一さんが幹事長、野中広務さんが幹事長代理、山崎拓さんが政調会長の時代でした。菅さんは宏池会にいて、加藤の乱※に加わったひとりだったんです。

※2000年11月に第2次森内閣打倒を目指して与党・自由民主党の加藤紘一・山崎拓らが起こした一連の倒閣運動

 菅さんは野中広務さんにも可愛がられていたし、古賀誠さんとも親しかった。私も彼らと親しく、同じ人脈にいたので、感性が似ている部分はあると今でも思う。でも、権力を握ると人って変わりますから。

――菅さんが言う雪深い田舎の農家の出身でたたき上げだとか、集団就職とか、どうも嘘くさい。ありえない嘘を積み重ねているという気がします。田舎の出だから地方へのまなざしがやさしいというのも怪しい。出身地である秋田も含めて地方には何の関心もないし、沖縄に対しても冷たい。そんな感じがするんです。

辻元 そうでしょうねえ。私が国対委員長をやっていたときの交渉相手は森山さんですが、その背後には菅官房長官と林幹雄幹事長代理がいて、この3人が作戦を立てて対峙していました。
 8月15日、宿舎のエレベーターで菅さんとばったり会ったんです。お互い戦没者追悼式に行く途中で、私はすその広い黒のキュロットをはいていたんですね。そうしたら「お嬢様みたいじゃない?」っていきなり言われて(笑)。びっくりして「あらそう? 菅さん、激務だから体に気をつけてくださいね」と言ったら「私は田舎育ちで体は丈夫です。体だけは丈夫です」と、とやけに強調するのよね。で、私はすぐ森山さんに電話して、菅さんがこんなこと言っていましたよ、と言ったら森山さんも「それは意味深だねえ」(笑)。
 今考えると、あのころから狙っていたんでしょうね。8月15日はまだ安倍さんは辞めるとは言っていなかったけれど、みんな裏で作戦を練っていたのよね。なんかあるなあと、ピンときました。

学術会議人事に介入したがる理由

――菅さんは、学術会議の人事介入など、首相になってさっそくとんでもないことをしていますよね。安倍さんを継いでいると言うより、一段ステージが上がった気さえします。

辻元 学術会議への人事介入問題に関しては、安倍さんと菅さんはシンクロしているところがあります。安倍さんは、日本会議的なイデオロギーで介入しようとする。一方菅さんは経済的な利害で動く。今回の人事介入の背景には、軍事産業への学者の研究協力を促進させたいという菅さんの思惑があると、私は見ているんです。
 野党合同ヒアリングで明らかになったことですが、2017年、日本学術会議は軍事研究には協力しないという方針を確認しました。このことに安倍さんは相当いらついたのだと思います。まず翌18年に、内閣法制局に対し、学術会議の人事に口出しすることができるかどうか、問い合わせています。軍事研究に非協力的な学術会議に対してイデオロギー的な不満を抱いていたのでしょうね。
 それに対して菅さんは経済界の要請の影響を強く受けていると思います。原発輸出がすべて失敗しましたから、次は武器輸出で儲けるしかないと考えている。そうした経済界の思惑に協力的でない学者は、政権にとって目の上のタンコブなんですね。だからそこの人事に風穴を開けたい。それが菅さんの狙いだと推測しています。
 菅さんがごり押しするのは、たいていお金に関係することなんです。おととしの臨時国会で、わずか40日で強行採決した外国人労働者規制緩和も、経済界からの要望でねじ込んできたものです。カジノも「菅案件」です。私は菅さんの政策にはイデオロギーとか思想は感じられない。それよりも経済界の物差しでの、損か得かで判断している。

――安倍さんよりももっと小さな政府を目指しているようにも見受けられます。

辻元 かつて小泉政権下で「構造改革」を唱えた竹中平蔵さんの影もちらついていますしね。そもそも、かつての規制改革路線で経済を牽引しようとするのはもはや時代遅れでしょう。コロナで人の生き方や価値観が変わってきているし、気候変動とか未知のウィルスの出現とか、人類滅亡の危機が言われる時代に、経済界とくっついてやっているだけでいいのでしょうか。

――菅さんは、早い段階で失敗する可能性がかなり高いんじゃないかと思いますね。今回の問題にしても学術会議を舐めていたところがある。一般の国民は、学者のことなんか興味ないから何やっても平気と甘く見ていたら、思いがけず世論の反撃をくらった。相当焦っているのではないでしょうか。

辻元 そうでしょうね。それで必死になって学術会議のあり方攻撃へと問題をずらしている。税金投入しているのだから、政府が口出しして当然とか、あり得ない方向に話を持っていこうとしています。
 税金って、私たちみんなのお金でしょ。自民党支持者でない人のお金も入っている。人々が学者に期待しているのは、権力からは独立して、政府がおかしな方向に行きそうになったら止めるということ。その専門家としての見識を期待しているからこそ、税金を投入しているわけで、政府は「金は出すけど口は出さない」に徹するべきなんです。

合流野党はこれからどうするのか?

――今回野党がとりあえず150人規模にまとまることができました。政治は数ですから、数を背景にこれまで以上にできることがあると思います。今後どういうふうに菅政権と対峙していくのか、辻元さんなりの展望をきかせていただけますか。

辻元 3年前に立憲民主党が立ち上がったとき、議員は56名でした。それが150名になったのですから、相当大きな政党になりました。数は知恵も含みます。それぞれの専門性を持った委員が増えたことで、幅広い政策を出すことも可能になったし、財政的にも安定しました。私たちが政権をとったら、コロナの分科会などの議事録もきちんと取って、公文書管理庁を作って情報公開しますとか、原発ゼロ法案も可決してなど、やるべきことはいっぱいある。国会ではそうした政策を提案し議論したいと考えています。
 安倍政権下では、公文書を捨てたとか、改竄したとか、疑惑やスキャンダルがいっぱい出てきて、追及せざるを得なくなった。本当はそんなことにエネルギー使っているヒマなんかないのに、放っておくわけにもいかない。だから菅さんになって、やっとニュートラルに政策論議ができると思っていたんです。なのに今回の人事介入でしょう。安倍さんの時と同じじゃないか、自民党内の政権のたらい回しでは、結局何も変わらないことが証明されました。もはや政権交代しかないと、心の底から思いましたよ。

――政権交代するためには、どうするんですか?

辻元 やはり選挙協力です。共倒れにならないよう、他の野党と力を合わせ共闘する。そのためにはいくつかの柱になる共通の政策を作っていく。
 たとえば消費税をどうするかという問題について、枝野さんは2年限定でゼロにしてはどうかと発言しています。今、むこう3年くらい消費税ゼロにできる分のお金をすでにGO TO トラベルなどの事業でばらまいていますからね。それも一部与党の有力な議員の関係する業界に手厚くまいたりしている。そんなことをするより、限定的にでも消費税を2年間ゼロにしたほうが、公平に恩恵がいくわけです。消費税を減税することにより、手元にお金が残るので、給付を受けているのといっしょです。この消費税減税の政策で野党がどこまでまとまれるか、ひとつのポイントになります。
 それと原発ゼロ。それをしっかりと次のエネルギー政策のなかに位置づけることです。さらには地球温暖化の問題ですね。これはすべての問題の根源で、災害も感染症も温暖化を止めなければ、どうにもならない。
 あとはジェンダー平等など多様性の問題。こういう分かりやすいテーマを軸に選挙協力して、次の選挙で議席を増やしたいと思っています。

――古い話ですが、むかし野党側がシャドーキャビネット(影の内閣)を提案したことがありましたよね。今の与党のダメな大臣に代わって、こういうきちんとした専門家を大臣にしたら、という話ですけれど、いま自民党は人材不足で、安倍政権の時もめちゃくちゃな大臣ばっかりでしょう。パソコン触ったことのない人がIT担当だとか、法務大臣が夫婦で選挙違反して逮捕されたりとかね。

辻元 シャドーキャビネットというのも、政権交代したらこうなる、という、ひとつの「見える化」ですね。ただ、旧民主の人たちは民主党政権時代のことについて、すごくびくびくしているのよね。

――そんなに怯えることないのになあ。「コンクリートから人へ」とか、秀逸なコピーでしたよ。具体的な政策を出すことは大事ですが、それ以上に「人が見える」ことはすごく大切だと思う。たとえばデジタル庁には、台湾のオードリー・タンみたいな優秀な人に来てもらって、そうすればこういうことができるんだと、イメージできるようにするのはどうでしょう。

辻元 民間からでもいっしょにやれる人に入っていただくのもいいですね。それと大事なのは次のリーダーを育てること。私も土井さんに育てられて、国会で総理相手に論戦やらせてもらって知られるようになった。長妻さんも年金問題で注目を浴びて名をあげた。今もそうやって次のフレッシュな人を何人そろえられるかが鍵になります。

時代によばれるとき

――野党が世代交代するためには、フレッシュな人材や世代交代も必要ですし、ジェンダー平等も政策に掲げているのなら、それを党の人事できちんと示して欲しかったですね、辻元さんは、今回の代表選になぜ出なかったのでしょう。初の女性国対委員長としても実績を作ったわけですし、立民はなぜ選ばなかったのか……。ここは不満に思っている人も多いと思いますよ。

辻元 「時代に呼ばれるとき」というのが、政治家にはあるんですよ。今回、私は時代に呼ばれなかったとのだ思います。
 天の時、地の利、人の和という言葉があるけれど、それがそろったときに時代に呼ばれるんです。土井たか子さんもそうだったと思います。それ以外のときにじたばたしても、党にとってもいいことはない。自分で時代に呼ばれたと思ったら、やります。
 今回、菅さんもひょんなことで総裁になったでしょう。安倍さんはいろいろな疑惑があって、怖じ気づいたのだと思う。石破さんが総裁になったら、過去の悪事が暴かれる。岸田さんにしても、広島の河井夫妻の問題があるから安心できない。あるいは官僚がしゃべり出すかもしれない。だからどうしても疑惑に蓋をしてくれる人が必要だった。それが菅さんだったわけで、ある意味ではやっぱり菅さんも時代に呼ばれたんですよ。

――9月30日にベルギーの新政権が誕生したニュースを見ましたが、閣僚の半分が女性、しかも若い! ヨーロッパでは他の国も女性閣僚がたくさんいるのに、日本では立憲民主党も、執行部は男性議員が中心であり、失礼ですが正直がっかりしています。まだ日本はその時代ではないということなのかもしれませんが、次の影響力を持った野党のトップは絶対に女性になって欲しい。そして若い人を引きあげて新しい顔ぶれをそろえて欲しい。そうすれば国民は、待ってました!と支持するのではないでしょうか。

辻元 土井さんの時もそうでしたが、ほんとうに困らないと女性って呼ばれないんですよ。困ったときの女性頼みなのね。それと私の弱みは「大阪選出」だというところ。政治家って総合力が問われますから、自分がまとめている都道府県から何人当選させることができるかも大事なのです。でも前回の選挙では、大阪の小選挙区で当選した立民の議員は私だけでした。

――辻元さん、失礼ですけど、いくつになられました?

辻元 60歳、還暦です。ネズミ年で菅さんとは一回り違う。36歳で初当選して二回り議員をしたことになります。野党の女性議員としては私がいちばん古くなりました。与党では野田聖子さん。今回、彼女は自民党の幹事長代行になりました。おなじネズミ年で仲はいいんですよ。

――ヨーロッパの政治情勢を見ていて思うのですが、政権交代するためには、辻元さんのような経験を積んだ女性が中心になって、連立を組むのがいいのではないでしょうか。野党は単独では難しいでしょうから、公明党まで視野に入れた連立政権ができないものか、と夢想しています。
 アメリカ大統領選挙も民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利し、副大統領に初の女性で黒人、アジア系のカマラ・ハリス上院議員が就くことになります。バイデンさんの勝利宣言に先立ち行われたハリスさんのスピーチは、多くの人々の心を揺さぶりました。特に少女たちにとっては大きな希望となったはずです。
 いまやそういう時代が来ていると思いますよ。悪くなればなるほど、別の政治を求める声は高まる。辻元さんが時代に呼ばれるような「時」が来ることを望んでいます。

(聞き手/鈴木耕&塚田ひさこ 構成・写真/マガジン9)

つじもと・きよみ 1960年奈良県生まれ、大阪育ち。衆議院議員(大阪10区)。立憲民主党副代表、衆議院予算委員会筆頭理事。早稲田大学在学中にNGOを設立、世界60ヵ国と民間外交を進める。1996年、衆議院選挙にて初当選。連立政権で国土交通副大臣、災害ボランティア担当内閣総理大臣補佐官就任。2017年10月、立憲民主党の結党時より同党の国対委員長を2年間務めた。著書に『デマとデモクラシー』(イースト新書)、『いま、「政治の質」を変える』(岩波書店)など。