第15回:闇か、希望か―分岐点に立つ欧州グリーンディール(岸本聡子)

化石燃料産業が虎視眈々と狙うEGD

 「欧州グリーンディール」(EGD)が発表されて1年と少しがたった今、市民の立場から批判的な検証をしなくてはいけない数々の出来事が起こっている。化石燃料産業やアグロビジネスは虎視眈々とEGDを狙い、台無しにするどころか、利用して公的資金を分捕ろうと精力的なロビー活動を展開しているからだ。

 しかし、「EGDは、今までの環境政策と同様に企業群に利用されるだけ。炭素中立(CO2排出実質ゼロ)なんて意味なし」と、一蹴するには、あまりにも重要すぎる内容だ。何十年も気候変動問題に真剣に取り組まなかった結果、取り返しのつかない気候崩壊を回避するために残された時間はあと10年。崖っぷちの待ったなしの状況になってしまった。

 結論から言うと、市民や社会運動、フェミニスト、自治体やコミュニティーが積極的に関わらなかったら、EGDだけでなく、どの国のグリーン・ニューディール政策も、必要なレベルの変革を起こせないだろう。それどころか、化石燃料を基盤とする現在の政治経済システムを永続させてしまい、気候崩壊回避に間に合わなくなる。さらに同時進行する他の危機、格差や差別も悪化の一途をたどるだろう。大げさでなく私たちは分岐点に立っている。

 やや大仰な書き出しとなったが、どうして分岐点なのか考えていきたい。

 2019年12月、EGDが発表されたとき、化石燃料産業(石炭、石油、ガス)大手やそのロビー協会は、こぞって歓迎のコメントを出した。たとえば、ヨーロッパの70のガスインフラ会社を束ねる協会GIE(Gas Infrastructure Europe)による「温暖化ガスや汚染の削減と炭素中立を実現するEGDを全面的に支援します」などなどだ。企業群のEU政策への関与を監視するNGOは「化石燃料大手がEGDに愛のメッセージ。由々しき事態」(図1)と警告を鳴らした。

図1 化石燃料大手によるEGDの歓迎コメント(Corporate Europe Observatory制作)

 英ガーディアン紙は、世界の大手化石燃料企業20社だけで、世界の温暖化効果ガスの3分の1もの排出に“貢献”しているという驚くべき調査結果を発表した。気候崩壊回避のためには、今地下にある化石燃料をこれ以上できるだけ掘り出さないことが大原則(※)なので、化石燃料産業には、基本的に近い将来市場から退場してもらわなくてはいけない。

※大原則:気候科学者たちが2050年に気候上昇を2度以下に抑えるために、現在の埋蔵量の少なくとも1/3の石油、半分のガス、80%の石炭を地下に留めなくてはいけないと警告している

 現在、経済的にも政治的にも絶大で独占的な力を持つこの産業は、EGDの枠組みそのものに影響を及ぼして、膨大な利益のために燃料の採掘を続けようとしている。その中心戦略は、「二酸化炭素回収・貯留」といった、まだ証明もされていない技術や水素利用だ。後でもう少し詳しく述べるが、こういった作戦は典型的な「テクノフィックス(技術でなんでも解決できる)」で、化石燃料を掘り出すことを永続させるために使われる。

 EU政策決定の地・ブリュッセルでの生々しい様子を、EU政策監視で評判の高いNGO「Corporate Europe Observatory」(以下CEO)が伝えている。EGDが発表されたあと、政策を詰めるべき最初の100日間に、産業ロビー団体代表者がEGDのトップである欧州委員会副委員長や高官と151回(1週間に11回)も会合を持っていたのだ。その会合の議事録は「ない」けれども、多くが化石燃料産業関連のロビー団体であることはわかっている。

グリーン・ニューディールは運動から生まれた

 こうした状況にもかかわらず、どうしてEGDを含む「グリーン・ニューディール」が諦められないほど重要なのかも少し書きたい。

 まずグリーン・ニューディールは10年ほど前にさかんに言われた「グリーン・エコノミー」や「グリーン成長」とは根源的に違う(と思いたい)。グリーン成長は、供給過剰などで停滞した経済に、新しく「環境」という価値をつけることで投資を促し、新しい市場を作ろうという思考や行動のこと。しかし、過去10年間で世界の温室効果ガス排出量は増加し続けて、2018年には過去最高に達した(図2)。グリーン成長のように、市場に頼る解決法の無力さは明らかだ。

図2 世界の年間CO2排出量推移(1751年~2019年) Institute for European Environmental Policyより

 グリーン・ニューディールは、その由来が1930年代に米大統領のフランクリン・ルーズベルトが世界恐慌を克服するために行った一連の経済政策「ニューディール」にあるように、公共政策による公的資金の大投入である。公的資金、つまり私たち主権者の税金や借金なのだから、そのデザインや使い方は主権者である私たちが決めるべきもの。計画も実行も結果も、高い透明性と説明責任が求められる。

 国際的な環境ジャーナリストのナオミ・クラインは最新作『地球が燃えている』で1930年代のニューディールを振り返る。「10年間で1000万人以上の人が政府に直接雇用され、農村部のほとんどに初めて電気が通った。何十万もの新しいビルや建造物が建設され、23億本の樹木が植えられた。800か所の新たな州立公園が開発され、何十万もの芸術作品が公共事業として創作された」。市場や企業まかせでは到底実現できない国家的なプロジェクトである。彼女はグリーン・ニューディールを気候崩壊から人類を救う可能性があるものとして、ページを多く割いている。

 EGDでは、2050年までに炭素中立(CO2排出実質ゼロ)を全EU加盟国で実現し、社会と産業構造を「脱・低炭素」に転換するために、今後10年間のうちに官民で少なくとも1兆ユーロ(約120兆円)の投資を行うとしている。そのうちの半分はEUの予算(公的資金)からである。エネルギー転換や交通、産業政策のみならず、エコシステムと生物多様性の回復、持続可能な農と食料を含む包括的な内容である。計画には、2030年までに温室効果ガスを1990年比で55%削減することも含まれる。資金規模と包括的な目標から、歴史的な転換政策であるといえる。EU内でかつて見たことがない「元気が出る」政策だ。

 それもそのはず。この政策が打ち出されたのは、市民社会と運動の圧力の結果である。2018年、中高生による気候のための学校ストライキから始まった新しい世代(Z世代)の新しい社会運動が、決して無視できない世論を作り、EUの政策決定者を動かしたのは明らかである。

 この新しい世代の気候運動は、通りに出てデモをするだけでなく、他の社会運動と連携して、EGDの土台を作ったのだ。アメリカのサンライズ運動(※)が「私たちにはよい仕事と、生きていける未来を持つ権利がある」とグリーン・ニューディールを要求したとき、最初に支持を表明したのは、選挙に勝利して間もないアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)をはじめとする、少数の若き女性国会議員たちだった。イギリスでは若者の政治運動「モメンタム」の発案が、労働党グリーン・ニューディールへと成長した。ヨーロッパではEU改革を目指す「DiEM25」という運動が議論を喚起し、EUの決定より半年早く「ヨーロッパのグリーン・ニューディール」という提案を発表している。

※サンライズ運動:気候変動を食い止め、その過程で何百万もの雇用を生み出すことを目指す若者のムーブメント

「EU番犬ラジオ」が伝える危機感

 さて、EGDの危なっかしさに戻ろう。

 前述のEU政策監視NGO「CEO」と欧州投資銀行(EIB)を監視するNGO連合体「カウンター・バランス」は、共同で「EU番犬ラジオ(EU Watchdog Radio)」というポッドキャストシリーズを発信している。最新回は第16回であるが、これまでのうち9回もがEGDに関連している。このシリーズは秀逸だ。EU政治の現場も政策もあまりにも煩雑で、普通の人にはその内実は見えてこないが、CEOやカウンター・バランスのリサーチャーが、現在進行形の議論の一番核心的な部分を調査ジャーナリズムの視点でわかりやすく伝えてくれる。各回は詳細な調査に基づいていて、50ページのレポートを読まずとも、35分のポッドキャストで論点がつかめるのはありがたい!

 ちなみに、EIBとはEU加盟国共同の金融機関で、世界最大の公的銀行である。EGDでも、投資銀行として主要な役割を果たす。EGD発表直前の2019年11月、EIBは重要な決定を下した。パリ協定の合意にしたがって、2020年末までに化石燃料関係のプロジェクトへのファイナンスをやめて、「ヨーロッパ気候銀行」として国際的なリーダーシップをとると発表。これもまたZ世代の新しい気候運動なしにはあり得なかった変化だ。

 さて、このシリーズの中から4つを選りすぐって、化石燃料業界、アグロビジネス、金融界にハイジャックされているEGNの危機感をお伝えしたい。

水素(誇大妄想)vs 気候

 いきなり水素である。

 水素エネルギーは、燃焼時に二酸化炭素を出さない「クリーンなエネルギー」であると言われる。その水素エネルギーをEGDの主役に祭り上げようと、燃料産業(特にガス)は膨大なエネルギーを費やし、それが功を成している。

 化石燃料産業は新たに水素ロビー集団を形成し、EUの意思決定に影響を与えようと、年間5860万ユーロ(約74億円)をロビー活動に投入している。情報公開請求によって明らかになったのは、水素ロビー集団が10カ月の間に163回も、EGDの最高責任者を含めた高官と会合を持っていたことだ。これに対してNGOとの会合は37回。水素ロビーの戦略は、まず水素を「クリーン」なエネルギーであると説得すること。そしてクリーンな故にEGDや復興関連予算からの補助金や投資を受ける資格があると主張するわけだ。

 では、水素は本当にクリーンなエネルギーか? 燃焼時に二酸化炭素は出さないが、水素は石炭、褐炭、天然ガスなどの化石燃料から製造するのが現在の主流である。リサーチャーのベレンは言う。

 「『水素レインボー』という言葉があります。水素がどのように製造されるかによる違いです。化石燃料からの電力を使って製造されたものは、主にグレー水素(天然ガス)、ブラック水素(石炭)、ブラウン水素(褐炭)と言われます。そして、再生可能エネルギーによる電力を使って製造されたものが、グリーン水素。その中間がブルー水素(※)です。再生可能エネルギーから作られるグリーン水素は、なんと全体の0.1%のみ。ブルー水素でさえ、たった0.7%。実に96%以上は化石燃料由来で、製造時にCO2を排出する水素だと言われているのです」

※化石燃料から製造する水素を「クリーン」とすることには当然ながら反対があり、その妥協として「ブルー水素」なる分類ができた。化石燃料からの電力で製造されるが、発電時に発生するCO2を炭素貯留テクノロジー(CCS)などによって地中に保存し、大気中への放出を防ぐ。ブルー水素にとどまらず、炭素中立を達成するためにCCSに過分に頼るテクノフィックスはEGDの大きな懸念の一つ。この技術は実用化されていない

 天然ガスから1kgの水素を製造する際には、10kgのCO2が排出される。石炭を利用し製造する際には、その2倍近いCO2が排出される。それにもかかわらず、化石燃料産業が水素を「解決策」に仕立て上げたい理由は明確だ。従来通り、化石燃料を採掘し続けるモデルがEGDの名のもとでよしとされれば、研究開発のための公的資金にもアクセスできる。

 さらに心配なことは、ガス産業を中心に約1000社が構成する「クリーン水素連合」なるロビー集団が形成され、すでにEGDの政策議論の運転席に座っていることだ。「クリーン水素連合」は、水素実用化のために必要な投資額を2030年までに4300億ユーロ(約55兆円)であると算出しており、驚くべきことに現在のところ欧州委員会もその提案に歩調を合わせている。つまり膨大なEGDの公的資金が、研究開発などの名のもとに、化石燃料業界が牛耳るクリーンから程遠い水素開発に投資される道筋が出来上がりつつある(※)。

※詳しくはCEOのレポート(英語)

ブラック・ロックンロール

 この回は、世界で一番パワフルな投資会社ブラックロックにスポットライトを当てる。ブラックロックとは7.8兆億ドルを運用する世界最大の資産運用会社である。873億ドルの化石燃料(石炭、ガス、石油)会社関連の金融資産を持ち、BP、シェル、エクソンモービルなどの株主であり、 化石燃料産業への最大級の投資家だ。

 昨年11月、欧州委員会(EC)は「金融・銀行の投資活動を環境的に持続可能に」するためのアドバイスを求めて、このブラックロックとコンサルタント契約を結んだ。ブラックロックは大銀行の主要な株主でもある。市民社会だけでなく、EUオンブズマンもびっくりの行動に、「明らかな利益相反であるという批判をECは考慮していない」とECは批判を受けた

 どうしてこの話がEGDと深く関係しているかというと、EGDの柱は脱炭素化のために巨額の投資をすることだからだ。「では、何に投資するのか」が問題になる。そこで現在、何をもって脱炭素化社会に貢献する持続可能な投資とするのかというガイドラインが話し合われている。たとえば、もし前述の水素開発が「脱炭素化社会のための鍵」だとされれば、EGDの元で「環境によい投資」として正当化されてしまうだろう。

 このとても大切な指標づくりに、ブラックロックを関わらせることは、原子力産業に脱原発のためのグランドデザインを頼むようなものだ。もしくは川を渡ろうとするウサギが、川で待ち構えるワニに「安全に渡る方法を教えて」と聞くようなもの。気候変動の主犯格であるブラックロックに、気候崩壊回避の舞台でロックンロールさせてどうする、という皮肉がこの回のタイトルである。

共通農業政策(CAP)vs 農場から食卓まで戦略(Farm2Fork)

 この回からは、農業食料問題にかかわる研究者や活動家たちの本当に激しい怒りと悲愴が伝わる。昨年10月、EUは農業共通政策(CAP)改定の重要な局面にあった。この先7年に及ぶCAPの予算は約4000億ユーロと巨額で、なんとEU予算全体の3分の1に当たる。

 歴史的にCAPの大規模な農業補助金は、ヨーロッパ全体の農業を底上げし、国際競争力をつけ、生産を拡大し、輸出を伸ばしてきた。農業補助金の約80%が、農家全体の20%でしかない大規模農業企業や大土地所有者に払われる仕組みで、集約的な農業を促進してきた背景がある。実のところ、大規模化したヨーロッパの農業産業は、化石燃料産業に続く2番手の気候変動問題の貢献者である。過去40年にヨーロッパの農地を飛来する野鳥の57%が、大規模農業が原因でいなくなったと報告されている。

 EGDでも、「農場から食卓まで戦略」と「生物多様性戦略」が中核戦略として策定済みで、公正、健康的、持続可能で総合的な農業と食のシステムを目指している。その中には、2030年までに殺虫剤の使用を50%削減、化学肥料の使用を少なくとも20%削減、2030年までに農地の25%を有機農地に転換するといった具体的な政策が書かれている。

 しかし、欧州議会は、CAP改定の機会がありながら、それをせずに集約的農業に巨大な補助金を出し続ける政策を、この先の7年も踏襲することを決めてしまったのだ。そこには、既得権益を守ろうとする大規模農業企業や大土地所有者などからの影響がある。

 気候崩壊を避けるための重要な年となる2030年まで、あと10年。持続可能な農業への転換を今すぐしなくてはいけないのに、そのうちの貴重な7年が失われたと、「未来のための金曜日」の若きリーダーたちの怒りは頂点に達した。当然ながら、現行のCAPはEGDと完全に整合を欠いていると激しく批判されている

EUと化石燃料の熱愛関係

 悲しい話が続いて申し訳ない。しかしEGDを取り巻く現実を理解せず、書面上でだけ野心的な政策を称賛するわけにはいかない。EGDに限ったことではない。EU機構そのものが,化石燃料、化学アグロビジネス、金融、ビック・テックなどに包囲されている現実なのだ。というわけで、極めつけは、EU加盟国それぞれの化石燃料に対する補助金の問題だ。

 イギリスを含むEU加盟30か国で、化石燃料に関連する様々な形の補助金の合計が年間約1370 億ユーロ(約17兆円)にものぼるという調査結果が発表されている。ドイツ一国だけでも約370 億ユーロ。数字が大きすぎてぴんと来ないが、EU全体の年間予算が約1550 億ユーロ(約20兆円)であることを考えると、この補助金の規模の大きさに愕然とする。

 補助金とひと言で言っても、いろいろな形がある。まずは航空、船舶を含む化石燃料の利用や電力生産の税制優遇措置。他の重工業、運送業、農業などが使用する化石燃料の税減免措置や優遇も含まれる。またディーゼルやガソリン消費の時点で、消費者に「恩恵」をもたらすために価格を下げる補助金も入る。ベルギーのように、民間企業が福利厚生の一部として従業員に与えるカンパニーカー(個人負担なく公私で使える車)や、その燃料、保険が税金控除の対象になるという施策も入る(これによってコスト感覚なしに一家に2台も3台も車をもつ世帯がベルギーにはたくさんある)。

 G20の20カ国を対象にした調査でも、化石燃料補助金は年間4440億ドルという調査結果であった。この金額は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーへの補助金の約4倍であり、ますます私たちはどこに向かっているのか、とよろめく思いである。世界中のNGOや社会運動は真っ先にこの化石燃料補助金をやめること、そして膨大なお金を脱炭素化のための公正な移行ージャスト・トランジッションー途上国への気候対策基金、生態系の回復に使うことを要求している。

 このほかにも「EU番犬ラジオ」にはEGDに関連する回があり、衝撃的な事実が調査によって明らかになっている。気候変動と闘うということが、今の文明社会を支える政治・経済、権力構造すべてを問う問題だという事実を直視させられる。同時に、調査ジャーナリズムの重要性も痛感する。産業界やその周辺の宣伝を信じて、「水素や電気自動車がすべてを解決してくれる」と信じることは楽で、都合がよく、心地がいい。しかし、科学や事実に基づいた情報がなければ、正しい解決を考えることもできないし、解決のために力を合わせることもできない。

残された時間は、あと10年

 冒頭の結論に戻る。EGDを政治家、官僚機構に任せていれば、100%の確率で強烈で強力な既得権益や産業界にハイジャックされる。だからEGDは政策である前に、社会運動であるととらえなくてはいけない。市民運動、フェミニスト、自治体やコミュニティーが積極的に関わらなかったら、EUだけでなくどこの国のグリーン・ニューディールも、化石燃料を基盤とする現在の政治経済システムを永続させ続けて終わってしまう。そうなれば、Z世代やZ世代の子どもたちは、文字通り生存の危機に直面するだろう。第一線の気候科学者たちは「2030年までに社会システムの抜本的な変化を起こさなくては、2100年の世界は、今の状態から見る影もない〈unrecognizable〉状況になる」と警告しているのだ。

 最後に、次回以降の連載に希望をもってつなげたい。

 各地で「フェミニスト・グリーン・ニューディール」が芽生えている。インドの開発経済学者ジャヤティ・ゴーシュ(she/her)は、こう提唱する。

 「世界規模で、グリーンだけでなくレッド、ブルー、パープルのニューディールが必要です。グリーンは環境と生態系の崩壊を止め、生産と消費を変更し、温暖化効果ガスの排出を劇的に減らすこと。レッドは極端なまでになった富の格差を是正すること。ブルーは汚染されてしまった海や淡水を回復すること。パープルは、労働者階級の女性を中心とするエッセンシャル・ケアワークを経済価値システムの中心にすることです」

 これが、私たちが立っている分岐点である。

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!

       

岸本聡子
きしもと・さとこ:環境NGO A SEED JAPANを経て、2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトの研究員。水(道)の商品化、私営化に対抗し、公営水道サービスの改革と民主化のための政策研究、キャンペーン、支援活動をする。近年は公共サービスの再公営化の調査、アドボカシー活動に力を入れる。著書に『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと 』(集英社新書)