仕事と人権活動と育児を、いかにして両立させるか 講師:海渡双葉氏

2013年12月6日に、多くの反対の声を押し切って成立した秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)。この年、弁護士登録をした海渡双葉さんは秘密保護法対策弁護団の結成に参加したことを出発点として、労働事件などの弁護士業務のほか、人権活動にも取り組んでいます。現在は、法律家団体・弁護士会の委員会活動に関わり、さらに2年前に出産、育児の真最中でもあります。今回は、秘密保護法の問題点の解説と共に、仕事と人権活動と育児の両立についてお話しいただきました。[2021年1月16日@渋谷本校]

人権活動に取り組む出発点となった秘密保護法

 私は2013年に弁護士登録をし、横浜合同法律事務所という1969年創立の事務所に入所して今に至っています。
 法律事務所にはいろいろなタイプの事務所がありますが、横浜合同法律事務所はさまざまな人権活動に取り組んでいこうという方針のもと、所属弁護士は、自由法曹団、青年法律家協会、労働弁護団といった法律家団体や市民団体の活動にも積極的に携わっています。
 私の場合、秘密保護法対策弁護団に参加したことが人権活動に取り組む出発点となりました。2013年、まだ司法修習生だったときに国会で秘密保護法案が審議されていました。法案の内容を見ると、知る権利や人権を脅かしかねない法案で、これが通ってしまってはまずいという思いから、審議を傍聴したり、院内集会のお手伝いをしたり、デモで声を上げたり、連日のように国会に通っていました。
 そうした活動を通じて、反対運動が熱く盛り上がっているのを私は肌身で感じていました。ところが、秘密保護法は12月6日に成立してしまいます。強行採決が行われた国会を傍聴していて、目の前でこんな形で法案が通ってしまうのかと衝撃を受けました。
 成立後も、反対運動や反対集会は全国的に広がり続けていました。それに関わってきた弁護士たちから「弁護団を立ち上げよう」という声が上がり、2014年3月に秘密保護法対策弁護団が結成されました。結成の目的の一つは、法律が施行されて、現実に逮捕、起訴される人が出る前にあらかじめ弁護団を組織し、効果的な弁護ができるようにしておくことです。私は立ち上げの当初から弁護団の事務局の一員として動いていまして、現在は事務局次長を務めています。

秘密保護法の問題点とは

 秘密保護法には多くの問題点があります。まず指定の対象になる「特定秘密」の範囲が広く、不明確であるという点。また秘密を漏らす行為だけではなく、知ろうとする取得行為も処罰の対象になります。たとえばジャーナリストや市民団体の人たちが安全保障の問題について調べようとしたら、知らずに特定秘密に触れて処罰される可能性があるわけです。未遂の場合も処罰されます。さらには特定秘密の漏えい行為を共謀すること、教唆すること、扇動することも処罰される。そういった意味では、この法律は報道機関や市民団体に対して、萎縮効果がかなり高いといわれています。
 それから特定秘密を取り扱う人、主に公務員ですが、その人たちを調査する適性評価制度というものがあります。これは本人だけでなく家族にも調査が及び、お酒を飲むときの節度から、どういう病歴があるかとか、配偶者や同居人の国籍とか、プライバシーの侵害といえるようなセンシティブな情報が調べられます。その結果、自己のセンシティブな情報まで行政に開示しない限り、職場での評価や昇進にも影響が生じる場合があるのではないかと考えられます。
 このように問題の多い法律であるため、日弁連(日本弁護士連合会)をはじめ法律家団体は、運用にあたって独立した第三者機関による監視が必要だと訴えてきました。政府は現在、チェックする機関として三つの組織を設けているのですが、いずれも十分な役割を果たしているとはいえません。
 一つ目は「独立公文書管理監」。これは政府の行政内部の組織であるため、年に一度上げている報告書を読んでも、独立性が保たれているとはいえませんし、実効性のある監視ができる第三者機関とはいえません。
 二つ目は「情報保全諮問会議」。これは運用基準について、情報公開、公文書管理、報道、法律などを専門とする有識者から意見を聞くための会議にすぎず、踏み込んだ検証ができる機関ではありません。これもまた年に一度会議録が上がっていますが、出席者の発言も毎年同じような内容で、形式化しているのが現状です。
 三つ目は、衆参両院に設置されている「情報監視審査会」。これは委員に選任された議員個人の中には、頑張って活動をしている人もいます。しかし、与党の委員のほうが数としては多いので、野党の委員が「こういう特定秘密について調べたい」と動議を上げても、否決されてしまうということも起こっています。したがって、もう少し委員の権限を強化するなどの措置が必要なのではないかと思います。

国家機密と知る権利の関係

 民主主義がしっかりと機能するためには、誰もが政策に関する情報にアクセスできることが大前提です。しかし、外交、安全保障、防衛といった特定秘密に数多く指定されている政策について、それらの情報にタッチしてはいけないということになったら、私たちが政策の是非を判断するための真実が明らかにされない可能性があるわけです。
 政府には、たしかに国家秘密として指定しなければならない情報もあるかもしれません。ただし、国家機密としながら実際には政府にとって都合の悪い真実を隠している場合もあります。ですから、国家機密と知る権利のバランスをどうとるかは重要な課題です。
 では、国家機密と知る権利をどのようにバランスをとり、調整していけばよいのかと考えたときに、ツワネ原則(国家安全保障と情報への権利に関する国際原則)があります。
 ツワネ原則は、国家の安全保障と政府の情報に市民がアクセスする権利の保障を両立するために、世界70カ国の専門家による議論を経て、実務的なガイドラインとして2013年に南アフリカ共和国のツワネで公表されました。
 ツワネ原則では、秘密指定をしてはいけない情報に、政府による人権法違反や人道法違反、大量破壊兵器の保有、環境破壊などをあげています。それから、市民が秘密解除を請求する手続きが明確に定められるべきだとしています。
 またツワネ原則には、政府の情報は必要な期間のみに限定して秘密指定されるべきであるとも書かれています。日本の秘密保護法における秘密指定の状況はどうなっているかというと、指定件数は年々増えています。件数が増え続けている一方、問題だと思うのは、保存期間1年未満で大量の特定秘密文書が廃棄されていることです。2018年に提出された衆議院・情報監視審査会の報告書によると、2016年中に廃棄された特定秘密文書は44万件にものぼります。国家の重要な事実だからこそ秘密指定し、ある程度の年月が経てば、市民の前に開示して歴史の判断を仰ぐべきです。それなのに、わずか1年未満で大量の文書が廃棄されるということが起きているわけです。
 秘密保護法の問題は、公文書管理の問題とも密接に関わっています。秘密指定の有効期間が30年以下の文書は期間が満了になったら、それを指定した行政機関が「歴史公文書等」に該当するかどうかを判断し、該当しない場合は内閣総理大臣の同意を得て、廃棄するという建て付けになっています。しかし、それでは行政機関が明らかにしたくない文書は「歴史公文書等」ではないとして、恣意的に闇から闇へと葬ることもできてしまいます。秘密指定にした文書はすべて、有効期間満了後は国立公文書館などに移管するべきだと思います。この数年、公文書管理については国会でもずいぶん取り上げられてきましたが、秘密保護法のもとで秘密指定された文書のずさんな管理のあり方は、民主主義国家として重大な問題です。

仕事と人権活動は地続き

 私は秘密保護法対策弁護団に加わることで、いろいろな市民団体とのネットワークが広がりました。秘密保護法の成立後も、安保関連法制、通信傍受法改悪、共謀罪といった人権を揺るがす法案が次々と出てきています。私はつながりのできた市民団体から、このような法案の問題点について勉強会で話してほしいと依頼があれば、基本的に断らずにお引き受けしています。法的にどういう問題があるのかをお話しして発信することは、弁護士だからこそできる活動だと思うからです。
 今、私は日弁連や神奈川県弁護士会の委員会のほか、市民団体の活動にも参加しています。これから弁護士になる方にも、弁護士になったあかつきには弁護士会の委員会活動などにはぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思っています。弁護士会にはいろいろな分野の委員会があって、政府の法案や政策に対して意見書を出すこともできます。依頼者のために働く弁護士業務ももちろんやりがいがありますが、意見書や政策提言などを出すことができるのは委員会ならではの活動です。
 とはいっても、弁護士会の活動や人権活動に関わると、弁護士としての仕事と両立できるのだろうかと思われるかもしれません。弁護士の中には、市民団体やNGOを立ち上げたり、弁護士会の会務をたくさん引き受けて多忙を極めている人もいます。ですが、そうした活動が仕事に結びついていくこともよくあります。
 私は、仕事と人権活動は地続きだと考えています。依頼者の問題を解決することが、人権を守り社会を変えていくことにもなる例は多いのです。私が所属している事務所は、労働事件を多く扱っていますが、労働事件にはいろいろな事件があって、不当解雇、労働災害、残業代の不払い、パワハラ、セクハラ、マタハラなどのハラスメントに関する案件もあります。それらの労働事件を一つ一つ解決することは、ひいてはみんなが普通に働いて、心身の健康を崩したりせず、健全に生活できることにつながる、社会を良くすることにもつながっているのではないかと思います。
 具体的な事例をあげると、私はセクハラ関係の事件を続けて受けていた時期がありました。たとえば人事を担当する男性の上司が、非正規雇用の女性に「正規社員になれるよ」と言って、セクハラ行為におよぶ。このような例は多く、被害者の女性たちが必ず言うのは、「次の被害者を生まないようにしてほしい」ということです。私もその通りだと思いますし、自分の事件が解決すればそれでいいというのではなく、これは日本の会社の体質を変える運動でもあるなと思っています。
 それから弁護団事件の仕事では、加計学園情報公開弁護団にも加わっています。加計学園の獣医学部の新設をめぐる議事録の開示を求める訴訟で、元文部科学事務次官の前川喜平さんの証人尋問を申請したのですが、東京地裁は却下しました。そこで私たち原告側弁護団は「仮想証人尋問」を昨年11月に開催しました。裁判所が前川さんの尋問をやらせてくれないなら、自分たちでやろうということで、弁護団メンバーが裁判官、原告側弁護士、被告側の指定代理人の役を演じて、前川さんに質問を投げかけました。前代未聞のやり方ですが、それを録画して証拠提出しました。これも行政文書の情報開示に関わる社会的な案件であり、弁護士業務と社会運動が地続きであると実感する仕事です。

オンライン化で働き方の選択肢が広がる

 2019年に私は出産をしまして、現在、仕事と人権活動と育児もしながら慌ただしい毎日を送っています。
 仕事と育児の両立に関しては、産休育休をとる場合はやはり職場の協力が不可欠です。所属している事務所の規模や方針などによって、産休育休をどれくらいとれるかは異なりますので、事前に話し合っておくことが重要です。私は産前産後は、裁判の準備書面の作成はやりましたが、さすがに裁判所への出頭は無理なので、期日だけは同僚に復代理人として行ってもらいました。
 弁護士は個人事業主的なところがありますから、仕事のやり方も比較的自由度が高いといえます。ですから、男女問わず育休を長めにとっている人もいますし、周囲の協力を仰ぎながらの仕事と育児の両立は可能だと思います。
 ただ、私の場合は、想定外の事態が起こりました。産休育休を経て、昨年の4月に職場復帰をする予定だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出たのです。子どもの保育園も登園自粛要請という形で行けなくなり、オンラインで会議や打ち合わせをするなど在宅で仕事をしなければならなくなりました。
 でも、これも万事塞翁が馬ではないですけれど、コロナ禍の中で私たちの業務もオンライン化が急速に進みました。今、通常の会議はほとんどオンラインで行っていますし、裁判所も電話会議システムやウェブ会議システムを取り入れています。そのおかげで私は、弁護士会の委員会や弁護団事件の夜7時からの会議などにも出席できています。小さい子どもがいると、夜7時からの会議に出向くのは難しいですが、オンラインなら家から会議に参加できるわけです。
 仕事と人権活動は多くの弁護士の方々が両立させていますが、そこに育児も入ってくると、正直に言って、すべてを百パーセント完璧にこなすことはなかなか難しいです。しかし、コロナ禍によってオンライン業務が普及したことで、弁護士としての働き方や、仕事と人権活動と育児のバランスのとり方の選択肢が増えたなと感じています。
 私は、弁護士をめざしている方は、自分はどういう弁護士になりたいのかという視点が重要だと考えています。めざす方向は人それぞれ違っても、弁護士法の第1条「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」を意識しながら、可能性を広げていってほしいと思います。

横浜合同法律事務所所属弁護士。2011年、早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年、司法試験合格。2013年、弁護士登録(神奈川県弁護士会)。2014年、秘密保護法対策弁護団・事務局次長。2018年、神奈川県弁護士会刑事法制委員会・副委員長。2019年、出産。2020年、育休産休を経て職場復帰。