「従軍慰安婦」の言葉は「誤解を招く」のか(西村リユ)

 4月27日の夜、こんなニュースが流れてきました。
「政府 “『慰安婦』という用語を用いることが適切” 答弁書決定」
 
 日本維新の会の馬場伸幸議員が、〈「従軍慰安婦」という用語は軍により強制連行されたかのようなイメージがあって、政府が用いるには不適切だ〉という質問主意書を提出。これに対して政府が〈「従軍慰安婦」という言葉は誤解を招くおそれがあるから単に「慰安婦」という用語を用いるのが適切であると考えている〉という答弁書を閣議決定したというものです。
 現時点では、まだ一部のメディアでしか報道を見かけず、あまり詳しい内容が分からないのですが、ここに書かれているとおりであるとすれば、あまりにも愚かな行為と言わざるを得ないと思います。
 「従軍慰安婦」という呼称に対してはもともといろんな意見があり(たとえば女性たちが「従軍カメラマン」同様、軍に自ら同行したかのように取れるという批判など)、この用語が絶対というわけではありません(マガジン9でもしばしば〈日本軍「慰安婦」〉などの言葉を使っています)。
 しかし、政府が「従軍慰安婦」という言葉を使わない理由としている「誤解を招くおそれ」とは、いったい何に対する「誤解」なのでしょうか。戦時中、多くの女性たちが日本軍の「慰安所」で「慰安婦」として強制的に働かされていたこと、そこに日本軍の「直接あるいは間接」の関与があったことは、日本政府による調査の結果を受けて出された「河野談話」をはじめ、これまでの日本政府が一貫して認めてきた事実ではなかったのでしょうか。歴史学者の林博史先生が、2019年のあいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」での「少女像」問題で、「日本政府は完全に歴史修正主義に舵を切った」とおっしゃっていたことが思い出されます。
 NHKの報道では触れられていませんが、読売新聞の記事によればこの答弁書は、2014年に朝日新聞が「従軍慰安婦」について報じたある記事を、記事中の証言に虚偽があったとして取り消した経緯を踏まえて出されたものだといいます。しかし、当然ながら一つの記事、一つの証言が取り消されただけで、「慰安婦」の存在や日本軍の関与そのものが「なかったこと」になるはずもありません。膨大な資料と向き合い、証言に耳を傾けて、検証を重ねてきた研究者の方たちに対しても、非常に失礼な物言いだと思います。
 読売の記事ではさらに、文部科学省が「今回の閣議決定は今後の(教科書)検定に反映される」との考えを示した、とも書かれています。本当だとしたら、あまりにも恥ずかしく、恐ろしい。子どもたちに、過去の自国の過ちを伝えることもしない政府とは、いったい何なのでしょうか。
 少し前に、森永卓郎さんが「後進国に転落する日本」というコラムを書いてくださっていましたが、日本はコロナ対策や経済だけではなく歴史認識の面でも「後進国」になってしまっているのではないか。そんな気がしてなりません。

 下記に日本軍「慰安婦」問題に関連するインタビュー記事をいくつか挙げましたので、未読の方はぜひお読みください。今後も、この問題については取り上げていければと思っています。(西村リユ)

※来週は連休のためマガジン9更新はお休みです。次回更新は5月12日(水)となります。

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林博史さんに聞いた(その1):「少女像」問題で、日本政府は完全に「歴史修正主義」に舵を切った

永田浩三さんに聞いた:NHK「番組改変」と「慰安婦」問題の今

クォン・ユンドクさんに聞いた:日本軍「慰安婦」にされた女性の物語 『花ばぁば』で伝えたかったこと

ミキ・デザキさんに聞いた:「慰安婦問題」論争の渦中へ。「いいね!」ばかりの心地いい場所から一歩を踏み出そう

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