【緊急インタビュー 福島みずほさんに聞く】私たちの自由と人権を奪いかねない「重要土地規制法案」の問題点

国会で「重要土地規制法案(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案)」の審議が進んでいます。政府・与党は今国会での成立をめざしていますが、全国の基地問題、原発問題などに関わる市民グループや法律家団体を中心に反対の声が広がっています。「重要土地規制法案」とはどんな法案なのでしょうか? 会期末が迫る中、この法案の問題点と危険性を発信してきた参議院議員の福島みずほさんにお話を伺いました。

立法事実がないスカスカの法案

 「重要土地規制法案」は、安全保障上の重要な施設、たとえば基地や原発などの周辺区域で、土地取引や利用状況を調査し、規制しようとする法案です。ひと言でいうとスカスカの法案で、どこが対象区域に当たるのか、どんな施設の周辺が調査対象になるのか、どのような行為が規制対象になるのか、内容も定義もあいまいです。
 また、この法律を必要とする立法事実もありません。政府は、以前に自衛隊基地周辺の土地を外国の企業が買収した例をあげて、基地機能が阻害されることを防止するのが目的だとしていますが、そのような事実がないことはすでに明らかになっています。2020年2月25日の衆議院予算委員会第8分科会で、防衛省が全国の防衛施設周辺の土地を調査した結果、「(外国資本による)土地の所有によって自衛隊の運用等に支障が起きているということは確認をされておりません」と述べているのです。そもそも政府自身が立法事実を否定しているわけですね。
 5月の衆議院の本会議でも、小此木八郎・領土問題担当大臣は立法事実について質問されて、安全保障上のリスクがあるため「答弁はできない」と言っています。政府は、この法律がなぜ必要なのか、国会の審議の中でちゃんと説明していないのです。

どこが調査と規制の対象になるのか?

 「重要土地規制法案」が調査と規制の対象としている区域は、自衛隊基地、米軍基地、海上保安庁の施設といった「重要施設」の周囲1キロの範囲内です。国境離島等もこれに含まれます。これらの区域を「注視区域」として告示で個別指定し、その中でも特に重要な施設の周辺は「特別注視区域」として、土地や建物の売買をする場合は氏名、住所、利用目的などの届け出を義務づけています。
 そのほか「機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められる」重要インフラも、「生活関連施設」として調査と規制の対象になります。原発など原子力関連施設、自衛隊が使用する民間空港は、これに当たることが明らかになっています。
 他に何が重要インフラにあたるかは政令で定められるとなっており、将来的には火力発電所、放送局、鉄道なども指定される可能性があります。つまり法律が成立したら、どのような施設が調査・規制対象として追加されるかは白紙委任であって、政府の恣意的な解釈でどんどん広がっていくおそれがあるのです。
 また現在、自衛隊基地、米軍基地、原発は全国にあります。たとえば基地がある横田、厚木、横須賀でも、周囲1キロ以内の「注視区域」には住宅が多く、そこに住んでいたらいつでも調査が入るということです。
 とりわけ米軍基地が集中している沖縄への影響は大きいと思います。普天間、嘉手納の基地などは市街地の中にあり、宮古島、石垣島、与那国島などの離島では自衛隊の施設が造られています。沖縄は今でも危険な基地の重圧に苦しんでいるのに、多くの県民が調査と監視の対象になってしまいます。

実際にどんな調査がおこなわれるのか?

 具体的にはどのような調査がおこなわれるのかというと、調査の対象になるのは「土地及び建物の所有者、賃借人等」です。この「等」というのが問題で、土地や建物の所有者や、土地や建物を借りている人、利害関係人にとどまらず、「注視区域」に出入りしている人など際限なく拡大していく可能性があります。
 調査の事項は「所有者等の氏名、住所、国籍等」「利用状況」となっています。そして調査の手法は「現地・現況調査」「不動産登記簿、住民基本台帳等の公簿収集」と定めています。ということは、基地や原発などから1キロ以内の区域に住んでいれば、氏名や住所、国籍、土地や建物をどのように利用しているかを調べられ、帳簿も見られ、聞き込み調査もおこなわれる可能性があるわけです。
 さらに問題なのは、「所有者等からの報告徴収」が求められることです。法案には、「内閣総理大臣は(略)情報の提供を求めた結果、土地等利用状況調査のためなお必要があると認めるときは、注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に対し、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができる」と書いてあります。
 たとえば基地の近くに住んでいて何らかの市民運動をしている人が調査を受けて、「なお調べる必要がある」ということになれば、「あなたの家にはいろいろな人たちが集まってときどき会合をしているようだけれど、どういう人が来ているんですか」などと聞かれて「報告」させられるなんていうことも起こり得ます。
 そうなれば人間関係や地域の分断をまねく危険性もあります。住民たちがそれぞれに「報告」を強いられることで、旧東ドイツの秘密警察シュタージがやったような市民の相互監視にもつながりかねません。
 この法案では、調査をして「重要施設の機能」や「離島機能」を「阻害する行為に供し、又は供する明らかなおそれ」があるときには中止の勧告をし、さらに命令を出し、中止命令に従わなければ2年以下の懲役、または200万円以下の罰金という刑事罰も適用されます。だけど「機能を阻害する明らかなおそれって何?」と思いませんか? 「機能」も「阻害する行為」も何を指すか条文には書かれておらず、定義があいまいで、政府の解釈によって何だって「おそれ」があるとみなされてしまいます。
 沖縄をはじめ全国の基地の周囲では、爆音訴訟(基地からの騒音に対し、損害賠償や飛行差し止めなどを求める訴訟)なども続いています。原告の住民は、上空を飛んでいる米軍機や自衛隊機を常にウォッチしています。抗議集会を開くこともしています。そうした行為も「怪しい」と言われるかもしれません。
 また、原発の反対運動も、調査と規制の対象になり得ると思われます。原発やその建設予定地の周辺には、大間原発建設地近くの「あさこハウス」のように土地を売らずにがんばっているところや、反対運動とか監視活動の拠点となる団結小屋もあります。
 懸念するのは、それらの活動が「機能を阻害する明らかなおそれ」があるとされて、中止の勧告や命令を受け、そこに住み続けるのが難しくなることもあり得るということです。法案では、その場合は国が土地を買い取る義務があるとしています。つまり土地を売るしかない状況に追い込まれて、事実上の土地収用が起きることも考えられるのです。

ほんとうのねらいは市民の監視?

 最初にお話ししたように、政府は「重要土地規制法案」は外国資本が基地などの施設の周辺の土地を取得して、その機能を阻害することを防止するのが目的だとしていますが、そのような立法事実はないので、本来の目的は市民の監視ではないかと思います。
 基地などの「注視区域」の「現地・現況調査」は、おそらく自衛隊の情報保全隊や公安警察が担うのではないかといわれています。情報保全隊はかつて市民運動を監視し名簿をつくったり、個人の写真を撮ったりしていたことが国会で問題になりました。
 しかし、この法律が成立すれば、法にのっとって大手を振って調べられるわけです。基地や原発から1キロ以内に住んでいて、反対運動や市民運動にちょっと関わったことがあるというだけで、ある日自衛官が家にやって来て「調査をしていまして、あなたのところでよく集会をやっているようですが、話を聞かせてください」と言われる。それだけで十分な萎縮効果があるでしょう。
 私は、菅内閣のキーワードは「監視・弾圧・排除」だと思っています。「重要土地規制法案」の審議では、調査で収集した情報を公安や内閣情報調査室と共有するかどうかを聞かれ、小此木大臣は否定していません。菅内閣がめざしているのは、内閣にあらゆる情報を集め、監視して、内閣総理大臣に権限を集中させること。菅政権において出されてくる法案は、この「重要土地規制法案」の他、「改憲手続法改正案(国民投票法案)」、すでに成立してしまった「デジタル改革関連法案」も含めて、内閣独裁を強めるねらいがあるのではないかと思います。

自由と人権のために声を上げ続ける

 「重要土地規制法案」は問題点も危険性も多い法案です。私は条文を読んで、戦前の「要塞地帯法」(1899年制定)を想起しました。「要塞地帯法」は軍事施設の写真を撮ったり、スケッチすることも禁止していました。当時出版されていた『ハイキング』という雑誌を見れば、カメラでうっかり山の写真を撮ると、要塞が写るかもしれないので、撮らないようにと書いてあります。それと同じように、「重要土地規制法案」が成立すれば、みんなで集会をやっているだけで「機能を阻害する明らかなおそれ」となるかもしれません。
 この法案は、すさまじい監視社会をまねく法案といえます。「基地の問題ね」「原発の問題ね」と思われるかもしれませんが、対象になる「重要施設」の指定は今後、広がるおそれがあります。あなたが住んでいる近くの施設が指定されるかもしれないし、どんな行為が規制されるのかもわからないまま、市民が監視され、調査され、刑事罰まで科される戦前のような社会は怖いということは、たくさんの人に知ってもらいたいです。
 法案は参議院で審議入りして、会期末が近づいてきました。このような悪法は通させないことがベストで、なんとか廃案にしたいと思っています。最悪なのは、悪法がみんなに知られずに通ってしまうこと。たとえ成立したとしても、成立に至るまでに国会の中でも社会の中でも反対の声を上げ続けることは大切です。
 検察庁法と入管法の改悪案は、反対の声が高まったから政府は成立を断念しました。「重要土地規制法案」も、いかに危ない法案かということを諦めずに広げたい。私たちの自由と人権を守るために、ぜひ一緒に声を上げましょう。

(聞き手/塚田ひさこ、構成/海部京子)

福島みずほ(ふくしま・みずほ) 1955年宮崎県生まれ。社会民主党党首。参議院議員。東京大学卒業後、弁護士として選択的夫婦別姓、婚外子差別などに取り組む。1998年、初当選。2009年、内閣府特命担当大臣として男女共同参画・自殺防止・少子化対策などを担当し、DV被害者支援や児童虐待防止、貧困対策、労働者派遣法改正に取り組む。現在は沖縄の新基地建設阻止、戦争法案の廃止、環境・人権・女性・平和を4本柱として幅広く活動中。著書は『「意地悪化」する日本』(共著・内田樹/岩波書店)、『戦争を通すな!』(共著・鈴木邦男/七つ森書館)、『脱原発を実現する 政治と司法を変える意志』(共著・海渡雄一/明石書店)ほか。

さらに理解を深めるために(社民党Official You Tube Channelより)