第179回:野党よ、大声で喚け!「オレの話を聞け!」と(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 気がついたら9月。今年ももう4カ月しかない。
 来月はぼくの生まれ月。またひとつ馬齢を重ねる。次第に三途の川が見えてくる。その川を渡る前に、なんとかこの息苦しい世の中が、少しでも変わってくれればいいと思っているのだが。

 パラリンピックが9月5日で閉幕。関係の方たちには申し訳ないが、このうるさい夏がやっと去ってくれたことに少しホッとしている。
 スポーツは何でも大好きで、野球もラグビーもサッカーも、バレーだってバスケットだって、それなりに見て楽しんでいるぼくだけれど、今回の「東京オリパラ」開催には、当初から大反対だった。「原発事故はアンダーコントロール」という世紀のウソでの招致から始まった「復興五輪」、不気味な「お・も・て・な・し」には、つけた唾で眉がベタベタになったほどだ。だいたい、いまだに原子力緊急事態宣言が継続中じゃないか。
 コロナ感染症のパンデミックはまだまだ終わらない。真剣に「国民の安全安心」を考えるならば、日本政府や東京都は、開催中止をIOCやIPCに申し出るべきだった。それを「コロナに打ち勝った証」などとバカなキャッチフレーズで開催強行。結果、感染は拡大し、累計で160万人を超える感染者と1万6千人以上の死者。これが「五輪とは無関係」などと、いったい誰がどの口で言うのだろう。
 オリパラ開催ですっかり緩んでしまった警戒心……。

 その後始末の検証に手も付かないうちに、菅首相が突然の退任表明。前任の安倍氏と同じで、切羽詰まって投げ出しちまったわけだ。そして、後継の自民党総裁選でマスメディアは大騒ぎ。
 コロナなんぞはそっちのけで、岸田だ河野だ高市だ石破だと、まあ盛り上がること。あの田崎某などは、連日テレビに出っぱなしで、「私が得た情報」とやらを、得意顔でペラペラしゃべりまくる。どれが事実か知らないけれど、その嬉しそうなしたり顔はまことに見苦しい。見ていると不愉快になるから、彼が出たらすぐにチャンネルを回す。
 しかし、これだけ「自民党の宣伝」を、全マスメディアが揃ってやるのだから、総選挙ではどう考えたって野党は不利。いくらSNSで頑張ろうが、圧倒的な情報量には太刀打ちできない。それを分かった上でのマスメディアの大報道なのだから罪深い。
 だから野党は共闘して、デカイ声を張り上げなければならないのに、なんだかシーンとおとなしい。おいおい、大丈夫かよ。

俺の話を聞け!

 野党、派手に打ち上げなければ負けてしまうぜ。
 クレイジーケンバンドの「俺の話を聞け」でもバックミュージックにして、「オレの話を聞け! オレらの公約を聞けーっ!」と、野党は早急に統一スローガンをがなり立てる必要がある。
 自民党が総裁選に血道をあげている間に、「お、スゲーな、野党はやる気だな!」と有権者に思わせるような選挙運動に突っ込んでみろよ、とぼくは思うのだ。どうだ、枝野さんよ志位さんよ福島さんよ。そしてもしよければ、玉木さんも山本さんも総結集を考えてみたらどうか?

 以下、そう思うぼくが、勝手に野党の政策を考えてみたのだ。まずは、簡単なところからいってみようか。

1.記者会見の抜本改革
 とにかく、ここから始める。野党は「政権を奪取したら、首相の『記者会見』の形を抜本的に改める」と宣言せよ。
 会見に出られる記者は、フリーランスを含めて制限をなくし、あまりに希望者が多い場合は、公開のくじ引きとする。記者の再質問を認め、納得できなければ何度でも質問可能とする。会見時間を撤廃し、記者の質問がある限り会見を続ける。そのためには、記者クラブ制度の解体を加盟マスメディアと協議する。官邸広報官の司会役を失くし、首相や大臣自らが質問者を指名する。
 「次の質問どうぞ」や「そのご指摘は当たらない」などというふざけた答弁は絶対に認めない。

2.情報公開の徹底
 これは喫緊の課題だ。例えば「モリカケ桜」の秘匿情報や入管の「ウィシュマさんビデオ」の全面公開、赤木ファイル公開と「墨塗り」の禁止(プライバシーに関わる人名には配慮もある)。これらは、政府が決定さえすれば、すぐにでもできることだ。国会でのウソ答弁を防ぐ効果もある。
 財務官僚で国会に呼ばれウソをつき続けた佐川宣寿氏のような人物や、数えたらギネスもののウソの回数を誇った安倍晋三氏なども、情報公開によってウソを封じることはできるだろう。また、菅首相による日本学術会議の6名の学者の任命拒否の真相も、情報公開によって真実が明らかになるはずだ。

3.国会を開け
 このコロナ禍で、国会開催を逃げ回る自民党。「そんなに国会がイヤなら国会議員など辞めちまえ!」と、野党は自公議員たちに「辞職勧告」をつきつければいい。
 ともあれ、政権奪取したら「コロナが収束するまでは『通年国会』を開いておく」と、宣言すればいい。コロナの感染動向次第では、新たな立法も必要になるかもしれない。それにはどうしても国会開催が必要になるのだ。

4.官邸の官僚人事権の放棄
 目に余るのが、政権の官僚支配。これは人事権を官邸が一手に掌握していることによる。第2次安倍内閣下で出来上がったシステムだ。
 官邸の意に添わない官僚は、すぐに左遷するという安倍・菅政権の手法によって、官僚の質の低下を招き、自由な官僚の発想を阻害しているのは明らか。有望な若手官僚の多くが退官し始め、さらに官僚志望者が激減している理由でもある。政権交代したら、各官庁からの人事案件はできる限り進言を尊重することにする。

5.進行中の案件の見直し
 たとえば、「沖縄・辺野古基地」工事の再検討。辺野古浜側の埋め立てはあらかた終わったが、大浦湾側には埋め立て不能と言われる軟弱地盤がある。この埋め立ては、世界的に見てもこれまでにまったく経験のないもの。しかも工事費用は当初の3千億円をはるかにオーバーして1兆円に達するし、期間も10年以上でも不可能と言われている。
 こういう例は原発関連でも見られる。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場などは1993年以来、25回もの稼働延期を数えるが、いまだ稼働の見通しは立っていない。費用もすでに3兆円を突破している。政権交代したなら、真っ先にこのような「金喰い虫」の見直しに踏み出すと約束せよ。

6.夫婦同姓制度など旧弊を打破する
 選択的夫婦別姓は、すぐにでも実現できる。いまや、夫婦同姓にこだわるのは自民党内の一部議員(高市早苗氏もそのグループ)に過ぎない。憲法上もなんの規定もない夫婦同姓制度に固執するのは、世論調査でも少数である。高市氏にしてからが、現実には「旧姓使用」である。いい加減な主張と言わざるを得ない。
 また、同性間の結婚も認めることとする。人間の自由な生き方に、政治が関与する余地はない。

7.コロナ対策の積極策
 まず、遅れている「野戦病院」の速やかな設置。それに協力する医療従事者への手当の拡充。若年層のワクチン接種の促進。とくに渋谷で若者を並ばせる、などというのは愚策の骨頂。アメリカでは、予約なしで薬局や駅での無料接種が行われている。なぜ日本ではそれができないのか。また、抗体カクテルの外来での点滴など、すぐにでもできることなのにやっていないことはたくさんある。
 飲食店への「協力金」の早期支給の開始。これがなければ、いくら時短や酒類提供自粛、休業要請などしても効き目はない。
 さらに安倍政権下で縮小された保健所行政を、もう一度見直す。例えば東京多摩地区では、各市にあった保健所を縮小統合、5市に1カ所などという状況になっている。大阪でも維新の政策として保健所統合廃止が行われ、多くの自宅死者が出た。各自治体に保健所を戻すことによって、医療体制の復活を目指す。

 この辺りまでは、今ではごく普通の主張だろう。政権交代ですぐにでもできることだ。こういう普通の主張こそ、もっとも人々に受け入れられやすい。
 次に、国家の根本にかかわる問題だ。

8.税制を見直す
 まず、消費税の凍結。少なくともコロナ不況がおさまるまで、消費税は凍結する。これは、即刻やらなければならない。むろん、財政再建との絡みもあって簡単でないのは承知だが、弱者にもっとも負担になるのは消費税なのだから、一旦凍結して弱者救済への道を開く。減収分は、企業税制の見直しや累進課税など。富裕層の負担をもっと拡大する。
 こんな小さなスペースで詳しく論じることはできないが、これは「自助共助公助」という弱者切り捨ての菅路線から、「公助共助自助」と順番を逆転させる方向である。抜本的税制改正を!
 「コンクリートから人へ」という秀逸だった民主党のキャッチフレーズを、今度こそ失敗しないように実現する。

9.現行選挙制度の改革
 現行の「小選挙制」が、いかに歪な選挙結果を生み出しているか。ことに、得票率と議席占有率の甚だしい乖離が、安倍晋三氏の「戦後レジームからの脱却」という超右翼路線を生み出し、次々と憲法無視の危険な法律を成立させた。日本国は立憲主義の民主国家であったはずだが、いつの間にか、憲法無視が罷り通る国になってしまった。その原因のひとつは現行小選挙制度にあると思う。
 もっと、民意が通るような選挙制度にしなければ、国家の存立そのものが危うい。ぼく自身は、現行とは逆に、比例代表制を主にして選挙区を従にすべきだと考えている。ともあれ、現行制度で当選した議員たちには選挙制度改革はとても難しいことだが、「選挙制度改革」を、野党統一スローガンのひとつに加えるべきと思う。

10.新エネルギー計画
 自公政権と経産省は、いつまで経っても「原発」に固執し続ける。2050年でも、原発比率は22~23%とするなどとほざいている。その実現には、原発の新増設が必要なのだが、そこは曖昧にごまかしたままだ。
 むろん、経済界とのパイプが自民党の金づるであれば、原発推進を一朝一夕に覆すことは難しい。だからこそ、政権交代となればそれを打破できる。再生可能エネルギーの普及とカーボンニュートラルは、本来、表裏一体であるはず。
 「新エネルギー計画」が目指すのは、その方向であるべきだが、これは立憲民主党にとっては巨大なハードルになるだろう。それを飛び越せるかどうかが試される。

11.影の内閣を組織せよ
 影の内閣(シャドウキャビネット)を作って、分野ごとに専門性を持った人物を「影の閣僚」にし、実際の各閣僚たちにぶつける。現在の自公連立内閣の閣僚たちは、ほとんどが年功序列論功行賞で指名された人物ばかりで、各分野での専門知識もやる気もまるで感じられない。それは失言や答弁の曖昧さなどを見ていれば一目瞭然。そこに、専門性を持った「影の閣僚」をぶつければ、どちらがより有能かが分かる。
 野党には、その程度の人材はいるだろう。もしいないのであれば、政権交代など夢のまた夢である。

 とりあえず、思いつくままの11項目。
 ぼくの夢想ではあるけれど、まんざら戯言ではない。ことに、1~5の項目などは、有権者のフラストレーションのもとになっていることばかりだから、ぶち上げれば、分かりやすいだけに相当の効果があると思う。
 やる気はないか?

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。