第96回:すべての原因はグローバル資本主義(森永卓郎)

 自民党総裁選が行われ、総選挙が近づいたことによって、与野党を含めて、久しぶりに政策論争が行われている。ただ、私にはどうしても気にかかっていることがある。それは、経済や社会をどのようにしていくのかという基本理念が議論されていないことだ。私は、いまグローバル資本主義そのものを問い直す時期がきているのだと思う。

地球が壊れる

 地球が壊れかかっている。異常気象が続き、その結果として山火事や干ばつ、豪雨、鉄砲水などが頻発している。それは日本も例外ではない。数十年に一度の大雨に出される「大雨特別警報」が毎年発令され、土砂崩れに巻き込まれたり、増水した川に家屋が流されたりする被害が後を絶たない。
 原因は分かっている。地球温暖化だ。温室効果ガスの排出量が増えると、地球が温暖化して、微妙なバランスの上に成り立っている地球上の循環がおかしくなってしまう。それが分かっているからこそ、世界中の国が、「カーボンニュートラル」を打ち出しているのだ。
 問題は、なぜ温室効果ガスの排出量が増えたのかということだ。私は間違いなく原因は資本主義だと考えている。温室効果ガスの排出量の長期推移をみると、産業革命以降、温室効果ガスが増え始め、20世紀以降は爆発的に増えている。資本主義の拡大と完全に歩調を揃えているのだ。
 資本主義がはびこる前、日本人の暮らしは自然と共存していた。暖房は間伐した木材を燃やした。洗濯物は天日に干した。里山では、キノコや獣を獲り、畑や田んぼで野菜やコメを育てる。完全なカーボンニュートラルだ。公共団体によるゴミ収集が本格的に始まったのは昭和30年代からだ。それまでは、家庭ごみもほとんど出ていなかったからだ。
 一方、資本主義の象徴であるタワーマンションでの暮らしを考えてみよう。完全な冷暖房は、すべて電気で賄われている。家から出入りするだけで、エレベーターが大きな電力を消費する。洗濯物はベランダに干せずに電気乾燥機を用いる。仕事はグローバルに展開するから、飛行機で世界中を飛び回る。そのたびにジェット燃料が消費される。そうした暮らしをする人が増えれば、温室効果ガスの排出量が増えて当然なのだ。
 実は、グローバル資本主義がもたらした環境破壊は、地球温暖化に限らない。今回の新型コロナの感染爆発もその一つだ。もし、世界の人流が30年前程度だったら、新型コロナは、こんなに短期間で世界中に広がらなかっただろう。もしかしたら武漢の「風土病」で終わったかもしれない。そして、もう一つ感染症を広げる原因になったのは、資本主義につきものの大都市集中だ。日本での感染者数を都道府県別にみると、明らかに大都市圏での人口当たり感染者数が大きくなっている。感染の大都市集中は、世界中で共通する現象だ。

人も壊れる

 資本主義は地球を壊すだけでなく、人も壊している。グローバル資本主義の下で、我々は安い商品を手にすることができるようになった。例えば大型スーパーでは、ジーンズが1000円で売られている。なぜそんなに安いのかと言えば、世界中の需要をまとめて、発展途上国に大量発注して買い叩くからだ。もちろん低価格で受注したツケは、発展途上国でモノづくりに携わる労働者の低賃金で過酷な労働を招くことになる。
 そうしたグローバル資本主義の下で、世界ではとてつもなく大きな所得や資産の格差が生まれている。いま地球には76億人が住んでいる。そのうち所得の低い方から数えて半分の38億人が保有する金融資産は153兆円だが、世界の所得トップ26人が持つ金融資産も、同額の153兆円なのだ。
 資本主義が登場する前、原始共産制と呼ばれる経済には、格差は存在しなかった。共同生産、共同分配で、狩猟で得た獣や木に実った果実は、皆で平等に分配していたからだ。
 実は、グローバル資本主義がもたらした格差はお金の格差だけではない。私は、最大の格差は、仕事の楽しさの格差だと考えている。
 例えば、日本の美少女フィギュアの作家は、デザイン、造形、組み立て、塗装、仕上げに至るまで、すべて一人でやることが多い。自分の作品を作るのだから、すべて自分の判断でやるのだ。一方、途上国でフィギュアの大量生産を手掛ける労働者は、ラインを流れてくるフィギュアの例えば右目だけをひたすら塗り続ける。完全分業制なのだ。なぜ、そんなことをするのか。それは生産性が高まるからだ。
 私は生産性と仕事の楽しさは、反比例すると考えている。資本主義というのは、生産性を高めて利益を拡大する運動だから、資本主義が進めば進むほど仕事は楽しくなくなっていく。仕事の楽しさは、経営者だけに集中していくのだ。

人と地球を守る四原則

 こうしたことを考えると、地球と人をグローバル資本主義から守るための方向性は明らかだろう。それは飽くなき消費拡大に歯止めをかけること。つまりミニマリズムだ。その実現のために、私は今後の経済社会には、以下の四原則が必要だと考えている。

  • 大規模から小規模へ
  • グローバルからローカルへ
  • 集中から分散へ
  • 中央集権から地方分権

 この原則を踏まえて考えると、これから採るべきさまざまな政策の方向性が自ずと見えてくる。
 まず、農業政策は、農地の担い手への集約を停止し、マイクロ農業を推進する。個人個人が、自分が食べる野菜程度は自給できるようにするのだ。専業農家は、素人では作れない品種や時期の農作物の生産に特化する。こうした方法を採れば、日本人の食がグローバル農業資本に支配されることがなくなり、食を通じた健康を維持することができる。
 エネルギー政策は、電力会社による大規模集中発電の比率を下げ、個人宅あるいは地域で作られる再生可能エネルギーを電力の主役に据える。電力会社は、電力の過不足の調整役に徹する。もちろん、大規模集中の象徴である原子力発電所は、廃止していく。
 通商政策では、自由貿易協定や経済連携協定から離脱し、グローバル調達を制限して、部品も含めた国産化を推進する。それだけでなく、大部分の商品で地産地消を進める。その究極の姿は、自産自消だ。
 産業政策では、大店法を元に戻して、地域の商店街を破壊する大規模小売店の出店を制限する。また、中小企業を守るために、コロナ対策で実行された緊急小口融資は、すべて棒引きにする。
 国土政策では、大都市化を食い止めるため、タワーマンションやタワーオフィスの建設を禁止する。規制緩和を元に戻すだけだ。そして東京一極集中の大きな原因になっている首都機能を地方に移転させる。国会等の移転に関する法律は、とうの昔に成立しているから、政府が本気になれば、移転はすぐにでも可能だ。また、大都市の一定規模以上の土地に課税した地価税を復活させる。地価税も法律自体は残っているので、いまの凍結を解除するだけで実行可能だ。
 そしてコロナ対策は、大都市の感染が地方に広がらないように、大都市のロックダウンと大都市住民の徹底したPCR検査を行い、陽性者を隔離する。中国やニュージーランドが採った手法だ。
 そして最も重要な施策は税制だ。中央政府は、外交や安全保障のための必要最低限の施策を賄うための税収を得るだけにして、財源は基本的に地方に移譲する。そして、所得税制は、総合課税かつ累進課税を原則とする。例えば、日本では株式譲渡益への課税は、20%の分離課税の単一税率だが、アメリカは、連邦税が分離課税で、税率は0%、15%、20%の累進課税だ。地方税は総合課税で累進制になっている。富裕層の最大の所得源が金融所得であることを考えれば、総合課税で累進課税に課税方式を移せば、それだけでも格差縮小の大きな手段になるのだ。
 ただ、野党を含めても、こうした根本的な政策変更を提言する人は、ほとんどいない。それは日本の政治家のほとんどが「資本主義推進」だからではないのだろうか。それでいながら、「環境を守る」、あるいは「格差を縮小する」と言うのは、論理矛盾だと思う。

       

森永卓郎
経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。