第17回:私の2021総選挙雑感(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

令和2年度決算特別委員会からの総選挙突入

 なんだかもう怒涛の1ヶ月でした。9月15日から始まった豊島区議会の第3定例会は、10月22日で本会議が閉じられたわけですが、令和2年度決算を審議する委員会が10月6日〜10月20日まで開かれ、さらに10月14日に衆議院が解散をし18日が選挙告示となりましたので、区議会開会中に選挙本番が始まるという異例の展開となりました。豊島区議会は、他の地方議会よりも1週間ほど会期が後ろにズレていて(理由はわかりませんが)、予想していた総選挙スケジュールの1週間の繰り上げのあおりをモロにくらった格好となっていました。議会の日程も一部変更になるなどバタついていましたし、国政政党に所属する議員のみなさんは気もそぞろといった雰囲気でした。無所属で活動している私は、会派も「無所属の会」なので、呑気にかまえていたのですが、今回は野党共闘ということで、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の4党が、市民連合による政策協定書も結び、私の選挙区の10区においても、立憲民主党公認の鈴木ようすけ氏が野党統一候補となりました。そういうことならというので、無所属議員でもできる協力はすることにしたのです。

 何しろ、国政における与党一強の弊害があまりにも大きく、それは地方議会にも影響が及んでいます。本来なら二元代表制をとっている地方議会においては与党や野党というのは関係ないはずなんですが。だから今の強すぎる自公政権を崩さないことには、どうにもならない。私たちも応援するしかないよね、ということで選挙カーに乗りこみ、ウグイスやったり、「朝ぺこ」やったり、選挙ビラを配ったり、マイク握ったりということは、やりました。

 それとは別に、個人的には「れいわ新選組」の応援演説を聞きにいったり、「比例をどうするかわからないんだよね〜」という友人知人には、「比例はれいわでしょ」という話を、解説しながらしたりはしていました。

 なぜ私が「れいわ」を推すかといえば、新自由主義を推し進め、公助より自助の「日本維新の会」のカウンターになりうるのは、「れいわ新選組」だと確信しているからです。マトリックスに落としたら、対角線の一番遠いところにあるのが「維新」と「れいわ」。そして今、圧倒的に数が多いのが、「維新」のいるゾーン(自民党もここですね)なので、バランスをとるためにも「れいわ」の数を増やさないと、この社会は本当に沈没する、と思っているからです。これについては、また別の機会に書きたい、政治学者や政治ジャーナリストの方にもきちんとインタビューなど行えたらいいなと思っています。今後の政治情勢を見極めていく上でも非常に重要なことなので。

 さて、選挙のやり方というのは、政党によっても地域によっても、そして候補者や支援者によって、本当に違うな〜と思います。公職選挙法という厳しいルールはあるのですが、それさえ守れば、独自の手法はいくらだってつくれます。これまでも「オープンでフレキシブルな市民型選挙」と「がっちり手堅い組織選挙」の二つのスタイルがあったと思いますが、今回、選挙の野党がやるべき一つの勝ちパターンを示したのは、市民型選挙にメディアを注目させ無党派層を大きく動かして自民党の有力候補者を落とした東京8区と香川1区でしょうか。どんな選挙戦をやったのか非常に興味があります。今、野党共闘自体が良かったのか、悪かったのか、などその総括があちこちで行われていますが、私はこの選挙の野党の勝敗を左右したのは、各地域の市民、各陣営のボランティア、そしてメディアではないか、と感じています。来年の参院選などのためにも、新たな「市民選挙のあり方」の分析が待たれます。
 

「朝ぺこ」やビラまきで出会った生の声

 ところで先ほど触れた「朝ぺこ」とは何か? みなさんも一度や二度、目にしたことがあると思いますが、選挙期間中に駅の改札付近で、通勤時間をねらって「いってらっしゃいませ〜」と元気よく声をかけながら、政策などを書いた選挙ビラを渡すこと。「朝、駅などに立って、ペコペコとおじきをする」ということから、こんな名前がついているそうです。ちなみに帰宅時間にあわせて行うのが「夜ぺこ」です。いわゆる選挙の業界用語でしょう。

 今回、久しぶりにやりました。自分の選挙以来です。朝の7時に候補者と一緒に、JR大塚駅で、選挙戦1週間目の月曜日のことです。にっこり笑いながら「おはようございます〜」とビラを差し出すと、受け取らなくても軽く目で会釈を返してくれたりするので、「おおっ、ちょっといい感触がきているな」と思ったり。自分の選挙の時よりも余裕があって、そんなところも見えたりします。

 そんな大塚駅での「朝ぺこ」中に出会ったウーバーイーツ配達員の男性にビラを渡すと、「今まで選挙って行ったことがないんですよ」と言うので、「そうなんですか? 今回はぜひ、行ってみてくださいよ」「なんにも知らないんですが、僕にも出来ますかね?」「できますよ! 簡単です。手ぶらでも、期日前投票といって今日でも区役所や西武や東武デパートで投票できますよ」

 応援している候補者の政策の中身については、「消費税を5%に下げて、みんなの生活を今より楽にしようということを訴えてます」と話すと「わかりました! では自分でも(候補者のこと)HPで調べて投票に行ってみる!」と言ってくれたので、「投票に行ったことのない人が行ってくれるって、私、グッドジョブ!」と小さな達成感を得ることができました。
 

コロナ禍で劇的に増加「困窮者自立支援」相談者件数

 書く順番が逆になりましたが、日程的には選挙戦に入る前に決算特別委員会に委員として審議に参加してきました。この委員会は令和2年に行われた全ての事業の認定、すなわち一般会計事務所決算、国民健康保険事業、後期高齢者医療事業、介護保健事業の3特別決算の審査をまとめて行う場です。そこで私が特に注目をし、質疑を行ったのが生活困窮者自立支援の事業についてです。最後のセーフティネットといえば、「生活保護」がよく知られているところで、憲法25条の「生存権」に基づく、「困窮した時には誰でも使うことができる権利」です。生活困窮者自立支援法(平成27年4月1日施行)を根拠とする、相談事業や支援事業もまた、困っている人は誰でも利用できる「命を守るための安心した生活」につなぐためのセーフティネットなのです。各自治体に、生活困窮者自立支援法に則った支援やその窓口があると思うのですが、豊島区の場合は「くらし・しごと相談支援センター」を設置し、相談を入り口にして困っている人をさまざまな支援につなげるスキームとなっています。

 事業の中身についてよくわかっていない人からは、「生活保護を受けさせないための、水際ではないのか?」「仕事ができない心身ともに疲れている人に“自立しろ”というのは酷ではないのか?」、そんな批判めいた声が来ることもありますが、とにかく困っている人の相談を受ける、決して断らないというのがここの一番の特徴だろうと思います。「どうして困っているのか」、その内容やおかれている状況や立場というのは、本当に一人ひとりが違います。最初の面接(インテーク)も信頼関係を構築し、相談者に寄り添いながら、相談者の意思を尊重しながら行う必要があり、十分な時間をかける必要があります。そういうことは漠然と知っていたのですが、この相談件数が令和2年に大きく跳ね上がっており、23区においては江戸川区に次いで2番目の受付件数、また人口比率でいえば一番高い、しかも突出した高さになっていることから、まずはこの職員体制で大丈夫なのか? という疑問が湧いてきました。

 「困っている区民の声を直接聞く」という基礎自治体職員の「基本のき」が、物理的にできない状況になっているのは、構造的にも本当に問題だと思います。

 これでは、相談にあたられている職員らも「福祉のこころ=寄り添う心」をもってしても疲弊しきってしまいます。ということで、決算特別委員会の最終日には、会派の「意見開陳」の際に、次のように発言をしました。一部抜粋をして紹介をしておきます。

【困窮者支援事業について】
 本区の相談窓口である「くらし・しごと相談支援センター」においては、新規相談者数が6500件を超え、住宅確保給付金の問い合わせ数が13000件を超えている。さまざま合計すると、令和2年の対応総件数は、2万件を超えていることがわかった。

 お困りごとは、一人ひとり状況が違うので、丁寧に聞き取り、相談者の意思を尊重しながら、相談内容に合わせた支援事業を案内し、自立につなげていく。こうした相談は、初回相談(インテーク)が最も重要で、平均1時間15分を要する。また引きこもり相談についても同じ窓口で行っているが、ご本人ではなく家族対応になり、2時間ほど時間を要するということで、仕事量の多さについても改めて確認ができた。

 2年近く続いたコロナによる社会や経済の打撃は大きく、すぐに回復するものではない。そうした中、区の困窮者支援事業は、区民の生活・命を守る重要なセーフティネットである。ここに繋がれるかどうかが、生活再建ができるかどうかの、大きなわかれ目にもなると思う。委託事業においても、相談をしっかり受け入れられるような体制を取っておくことが重要である。また相談窓口にくる男女比を見ると、7:3と男性が多いので、まだまだ女性が窓口に来づらい、無意識のジェンダーバイアスにより、ひきこもりの女性の問題がかくれている、などの懸念もあるので、アウトリーチ型の支援など検討をお願いしたい。

 それにしても、業務量がこれだけ増えているのにもかかわらず、正職員は2名だと聞いている。令和3年の7月より「ひきこもり」相談も増加しており、業務量に見合った人員確保が急務である。区民の命を守るためにも、正職員の増員配置を、重ねて強く要望をする。

目前の対策だけでは、もうどうにもならない

 厚生労働省が以下のようなまとめを発表したことがニュース(10月30日付け)にもなっていました。「生活困窮の相談 前年度の約3.2倍に 20代、30代で増加幅大きく」

 ここには〈ことし1月の相談件数を去年1月と比較すると年代別では20代はおよそ3.5倍、30代はおよそ3.3倍に増えていて、ほかの世代よりも増加の幅が大きくなっています。単身世帯やひとり親家庭からの相談も多く「再就職が難しく精神的なストレスから体調を崩している」などという相談が寄せられています。一方で自治体の職員などからは「相談や支援制度の申請が急増し業務の負担が重くなっている。一人一人に丁寧にサポートを行うことが難しくなっている」という声が聞かれるということです。〉と端的に書かれていますが、実質的には自治体でやるべきサービスが全国で崩壊しかかっているということではないかと不安がつのります。ここの相談の支援につながるかつながらないかで、餓死してしまう、あるいは自死を選んでしまうということも十分にありえます。これについては現場の担当者も相当な危機感を持っているのです。しかし、自治体レベルではどうにもならない現状があります。

 私は決算委員会では、この事業について3回取り上げさせてもらい、今すぐにできることとして、地域の「区の掲示板」に、「くらし・しごと相談センター」のリーフレットのチラシ版を掲示することを提案、そして正職員の増員配置を要望しました。

 これら区のレベルですぐにできることはもちろんすぐやる必要があります。しかしそれだけで、今の状況が変わるとはとても思えません。やっぱり、国政レベルで国の政策や方針が抜本的に変わらなければ、にっちもさっちもいかなくなったこの状況を変えることはできないでしょう。

ロスジェネ世代は動き出すのか?

 選挙の話にもどります。私は最終日の池袋駅東口で行なった最終の街宣時にも、現場に行きました。ビラを手渡した男性に話しかけたところ「俺は、大学が候補者と同じで、プロフィール見ると元NHK記者ってあるじゃないですか、そんなエリートの人がなんで自民党じゃなくて野党の候補者で、しかもずっと受からなくても続けているのかなってそこに興味があって聞きにきたんですよ。俺もマスコミ目指していたんだけど、就職氷河期で採用がなくて、ずっと非正規で働いてコロナでついに今は失業中でね」と語ってくれました。

 いよいよのマイク納めのとき、候補者は自分が12年間引きこもりだったことを話し始めていました。これまでは、組合関係や動員された方々が演説を取り囲んでいたのですが、ふと気がつくと、候補者と同じような40代頃の年齢の男性たちが聞き入っていました。後で聞いたところ、大学の同級生とのことでした。彼と同世代の人がみんな生きづらさや生活に困窮している、とは言いませんが、しかしその世代特有の「思い」があり、それが「エネルギー」に変わっていく瞬間というのは、今後必ずあるのではとみています。

 コロナ禍を経ての総選挙は、コロナ対応における政府の失策に対して、人々の怒りが湧き上がり、大きなうねりが生まれるかと思いきや、投票率もそれほど上がらず、誰も勝利しない奇妙な静けさの中で終わったようにも感じています。それでも「希望の芽」は確実に出ているとは思うものの、高い壁も感じています。例えばこういうことがあります。

 前述した自立支援事業の話をすると、「自立が大事だから、ばらまきじゃなくて、そうした自立支援が大切ですよね」という声が必ずでてきます。私はそうした時は「そうなんです。でも自分の意思で決めることができる自立生活のベースを作るためにも、大胆な財政出動による景気の底上げ、定期的な給付、そして減税は今はまだデフレなんで絶対的に必要なんですよ。財源は国債発行すればいいんです。今だってやっているんですから」と答えたりしているのですが、うまく通じている気がしない。こと財政や国債の話になると、とたんに相手の心のシャッターが降りていく音が聞こえてきます。

 それよりも生活が苦しい人たちに向けて「みなさん、苦しいでしょう。だから行政の無駄を省かなくてはならないんです。民間に業務を渡して合理化をしなくてはなりません。正規の公務員の高い給料を下げて、人件費を抑えろ、スリム化だ、改革だ」と煽り、人々の心を掴んでいるのが、「日本維新の会」の論法で、スタイルではないかと想像しています。テレビでしか演説を聞いたことがないので、今度、生で街宣を聞いてみたいと思っています。

 さてこの選挙の結果が、地方議会にどのような影響を及ぼすのか、影響はないのか…については、引き続き注意深く見守り、書いていきたいと思います。

 最後に。やはり総括ということなので、これに触れないわけにはいけません。この総選挙、色々と思うところはありますが、一番ショックだったのは、大阪10区の辻元清美さんの落選です。国会に辻元さんがいなくなるということがまだ信じられないのですが、今その怖さをじわじわと感じています。女性で初めて国対委員長を務めた辻元さん。野党をまとめ、与党の重鎮とも渡り合える、そんな彼女こそが、次の立憲民主党の代表に相応しいと思っていました。なのに代表選挙にも出られなくなったことが本当に惜しい。そして何より心配なのは、憲法改正についてです。「憲法審査会」でのこれまでの議論の積み上げなどすっ飛ばして「発議」が行われてしまうのではないか? そうした時に身体をはって止める人は果たして誰なのか? それはもう、私たち市民しかいないと思うと、身震いがしてくるのです。

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塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9