10万円給付をめぐって自治体は大混乱?
今年も残すところあと10日あまり……。そんな12月20日に、豊島区では臨時議会が招集されました。例の「子育て世帯への臨時特別給付金」について二度目の補正予算計上です。この臨時特別給付金については、12月7日に閉会した第4回定例会の最終日に、現金5万円分の年内支給のための補正予算案の議決を行なったばかりでしたが、岸田首相の「自治体の判断で現金10万円給付を容認する」発言、また区民の要望や議会の声を受け、残りの5万円についても当初予定されていたクーポンではなく、現金で一括支給するという判断を区が行いました。そのため事務手続きがギリギリ間に合う20日に、議会の議決を得る必要があったのです。
補正予算案一つを議決するにしても、臨時議会を開くとなると、前日までに「正副幹事長会議」が持たれ、本会議当日の前には「議員全員協議会」が開かれそこで議案の説明、その後本会議で総務委員会への付託、総務委員会で委員のメンバーによって質疑と会派の態度表明、委員会採択がされ、本会議に送られ全議員による採決──という一連の流れが、地方自治法に乗っ取って粛々と行われます。
この間の政府の方針転換で、年内に現金での10万円一括給付を決めた自治体が続出しましたから、それぞれの地方議会において、なんとも慌ただしい中での臨時議会が行われたのではないでしょうか。
給付の財源が100%国からの補助金であったとしても、実際に給付をする自治体で補正予算を組み、その補正案について議会で審議をし議決を得てから、決定となります。首長の専決処分で議会にかけることなく決めてしまうところもあるようですが、それが常態化してしまうことは、議会軽視で由々しきことです。首長も議会も一つの政党が占めているため専決処分を連発する地方議会もあると聞きますが、それは民主主義が崩壊している状態なので、その地域の有権者はしっかり監視しなければなりません。
さて、なんでこんなに政府の方針が二転三転し、また自治体も振り回されるような形になったのかと言えば…この臨時給付金、元々は子育て世帯の生活を応援するための一時金ということで、その給付方法は、当初は5万円は現金給付で、残りの5万円はクーポンにする。そのクーポン事業は、地域の経済活性化にもなるよう自治体で創意工夫せよ、というものでした。
しかし子育て世帯を応援するだけなら、現金給付でいいではないか、なぜ事務経費や時間も相当にかかるクーポンでの給付でなければならないのか、しかも自治体に丸投げなのかをめぐって、開かれたばかりの国会でも論戦になり、野党、自治体首長、議会、そして国民からの批判を受け、岸田首相が方針を転換させた、というものです。
こう考えてみると、やっぱり国会が開かれ、その模様が生中継やニュースで流れることの意味はやはり大きいと思います。ダイレクトに生の声が国会議員などを通じ政府に質問の形でぶつけられ、それにより方針変更を促したり、ときには強いることができるのですから。政府の方針が段階的に変わっていく様子もまた、国会の質疑を通じて見ることができました。
議会における補正予算とは何か?
この18歳以下の子どもがいる家庭への給付「子育て世帯等臨時特別支援事業」をめぐる一連の動きを時系列で見てみましょう。
豊島区議会でも、コロナ禍になって以降、定例会ごとに何度も大きな補正予算が組まれ、議会にかけられてきています。
今年最後の第4回定例会(11月17日〜12月7日)においても、本会議初日に「第4号補正予算案」が、そして本会議最終日にも「第5号補正予算案」が、出されました。「第5号」というのは、今年度5回目の補正予算になる、ということです。
この第5号補正予算案に、18歳以下の子どものいる世帯が対象の「10万円給付」の事業経費が含まれていました。
そもそも、なぜこのタイミングなのかというと、総選挙後の11月19日「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」が閣議決定されたことによります。
ここに書かれてある「新型コロナウイルス感染症が長期化しその影響が様々な人々に及ぶ中、子育て世帯については、児童を養育している者の年収が960万円以上の世帯を除き、0歳から高校3年生までの子供達に、一人当たり10万円相当の給付を行う」のが、まさしく今回の給付事業です。総選挙の時の与党の公約の目玉だったんですよね。
政府の当初の方針としては、「年内に現金5万円給付、来春の入学シーズンに向けてクーポン5万円を配布する。中学生以下には児童手当の仕組みを利用し、年内に速やかに給付する」でしたので、ここに沿う形で、豊島区議会では最初の5万円の現金給付に必要な事業経費を補正予算案として計上し、議会の議決を受けました。
補正予算案は全て総務委員会に付託され、そこで審議が行われ一括して採択が行われます。私は総務委員会に所属しているので、この「子育て世帯等臨時特別支援事業経費」についても、会派を代表して質疑を行い、態度表明(議案に賛成か反対かを言う)をしなくてはなりません。
すでに政府が決めた給付事業で、財源も国庫から100%出るのに、何を質疑し審議するのか? と思われるかもしれませんが、豊島区で実際に行うことになる事務手続きや、実際に給付される時期、また特別な配慮が必要な方への対応への確認など、さまざまな質疑が行われます。
12月7日の総務委員会では、最初の5万円の現金給付を行うための補正予算案についての審議でしたが、すでにこの頃には国会の質疑で「残りの5万円をクーポンにすると、そのための事務手数料が約9600万円もかかる」ことが明らかになり「自治体が担う事務作業量も膨大になる」「そもそも4月入学や進級のためにかかる費用を助けるという名目なのに、到底間に合わない」ということから、「現金を早くもらう方が良い」という世論が大きくなりつつあました。
また総務委員会の直前には、官房長官が「自治体が状況に応じて現金給付も可能」と記者会見で話したとニュース速報で流れていました。私は委員会で残り5万円の給付についても「自治体の状況に合わせた判断ということは、自治体の決断を尊重するとも受け取れる発言があったようなので、ここは区民の希望を一番に聞いて、クーポンではなく現金給付の判断をしてほしい」との一歩踏み込んだ要望を伝え、この時の補正予算案には賛成をしました。
この議決を受け、まずは5万円の現金給付が年内に滞りなくできるよう、区は事務作業に入りました。ところがその後の12月14日に、岸田首相は予算委員会において、次のような指針を発表します。
•10万円を現金で一括給付
•現金5万円とクーポン5万円に分割して給付
•現金5万円を先行支給し、追加で5万円を給付
この3つのどれを選ぶかは、自治体の判断に任せるというもの。あれほど「クーポン」にこだわっていたのに、ようやく「現金でもいいよ」という方向転換を図ることになったわけです。
翌15日には、政府は全国の自治体に指針を明記した事務連絡を通知。これを受けて豊島区も現金一括給付を決断、コラムの冒頭に書いたように、年内に給付を間に合わせるために臨時会を招集したというわけです。
普通に考えて、給付手続きをする自治体も、給付される子育て世帯側にとっても、現金で一括でもらうのが一番いいに決まっています。しかしながら、クーポン事業を絡ませることで、個人より会社や団体といった業界に利益をもたらしたい、と考える自民党政権の「身内贔屓」が露呈した、と言わざるを得ないでしょう。
そう思っていたのですが、12月21日に発表された朝日新聞の世論調査によると、岸田内閣の支持率は上がり、方針が二転三転して自治体の事務の混乱を招いた現金給付対応についても、50%が評価。岸田首相自らがアピールしている「聞く力」を発揮しているとみなされているというのです。不完全な支援制度を不完全なまま出し現場を混乱させておいて、自分で収拾策を演出して評価をあげるという「マジック」を見せられたというか……どこかやっぱり釈然としない気持ちです。
真に必要なコロナ経済支援とは何なのか?
ところで、子育て世帯への10万円給付のことばかりが話題になっており、最近の国会の予算委員会の議論もここが中心になったようですが、前述した「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」は、財政支出については55.7兆円程度、事業規模は78.9兆円程度と、ものすごい莫大な規模になっています。ペーパーも56ページにもわたる分厚さです。
そして、これら経済対策の裏付けとなるべく12月6日に政府が国会に提出した2021年の補正予算案は、過去最大の35兆9895億円。これらの財源の6割は新規国債発行で賄います。
これを受けて豊島区においても、「子育て世帯に対する給付金」以外にも、
・「住民税非課税世帯に対する給付金:非課税世帯への10万円の給付」
・「住居確保給付金:特例措置の申請期限が令和4年3月まで延長」
・「生活困窮者自立支援金:申請期限が令和4年3月まで延長」
・「看護、介護、保育、幼児教育など現場で働く人々の収入引き上げ:区が私立保育園などに支払う運営費の増額」
などの対応をしますが、これらの予算措置のためまた補正予算が組まれます。それらについては令和4年第1回定例会、もしくはそれを待たずに開催される臨時会で議論されることになるでしょう。
子育て世帯への給付金は、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」のほんの一部でしかなく、例えば「生活を支えるための支援のご案内」(厚生労働省)をみると、今動いているコロナ支援はこれだけあります。
こうした資料を眺めていると、「ものすごくきめ細やかにやっている」感満載ではあるのですが、現況は「生活が立ち行かないし不安だ」という声がますます大きくなっているわけです。なぜなのでしょうか。
きめ細やかな支援対策のように見えて、いざ使おうと思ったら要件のハードルが高く、使うことができないものが多々あります。その使い勝手の悪さについては、これまた補正予算で計上される「国庫支出金返納金」及び「都支出金返納金」の多さから見て取れるのではないか、と思っています。
これは、国や都の補助金を受けた支援事業の予算を計上したのに、執行率が低かったために、受けた補助金を返還するというもの。そうしたことも補正予算として修正の計上がされます。もちろん事業や給付を行なっていないのですから、国庫や都に返さなければならないのは当然なのですが、ここまで見込みと違ってくるのはどうしてなのか。とりわけコロナ禍になってから、この差異は大きくなっています。
例えば豊島区においては、第4回定例会で補正をして「返納」するのは、福祉費、衛生費、子ども家庭費などの所管によるものが、国庫支出返納金634,599千円、都支出金返納金220,224千円となっています。中でも一番大きな額は、生活福祉課の「生活保護費負担額」の返還額で328,273千円となっています。
この内訳について福祉事務所所長に聞いたところ、生保受給者の医療費の申請が少なかったからとのことでした。コロナによる診察控えがあったのではないかという見立てです。また生保受給者数は微減ですが減ってきています。総務委員会の中でも、その点について質問をしましたが、これらの支援を必要とする人が少なくなったということではなく、支援の制度そのものが現状とずれているのではないかと考えるべきではないかと思います。
というのも、生活困窮者支援の現場からは、明らかに昨年よりも多くの人々が炊き出しに並ぶようになっている、支援団体に寄せられる電話相談の数も多く深刻な相談が増えているといった声が聞こえてくるからです。女性自殺者の数が増えているという事実もあります。これらのことを考えると、生保受給者が減少したからといって「生活困窮者への支援策が充実してきている」「コロナ禍で疲弊していた経済が上向きになった」などと楽観的な見立てはするべきでないはずです。
今年も、クリスマスが終わった後から、民間支援団体による「女性のための女性による相談会」や民間支援団体らによる炊き出しが、新宿や池袋で開かれます。この「女性のための女性による相談会」は、私も3月7月の開催時に引き続き実行委員会のメンバーの一人に入れてもらっていますが、DV相談、労働相談、心とからだの相談の専門家をはじめ、さまざまな分野の専門家や実務家たちがボランティアで関わり、相談開催に向けて毎週ZOOMで会議を重ねています。
困難な状況に置かれている方々のお話や状況を聞き取り、区が高らかに掲げている「誰一人とり残さない」「女性と子どもにやさしい」まちであるためには真に何が必要なのか、必要な支援策とは何なのかを、相談者の皆さんより教えてもらいたいという気持ちで相談会に臨みます。12月25日と26日は相談ブースにスタンバイしております。
情報が必要な方に届きますように……。以下を拡散いただければありがたいです。
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