3月8日、生活困窮者、特に外国籍の方たちへの検診、要治療者のフォローなどを行うNPO法人「北関東医療相談会」(通称:アミーゴス)が主催する記者会見が行われました。会見では、アミーゴスで行ったアンケート調査や当事者の声をもとに、外国人仮放免者(※)の過酷な生活実態が伝えられました。
※仮放免:入管法違反による収容を一時的に停止し、身柄の拘束を仮に解く措置。仮放免者のなかには在留資格がなくても帰国できない事情を抱えている人が多い
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適切な治療が受けられず亡くなる人も
昨年6月、マガジン9では「外国人の生活困窮者(仮放免者等)の高額医療費等の支援を求める記者会見」の様子をレポートしました。在留資格がなく、何らかの事情で国に帰ることのできない仮放免者は、収容こそされていないものの、就労が許されず、国民健康保険にも加入できず、「最後のセーフティネット」と呼ばれる生活保護を利用することもできません。
「収入がないので、食料も買えないし、家賃も払えないし、病院にも行けない。何もできません。こういう話をすると『でも、結局どうにかなるんでしょう?』と言われることがありますが、どうにもならないのです」と話すのは、アミーゴスの大澤優真さん。
昨年1月、アミーゴスが支援していたカメルーン出身女性のマイさんが、全身へのがんの転移で亡くなりました。入管収容の間から体調不良を訴えていましたが、適切な医療を受けることができず、仮放免となって収容施設から出たあとはホームレス状態になるほど生活に困窮しました。支援者や病院の支えでなんとか治療を受け、ようやく在留許可が得られるめどが立ちましたが、健康保険加入の手続きを進めていた矢先に、マイさんは亡くなってしまいました。もしも、もっと早くに医療が受けられていたら……。
こうしたことが実際に起きているのです。
「経済的な問題で医療機関が受診できない」が84%
2020年12月末時点で、全国にいる仮放免者は5781人。就労ができなければ、友人知人、支援者などを頼って生活するしかありません。友人や元同僚から借金をしているという人もいます。
こうした生活実態について知るため、2021年10月~12月にアミーゴスではアンケート調査を実施。アミーゴスや他団体が支援している人たちなど仮放免者450件(世帯)に生活実態の調査票を送り、141件の回答を得ました。その調査結果によれば、回答者の87%が20~50代。日本での滞在年数10年以上が66%と年数の長い人が多く、24%は子どものいる世帯でした。
生活状況を「とても苦しい」「苦しい」と答えた人は89%。また、経済的な問題で医療機関が受診できないという人は84%にものぼりました。
アンケートではこんな声も上がっています。
〈毎日一食しか食べていない。食料少ないので、かわりに毎日水を飲む。お腹すかないために〉
〈心臓の病気と糖尿病があります。私にとって最も大事なことは健康保険です〉
〈勉強している娘がいますが、その学業を支えることができません〉
〈同じ国の人に助けを求める。でも自分はお荷物だなあと感じて、恥を感じる〉
〈医者には6カ月以内に手術するようにと言われている。私には保険がないので、ひどく多額になります。息子も胸に痛みがあります〉
〈働きたい。貧困から抜け出したい。ずっと他人に頼るのではなく、自立して自分の力で生活したい〉
なかには、支援の見返りに性的関係を求めてくる人がいる、という非常にショッキングな回答もあり、仮放免者の置かれた状況の苛酷さが見えてきます。
先が見えず自由のない生活のなかで、病気をしても我慢するしかなく、だれかの支援に頼らざるを得ない苦しさーーそのなかには難民として母国から助けを求めて逃げてきた人もいれば、何年も日本人配偶者と暮らしている人もいます。帰国できない事情はさまざまですが、どんな事情であれ、在留資格がないからといって医療も受けられず、生存が脅かされる状況を放置していい理由にはなりません。
アミーゴスによる仮放免者生活実態調査の結果
「働きたい、自分の力で生きていきたい」
こうした状況を受けて、アミーゴスでは「仮放免者の生活と命を存続させるために必要なこと」として、4つの提言を出しています。
1)就労を認めること
2)国民健康保険など医療保険の加入を認めること
3)無料低額診療事業を行う医療機関への支援・未払補填事業の整備拡充を行うこと
4)生活保護法を適用すること
大澤さんは、4つの提言のなかでもとくに就労許可の重要性を強調していました。「調査結果を見ても働ける年齢層が多く、滞在年数も長い。働きたい、自分の力で生きていきたいと言っている仮放免者は多く、もっとも効果的かつ合理的。2021年に、入管は在留を希望するミャンマー人への緊急避難措置として就労許可を出しているので、できないことはないはずです」
アミーゴスの事務局長・長澤正隆さんは「無保険の外国人に対して、病院が通常の2倍、3倍で医療費を計算して請求するケースもある。そうしたことをやめて、仮放免者には国民健康保険の制度化を早急にしてほしい」と話します。国民健康保険に加入できないということは、医療費が全額自己負担になるということ。なかには、医療費を払えない人を対象とした「無料低額診療事業」で仮放免者を受け入れている病院もありますが、コロナ禍で日本人の困窮者も多くなっているなかで、医療機関への負担も大きくなっているのです。
「父親の治療費も、葬式代も出せなかった」
記者会見では仮放免者2人からの発言もありましたが、ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの男性の話も、非常につらいものでした。この男性はミャンマーで軍に反対する活動にかかわり、日本に逃げてきて15年以上になるそうです。難民申請が認められず、現在は3回目の申請中。2013年から仮放免となりました。
「2013年から仕事もできない。自由に動けない。病院に行けない。いままでどうやって生きてきたのか、いろんな人の助けをもらって、いろんな人に『お願いします』と頭を下げて助けてもらってこの場にいる。仮放免じゃなく、ビザを出してほしい。この国で仕事をちゃんとして、家族の面倒をみたい。ほかの人も助けたい。先月お父さんが死にました。死ぬ前にお父さんの健康状況がわかったけど、何もできない。お父さんの治療費も送れなかった。葬式代もだせなかった」
男性の父親はミャンマーでのロヒンギャへの弾圧によってバングラデシュに逃れ、十分な治療が受けられないまま亡くなったのだといいます。「もし治療が受けられたら、もう少し生きられたかもしれない」と男性は涙で声を詰まらせました。「日本に住んでいても、仮放免の制度がどんなに厳しいかを知らない人が多い」という言葉が胸にささります。
名古屋入管収容中に亡くなったスリランカ人のウィシュマさんの事件から、昨年は入管法改悪へ大きな反対の声があがるなど、入管問題に注目が集まるようになりました。しかし、十分な食事がとれず、子どもの給食費が払えず、がんになっても病院に行けないという仮放免者の過酷な状況はいまも変わらず、コロナ禍を受けて生活状況がさらに悪化するなかで一刻でも早い改善が求められています。そのためには、この問題に多くの関心が集まることと、その関心を私たちが示していくことが必要です。
こうした仮放免者の厳しい状況はあまり知られていません。多くの人たちが声を上げたくても上げられない状況だということも忘れてはいけないと思います。
(中村)
NPO法人「北関東医療相談会」(通称:アミーゴス)では、支援している仮放免者の治療費への寄付を募っています。通信欄に必ず「仮放免者への寄付」とご記入ください。
銀行名:ゆうちょ銀行
当座預金:アミーゴ・北関東医療相談会
記号:00150-9-374623
※NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)が事務局となっている下記の署名活動も現在行われています。
●【お金のない人から、高額な医療費をとらないで!】 コロナ禍で苦しむ移民・難民の命を守る制度を整えてください