いよいよ年末ですね。マガジン9にかかわるスタッフが1年を振り返りながら、それぞれの視点で「わたしの三大ニュース」を選ぶ恒例企画。今年はとくに、ロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相の銃撃事件、旧統一教会、安保3文書改定……と、足元から揺るがされるような出来事が続いた1年でした。日々ニュースが流れていきますが、年の瀬にしっかりと1年を振り返り、2023年に備えたいと思います。
【2023年の更新は1月11日(水)からです】
野増経木(編集者)
●岸田首相
安倍・菅政権の約9年間にウンザリしていたので、岸田さんが首相になったとき、どこかホッとする気持ちがあった。この人なら予算委員会の最中に質問者を野次るような幼稚なことはしないだろうし、記者会見で何を質問されてもはぐらかすようなずるいことはしないだろう、それだけでもマシかもしれない。もしかすると政策も期待できるかも──。政権発足当初、そんなことを思ったものだ。それから1年以上が過ぎたが、トンデモナイ勘違いだったと痛感する。他の人もあげているだろうから詳しくは書かないが、敵基地攻撃能力の保持&防衛費の激増(そして増税)、本格的な原発再稼働など日本の安保・エネルギー政策の大転換をさっさと決めてしまった。2022年という年は、後世からすると「ポイント・オブ・ノーリターン」であったと言われるのではないだろうか。
●プーチン大統領
私は、ロシア軍がウクライナ国境沿いに集結した段階でも「侵攻するわけないよ」と考え、2月の侵攻直後も「東部2州の制圧程度でロシアは矛を収めるはず」と早期終結を予想していた。ところが、ロシアの攻撃はウクライナ全土におよび、両国軍の死傷者は計20万人以上との推計もあるなか、解決の糸口は見いだせないままだ。まさか、今の時代に、プーチンがこんな戦争をするとは……。
1965年生まれの私にとって米ソ冷戦が続いた20代前半までは、戦争や徴兵制は現実的な恐怖だった。当時のソ連は今の中国や北朝鮮の比ではないほど恐怖の対象であり、北海道侵攻や核攻撃などリアルな事象として考えたものだ。「徴兵制になったら自分はどうするのか」と真剣に考えていた時期もある。その後、冷戦崩壊以降は、戦争はいつもどこか遠くで起こるものであり、歳を重ねるごとに徴兵される不安は薄れていった。今回、開戦後にウクライナでは「祖国防衛は市民の義務」とされ、18歳~60歳までの男性は出国を禁止された。仮に日本でも同じようなことになれば、いま57歳の自分も徴兵の対象になるのかと、ひさしぶりに「自分事」として戦争を考える機会になった。
●安倍元首相
選挙演説中に銃撃され死亡した安倍元首相。旧統一教会と自民党とのズブズブの関係を明らかにさせるきっかけとなったという点をもってしても、銃撃事件とその死の意味合いは大きかった。
死去後、安倍さんの功罪は色々と言われているが、どうしても不思議に思うのは、憲法九条改正についてどこまで本気だったのだろう、ということだ。第二次政権に就いてから国政選挙は負け知らずで、(区分けの仕方にもよるが)憲法改正発議に必要な衆参3分の2以上の勢力を常に維持していた。憲法改正の是非を問うための国民投票についても、投票法の「不備の解消」を、やろうと思えば一気に進めることもできた。国防軍を明記した2012年発表の「自民党憲法改正草案」を引き下げて、現行九条に自衛隊の存在を明記するだけの「ソフト改憲案」まで作った。これだけ九条改憲に向けての材料はそろっていたのに、安倍さんは最後まで憲法改正に向けて本気で動き出さなかった。
首相退任後に院政を敷いてコントロールしようと思っていたのか、はたまた3回目の登板で憲法改正を実現しようと考えていたのか。今となってはその真意は分からない。
安部さんがいなくなったことで、九条改正に向けた動きはやや後退するような気もするが、憲法九条改正に本当は興味がないであろう岸田さんが、ここでも大転換をしれっとやってしまうのではないか、そんな嫌な予感がする。
海部京子
2022年は、国内外で重苦しい出来事が続いた1年だったという印象が強い。ロシアによるウクライナ侵攻に心がざわつき、そうこうしているうちに安倍元首相銃撃事件が起き、旧統一教会問題に揺れる政治の世界は混迷を極めている……。その一方で、私たちの暮らしがじわじわと締め付けられる政策や事象が次々とあらわれた年でもあったように思う。
●記録的な値上げラッシュ
2022年は「記録的な値上げの年」になったと報じられている。今年の食品の値上げ品目数は2万品目を超えるらしい。食品だけでなく、電気代も、日用品も。原油や原材料の高騰、円安などがその要因で、値上げは来年も続く見通しだという。たしかにスーパーに買い物に行くたびに、そんなに高いものを買っているわけではないのに、財布からお札がどんどん出ていく感がある。
これからも私たちの生活がますます圧迫されるのは明らかなのに、政府は、光熱費の負担軽減やガソリン価格の抑制を示すだけ。とりあえず消費税を減税してほしいが、政府は検討すらせず、野党第一党までも消費税減税には消極的になってきた。どこが政権をとっても、生活のための支出に大きく影響する減税が実現しないのなら、もはや「選挙で野党が勝てば暮らしは変わる」と確信をもって言いづらく、頭が痛い。
●2023年インボイス制度導入?
消費税といえば、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が来年10月から導入されるとして問題視されている。このインボイス制度導入によって、消費税の「免税事業者」(年収1000万円以下のフリーランスのライターや編集者、アニメーター、個人タクシー、運送業、建設業の一人親方などなど多種多様な事業者)は打撃を受ける。
かいつまんでいうと、これまで消費税を納めなくてもよかった「免税事業者」は、税務署に登録申請をして「課税事業者」になり、消費税を納めることを迫られている。たとえばアニメーターが「課税事業者」にならず「免税事業者」のままでいると、「免税事業者」に仕事を発注するアニメ制作会社は仕入れ税額控除を受けることができず、税負担が増えるので、アニメーターに「課税事業者」になることを求めるか、報酬の値下げ交渉をするか、契約を打ち切ることにもなりかねない。
つまり「課税事業者」になっても「免税事業者」のままでいても、どちらにしても減収は確実。アニメーターや声優ほか、さまざまな業界団体は「インボイス制度が導入されれば廃業するしかない」と反対の声をあげている。
●軍拡増税の財源に復興特別所得税転用案
12月に入ってきたニュースは、防衛費増額の財源について、東日本大震災からの復興にあてる復興特別所得税からの転用案。震災から11年が経っても復興はまだまだ半ばで、私たちはすこしでも被災地の助けになればと納得して納税してきた。それを軍備拡大、防衛費増額のために使うなんてもってのほか。
安倍・菅政権から岸田政権になって、発足当初はもうちょっとマシな政治になると思っていた。ところが「お金のあるところから取らず、ないところから絞り取る」傾向は強くなっているような気がする。軍拡のための増税については、来年の地方選挙を見据えているのか、自民党内でも反対の意見があがっているというけれど、どうなることやら。非正規雇用者が約4割の時代、コロナ禍の中で生活苦を感じている人は増え続けている。この国の社会のどこに希望を見つけるか、本気で考えていかなければ。
鈴木耕
2022年は、ぼくにとってはあまり思い出したくもないひどい年だった。3大ニュースといっても、ほんとうにろくなことしか浮かんでこない。公私ともに、切ないことばかりが浮かぶ。あまり面白くもない、ぼくの3大ニュース。
●1.友人知己の死
とにかく、葬儀に出ることの多い年だった。数えてみたら7回も。
雑誌編集部時代の同僚や一緒に仕事をしたカメラマン。他社の編集者で飲み仲間だった女性。スタッフのお連れ合い。ぼくの姪。ぼくと同い年だった仕事仲間。そしてふるさとの、小学生時代からの親友。更には仕事上でお付き合いのあった方たち。
ほんとうに、切ない1年でした…。
●2.ああ、嫌な世の中だなあ
そんなぼくの鬱気分に拍車をかけたのが、世の中の嫌なニュースの連続。ロシアのウクライナ侵攻に始まる戦争。安倍晋三元首相の銃撃死で暴露された統一教会と主に自民党の黒い癒着。この泥沼は近来稀に見る酷さ。
そして年末に来て、岸田文雄首相の凄まじいほどの極右化。敵基地攻撃論やら原発政策の大転換。いったい誰が、そんなことを許したのか。きな臭さに震える寒さです。
●3.個人的な、あまりに個人的な
『孫』という歌があった。♪なんでこんなに可愛いのかよ、孫という名の宝物~ というような歌詞だったと思う。ばからしい、と思っていた。子どもと一緒の家族写真を年賀状にするような気恥ずかしさ。けれど、この歳になって「初孫」を得たのが、じわじわと身に染みてくる。ほんとうに可愛いのだ(爺馬鹿です)。
生まれたのは昨年(2021年3月)だったが、コロナのためにほとんど会えなかった。1年半にたった2回。そこで意を決して、孫に会いに出かけた。11月のことだった。これが3回目。楽しかった、ですっ!
西村リユ
●夫婦別姓めぐる訴訟で最高裁が上告棄却(3月)と、同性婚めぐる訴訟で「違憲状態」判決(11月)
選択的夫婦別姓については、「今年も進まなかった…」に尽きます。事実婚カップルらが「別姓での婚姻が選べないのは憲法違反」だとして国に損害賠償を求めた訴訟では、原告敗訴に終わった一審、二審に続き、最高裁が原告の上告を棄却。原告敗訴が確定しました。2人の裁判官が「違憲」との判断を示したものの、「子への配慮を踏まえた具体的な検討を重ねることが国会に期待される」と言われても、国会で一向に議論が進まないから司法に訴えているのに……という思いが募るばかりです(でも、違憲判断を示した2人、宇賀裁判官と渡辺裁判官の名前は、しっかり覚えておこうと思います)。
一方で、同性カップルが「同性での婚姻を認めない民法などの規定は憲法違反」だと訴えた訴訟では、賠償請求こそ棄却されたものの、同性同士の婚姻を認める制度がない状況は「違憲状態」であるとの判決が出ました。民法などの規定は「合憲」という結論になっていたりと、諸手を挙げて喜べるものではありませんが、「婚姻の自由」に向けた小さくない一歩だと思います。
●敵基地攻撃能力の保有を、議論なしに決定(12月)
やっぱり、このニュースを抜かすわけにはいきません。国会での議論も、選挙で信を問うこともなく、戦後70年以上の安保政策を大転換……。ついにここまで来てしまったのか、との思いがあります。そういえば、2月のロシアによるウクライナ侵攻後、政治家の間で「核保有の検討を」という発言が出たことも、大きな衝撃でした。
まさに「敵基地攻撃」だった真珠湾攻撃から81年、広島・長崎に落とされた原爆から77年。福島で事故が起こってから10年あまりしか経っていない原発が再び推進の方向へ動こうとしているのを見ても、多くの政治家たちは「過去から学ぶ」気がないとしか思えません。
●沖縄・辺野古での座り込みに対する「嘲笑」と、それに対するネット上の反応(10月)
元「2ちゃんねる」管理人のひろゆき氏が、沖縄・辺野古で基地建設に反対する座り込み現場を訪れ、「誰もいない」などと揶揄する内容のツイートをし、批判が集まりました。それ自体も嫌な気持ちになったけれど、さらにショックだったのは、それに賛同──というよりは、面白がるようなネット上の反応が少なくなかったことです。
基地建設をめぐっては、さまざまな声があることは事実です。反対運動のやり方に、批判する声があっても不思議ではありません。でも、そこで起きていたことは、「批判」でも「議論」でもなく、「嘲笑」であり「冷笑」でした。
圧倒的な力に押しつぶされそうになりながら、必死で抵抗を続けている人に、なぜ嘲笑や冷笑を向けられるのか。「真っ向から立ち向かう」ことよりも、離れたところから「分析」してみせ、時に呆れたような顔をしてみせることが、「冷静」な態度であるかのように言われるようになったのは、いったいいつからなのか。折しも、小学生の間での「流行語ランキング」1位がひろゆき氏の言葉(「それってあなたの感想ですよね」)だったとも報じられましたが、今の社会全体のあり方が、そこに表れているような気がします。
芳地 隆之
●日本の保守派が抱える矛盾が可視化された――旧統一教会と自民党の癒着
わが国には健全なナショナリズムが育たなかったことを痛感させられている。中国や韓国に対して強気な発言を繰り返す政治家が、実は反日カルト色が強い宗教団体と密接な関係にあり、そのことが明らかになった今も何も言及しようとしない。日本の保守派といわれる(あるいは自負する)政治家は、自らの権威を高め、それに従順な国民の国をつくりたいだけなのかもしれない。むしろ現在の中国と親和性が高く、北朝鮮の金王朝をうらやましく思っているのではないか。でなければ、日本の信者から献金と称して巻き上げた莫大なお金がかの国に流れていることを見過ごせるわけがないはずである。
一橋大学の中北浩爾教授の「自民党のここ20年間にわたる保守派の時代が問われているということだと思います。ですから、こういった点を含めてきちんと対応していく必要があるんじゃないかなと思います。特に家庭を崩壊させるような韓国発祥の教団と手を結んできた自民党保守派は、本当にナショナリストなのかということが問われていて、その欺まん性が明らかになった。これを総括して立て直していかないといけないと思います」という提言を彼らは真剣に受け止めることができるのだろうか。
●メルケルが首相に留まっていたら局面は違っていただろうか――ウクライナ戦争
ウクライナは人口規模で約5,200万人とフランスに匹敵し、経済的には旧ソ連全体の約20%を占めるロシア(同国は70%)に次ぐ第二の大国だった。同国がNATO加盟となればロシアにとっては脅威であり、その警告を何度も発したにもかかわらず、われわれに対する挑発をやめなかったことをプーチン大統領は開戦の口実にした。一方、西側にはウクライナをNATO加盟させる意思はなかった。現在のNATOにフランス規模の国が加わることは大きな変貌である。結果、ウクライナには武器だけが供与され、戦争は続いている。
リンクした記事には「メルケル氏は16年間の在任中、ロシアのプーチン大統領と何度も対話した。信頼関係を築いたはずだったが、今年2月の侵攻は防げなかった。メルケル氏の対ロ姿勢が甘すぎたのではないかという批判がある」との一節があるが、「対ロ姿勢が厳しければ侵攻は防げた」というのは、大国主義とはどういうものかを理解しない稚拙な見方だと思う。
「メルケル氏は08年時点で、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対した。『ウクライナが民主化の道を歩み続けねばならないと考えていたが、プーチンがそれを許さないだろうと確信していた』と述べた。当時、ウクライナに加盟の見通しを示していれば、ウクライナに甚大な被害がもたらされる懸念があったという」。リアリストたるメルケルの慧眼だと思う。
●あなたをイロモノとみていました、すみません――映画『エルヴィス』公開
クスリとドーナッツで太ってしまった身体を揺らしながら、『Love Me Tender』をムード歌謡のような甘い声で歌う、というエルヴィス・プレスリーへのイメージを壊してくれたのがバズ・ラーマン監督の映画『Elvis(エルヴィス)』だ。
幼少の頃の強烈なゴスペル体験をベースに、人種差別が激しい南部で彼はブラックミュージックを己のなかで血肉化していく。彼の音楽活動そのものが反人種差別のメッセージだった。自らの音楽に行き詰ったエルヴィスが黒人ばかりのメンフィスのビールストリートに車で乗り付けるシーンが忘れられない。そこでエルヴィスは若きB.B.キングと出会い、無名のリトル・リチャードの踊る姿を見るのである。
トム・ハンクス演じる怪しいマネージャー、パーカー大佐(戦時中はオランダにいたといわれ、現在はパスポートをもっていない)によりラスベガスのホテルに事実上幽閉され、エルヴィスが望んでいた世界ツアーは叶わなかった。もし日本公演が実現していたら、吉幾三の『俺はぜったい!プレスリー』は生まれなかったと思う。映画を観終わった後も、『Hound Dog』や『Jailhouse Rock』が頭のなかで鳴り響くなか、エルヴィスをイロモノと思わせたあの歌手と歌をぼくは呪詛した。
田端薫
●安保3文書の改定は、クーデターだ
今年の3大ニュースに何を選ぼうかと思案していたさなか、すべてを吹き飛ばすような大事件が起きた。安保3文書の改定である。元衆議院議員の首藤信彦さんは「これは国体の転覆をはかる岸田クーデターだ。国会の議論も選挙もなく、いきなり公共放送をのっとって、憲法違反の宣言をした」と怒る。
世の中の関心が旧統一協会問題やサッカーW杯に向けられている間に、閣議決定というおなじみの裏技で、国のかたちがねじ曲げられていく恐ろしさ。安倍政治以来の悪政、ここに極まれり、というほかない。
それを可能にしているのは「中国、やばいよね」「台湾有事は日本有事」という、国民の漠然とした不安感だろう。「どこかの国が突然攻めてきたらどうするの?」「殴られたら殴り返す、殴られる前にやっつける」などの素朴なたとえ話に、それはそうだけれど、と口ごもりつつ、でもそれ、「ゴジラが攻めてきたら」みたいな話じゃない? と、待ったをかけたい。人間、突然殴られたらなにかしらの抵抗、反撃に出るのは脊髄反射的な防衛本能で、それを安全保障論になぞらえるのは危険だ。
相手は宇宙人や怪物でなく、同じ血の通った人間だ。攻められないよう、戦争にならないように話し合う「外交」という知恵を人類は築き上げてきたではないか。今こそ憲法9条!
武器よさらば! 力でなく知恵を出し合おう。
●コロナはどこへ行った?
サッカーワールドカップ優勝を祝うアルゼンチンの、40万人という群衆を写したドローンの映像。その数にも圧倒されたが、久々に見るマスクなしの笑顔の、なんとまばゆいこと。ここではコロナ禍は終わったように見える。
一方、ゼロコロナ政策が破綻した中国では、感染者そして死者が急増して火葬場が満杯と聞く。
そして日本。反ワクチン陰謀論ではない、事実としてのワクチン被害が少しずつ明らかになり、高齢者の私も5回目接種をパスした。ところが12月21日の報道では、日本全国の感染者数が20万を超え、死者は300人を越える日もあるとか。やっぱりワクチン、打つべきか……。
そんなとき新聞で目にした「『コロナが落ち着いたら』とよく言われますが、落ち着く主体はウィルスでなく、私たちの認識」と言う人類学者の磯野真穂さんの言葉に深くうなずいた。ことコロナに関しては科学的エビデンスに基づいたただひとつの正解はなく、それぞれが落としどころを探っているようにみえる。
コロナ禍3年目の今、日本人の多くは心の底で「死者のほとんどが高齢者。死ぬ時期がちょっと早まっただけ。ただの風邪扱いでいんじゃない? まあ、マスクだけは周りの目があるからはずせないけど」と、考えているのではないか……もやもやする。
●マインドコントロールはいつでもだれでも
3つめのお題はやっぱり旧統一協会。「先祖解怨」とか「日本はエバ国」とか、こんな荒唐無稽な話を信じる人がいるのかと、初めは驚いたが、わらにもすがりたいという人の弱みにつけ込んだ巧妙な手口に、慄然とした。
思い出したのは1980年代に流行ったアメリカ発の自己啓発セミナー。こちらは人の不幸につけ込むのでなく、もっと自分を変えたい、高めたいというプラスの引力で若い人を引きつけ、一大ブームになった。私の職場でも好奇心が強くて勉強熱心、向上心のある明朗闊達な人が、次々に自己啓発セミナーの“沼”にはまっていった。初級コースから中級、上級へとボーナスをつぎ込んで、妙に明るい顔をして、周りの人を勧誘していた。セミナーの内容は秘密で受講料は数十万円、カルト臭がぷんぷんしていた。異様で不気味、不快な思い出である。
マインドコントロールの手法は、旧統一協会のように、脅かしたり怖がらせたりするだけではない。深刻な悩みがある人や情報弱者だけがターゲットになるものでもない。明るく、今風に、科学的理論的エビデンスを装っていることもある。いつでもだれでも陥る可能性がある底なし沼と心得よう。
山下太郎
私が所属している雑誌編集部(マガジン9ではなく)では、その週に見たコンテンツでおもしろかったものを最低1つ、その理由を添えて書く業務があるので、そのメモを参考に。今年のニュースをコンテンツと絡めて振り返ってみると……
●テレビ番組:「映像の世紀バタフライエフェクト」
膨大な映像資料を駆使して、切り口と編集で新しさをつくる。どこから見つけてきたんだ……と思わせる「つながり」の発見、その構成力に毎回驚かされた。今年のラインナップを見ると、「スターリンとプーチン」など現在もつづくウクライナ戦争への視点がやはり目立つが、メルケルとその退任式で流れた『カラーフィルムを忘れたのね』を歌った歌手のニナ・ハーゲン、ゴルバチョフとロックバンド「キノー」ボーカルのヴィクトル・ツォイという、政治と音楽とのつながりも興味深かった。12月29日にBS1で「スターリンとプーチン」など4本が再放送されるので、再見したい。
●小説:真山仁『墜落』
朝日新聞デジタルに載っていた真山仁さんのインタビュー記事をきっかけに読んだ小説。沖縄で自衛隊の戦闘機(ただしアメリカ製)が墜落し、住民1人が巻き込まれた事件をきっかけに、基地、貧困、日米の軍事的な関係性など、日本に内在する問題を掘り下げていく。防衛費増額の本質でありながらどこか漠然とした「国を守る」とは実際にどういうことなのかが、これまでより近く感じられた。同じ登場人物(シリーズ化している冨永検事や暁光新聞の神林記者など)が出てくる『標的』(日本初の女性総理大臣と介護業界)や『コラプティオ』(原発と政治のあり方)も読んだが、取材した成果をエンターテインメントに昇華していく力量に感嘆した。
●ドラマ:「エルピス―希望、あるいは災い―」
この原稿執筆時点ではまだ最終回放送前だけど、今年いちばん楽しんだ連続ドラマ。えん罪事件を追うテレビ局内部の様子をリアルに描いた……という話だけど、ほんとうにコレがリアルでいいんですか!? テレビ局の看板ニュース番組のディレクターが、「スクープはリスク高いからできない。ほかが報道した後なら安心してやれるけど」といった内容の発言をあっさりしてて大ショック。
気鋭のプロデューサー・佐野亜裕美さんが、この企画を実現させるためにカンテレに移籍したことも有名だけど、そりゃ(佐野さんが以前勤務していた)TBSではつくれないでしょう。だって、「自分の局はこんな感じです」と、フィクションを通して自白しているようなものだもの。
技術スタッフK
●核のヨクシからオドシへ
「核には核を」の危ういバランスで成り立っていた世界秩序だったが保有国が核を脅しに使った。核不使用でもこれほどの蛮行を行ったロシアはどのツラ下げて国際舞台に戻ってくるのだろうか。小型核兵器であったとしても使用してしまった場合、核保有国はどうするんだろう。お咎めなし、なんてことになったら小型核ならOKという認識で混沌とした世界になってしまうのか。
そもそも有事の際には海に囲まれた日本への運搬は不可能になるのは明白。食料自給率38%程度(カロリーベース)、エネルギー自給率は12%程度、簡単に枯渇するだろう。国外へ退避しようにものんびり船で渡るなんて非現実的。サイバー戦争? 島国日本、海底ケーブル接続拠点を叩かれれば情報寸断だ。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220208/se1/00m/020/046000c
それ以前に、日本海側に大量の原発。国民の命より原発防衛に自衛隊配備しそうですね。
●それなのに原発回帰、粛々と進めるであろう海洋排出
復興五輪・アンダーコントロールと復興したかの如くアピールし、防衛費のために復興予算を流用。期間を延ばした分は国民の負担は増えるし、何よりも延長期間分復興を遅らせるという被災地・被災者を税金徴収の項目としか見ていないような政策だ。
粛々と進めるであろう海洋排出計画では処理水を1万トンずつ、最長約2カ月かけて分析した後に放出するらしい。
https://www.chunichi.co.jp/article/521082
核燃料に触れた水を一部除去・処理するとは言え、そこには様々な物質が含まれる。原発施設に詳しくないが、使用済み核燃料プールの水は循環させて漏れ出さないように管理されているらしい。
この海洋放出は、今後、使用済み核燃料棒が処理されたとしても、そこに残るプールの水を海洋放出で処理するための布石にも思える。使用済み核燃料の保管上限が2011年の原発事故で原発停止していたため問題が先延ばしになっているだけだが、再稼働すれば容量に達してしまうだろう。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/221560/
●問題多すぎオワコン日本
・組織委員会解散した途端に? 不正が次々と暴かれた汚倫ピック
→招致の時に「表無し」と裏の金を示唆?
・戦後レジームからの脱却と言い張ってたあなた自身がまさにソレ
・重要裁判記録破棄
→紙資料の保管が大変なのは分かる。しかし、世界に遅れてデジタル化の推進をドヤ顔で言ってませんでしたっけ?
・新型コロナで死者出ようが経済停滞しようが3年経ってもこれとした政策なく
→旅行支援や食事支援を利用できないほど困窮している人を支援するのが政治だろうに
・倍増大好き総理
→所得倍増 ⇒ 資産倍増 ⇒ 防衛費倍増 ⇒ 不支持率倍増
「見栄を張るため外装・船内に借金でお金をかけ豪華にするも、船体には穴が開き浸水、座礁しているため沈没しない代わりに、にっちもさっちもいかない」。これが今の日本の現状なのかな。
中村
●「希望のポリティックス」を杉並区で
4年前、「ミュニシパリズム」という言葉を初めて聞いたとき、「ミニュシ…いや、ミュニシ??」と舌を噛みかけたのを覚えています(本当に)。ヨーロッパ在住の岸本聡子さんによる「ヨーロッパ・希望のポリティックスレポート」の連載が開始したのは、2019年1月のこと。その後、2カ月に1回ほどのペースで、日本ではなかなか得られないヨーロッパの市民運動や地域自治が広がる様子を伝えていただき、毎回原稿が届くのを楽しみしていました。
その岸本さんが、なんと今年私の住む東京・杉並区で区長選に。対話を重視した住民参加型の新しい選挙スタイルはメディアでも伝えられた通りです。個人的にも、この選挙の応援を通じて、同じ地域に住む人たちや活動との新しい出会いがあり、地域にあるさまざまな課題に気づき、自分の暮らす地域、そして区政のことが前より身近になりました。
以前は連載の原稿を手にしながら、どこか「やっぱりヨーロッパの市民はすごいなあ」という気持ちでいましたが、その“希望の政治”が、自分の地域で、身近な人たちのなかから始まろうとしている――久しぶりにワクワクする出来事です。
●かつてないほど「戦争」を身近に感じた年
ウクライナ侵攻、沖縄で進む自衛隊配備や日米合同演習、そして防衛費倍増にまい進する日本の姿……これほど「戦争」を身近に感じた年はありません。マガジン9で連載中の三上智恵さんが共同監督された映画『沖縄スパイ戦史』を今年あらためて観なおしたのですが、数年前に見たときとは感じるものが違っていました。これは「未来」の自分たちの姿ではないかと、また私たちは同じことを繰り返すのではないか、とゾッとする感覚がありました。
コロナや気候変動の影響、エネルギーや食料問題など地球規模で取り組まないといけない問題が山積みで戦争どころではないはずなのに…と思う一方で、そういうときだからこそ戦争が起きてもおかしくない、とも思います。いずれにしても、いま分岐点となる時代にいるのだという恐ろしさを感じています。
●しれっと突き進む「原発を最大限活用」
「初めて政治に興味をもったり、デモに参加したりしたのは3・11の原発事故のあとだった」という人が、私の周りにはけっこういます。各地で原発事故による被害の賠償を求める裁判は続いていて、今年から「311子ども甲状腺がん裁判」も始まっています。
そのくらい福島第一原発の事故は大きな出来事…だったはず。しかし、なんだかしれっと「原発の最大活用」を進めている岸田政権。びっくりするほど長期間運転できるようにしたり(ちなみに私の住む雑居ビルは築四十数年で、水道管やらあちこちに不具合がでてきて、階段や壁のタイルも割れたりしているのですが、60年超の原発って…)、次世代原発への建て替えを検討したりと、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議とやらで原発活用の方針がどんどん決められていきました。いったい原発事故の教訓はどこに?? 日本は、とことん過去は振り返らないと決めている国なのでしょうか。ちなみに経産大臣とGX実行推進担当大臣は同じ人。復興税を防衛費増額のために転用という話まで出てきて、「命よりも経済」という姿勢をありありと感じます。