5月末に私は『ザイム真理教──それは信者8000万人の巨大カルト』という書籍を上梓した。発売から2週間で、5刷り、3万1000部と、ちょうど20年前の『年収300万円時代を生き抜く経済学』以来のヒット作となっている。ただ、20年前と大きな違いを感じざるを得ないのは、いまの日本では、財務省批判に関しては、言論の自由がとてつもなく制限されているということだ。そのことを論ずるために、まず『ザイム真理教』のなかで、私がどんな主張をしているのかを簡単にご紹介しておこう。
多くの経済学者が、日本だけが経済成長できない原因として、日本の財政緊縮を挙げている。例えば国民負担率(税・社会保障負担が国民所得に占める割合)は、私が社会に出た1980年には30%だった。それが、ほぼ一貫して上昇し、昨年度は48%まで上昇した。3割負担から5割負担になったのだ。その結果、消費税導入前の1988年と2021年の家計を比べると、世帯主所得は、税金と社会保険料、および消費税負担を差し引くと伸びがマイナスになっている。もちろん賃金は上がっているのだが、手取りが下がっているのだ。手取りが下がれば、ない袖は振れないから、消費が低迷する。つまり、日本経済が成長しない原因は、増税・社会保険料アップに一番の原因があるのだ。
これは、本来であれば、財務省にとっても望ましい事態ではない。もし余計な増税などせずに、普通のことをやっていれば、今頃日本経済の規模は3倍くらいにはなっていて、税収も3倍になっていたはずだからだ。また、アベノミクスで異次元金融緩和をしたときも、たった1年で消費者物価上昇率は2%弱まで上昇し、デフレ脱却寸前まで行ったのにもかかわらず、2014年4月の消費税率引き上げによって、日本経済は再びデフレに転落してしまった。
そうした緊縮財政がもたらした害悪は、多くの学者や評論家が指摘しているにもかかわらず、彼らが指摘しないことがひとつある。それは、なぜ財務省は、わざわざ日本経済と国民生活を破壊するようなことを続けるのかということだ。私ははっきりと主張した。財務省が非合理な政策に打って出る理由は、財務省が「ザイム真理教」というカルト教団だからだ。増税を続けるというのは、ザイム真理教の教義だ。だから、国民生活がどうなろうと、日本経済がどうなろうと、お構いなしに増税を続けるのだ。
ところが、国民の7割近くが財務省の施策に理解を示している。財務省が増税を続けることへの説明は、およそ次の通りだ。「日本はいま世界最大水準の借金を抱えて首が回らなくなっている。この状態を放置すると、国債や円の暴落、あるいはハイパーインフレが訪れて、日本経済は破滅してしまう。さらに借金は、子の世代、孫の世代まで付け回され、彼らの未来を奪ってしまう。それを防ぐためには消費税を引き上げるなど、増税を続ける以外の道はない」というものだ。私は、この財務省の主張は、カルト教団が信者から献金を集めるために使っている次のような論理と同じだと考えている。「あなた、悪霊がついていますよ。このまま放置すると、孫子の代までたたられますよ。それを防ぐための方法は一つしかありません。この100万円の壺を買いなさい」。
どこが同じかというと、まず、財務省が唱える「日本の財政は破たん状態」という現状認識がまったくの誤りなのだ。日本政府は、2020年度末で1661兆円の負債を抱えている。しかし、同時に資産を1121兆円抱えているので、ネットの債務は540兆円に過ぎない。ネットの債務はGDPの100%を下回っており、先進国ではごく普通の水準だ。しかも、日銀が保有する国債は、実質的に返済が不要なので、その分を除くと、日本の純債務はたった8兆円しか存在しない。日本は借金のない世界一健全な財政を実現しているのだ。ところが財務省は、「借金で首が回らない」と言って、次々に国民に対して増税や社会保険料アップを押し付けている。しかも、国家公務員の賃金は民間平均よりも5割以上高い。民間の正社員と比較しても3割高い。天下り官僚は、さらなる高給に加えて、専用車、秘書、個室、交際費、海外旅行の豪華5点セット付きだ。
ここに財務省のカルト性が表れる。財務省は宗教的だという指摘があるが、財務省は宗教ではない。宗教も確かに信者から献金を求めるが、それは信者の生活を破壊するほどではない。宗教というのは、あくまでも信者の現世での幸福を願う団体だからだ。ところが財務省は、信者の生活が破たんしてもお構いなしに増税を続け、そして献金によって、自分たちだけが豪勢な暮らしを続けているのだ。ただ、もしかするとザイム真理教は、カルト教団より悪質なのかもしれない。カルト教団は、信者から高額献金を受け取るが、ザイム真理教は非信者にも献金を強要しているからだ。
詳しいことは、ぜひ本を読んで欲しいのだが、いま書いた中身のことをきちんと証拠を揃えて、私は昨年末から今年の年初にかけて、一気に書き下ろした。どこかの出版社に頼まれたわけではない。ただ、どうにかなるだろうと高をくくっていた。というのも、私はこれまで100冊以上の単行本を出版していて、出版社とはそれなりのコネもあったし、最近自分自身で書いた本は、ほぼ間違いなく増刷まで進んでいた。増刷になるということは、出版社が利益を出せるということだ。
ところが、脱稿して、大手出版社に原稿を送ると、ことごとく出版を拒否された。これまでそれなりの付き合いをしてきたので、「どこが問題なのですか」と聞いたのだが、この表現がまずいというレベルではなく、そもそも財務省をカルト呼ばわりすること自体が許されないのだという。しかし、私が書きたかったのは「財務省はカルトである」ということだから、大手出版社がそのスタンスを取る限り、私は先に進めない。これまで付き合いのほとんどない大手出版社にも、知人を通じてアプローチしたのだが、どこも答えは一緒だった。
3月には、私は半ばあきらめてかけていた。そこで頭に浮かんだのが、三五館シンシャという小さな出版社だった。この会社は、現役メガバンク行員とか路線バス運転手、ディズニーのキャストなど、実際に働いている人の手記を通じて、本当の労働環境を世間に伝える「日記シリーズ」というユニークな書籍を出版している。そこで、ダメ元で原稿を送ってみた。するとすぐに返事が来た。「この本は、世に問う価値のある本だと思います」。
そこからは、とんとん拍子で話が進み、晴れて5月に出版できた。もちろん、財務省を批判することには大きな勇気が必要だ。冤罪で逮捕されるかもしれないし、スラップ訴訟に巻き込まれるかもしれない、税務調査が入ってくるかもしれない。ただ、三五館シンシャの社長は、そのリスクを引き受けてくれたのだ。結果、私の著書は、三五館シンシャの最大のヒット作となったと思う。『ザイム真理教』は、発売直後から2週間、経済関連の書籍ではトップを走り続けた。そして、私のところには、著者インタビューやこのテーマを取り扱う記事や番組の出演依頼が殺到した。しかし、そこで重大なことが分かったのだ。
私に接触してきたのは、全国のラジオ局、一部の週刊誌、タブロイド紙、ネットメディアだけで、テレビ番組、大手新聞社、一流週刊誌からの接触は、いまのところ皆無だ。もちろん財務省からの抗議もない。『年収300万円時代を生き抜く経済学』がヒットしたときは、すべてのメディアからの接触があった。今回は、大手メディアはなぜまったく動かないのか。私は、大手メディアが軒並みザイム真理教の信者になってしまい、この書籍をなかったことにしようとしているのだと思う。
とんでもない陰謀論と思われるだろうか。しかし、大手新聞社の本社(旧本社を含む)は、軒並み国有地を払い下げた土地に建てられていて、宅配の新聞だけは軽減税率が適用されている。そのことと、今回の異次元少子化対策に関して、大手新聞各社が、「堂々と増税を打ち出すべきだ」という社説を並べたこととは、無関係なのだろうか。
ザイム真理教は、高級官僚、富裕層、大企業とタッグを組んでいる。だから献金集めの対象は、基本的に庶民だ。そのため日本ではとてつもなくおかしな税・社会保険負担構造がこっそりと存在している。例えば、年収400万円の普通のサラリーマンに適用される税・社会保険料負担率よりも、年収100億円の超富裕層のほうが負担率が小さいという、誰がどう考えてもおかしなことがまかり通っている。こうした構造はたくさんある。例えば、10億円の退職金を得ても、その半額には1円も課税されない。親と同居する子が自宅を相続するとき、それが都心の大豪邸であったとしても、土地の相続税評価額は8割引きになるといったものだ。
庶民は重税地獄で、富裕層と大企業はタックスヘイブン。それが日本の実態だ。そうした事態をもたらした最大の原因が、「借金で首が回らない政府が、破綻を防ぐためには増税をすることはやむを得ない」というザイム真理教が主張するウソを信じてしまったことだ。政府の借金は8兆円に過ぎないというのは2020年度末の話だ。その後、岸田政権の猛烈な財政引き締めと増税、そして日銀の大規模国債購入によって、いま日本政府は世界一の借金を抱えているどころか、貯金を持っている状況になっているとみられる。それでも、インボイス制度の導入、復興特別所得税の期間延長、高校生に対する扶養控除の廃止、退職所得控除の圧縮など、政府は増税メニューをずらりと並べている。その一方で、被害者であるはずの庶民のなかで消費税の引き下げを支持する人は、4割しかいないのだ。
カルト教団にひっかかる人は、お人好しが多い。しかし疑いの目を持たないと、信者の生活は破壊されていく一方になる。ザイム真理教の場合は、信者だけでなく、非信者の生活も同時に破壊されていく。いますぐ目覚めないと、地獄は目の前だ。