昨年、杉並区長に就任した岸本聡子さんがコラムで紹介してくれていた、ヨーロッパで広がる「ミュニシパリズム(地域主権主義)」。地域住民が主体となって、自分たちの手に「公共」を取り戻し、人々の生活を守るための政策を展開していくさまの力強さに、希望を見いだした人も多かったのではないでしょうか。
今、日本でもそのミュニシパリズムに通じる新たな潮流が姿を表しつつあります。ここから地方政治を、そして国の政治をどう変えていけるのか? 岸本さんと、地方自治体の首長や議員らをつなぐネットワーク「Local Initiative Network(LIN-Net)」を立ち上げた世田谷区長の保坂展人さん、政治学者の中島岳志さんに、じっくり語り合っていただきました。
ほさか・のぶと 世田谷区長、ジャーナリスト。1955年仙台市生まれ。96年に衆議院議員初当選、3期11年を務める。2011年、世田谷区長に初当選。23年、4選。著書に『闘う区長』(集英社新書)『88万人のコミュニティデザイン』(ほんの木)など。中島岳志との共著に『こんな政権なら乗れる』(朝日新書)。
きしもと・さとこ 杉並区長、公共政策研究者。1974年東京都生まれ。20代で渡欧しアムステルダムを本拠地とする政策シンクタンク「トランスナショナル研究所(TNI)」に所属。新自由主義や市場原理主義に対抗する公共政策、水道政策のリサーチおよび世界の市民運動と自治体をつなぐコーディネイトに従事。22年に杉並区長選挙に立候補し、同区初の女性区長となる。著書に『水道、再び公営化!』(集英社新書)『地域主権という希望』(大月書店)など。マガジン9でコラム「ヨーロッパ・希望のポリティックスレポート」を連載。
なかじま・たけし 政治学者。1975年大阪府生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授、未来の人類研究センター教授を兼任。専門は南アジア地域研究、近代日本政治思想。著書に『「リベラル保守」宣言』(新潮文庫)『思いがけず利他』(ミシマ社)『テロルの原点』(新潮文庫)、共著に『いのちの政治学 リーダーは「コトバ」をもっている』(集英社クリエイティブ)など多数。
4月の統一地方選で起こった変化
中島 今年4月の統一地方選では、女性議員が議会の半数を占める自治体がいくつも誕生するなど、女性議員の増加がメディアでも話題になりました。これ自体も、もちろん注目すべき変化なのですが、私はそれ以上に重要なのは、「彼女たちが何を訴えて当選したか」だと思っています。
つまり、女性に限らず、今回勢いをもって当選した新人議員の多くが、気候変動やジェンダーなどこれまで「票にならない」といわれてきたイシューを主張の中核に置いていた。それに対し、特に若い世代が敏感に反応するという、これまでにない新しい芽が見えてきたのが今回の統一地方選ではなかったかと思うのです。
こうした変化は、岸本さんがコラムやご著書で紹介されている、ヨーロッパを中心に広がってきたミュニシパリズム(地域主権主義)の流れの中に位置づけられるかもしれません。今日はそれについてもお話ができればと思いますが、まずは統一地方選の振り返りからお願いできますか。
保坂 3月のLIN-Netイベントで、統一地方選に出る若い候補者4人に登壇してもらったのですが、彼ら、彼女らは全員、気候危機対応や貧困格差の解消などを訴えて、かなり上位で当選しました。それ以外のケースでも、「地盤、看板、カバン」、つまり親族に政治家がいたり、選挙資金が潤沢にあったりするような人でないと地方選とはいえ当選は難しいという、これまでの「選挙の常識」が覆されるような結果が数多く出ています。
私の地元の、「地盤、看板、カバン」で当選したような古参議員たち自身からも「自分たちのような古いタイプの政治家は今後難しいかもしれない」という声を聞きます。まだマスコミの報道などでは顕在化していないかもしれませんが、たしかな変化が起きていると言っていいのではないでしょうか。
岸本 杉並でも、気候変動やジェンダー、多様性などの新しいテーマを訴えて当選した候補が目立ちました。これらは、どれも生活者には密着したテーマであり、かつては政治からは排除される傾向にあった女性や若年層、LGBTQなどのマイノリティの人たちにとっては、「人権を守る」という、極めて常識的な、そして国際的な感覚の訴えでもあります。それが、これまでになく有権者に届くようになったと感じました。
こうした「常識的な感覚」「国際的な感覚」を封じてきたのは、これまで政治の世界で広く共有されてきた、伝統的家族観や昭和的な成長モデルといった価値観だったのではないでしょうか。そうした価値観がもはや若い世代には届かなくなり、封印が解けるという現象が各地で見られたのが、今回の選挙だったように思います。その意味では、ラディカルな変化が起こったというよりは、むしろ選挙結果が生活者の感覚に近づいたといえるのかもしれません。
岸本聡子さん
住民が、直接的に政治に参画する──ラディカル・デモクラシー
中島 今回の選挙でもう一つ感じたのは、既成政党のこれまでの合意形成の方法が否定されてきているのではないかということです。
先ほど、この変化をミュニシパリズムの流れにどう位置づけるかと言いましたが、ミュニシパリズムにおいては実行される政策だけではなく、意思決定の手法も非常に大事になってきます。その意思決定の方法についての人々の考え方に、日本でも大きな変化が起きつつあることが、今回の地方選結果にも表れていたと思うのです。
自民党に代表されるような、露骨にパターナルな合意形成の手法──当選回数の多い年長者の議員があらゆる決定権を持っていて、若手はそれに従うしかないという──への「ノー」の声はずいぶん前からありました。しかし今回は、それに加えて左派のパターナリズムにもノーが突きつけられたといえるのではないでしょうか。
たとえば立憲民主党も、設立時には「立憲民主党はあなたです」と訴え、「りっけんサポーターズ」を結成して、これまでとは違う意思決定の方法を模索しているように見えました。しかし結局はトップダウン型の意思決定から抜け出せず、国民民主党との勢力争いまで始めた。共産党の党首選をめぐる問題が表面化したときもそうですが、その意思決定の仕組みや体制がパターナルで、有権者の声を取り入れていく気がないことが明らかになったときに、多くの人たちが離れていったのではないかと思うのです。
保坂 選挙のときだけ有権者に「お願いします」と頭を下げ、当選すれば有権者との対話は終わり、あとは全部任されたから好きにやる──。こうした代議制民主主義の時代遅れな解釈から抜け出せずにいるのが自民党や公明党だと思いますが、立憲民主党や共産党などリベラルと呼ばれる側も体質的には変わらないのかもしれませんね。今回、議席数を伸ばした維新もその点では同じで、「参加と協働」といったことは皆無に近く、住民との対話よりも「強いリーダーシップによるスピード感のある決定」を重視しているように見えます。
中島 政治学の分野では近年、民主主義をリニューアルして機能させていくためには「ラディカル・デモクラシー」が必要だという議論が盛んに行われてきました。ここでの「ラディカル」は「急進的」というよりも「直接的」ととらえたほうがわかりやすいと思います。つまり、人々がただ選挙に行って「あとは議員さんにお任せ」にするのではなく、当事者の一人として直接的に政治と関わることが、民主主義をより活性化していくのではないかという考え方が注目されているんですね。
にもかかわらず、既存政党は有権者の声に耳を傾けようとしないままです。その中で、保坂さんは12年間の世田谷区政において、住民との対話による合意形成を重視する「熟議デモクラシー」によって、ラディカル・デモクラシーを実践してこられました。下北沢の再開発計画に代表されるように、トップダウンで「こうしよう」と決めるのではなく、何度も住民が集まって話し合いを重ねながら方向性を決めていくというグラスルーツの意思決定ですね。そのことが、4月の世田谷区長選での4期目当選という結果にもつながったのではないかと思います。また、昨年岸本さんが当選された杉並区長選挙も、そうした参加型のデモクラシーを可視化したような選挙だったといえるのではないでしょうか。
岸本 ラディカルが「直接的」という意味だというのは大切なポイントですね。主権者としての意識というのは、表には出ていなくても、みんな潜在的には持っているものだと思うんです。だから、ちょっとした気づきさえあれば、そこから投票行動が変わっていったり、投票だけではなくてチラシ配りに参加してみたりと、より主体的に動くようになる人も多いのではないでしょうか。さらには、選挙の時期以外にも、子育てや介護、まちづくりなど、自分の関心のある分野の活動に参加してみようと考える人も出てくるかもしれない。そうするうちにそしてまた選挙が始まって……といういい連鎖が、そこから生まれてくるのではないでしょうか。
そのようにして「主権者であること」に自覚的な市民を増やしていくことが、ラディカル・デモクラシーを実現するプロセスの一つのように思います。そのためには、行政としてもさまざまな、直接民主主義の手法を取り入れた仕組みをつくっていくことが必要だし、首長の力量が問われる部分ではないかと考えています。
新自由主義に対抗する「社会モデル」を示す
岸本 保坂さんの世田谷区政12年は、私がヨーロッパにいるときに注目していた、スペインの市民政党であるバルセロナ・コモンズとも重なる部分があると感じています。バルセロナ・コモンズは2015年からバルセロナ市の連立与党の一員になっていますが、「ネイバーズ・アソシエイション(隣人の共同体)」と呼ばれる自治会のような組織で地域のことを決める仕組みをつくるなど、本当に地道に地域に出ていっているんですね。熟議や合意形成、そして地域のことは地域で決めるというプロセスを、非常に重視しているんです。
そしてその上で、これまで力をふるってきた新自由主義に対抗する、そして新自由主義のもとで奪われたものを回復していくような政策をどんどん進めている。公的なケアサービスや葬儀サービスの提供、住宅からの強制退去をなくすといった「住む権利」の保障、それから車ではなく歩行者の目線を大事にした都市計画……。こうした方向性も、保坂さんがやってこられたことと非常に重なる気がしています。
保坂 今おっしゃったケアサービスや葬儀サービスというのは、政治家であっても社会運動家であっても、とにかく誰でもいずれは必要になるものですよね。ところが今、そうした分野にもどんどん派遣労働が入ってきて、介護保険料などを原資とする利益が派遣会社に流れているのが現状です。この20年間、日本でも新自由主義的な「改革」が進み、公共性の高い分野こそお金になるとして、公的な資源をどんどん収奪してお金に換えるという構造がつくられてきたからです。
これは、自公政権的な、あるいは維新的な改革ともいえると思いますが、それが正当化され続けてきたことが、日本をどれだけ貧しくし、どれだけ人々を苦しめてきたか。そのことをしっかりと批判しながら、違う形の新しい社会像を明確に示していくことが有効だと思っています。
たとえば、世田谷区は「協同組合の父」といわれる賀川豊彦が暮らした地でもありますが、協同組合運動の根幹には、「貧困をどうなくしていくか」という思想がありました。今こそ、この思想を社会化していくときではないかと思います。あるいは、経営者がおらず、働く人がみんなで出資をして、さまざまなことを話し合いを通じて決めていくという「労働者協同組合(ワーカーズコープ)」についても、昨年10月に法律が施行されました。こうした非営利・協働の力を通じて、サービスの提供を保障するとともに、現場で働く人たちの待遇や地位も改善し、若い世代がどんどん入ってこられるような仕事にしていく。そのための仕組みを、自治体も参画してどう構築するかを考えるべきではないかと思っています。
実現には時間がかかるでしょうし、どちらかといえば地味な取り組みかもしれません。しかし、ケアや葬儀という、誰もが無縁ではいられない分野に変化が起こっていくことの意味は、人の人生にとって極めて重いのではないかと思います。
岸本 公共の存在であったものを市場化していく新自由主義的な改革においては、たしかにそこにいるはずの労働者、働き手の顔が見えないんですよね。しかも、その労働者たち自身が、自分たちの首を絞めることになるにもかかわらず、そのことに気づかずに改革を支持しているという構造がある。それに対抗するには、「そうじゃないモデルがある」ということを、魅力的な形で示す必要があるんだと思います。
私は最近、「地域経済を実装する」という言い方をよくしているのですが、先ほどお話に出たケアサービスのように、公費を使ってサービスを提供することで、地域でのサービス内容を向上させるだけでなく、地域の中でお金が循環してサービスに従事する人の待遇も底上げされていく構造をつくる。これは経済戦略として、圧倒的な正当性があると私は思います。
さらに、保坂さんがおっしゃった協同組合は、グループの方針や働き方を働き手が自己決定して、サービスや利益を民主的に分け合っていくというものですが、これはまさに小さな民主主義の実践ともいえますよね。人々がそれぞれに、職場で民主主義を実践し練習していく。これもまた、ラディカル・デモクラシーです。それが正当性を持った経済戦略と重なれば、これは自民党的な、あるいは維新的なものを超える、本当に大きな力を生み出しうるのではないかと思います。
中島 これだけ経済格差が大きくなっている今、世論調査などを見ても、新自由主義に対するノーへの共感はかなり広がっていると思います。そして、その一方でもう一つ、自民党に代表されるような「古い政治」にも拒否感を持っている人が多くて、この二つの「ノー」の方向性を支持する人が、実はマジョリティなんだと思うんですね。
ところが選挙になると、この層がなぜか維新に流れていってしまう。最初のほうでお話が出たように、維新は実際には「参加と協働」を嫌うパターナルな政党で、むしろ新自由主義を押し進めてきたといえますが、「既得権益の打破」「身を切る改革」など「古い政治」へのノーの見せ方がうまいので、そこに流されてしまうのかもしれません。それに対抗するには、「それは違いますよ。私たちは古い政治にもノーだけれど新自由主義にも抵抗しますよ」ということを、しっかりと伝えていく必要があると感じます。
中島岳志さん
イデオロギーではなく、社会ビジョンでつながる
保坂 もう一つお話ししておきたいのが、支持してくれる人たちの層についてです。今回の世田谷区長選では、自民党支持層の半分が僕に投票してくれていたんですね。無党派層も55%が僕に入れてくれているんですが、自民党支持層と無党派層、この二つが大きな固まりになっている。これは、実は1期目のときからずっとそうなんです。
先ほども話に出たような、ケアや葬儀のサービスを公の力でしっかり支えようといった方向性もそうですし、あと公契約条例(※)で建設業などの賃金を地域全体で引き上げていこうといった政策は、自民党支持層も含め幅広い層の人たちに支持されるということだと思います。ただ一方で、野党合同街宣をやった杉並のような「変えていこう」といううねりを世田谷ではつくり得ていないことは、「対決型」ではなく穏健な「包摂型」でやってきたことによる結果といえるかもしれません。
※公契約条例…自治体が公共工事・事業の入札をしたり、企業や団体に委託したりする際に結ぶ「公契約」に、事業に携わる労働者の労働報酬下限額などについての定めを加えることを決めた条例。
岸本 たしかに杉並では、世田谷よりももう少し対立構造が色濃く出ているのが現状ですね。私自身、4月の区議選のときは「ここが正念場だ、闘わなきゃ」というくらいの気持ちでした。
ただ、それは望んでそうなっているというよりは、物事を大きく変えていくために通過しなくてはならない一つのプロセスなのかなと思っています。本来、地域の未来を考えたときに、持続可能な社会をつくる、生活者目線の「いのちを大事にする政治」といった姿勢にはイデオロギーは関係ないはずですよね。ここから徐々に政策などで実績をつくりつつ、多くの人を巻き込み、包摂していくことができればと考えています。
中島 保坂さんが自民党支持層からも支持されるというのは、非常によく分かる気がします。最初に区長になったとき、世田谷区の職員はみんな「びびって」いたはずです。何しろ元社民党の国会議員で「国会の質問王」だった方ですから、どんな急進的な革命家が来るんだろうと思っていたでしょう。
でも、その後実際に保坂さんがやったのは、ケアサービスの拡充など「コモン(公共)」の強度を高めていくことでした。新自由主義が跋扈したことで混乱してしまっているところがありますが、本来コモンというのは保守の人間が重視するもの。だから、保坂区政によってこの12年で、世田谷に非常に安定的にコモンの領域が生まれてきたことが、自民支持層からも高い得票があるという結果につながっているのではないかと思います。
昨年から保坂さんと一緒に地方自治体の首長・議員のネットワークであるLIN-Netを始めて、岸本さんにも参加していただいていますが、これもいわゆる「左派的」なだけの運動にはしないことが重要だと思っています。むしろ、コモンという言葉が持つ意味を見つめ直し、新自由主義によっていろんなものが市場化されてきたことが、どれほど私たちの生活基盤そのものを破壊してきたかという問題を、イデオロギーとは切り離して示していくべきではないかと思うのです。
保坂 たとえば今、明治神宮外苑の再開発に伴う樹木の大量伐採が問題になっていますよね。新自由主義が急速に強まった小泉改革以来、伝統や歴史を無視して大型高層ビルをたくさん建てる、そして結果として一部の企業に利益を誘導することが「改革」だと言われてきました。しかし実は、その内容自体をいいと思っている人はそれほど多くはないはずです。神宮の森に関しても、それについてだけ世論調査をすれば、おそらくは「残してほしい」という人が大半でしょう。ただ、それが他の政策とどうつながっているのか、背景にどんな構造があるのかがよく見えないために、「改革」というマジックワードに流されて「仕方ないのかな」と思っている人が多いのではないでしょうか。
また、よく政治改革というと、政界再編だ、「ガラガラポン」だなどという話ばかりがされますが、私は今の政治に必要なのは、むしろ一種の「リノベーション」だと思っています。今ある社会資源の中には、当たり前ですが守って引き継ぐべきものはたくさんある。たとえば雇用保険制度も医療保険制度も、制度自体が悪いのではなく、現政権下でその運用がガタガタになってしまっていることが問題なわけです。医療や福祉をはじめ生活の現場で非常に関心の高い分野に、チューニングが合っていないのが今の永田町の政治だと、みんななんとなく感じているんだと思うんですね。
LIN-Netは単なる「野党共闘」ではなく、そうした多くの人が抱えている、言語化できないけれどもやもやしている部分を「リノベーション」して、「これでどうでしょう」と未来像を描いて語りかけられる場でありたい。中島さんもおっしゃったように、イデオロギーではなく社会ビジョンの内容によって、幅広く結集することが必要だと思っています。
保阪展人さん
「保守」の考え方をアップデートする
岸本 ここまでお話に出てきたように、私たちがやろうとしているのは、革新的に何かを変えるというよりは、生活者として人々の暮らしを、地域を守っていくということですよね。それは、おそらく本来の保守の思想であり、同時にミュニシパリズムが掲げる「地域主権」につながる考え方だと思います。
一方でミュニシパリズムが新しいのは、地域だけで完結せずに外に目を開いていく姿勢があることではないでしょうか。地域の外、国の外からも学ぶと同時に、地域の中で、外国人も含めた多様性を包摂しながら生きていこうとすること。昔ながらの日本の保守の考え方を、そういうふうにアップデートしていくことが今、必要なのではないかと思います。
中島 地域政治というのは、どうしてもそれぞれの議会の中だけで完結しがちだと思うのですが、実際には同じような問題が同時多発的に、全国各地の自治体で起こっているということはよくあります。それを解決していくという意味でも、LIN-Netのように政党という枠ではない形で横のつながりをつくっていくことは、非常に重要だと思っています。
そして、岸本さんがおっしゃったように、これはグローバルな形でもつながっていける。たとえば東京の自治体が、直接バルセロナとつながるようなことがあってもいい。新自由主義に対する抵抗運動として、こうした連帯が生まれてくることは、今後に向けた大きな希望ではないかと思います。
岸本 こうした取り組みの方向性は、決して「わかりやすい」ものではないと思うんですね。だから、新自由主義との違いを強調しながら、どう私たちの「ストーリー」をつくっていくか、それを政策の形でどう実践していくかがこれからの課題だと思います。
そのときに、ミュニシパリズムのように共有できるコンセプトがあることは大きな力になります。地域や自治体が違えばもちろん事情は違いますが、政策や方向性、意思決定の手法など共有できるものもたくさんある。そうした私たちをつなぐコンセプトを今後、LIN-Netでの議論を通じてもっと深めていければと思っています。
保坂 これだけ社会が複雑化している中で、何から何まで考え方が同じだというのはあり得ませんよね。LIN-Netも、あまりに無理に思想や価値観を共通化しようとしたら摩擦が起きてしまうかもしれません。だから、意見の違いには寛容でありながら、生活者目線の政治、命を守ることを最優先する「いのちの政治」を前に進めることについては常に真剣であるという姿勢を取っていきたいと思っています。
同時に、自治体の違いを超えて共有できる、共有すべき政策については、思い切った実現を図っていきたい。ゲリラ豪雨への対応など気候危機の進行の中で自治体がやるべきことは増えているし、たとえばグリーンインフラの研究・実践には、自治体の境界を超えた協力が欠かせません。その他も、自然を破壊する大型開発計画の見直しやマイナンバー制度についてなど、政党やイデオロギーの枠組みを超えて取り組める課題はたくさんあるのではないでしょうか。そうした取り組みを加速させていくためには、LIN-Netだけではなく、その外側にいる人たち──たとえばネットワークには参加していない自治体の首長なども含めて、味方を増やしていくことが重要だと考えています。
*
(構成・仲藤里美)
Local Initiative Meeting Ⅳ
政治は変わる!地域主権とコモンをめざして
―統一自治体選挙の結果を受けて―
6/27(火) 18:30開場 19:00~21:15
@なかのZERO小ホール(定員500) + Zoomオンライン
*参加費1000円
→参加申し込みはこちら
【第一部】政治は変わる!自治につながる希望 ~杉並・若者・女性~
〈報告〉
①内田聖子(国際NGO共同代表、杉並区在住)&杉並区の女性新人議員:赤坂たまよ(立憲民主党)、小池めぐみ(日本共産党)、ブランシャー明日香(緑の党グリーンズジャパン)、安田マリ(立憲民主党)、山名かなこ(れいわ新選組)
②能條桃子(FIFTYS PROJECT)&20~30代の新人議員:おのみずき(世田谷区議/生活者ネットワーク)、さこうもみ(武蔵野市議/無所属)、鈴木ちひろ(国分寺市議/無所属)、てらだはるか(杉並区議/立憲民主党)
【自治体からの報告】
阿部裕行(多摩市長)
【第二部】政治は変わる!希望と危機のわかれ道
〈パネルディスカッション〉
保坂展人(世田谷区長) 岸本聡子(杉並区長) 中島岳志(政治学者)