女性議員の増加、地盤を持たない新人議員の上位当選など、これまでにない変化が各地で見られた4月の統一地方選。「あとから『あの選挙は、重要な意味を持っていた』と振り返られるのではないか」。政治学者の中島岳志さんはそう指摘します。選挙から2カ月、新たに当選した議員たちは、何を思い、どんな活動を展開しようとしているのか。東京・杉並区、世田谷区、国分寺市でそれぞれ初当選した3人の議員にお集まりいただき、中島さんとともに語り合っていただきました。
「先生」と呼ばれて感じたこと
中島 さて、皆さんはいよいよ議員としての活動を始めたばかりですが、今感じていること、考えていることなどはありますか。
ブランシャー 杉並の岸本区長がよく「一番大事なのは選挙と選挙の間だ」ということを言うんですけど、私たちにとってもやっぱりそうなんだろうと思うんですよ。
議員になったからといって、型にはまった、一般の人から「遠い」議員になってしまわないようにしたい。当選後もカフェの運営を続けている理由の一つはそれですね。週末はできる限りエプロンを着けて接客に立つことが、自分にとっての「くさび」になるような気がしていて。平日は議会にいるけれど、常に「ストリートにいる」感覚は大事にしていたいと思うんです。
鈴木 私も、選挙前から働いていたカフェと介護施設での仕事は不定期で続ける予定にしています。明日香さんと同じで、現場感覚は忘れちゃいけないと思うんです。
おの 当選してから、「議会でこういうことがあったよ」「議会ってこんなところだよ」と、自分が知り得たことはできるだけ発信していくようにしているんですね。それも、難しい言葉とか議会用語は使わず、誰にでも分かるような内容を目指しています。
ただ、「街頭に立って話をする」ことは議員になってからも続けていきたいと思っていたのに、そこまでなかなか手が回っていないのも現状なので、なんとか改善していきたいですね。議員は遠い存在じゃない、「近くにいるよ」ということを、視覚的に見せることは大事だと思うんです。
選挙のときも、朝駅前に立っていると、小さい子たちが手を振ってくれて、「おはよう」って挨拶を交わしたりしていたんです。みんな笑顔で、胸が温かくなるような感覚で。そんなふうに生まれる一瞬のつながり、空気感って馬鹿にできないと思うんですよ。それを、今後も維持していきたいと思っているんですけど……。
ブランシャー そうだよね。私も当選してから、全然発信ができていないんだけど、どこかで「議員になっちゃって忙しいからしょうがないよね」という気持ちが自分の中にあったかもしれない……と今、ちょっと反省しました(笑)。
鈴木 そういえばこないだ、初めて議会の自分の部屋から、内線を使って市役所の担当課に電話してみたんですね。そうしたら相手が「先生がナントカカントカで……」って言うんですよ。「誰の話?」と思ったんですけど、はっと「もしかして私のこと!?」って気づいて。なんだか居心地悪くて、「先生ではなく、鈴木でお願いします」って言っちゃいました。
おの 世田谷では、区議会事務局は議員に対して「さん付け」なんですけど、役所の担当課はやっぱり「先生」ですね。私もこの間電話をかけたとき、相手の人が最初は「はいはい」って、ややぞんざいな応答だったのが、こちらが名乗ったとたん「ああ、おの先生!」って声色が変わって。すごい権力性を感じましたね。
ブランシャー あれをずっと聞いていたら慣れて、自分でも「先生なんだ」と偉そうな態度になっちゃうのかもしれないね。
政治を、もっと身近な存在に
中島 「大事なのは選挙と選挙の間」という話が出ましたが、政治学で「民主主義の教科書」と言われる、『アメリカのデモクラシー』という本があるんですよ。トクヴィルという19世紀フランスの政治家が、「なぜフランスは革命の後にナポレオンの専制政治に陥ってしまったのに、アメリカはなんとか民主主義を保っているのか」という疑問を抱いて、実際にアメリカを訪れて書いた本なんですね。
その中でトクヴィルは、アメリカがフランスよりも「まし」な理由を、「中間共同体」に見出しているんです。たとえば教会の集まりや地域コミュニティのような、行政と個人の間にある中間領域が、アメリカでは非常に分厚い。そして、そうした場で自分と考えの違う他者とも議論を重ね、合意形成をしていくという習慣を人々が身につけていることが、アメリカの民主主義を支えているんだというわけですね。
日本には、こうした「中間領域」が弱く、政治にアクセスするルートが選挙以外になかなかない。もちろん選挙は大切だけど、それだけでは主権者としての自覚が持ちづらく、人は「自分は主権から疎外されている」と感じるようになってしまう。この部分を変えて、どう中間領域を分厚くしていけるか、選挙以外のルートをどうつくっていけるかが非常に大事だと思うのですが、どうでしょう。
鈴木 私はこれから、とにかく外に出て行こうと思っています。当選してからメディアに取り上げてもらうころもあるけれど、それを見てくれる人の大半は、もともと私と同じようなことを考えている人だろうと思うんですね。それよりもっと幅広く声を届けるために、たとえば市内のカフェでお話会をするのはどうかな、と考えています。
ブランシャー 私のカフェでもずっと、「オトナカフェ」というイベントを続けてるんですよ。「成熟社会のための市民力アップ」と謳って、朝の開店前の時間にいろんなテーマで話をするんですが、最近は予約が取れないくらいの人気イベントになっています。
鈴木 そう、その「オトナカフェ」にもすごく影響を受けました。
ブランシャー せっかくだから、他のカフェやバーでも同じような企画をどんどんやってもらって、「ごはんを食べながら気軽に政治や民主主義の話をするのが杉並スタンダードですよ」というふうにしていけないかな、と思ったりしています。国分寺でもぜひやってほしい。
ちなみに、この「ごはんを食べながら」とか「カフェで」というのもすごく大事だと思うんですよ。その場の環境や雰囲気ってすごく大事で、蛍光灯に照らされた会議室ではなかなか本音が出ないけど、あったかい灯りの下だとなんとなく話せてしまう、なんてこともある。場をファシリテートする人は、そういう「丁寧な場作り」を考える必要がありますよね。
おの 議会と市民との間につながりがあまりにない、断絶しているという状況は、私もすごく感じています。特に20代、30代の若い世代は、そもそも地域にあまり居場所を見つけられていないし、区議会なんて本当に「遠い」存在なんですよね。そこをどうつないでいくかを考えたいと思っています。
議会につながるチャネルとしては議会傍聴とか陳情とかがあるけれど、どれも一般市民からしたらあまりにハードルが高い。でも今の制度上、そうした手段をすべて避けてしまうとやっぱりなかなかつながれないのも事実です。だったらSNSなどを通じて、「議会傍聴の楽しみ方」とか「情報公開請求をやってみよう」とか、面白く解説していくのはどうかな、なんて考えていて。
日々、いろんなことに対するもやもやは抱えているけど、市民運動とか政治とかはよくわからないという人たちに届くツールや言葉を、選挙のときから応援してくれているサポーターの女性たちと一緒に見つけていきたいと思っているところです。
中島 僕も札幌に住んでいたとき、縁あって近くのシャッター商店街でコミュニティカフェの運営に関わったことがあります。お客さんを呼ぶためにいろんなイベントをやっていたんですが、そのとき心がけていたのは「ハードルを下げる」ことでした。
著名人の講師を呼ぶのではなく、町の「普通の人」を先生にしていく。たとえば「布団屋はなぜつぶれないのか」なんてテーマで「商店街トーク」をやったら、50人も集まって会場は満員でした。そんなことを繰り返すうちに、イベントに来てくれた人が商店街のお店を利用するようになったり、興味を持った若者が新しく店を開いたりするようになって、商店街自体もどんどん変わっていったんです。「こういうのを民主主義っていうんだな」と実感しました。
さらに、カフェの運営を一緒にやってくれていた大学生が、先日の地方選で立憲民主党から市議会選挙に出たんですね。そうしたら、もともとは「自民党一択」という商店街だったのに、みんなその彼を応援してくれて、見事当選したんですよ。
こうした「民主主義の場所」をつくることは、本当に重要です。それも、できるだけハードルを低く、「ゆるく」やったほうがいいんだと思います。そうでないとなかなか人は来ないし、住民と政治との距離が縮まらない。そのことを、あの商店街で学んだ気がしています。
おの 政治に興味を持ってもらうというと、よく「区政報告会」を開く、とかいう話になりますよね。でも、つい最近まで政治に興味がなかった身からすると、「区政報告会」というタイトルを見た時点で行かないかもしれない、と思います(笑)。
ブランシャー そうそう。昔、自分がどうして政治に興味がなかったかと考えると、やっぱり堅苦しい、つまんない、何を言ってるかわからない……。
鈴木 人が集まる場をつくるためのヒントは「昔の自分」ですよね。
自治体を、党派を超えてつながる
中島 あと、皆さんが今こうして集まっているように、自治体を超えた横のつながりをつくっていくことも、すごく大事だと思います。これまでの地方政治は、自治体の中の縦のつながりしかないと言ってもよかった。だから、横のつながりをいろんな位相でつくっていこうというのが、僕や世田谷の保坂区長らが立ち上げたLIN-Net(Local Initiative Network) なんですが、皆さんはそれを自然にやっている。この意味は大きいと思います。
鈴木 たとえば、国分寺市にもパートナーシップ条例はあるんですが、十分に活用できているとはいえません。もっと活用が進んでいる自治体の話を聞いてみたいなと思うし、勉強会もできたらいいなと思います。いろんな人と話していると、自分一人だと絶対に思いつかないアイデアが浮かぶし、「あ、ここの自治体ではそうやってるんだ」と、ヒントをもらえるんですよね。
ブランシャー そもそも、つながりを持たずにばらばらに取り組もうとしているのがおかしな話だと思います。取り組んでいる社会課題の多くは共通していて、たまたま活動してる場所が違うだけなんだから。「私の集めた資料、全部持って行っていいよ」とお互いに言えるくらい、しっかり協力してやっていくべきだと思いますね。
おの 自治体を超えてつながるべきだというのもそうなんですけど、世田谷区だとそもそも、同じ区議会議員でも会派を超えた連帯があまりないんですよね。議会記録を見ると、違う党や会派の人が同じテーマで質問をしていたりするのに、情報を交換しようとか、連携して一緒にやっていこうっていう動きはほとんどないんですよ。これも、区議になってみてびっくりしたことの一つでした。
鈴木 ベテランの議員さんは特に「教えてくれない」雰囲気がある気がしますね。もちろん、それぞれにずっと苦労して情報や知識を積み上げてきたわけだから、それを簡単に出したくないという気持ちも分からなくもないけれど。
ブランシャー でも、私たちは蓄積もないし、ゼロからのスタートでしょう。互いに協力もせずに一人でやっていたんじゃ何年経っても前に進まないし、それでまた4年ごとに顔ぶれが入れ替わるなんてことになったら、地方議会自体が成熟していかないんじゃないかなと思います。
鈴木 以前に国分寺市議をやっていた方からお聞きして、すごく印象に残っている言葉があるんです。それが「地方議会に党なんてない」。その地域の課題を解決していこうとしている人たちの集まりなんだから、本来は党や会派で分かれる必要なんてないはずなんだ、というんですね。本当にそうだと思います。
少し前に、入管法改悪に反対するスタンディングをやったんですけど、他の議員にも声をかけたら「誰の発案?」と聞かれて、「いや、私が一人でやってます」と言ったら明らかに引かれたこともあります。「何をやるか」じゃなくて、「どこの誰がやるか」が重要みたいなんですね。まあ、私はあえて空気を読まないキャラで、どんどん声をかけていこうと思ってますけど(笑)。
おの それも新人の特権だよね。
ブランシャー こういういろんな話をしたりするのも、1人だとちょっと勇気がいるけど、3人だといいね。違う自治体でも誰かが同じようなことをやってると思うと、「私もやっちゃおうかな」って思える。
中島 かしこまった「区政報告会」よりも、こうした平場での会話を通じて議会報告ができるとすごくいいですよね。政治をもっと身近に、カジュアルにしていくために、ぜひいろんな展開を期待しています。
(構成・仲藤里美)
ブランシャー明日香さんの運営するカフェ「カワセミピプレット」にて