『バービー』(2023年米国/グレタ・ガーウィグ監督)

 いきなりの『2001年宇宙の旅』パロディに笑いつつ、これから何が始まるのか身構えていると、マーゴット・ロビー扮するバービー人形が登場。「ステレオタイプなバービー」を自任する彼女はピンクのバービーランドで、他のバービーたちとともに男性を従えて、自由奔放に歌い、踊る。これまた虚をつかれ、こちらは翻弄されっぱなしだ。
 ところが、ある日、バービーに異変が生じる。その真相を探るべく、バービーのボーイフレンド、ケンと一緒にリアルの世界=ロサンゼルスに入ると、そこはいたるところで男性が幅を利かせるところだった。
 それだけではない。自分を女性の自立の象徴と思っていたバービーは、男性中心社会の片棒を担いでいる元凶と非難される。一方のケンは心地よさを覚え、それをバービーランドに持ち込む。そしてバービーランドも力関係が逆転するのである。
 現実が架空の世界(バービーランド)を変える。それは回り回って現実にも悪影響を及ぼすことになるかもしれない。
 バービー(たち)は知恵と行動力によって危機に立ち上がるのだが、もとのバービーランドに戻すことが解決にならないのは、現実の世界をみれば自明だ。目指すべき男女平等の社会はその先にある。
 無意識の抑圧から女性を解放すること、さらには男性の自立へ。物語は、バービーを販売するマテル社の経営幹部、同社の秘書を務めるグロリアと娘のサーシャまでを巻き込み、ハチャメチャ度を増していく。
 それでも観る者をしっかりつかんで離さないのは、本作品のメッセージ性ゆえだろう。
 上述のグロリアとサーシャはヒスパニック系で、アジア系、アフリカ系と様々なバービーとケンがいるのも、監督の意図かもしれない。バービーとその生みの親である女性との出会いがラストにつながる。
 それにしてもマーゴット・ロビー、『アムステルダム』では戦場看護師かつ自由奔放なアーティスト、『バビロン』ではサイレント映画の時代にスターのし上がっていく女優、そして今回も私たちに強烈な印象を残す。ケンを演じるライアン・ゴズリングは、『ラ・ラ・ランド』での哀愁漂うピアニスト、『ブレードランナー2049』での自らのルーツを探る影ある捜査官とは一転、マッチョで軽薄だが、素直で憎めないところが微笑ましい。
 監督の手腕に拍手。

(芳地隆之)

『バービー』公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

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