国会議員が「捜査中だからお答えは差し控える」のは許される?〜志田陽子さんのお話から(西村リユ)

 最近、国会中継を見ているときに、こんな場面を何度も目にしました。野党議員から「裏金」疑惑について追及を受けた政府・自民党幹部が「刑事事件に発展する可能性があるので」「捜査に影響を及ぼすので」などの理由で、「お答えを差し控える」とだけ述べる──。
 なんだかもう、おなじみの光景とも言えそうですが、どうして「刑事事件として捜査中」だったら国会での質問に答えられないんだろう? まるで「当たり前」みたいになっているけれど、本当にそうなんだろうか。 
 そんなことを考えていて、今年初めに「この人に聞きたい」に登場いただいた憲法学者の志田陽子さんにお聞きしたこと(インタビュー原稿には入らなかったのですが)を思い出しました。
 インタビュー時はまだ今国会の会期前でしたが、これまでの国会でも同じような光景が繰り広げられていたことを踏まえてのお話だったと思います。「刑事事件に発展しそうだから国会で質問に答えないというのは、憲法の観点からいえば本末転倒」だというのが、志田さんのご指摘でした。
 「国民の深刻な関心事について説明責任を果たすことも、政治家の重要な任務です。そのため、国会には証人喚問をして調査する権利が認められています(第62条・国会の国政調査権)。すでに警察が捜査中の場合、またこれから刑事事件になりそうな場合、国会議員が警察の公平中正な捜査や裁判の独立性・公正性を妨げる権力的介入をすることは厳に慎むべきですが、国会での説明責任を果たすことは憲法上の問題はなく、むしろ優先されるべきです。『捜査中だから答えられない』というのは、質問に答えない理由にはなりません」(志田さん)
 憲法第50条にある国会議員の「不逮捕特権」、そして憲法75条にある国務大臣(内閣閣僚)の「不逮捕特権」も、本来は同じ趣旨の条文なのだといいます。
 「国会の会期中、国会議員を逮捕することは基本的にはできません(現行犯の場合、その議員の所属院が許可した場合を除く)。それは、『国会議員は悪いことをしても警察は手出しできない』ということではなく、国会議員には国会会期中は議員としての仕事──国会で説明責任を果たすことはもちろんそこに含まれます──を優先してもらおう、警察が身柄拘束をして行う取り調べは、それが終わってからやりましょう、ということなんです。その政治家に選任された弁護士であれば、『刑事裁判で不利になることは国会でも話すな』とアドバイスするだろうとは思いますが、憲法の理路としては、そういうルールはありません。黙秘権など被疑者・被告人の利益を守る刑事手続きのルールはありますが、それは別の話です。国会議員には、憲法がわざわざ不逮捕特権を設けていることの前提となっている《国務を誠実に行う責任》をしっかり果たしてほしいと思います」(志田さん)
 刑事事件としてだけ見るのなら、罪に問われそうな人が「自分に不利になることは話さない」のは当然といえるのかもしれません。しかし、「国民の代表」であるはずの国会議員には、議員としての責任がある。そう考えればやはり、「捜査中だから/刑事事件になるから答えられない」のではなく、捜査中であっても、刑事事件であっても(むしろだからこそ)まずは国会でしっかりと質問に答えることが求められるのではないでしょうか。

 インタビューで志田さんは、「国権の最高機関」「唯一の立法機関」である国会があまりにも軽視されている現状の危険性に警鐘を鳴らされていました。ここにもまた、「国政に関する調査を行う場」としての国会が形骸化しているという状況がある。「国民主権」であるはずのこの国で、国会が担う役割とは何なのか、その役割がきちんと果たされているのか──。さまざまな面から、改めて考えなくてはならないように思います。

(西村リユ)

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