【寄稿レポート】女性たちをエンパワー!! パリテ・アカデミーの「女性政治リーダートレーニング合宿」に参加してみた(ジョイス)

世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2023」によれば、日本は146か国中125位。政治分野だけを見ると138位という低さです。2023年の統一地方選挙では、20代・30代の地方議員の女性比率が上がったものの、パリテ(同数)の実現には程遠いのが現状。そうした政治のジェンダーギャップ、ひいては社会全体のジェンダーギャップを解消しようと、さまざまな活動が立ち上がっています。そのひとつ、一般社団法人パリテ・アカデミーが3月に開催した「女性政治リーダートレーニング合宿」に参加したJoyce(ジョイス)さんから、レポートを寄せていただきましたので紹介します。(写真提供:パリテ・アカデミー)

私は「精神疾患で休職してる全国の学校の先生」のうちの一人

 精神疾患で休職した公立学校の教員がおよそ6500人で過去最多というニュースが2023年末に報じられた。かくいう私、Joyceも「精神疾患で休職している」教員の一人、オーバーワークとストレスで倒れ、目下休職に励んでいる。

 休職期間に入ったはいいものの、一人でずっと寝ているだけじゃますます病みそう。でもアパートと職場の往復だけの生活をずいぶん続けてしまっていたので、何をしたらいいのか分からない。精神科の先生にもカウンセラーにも、「とにかく自分の好きなことを好きなだけやって下さい。それが回復の道です」と言われた。でもそんなこと全然考えられない生活をしていたから、自分が何を好きなのか、さっぱり分からなくなっていた。

議会傍聴めっちゃ楽しぃ~~!!

 そんなある日、友達を誘って東京・杉並区の区議会に傍聴に行くことにした。杉並区は2022年7月に市民の応援を受けた岸本聡子さんという女性の区長が誕生していて、区長選のあと2023年4月に行われた区議選では議員の半数が女性となりパリテが達成されている。さらに、新しく区議になった女性がSNSで議会傍聴の仕方をわかりやすい動画でアップしてくれていて、興味が湧いたのだ。

 全然期待しないで行ってみたら、なんとめちゃくちゃ面白かった。区議会で議員たちが議論していたのは、私の生活のことだったから。「地方自治は民主主義の最良の学校」って、ライターの和田靜香さんが本で引用してたけど、まさに私は杉並区議会で民主主義がなんたるかを鼻先に突き付けられる感覚を味わったのだ。

 いろいろな議員さんを見ることができるというのも傍聴が楽しい大きな理由のひとつだ。区民のことを本当に考えている議員の姿勢は伝わってくるし、逆に区民のことを全然考えていないのも、めっちゃわかってしまうのでつらい。教員も人前に立つ仕事なので、準備不足とか寝不足とか人間の小ささとか至らなさとか、実は生徒にものすごく伝わっているな~とよく思う。議員も同じ。

 傍聴に行き始めて議員の仕事の大切さを心底感じた私は、女性の議員さんが増えることが、どうしても大事だと同時に思うようになった。女性が生きていてぶち当たる壁を体感として知っている女性議員全然知らない男性議員では質疑の内容が大きく異なってくる。世の女性たちの苦労が少しでも減ってほしいし、そのためには女性の議員さんたち(そして応援してくれる男性議員さんたち)が必要なのだ、どうしても!

パリテに呼ばれる運命(デスティニー)

 そんな風に「傍聴楽しい!」と騒いでいたら、友人が一般社団法人パリテ・アカデミーの開催する「女性政治リーダートレーニング合宿」をおすすめしてくれた。パリテ・アカデミーは政治学者の三浦まりさんと申きよんさんが2018年に設立した一般社団法人で、女性のリーダーシップを養成することでジェンダー平等と多様性が尊重される政治の実現を目指しているそうだ。2024年の合宿は3月に福岡で開催予定で、そのときちょうど参加者を募集していた。

 政治リーダーといったって、私には議員が務まるような気力も体力もないので立候補なんて絶対無理。倒れてから虚弱体質になっているし疲れると頭が回らなくなるし、参加するかどうかかなり悩ましい。迷った挙句、今回は選考があると聞いたので、「もし受かったら運命」という気持ちで応募してみた。そうしたら、事務局から合格のメールが届いたのだ。

三浦まりさん(左)と、申きよんさん(右)

合宿1日目in福岡

 合宿は福岡県春日市にある、クローバープラザという総合施設で行われた。ちなみに合宿は毎回開催地が異なり、これまで東京や京都のほか、コロナ禍にはオンラインでも行われてきたそうだ。

 合宿の参加者は22名で、福岡以外にも、東京、岩手、沖縄、富山など、日本各地から飛行機や新幹線に乗って遠路はるばるきた人も多かった。年齢層も幅広く、一番若い人は高校2年生、最高齢の人はお孫さんのいる60代の方。30代40代が最も多い印象だ。立候補を考えているという人もいるが、女性議員を支えたい、政治や選挙の仕組みを学びたい、住んでいる地域社会をよくするために何ができるか学びたいなど、参加の理由は様々だ。

 合宿1日目は、朝から講義を3つも4つも受ける。たとえば、シニアトレーナーである「政治アイドル」の町田彩夏さんからは、「想いを伝えて社会を動かす〜スピーチ編〜」というタイトルで、どうすればより効果的なスピーチができるのかという講義があった。例えば服装一つとっても、町田さんは友人と遊びに行くのと同じような服装で選挙の応援演説を行うそうだ。通り過ぎる若者に、「あの人の言うことなら聞いてみたいな」と親近感を覚えてもらうためだ。

 町田さんの講義を受けて、一人1分の持ち時間でみんなの前でスピーチをすることになった。スピーチのテーマは「自分とともに活動する仲間を増やすための1分間スピーチをしてみよう」だ。最近私は、自分の住んでいる地域で女性がほっとできる居場所「ジェンダーカフェ」なるもの始めたばかりだったので、その仲間を募集するという設定でスピーチ原稿を書いてみた。参加者同士でペアになってスピーチの練習とフィードバックを行う。何度か練習をした後は、いよいよ1分スピーチの実践! 皆さんのスピーチはそれぞれとても面白く、これから議員になることを本格的に目指している人も何人かいたので、本当に街頭演説の練習みたいだった。

 現在、県議会議員の秘書をされているという方は、お子さん二人が小さかったときに外出先のトイレでとても困ったという経験を交えて、議員立候補に向けたスピーチをされていた。トイレの設備が子連れには不十分で、下の子のトイレを見ている間、上の子を通りがかった人に見てもらわざるをえなかったそうだ。このまま上の子が連れ去られたらどうしようと思いながらも、そうする以外になかった。もっと子育てしやすい社会を作りたいという思いを語ってくれた。心の痛みから発された熱い言葉は、まっすぐ心に飛び込んでくる。思いがこみ上げて途中スピーチが途切れてしまっても、逆にその数秒が強い気持ちを伝えてくれた。

選挙のイロハ~FAXを添えて~

 次に三浦先生から「選挙を知ろう」という講義があった。選挙制度の概要、有権者の特性の分析、支持層の特定など、立候補を考えている人にとってはかなり実践的な内容だ。立候補を一ミリも考えていない私のような人間にとっても、とても興味深い内容だった。みんないろいろ作戦考えながら選挙をやっているんだなあ。

 笹川平和財団の研究員である堀場明子さんは、実際に選挙の支援をされた経験から「選挙に必要なお金とは」という講義をリモートでしてくださった。公営掲示板へのポスター貼りや選挙はがき送付にかかるお金、選挙カーのガソリン代など、聞いていると選挙で必要な費用が無限にある。供託金が世界的に見ても高額であること、様々な規制が女性や新人の政治参加の壁を厚くしているというお話もあった。ちなみに選挙管理委員とのやり取りには、いまだにFAXがマストらしい。まじか。

合宿のメインイベント、選挙戦を勝ち抜けるのか?!

 そしていよいよ「選挙チームを作ろう」の時間がやってきた。実際に選挙チームを作って選挙キャンペーンを練って、2日目に発表するというのがこの合宿のメインイベント。このタイミングですでに1日目の18時、朝から盛りだくさんの講義を受けて頭はパヤパヤ。えっ……今から……?? という気持ちでいっぱいである。ご飯食べてお風呂入って寝たい。

 選挙チームのメンバー決めは厳正なるくじ。私のチームは高校生のサリさん、大学生のナオさん、大学院生のリャンさんというメンバー。みんなめっちゃ若いけど大丈夫なんだろうか……? と一抹の不安を覚える。選挙チームは候補者、キャンペーン・マネージャー、コミュニケーション担当、会計の役割をそれぞれが担当する。くじを引いたあちこちから「げぇ候補者だ! これだけはいやだったのに!!」などの悲鳴が聞こえてくる。

 さてうちのチームは……?! 高校生のサリさんが候補者、大学生のナオさんがキャンペーン・マネージャー、大学院生のリャンさんがコミュニケーション担当、そして私は会計。立候補予定地もくじ引きで決められる。私たちのチームは山口県下関市で立候補することとなった。チーム下関の爆誕である。

チーム下関、深夜の奮闘

 夕飯を食べて、いよいよチームで選挙キャンペーンを考えはじめる。時刻は20時過ぎである。明日の発表は持ち時間12分、4人全員が自分の担当について発表する。誰か一人だけ抜きんでていてもだめで、チームワークが何よりの評価ポイントだと言われている。みんなで協力して、各担当の分野が効果的に連動しているキャンペーンを、エビデンスに基づいて考えなければならない。4人で机を囲み、まずは下関市の情報収集から。下関市は、人口減少・少子高齢化が全国的に見て突出している。人口流出も深刻で、10代20代の若者が進学・就職のタイミングで市外に出てしまい戻ってこなくなっている。こりゃ大変だ。

 下関市の情報を大体調べたところで、候補者のプロフィールを決めることにした。なんたって候補者のサリさんはまだ17歳で被選挙権がない。4人で頭を絞って妄想の翼を広げ、架空の候補者を考え出した。候補者は26歳の独身女性。下関生まれ・下関育ちで、山口大学経済学部の出身。幼少期から地元で太鼓保存会に参加し伝統芸能に携わってきたが、年を重ねていくにつれ、同世代の友人がどんどん地元を離れ、太鼓も継承の危機に。このような状況を打開するために地域の人々が設立した「下関を守る会」に推薦され、立候補を決意した。

 いかがでしょうか。かなり現実味のある人物に仕上がったのではないかと思っている。この妄想がかなり楽しく、4人でゲラゲラ笑いながらアイデアを出して作り上げていった。この段階ですでに深夜1時を過ぎていたような気がする。4人ともどんどん変なテンションになっていき、うんうん唸りながらなんとか形になったのが朝の5時。ほんと、みんなお疲れ様(ラブ)。

合宿2日目〜九州で女性議員やるって実際どうなのよ~

 合宿2日目は、九州の女性議員によるパネルディスカッションから始まった。このパネルディスカッションの時間だけは一般に公開されているもので、多くの市民が来場しており、メディアの取材も入っていた。パネリストは佐賀県議会議員の一ノ瀬裕子さん(自民)、福岡県飯塚市議会議員の金子加代さん(無所属)、福岡県議会議員の後藤香織さん(立憲民主)の3名だ。3人とも女性の議員が少ない議会で活動しており、それぞれ女性議員の数は佐賀県議会が37人中3人、飯塚市議会が28人中2人、福岡県議会が87人中13人となっている。

 立候補の前も議員になった後も、女性であることでどんな苦労があったかというお話には涙がちょちょぎれそうになる。佐賀県議の一ノ瀬さんは夫の後押しもあって立候補したが、選挙活動に指揮をとっていた支援者(おじさん)から繰り返し「愛の告白」を受けるようになり、蕁麻疹が治らなくて大変だったとのことだ。パリテ・アカデミーの卒業生でもある福岡県議の後藤さんは、出産を機に職場でひどいマタハラに遭った経験をお話ししてくれた。議員になるために、とある政治塾に通ったときに、外交だ、経済だという話ばかりで子育ての問題は二の次という姿勢にも違和感を持ったそうだ。

 飯塚市議の金子さんは、維新の市議から「セーラー服を着てしゃべれば動画の再生数が上がる」というセクハラ発言をされ、ニュースで話題になっていた方だ。女性市議がずっと1人だったが昨年やっと2人になり、2人で支えあいながら奮闘しているとのことだった。以前は中学校の先生をされていたということで、人柄の温かさと朗らかさが伝わってくる。市議になってからは家庭の雰囲気にも変化があったそうで、「これまで家ではお笑い番組を見ていたのに、市議になってからは新聞を読んだり、ニュースを見たりしながら自分の意見を言うようになった。その姿を見た娘が『お母さん、もっと早く市議になってくれていれば私の成績も上がってたかもしれないのに』と言っていた」と話して会場の爆笑をかっさらっていた。

歌えや踊れや、選挙キャンペーン

 パネルディスカッションの後は、いよいよ選挙キャンペーンの発表だ。福岡・大牟田市のチームは、韓国の選挙スタイルを取り入れて、市公式キャラクターの「ジャー坊たいそう」を踊って会場を沸かせていた。韓国の選挙では候補者が歌ったり、踊ったりするのが定番らしい。そんな選挙活動、お祭りみたいでとても楽しそうだ。

 このチームの候補者役として歌って踊ったマコさんは、実際に立候補しようか悩んでる一人。たまたまくじで候補者役を引き当てたことは、彼女にとって大きな意味があったようだ。ジェンダーの問題に取り組む意気込みがはっきりしていて、人柄もチャーミング。本当に選挙に出る暁には、遠隔でもいいから何か彼女の役に立ちたいと思わされる。マコさんが選挙に出るかもと思うと、ものすごくワクワクする。私たちの仲間が政治の場に行ってくれたら、私たちの声を届けてくれたら。こんなに希望を感じることはない。

 そして、私たちの発表も無事に終了。全チームの発表後、優勝チームが発表され、修了証を受け取って合宿はお開きとなった。

背中を“どどどん”と押してくれる場所

 合宿では、積極的に発言することやリーダーシップを発揮することが強く奨励される雰囲気があった。「どんどんおやりなさい。あなたにはそれができるんだから」。そんなメッセージに溢れた場所だった。今までそんな期待を感じたことがあっただろうか。思い返せば、仕事のできない男性の上司や先輩の機嫌を損ねないように上手く仕事を進めることを常に意識してきた。頭を上からぎゅうぎゅう抑えられていたんだと、今回頭を抑えられない場所に来てみて初めて思った。

 私の職場の同僚女性はすこぶる優秀だったが、男性上司たちに嫌われて体調を崩していた。彼女は「わきまえなかった」から、バッシングも強かったのだ。そんな女性が日本にはごまんといるだろう。参加者の感想を聞くと、「社会は自分たちの手で変えられると思えた」、「仲間と出会えて勇気をもらえた」など、人それぞれたくさんの気づきがあったようだ。選挙への立候補を考えている人だけでなく、政治や社会を変えたい、選挙活動している人を応援したい、という人にもおすすめの合宿だった。

 今回、休職中ということもあって、私の頭はずいぶん働かなかったが、それでも合宿を経たいま、こんなに自分に力を感じているから面白い。どういう環境に身を置くかって大事だ。パリテ・アカデミーの合宿で365日過ごせたらいいが、そうはいかないから、ここで出会えた女性たちと繋がって、ミソジニーの波を軽やかに超えていけたらいい。それが出来そうな気がしている。

(Joyce)

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