【寄稿】パブリックコメントが始まった第7次エネルギー基本計画──許されない原発積極活用路線(松久保肇)

国のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画(エネ基)」は3年に一度ほどのペースで見直されることになっており、昨年より策定に向けての議論が行われてきました。昨年12月、第7次エネ基の原案が公表されましたが、そこからは原発について「可能な限り依存度を低減する」との文言が削られています。現在、パブリックコメントが行われていますが、第7次エネ基(案)では原子力の利用に関してどのような点に注目すべきなのでしょうか。NPO法人原子力資料情報室事務局長の松久保肇さんにご寄稿をいただきました。

 第7次エネルギー基本計画(エネ基)策定が大詰めを迎えている。年の瀬も迫った2024年12月25日、経産省の審議会「基本政策分科会」で7次エネ基案が概ね確定し、12月27日~2025年1月26日までパブリックコメントが実施されている。同時に地球温暖化対策計画(温対計画)、GX2040ビジョンのパブリックコメントも同じ日程で行われている。発電部門は温室効果ガスの最大の排出源のため、これらの計画は相互に関係しているのだ。政府はパブリックコメント後、2月中旬にはこの3つの計画を閣議決定するとみられる。
 国連気候変動枠組条約締約国は2025年2月までに、2035年までの温室効果ガスの排出削減目標(Nationally Determined Contribution、NDC)を条約事務局に提出する必要がある。これは同年開催される締約国会議(COP、例年11月前後に開催)の9~12ヵ月前までに事務局に提出することが求められているためだ。12月末に案決定、1月にパブリックコメント、2月に閣議決定・NDC提出というこの日程はぎりぎりのスケジュールだといえよう。ただし締め切りがあることは以前からわかっていたことであり、なぜ余裕を持った審議が行えなかったのか疑問は残る。また、前回の2020年のNDC提出時、日本は3月30日提出と締め切りを超過していた。2月提出という締め切りは必ずしも守らなくてもよいともいえる。
 温対計画は環境省と経産省の合同審議会で議論が行われていたが、2050年温室効果ガス排出量ネットゼロにむけた削減経路について、事務局が示した直線(下図参照)ではなく、より早期に削減するべきという異議が最終段階で強く唱えられ紛糾した。だが最終的には事務局方針で押し切っている。

出典:経済産業省ウェブサイト「2050年ネットゼロに向けた 我が国の基本的な考え方・方向性」P3より

 筆者は経産省の原子力小委員会の委員を務めているが、原子力推進派が圧倒的多数を占める委員構成で、業界の公開陳情の場と化していた。このような不十分な議論とわずか28日のパブリックコメント期間で日本のエネルギー・気候変動対策の大方針を決めようとしている。
 筆者は7次エネ基案で原子力に関する注目ポイントは①原発積極活用路線、②原発再稼働、③新設支援策、④電源構成だと考えている。

削られた「依存度低減」の文言と軌道修正

【1.原発積極活用路線】
 ロシア・ウクライナ戦争を受けた経済安全保障意識の高まりの中、岸田政権下で策定されたGX(グリーントランスフォーメーション、脱炭素社会にむけた社会変革のこと)方針に原発積極活用路線が盛り込まれた。岸田前首相は自著『岸田ビジョン─分断から協調へ』(講談社、2020年)で「再生可能エネルギーを主力電源化し、原発への依存度は下げていくべき」と主張していたが、首相になるや原発積極活用路線へと転身し、退任演説では「カーボンプライシング、GX経済移行債の導入、原子力の活用推進など、エネルギー政策の転換についても、大きな結果を出すことができ」と自賛するに至った。
 新首相に就任した石破茂氏は、自民党総裁選出馬時の記者会見(2024年8月24日)で、原発について「ゼロに近づけていく努力を最大限にいたします。再生可能エネルギー、太陽光であり風力、小水力、そして地熱、こういう可能性を最大限引き出していくことによって、原発のウエイトは減らしていくことができると思っています」、首相就任後の10月12日の日本経済新聞のインタビューでも「再生可能エネルギーの活用で原子力発電の比率の低減がありうる」との認識を示している。だが、新しく就任した武藤容治経産相は10月2日の就任会見で石破首相の総裁選中の原発ゼロに関する発言について「今は訂正されていると私は承知」と発言している。
 2023年、岸田内閣が閣議決定した「GX 実現に向けた基本方針」は原発積極活用路線に舵を切るうえで重要な文書となった。中でも「化石エネルギーへの過度な依存からの脱却を目指し、需要サイドにおける徹底した省エネルギー、製造業の燃料転換などを進めるとともに、供給サイドにおいては、足元の危機を乗り切るためにも再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」、「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。 そして、地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを対象として、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていく」(太字筆者)という2つの記述は重要だ。
 前者はこれまでエネ基で記載されてきた、原発について「可能な限り依存度を低減する」という文言を今回削除する足掛かりとなった。これまで国は、原発依存度を福島第一原発事故前の30%程度から20%に低減することがこの文言の意味するところだと説明してきた。ところが、7次エネ基案でも20%という依存度を変えなかったにもかかわらず、依存度低減という文言が削られ、「必要な規模を持続的に活用」する方針が示されている。
 廃炉を決定した原発敷地内のみに新設を認めるとした後者も重要だ。現在、原発新設に興味を示しているのは関西電と九州電だが、九州電の廃炉中原発は玄海のみで、玄海は敷地が狭く、これ以上の増設は難しい。一方、関西電は大飯、美浜で廃炉作業中で、かねてより美浜での増設についてコメントしてきている。だが関西電にしても複数基建設できる状況ではない。他の事業者は再稼働に専念する中、当面、廃炉基数が増える状況も見通せない。結果、7次エネ基では、廃炉を決定した事業者が当該エリア内の別の原発敷地内でも廃炉基数分新設できると軌道修正した。

原発再稼働で電気代は抑制されるのか?

【2.原発再稼働】
 原発再稼働には様々な論点があるが、筆者が重要だと考えているのは、原発再稼働によって電気代は抑制されるのか、という論点だ。
 表1に経産省が原子力小委員会で説明した供給区域ごとの電力料金単価を一部抜粋した。網掛けで強調されている部分は経産省が赤字で示していた2エリアになる。着目したいのは伊方原発3号機を再稼働させていた四国は強調されていない点だ。それもそのはず、四国は中部よりも単価が高くなっているのだ。なぜだろうか。
 その謎を解明する手掛かりを米国原子力エネルギー協会が示している。米国の事業者の規模別、プラント規模別の原発の発電コストによれば、燃料費はどの規模でもあまり変化が見られないが、資本費・運転費は、単一炉しかない原発が、また1プラントしか持たない事業者の運転費が高い。一原子炉のみのサイト、または一つの原発サイトしかない事業者は人件費や設備の維持管理に必要なコストをほかの炉やほかの原発サイトと共有できずコストが上がっていると推定できる。

 関西・九州はかなり早い段階で原発再稼働し、複数の原子炉が稼働中だ。一方四国では稼働しているのは再稼働した伊方原発3号機のみで、コスト分散ができていない。その結果、比較的コスト高となったと推定できる。
 さらに大きな課題がある。再稼働に事業者が投じている安全対策費だ。たとえば、先月再稼働した女川原発2号機には7100億円の安全対策費が投じられた。安全対策工事に関する2013年時点の申請書での見積額が140億円(※1)だったことを考えると、大幅な過小見積もりだ。ちなみに女川原発2号機の建設費は3210億円なので、当初建設費の2倍近くのコストを投じたことになる。このような巨額投資は当然、原発のコスト競争力を引き下げる。
 表1に戻ろう。2023年、中部電・関西電・九州電を除く大手7電力は規制料金の大幅値上げを行った。その際、東北電・東京電・中国電・北陸電は原発再稼働を見込んで、1%~2%ほど値上げ幅を縮小した。標準家庭の電気料金に換算すると月額100円から200円程度だ。一方、北海道電は再稼働に要している費用を原価に含めて値上げした。原発を再稼働できていない電力の多くもすでに原発再稼働を見込んだ料金設定を行っている。東京電力などは原発を再稼働させれば電気料金の値上げを抑えることができると言っているが、原発を再稼働させてもここから電気料金は下がらないのだ(※2)。
 原発再稼働を見込んで縮小された1~2%のわずかな値下げ効果すら、電力会社は利益を削っておこなっている可能性がある。たとえば東北電は再稼働によるコスト削減効果が600億円と説明しているが、資料を精査すると女川原発2号機の再稼働によって、費用は628億円増えている可能性がある。つまり差し引き28億円費用が増えている(※3)。

※1:「女川原子力発電所発電用原子炉設置変更許可申請書(2号発電用原子炉施設の変更)添付書類
※2:「原発再稼働で電気料金はどうなるのか?―答え 多くはたいして変わらない―」CNICブリーフ「122円 過大評価される原発再稼働」
※3:「東北電力女川原発2号機再稼働をめぐる報道ファクトチェック」 

再エネにコストで勝てず、安定供給にも相反する

【3. 原発新設支援策】
 原発は3E(経済効率性、安定供給、環境性)を兼ね備えた電源だから、安全性を高めて推進する、というのがこれまでのロジックだった。だが、この間の原子力小委員会では、事業者から原発新設のリスク(巨額のコスト、長期の建設期間)は民間事業には引き受けられないので国による原発新設支援が必要だ、という主張があった。また、経産省からは原子力産業が劣化しており、新設することで産業を維持する必要がある、という見解も説明された。
 奇妙なのは、この時、3Eのうち経済効率性が全く無視されているということだ。英国で建設中のヒンクリーポイントC原発では2基で建設費が8.2~9.4兆円になると報告されている。これはかなり高額の原発となっているが、中国がアルゼンチンで建設しようとしている原発も1基1.3兆円だ。
 日本は2024年時点の試算で原発1基あたりの建設費をおよそ7200億円と見積もったうえで、発電コストは12.5円/kWh~と比較的安価な電源とした。他国と比べて大幅に安価だ。安い電源のはずなのに、事業者はリスクがあるので原発新設には国の支援が必要だと主張する。そこで7次エネ基案では「脱炭素電源への投資回収の予見性を高め、事業者の新たな投資を促進し、電力の脱炭素化と安定供給を実現するため、事業期間中の市場環境の変化等に伴う収入・費用の変動に対応できるような制度措置や市場環境を整備する」方針が示されている。

 事業者は建設費の上昇リスクを懸念している。仮に建設費が3000億円増えると、すくなくとも3円/kWh程度は増加する(英国のように4兆円かかった場合は33円/kWh増加)。原発はもはや風力や太陽光といった電源にコストで勝てない。
 安定供給についても、福島第一原発事故後、すべての原発が停止したことや、2022年、フランスで56基ある原子炉のうち30基以上が停止したことを考えると、むしろ、原発は安定供給と相反する電源である。しかも、燃料の面でも、ウランはすべて輸入であることや、世界のウラン供給の半分はカザフスタンやクーデターのあったニジェール、ロシア、中国などが産出しており、その将来的な供給は不安定である。つまり、原発は安定供給にも資さない。

「原子力20%」が達成不可能なのは明らか

【4. 電源構成】
 もう一つの重要論点は電源構成だ。7次エネ基案では従来の2030年度に替えて2040年度の電源構成目標を示している。原子力については、6次から変わらず20%を維持している。ただし、年間発電電力量を9340億kWh(2030年度見通し)から、1.1兆~1.2兆kWh(2040年度見通し)へと大幅に増やしていることから、原発の発電電力量もこれまでの1868億~2055億kWhから2200億~2400億kWhへと増加している。この目標は達成可能なのだろうか。
 7次エネ基案では、原発の新設について「十数年から20年程度という相当長期のリードタイムが必要」であると記載されている。つまりこれから新設する原発は2040年度の供給力として期待できない。そこで仮に現在存在する原発がすべて60年稼働したうえで、福島第一原発事故後の長期停止期間分を延長運転すること、さらに建設中の原発(大間原発、島根原発3号機、東電東通原発1号機)が稼働すると考えた場合の発電電力量を推計した。
 結果、2040年度発電電力量が1.2兆kWhの場合、建設中の原発含めすべて稼働した想定でも原発シェアは19%、1.1兆kWhの場合でようやく21%になることが分かった。この推計は昨年、再稼働にむけた審査で不合格となった敦賀原発2号機や能登半島地震で被災した志賀原発1・2号機、柏崎刈羽原発の全基再稼働、建設中の大間原発・東電東通原発1号機も運転できることを前提としている。つまり2040年度20%目標や2030年度20%目標の達成は不可能であることが現時点でも明らかなのだ。

 事故からまもなく14年、福島第一原発事故の反省を投げ捨て、政府は原発積極推進路線に舵を切った。原発推進官庁である経産省が、原発推進論者で占められている審議会で、原発推進を掲げたエネ基を策定することは目に見えていた。
 現在実施中のパブリックコメントを受けて7次エネ基の内容が大幅に書き換わることは想定できない。だが、市民の声を直接政府に届ける制度は限られている。1月26日までのパブリックコメントには是非多くの意見をお寄せいただきたい。

(松久保肇)

【パブリックコメント】
〇エネルギー基本計画(案)(受付締切日時:2025年1月26日23時59分)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620224019&Mode=0

〇地球温暖化対策計画(案)(受付締切日時:2025年1月27日0時0分)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=195240104&Mode=0

〇GX2040ビジョン(案)(受付締切日時:2025年1月26日23時59分)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595224049&Mode=0

まつくぼ・はじめ NPO法人原子力資料情報室事務局長。1979年兵庫県生まれ。2003年国際基督教大学卒、2016年法政大学大学院公共政策研究科修士課程修了。金融機関勤務をへて2012年より原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表 図表と年表で知る福島原発震災からの道』(すいれん舎)など。経産省の有識者会合「原子力小委員会」や、「革新炉ワーキンググループ」の委員も務める。

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!