連載陣に聞く「わたしと憲法」(川口創さん)

マガジン9創刊20周年を機に、あらためて「憲法」のことを一緒に考えたいと、マガジン9で連載中の執筆陣の皆さまに「わたしと憲法」のテーマでご寄稿いただきました。

「使える法」「使うべき法」としての憲法(川口創)

 弁護士になって20年あまり。振り返れば、想定を遙かに超えて、憲法を活用してきた。
 弁護士2年目の2004年に、弁護団事務局長として提訴した自衛隊のイラク派兵違憲訴訟では、2008年、名古屋高裁で憲法9条違憲判決を得ることができた。そしてその年末、自衛隊はイラクから完全撤退をした。
 升永英俊弁護士に強く誘われて一票の格差訴訟に参加させていただき、最高裁大法廷も数え切れないほど経験させていただいた。
 日照権を巡る裁判では、憲法13条の人格権などを軸に、勝利的和解を勝ち取ったり、「圧迫感を受けることなく生活する利益」を獲得したり、名古屋教会幼稚園おひさま訴訟では、憲法13条とともに子どもの権利条約も活用し、一部勝訴判決を得るなどしてきた。
 「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展」を巡っては、不自由展実行委員会のメンバーや津田大介さんたちと、真剣な議論を闘わせた。
 不起訴となった軽微な軽犯罪法違反なども含めて、警察は広く国民からDNAデータを集積しており、膨大なデータベースが構築されている。そのデータベースの違憲性を問う裁判も、憲法13条や21条を基軸に闘ってきた。
 教職員の労働組合の裁判では、憲法28条の解釈を深めながら、今も闘いを続けている。
 刑事弁護で何件も無罪判決を得ているが、これも憲法31条の適正手続きを軸に闘ってきた成果でもある。
 他にも、裁判内外で、様々な場面で憲法を活用してきた。

 一般に、裁判の実務では、法的主張に憲法を出した時点で、負けだと言われている。
 裁判で勝つために依って立つ法律や判例があれば、憲法を出すまでもないからである。憲法まで遡って主張せざるを得ない、ということは、多くの場合、裁判で勝つための法律や判例がないことを意味する。
 しかし、この20年、この社会は寛容性を著しく失い、格差と貧困が拡大し、国家権力による国民監視が拡大した。安保法制や安保三文書改定を経て、自衛隊もこの国も、大きく変容し、戦争への大きな流れが止まらない。
 あらゆる場面で、尊厳が奪われている人たち、苦しんでいる人たちが増えている。
 しかし、声をあげるために依って立つ法律や判例が、圧倒的に足りない。多くの法自体が、寛容性を失いつつあるからである。
 尊厳を守るために使える法律がない場合、最後に使える「武器」は憲法しかない。 
 私は、この20年間、憲法を使って、尊厳を回復する闘いを続けてきた。
 そして、憲法は、他の法律同様「使える法」であり、「使うべき法」であることを実感してきた。
 憲法は、決して飾り物ではない。

 しばしば、「憲法は国家権力を制限する安全装置」と言われる。
 国家の暴走に対して、一人の個人が憲法を武器に立ち向かう場面にともに立つと、「国家の暴走を止める安全装置」だという憲法の本質を痛感する。
 同時に、「日本国憲法」は、単に「憲法」という本質を超えた価値がある。
 「一人ひとりの個性と尊厳を大切にする社会を作ろう。そのために、人権を保障し、権力を分立させる。そして、最も人の尊厳を奪う戦争は、絶対にしない」
 日本国憲法は、単に権力を制限する、というだけでなく、人を大切にする社会を作っていく、という強い熱意と決意をもとに作られた憲法である。
 この熱い思いが宿った憲法は、私たちが思っている以上に、使う価値があり、今こそ、使うべき意義がある。
 しかし私たちはまだ、この憲法を十分使いこなせていない。活かしきれていない。
 軍事国家化が進展し、国民監視が強化されるなど、国家の暴走が拡大している今こそ、憲法を使い、一人ひとりを大切にする社会を目指すたたかいを、あらゆる場面でつくっていくことが必要だと思う。
 私は、これからも、憲法を使い、磨き、一人ひとりを大切にする社会の実現のために、平和を守るために、憲法を使い続けていきたい。

川口創(かわぐち・はじめ) 弁護士。2児の父。1972年埼玉県生まれ。2000年司法試験合格、2002年から弁護士として活動。2004年2月イラク派兵差止訴訟を提訴、同弁護団事務局長として2008年に名古屋高裁で「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的判決を得る。著書に『保育と憲法: 個人の尊厳ってこれだ!』(共著、大月書店)、『徹底議論!半田滋×川口創 集団的自衛権で日本を滅ぼしてもいいのか』(共著、合同出版)、『「立憲主義の破壊」に抗う』(新日本出版社)など。
マガジン9連載:弁護士・川口創の「憲法はこう使え!」Returns https://maga9.jp/category/hkawaguchi/

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