第1回:国民投票までの流れを知ろう(南部義典)

憲法改正と国民投票の関係って?

 連載「立憲政治の道しるべ」の特別編として、今回から短期連載「国民投票法講座」が始まります。憲法改正についての話題が多くのぼるなか、「国民投票」について知りたいという声が聞かれるようになりました。この連載では、国民投票までの流れから、国民投票法について知っておくべき点や課題について説明していきたいと思います。

 まずは、「そもそも憲法改正と国民投票法はどんな関係にあるの?」と思われた方もいるかもしれません。そのヒントは憲法96条にあります。あらためてその条文を読んでみましょう。

憲法96条【憲法改正の発議、国民投票およびその公布】

(1項)この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
(2項)憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 この憲法96条が定める憲法改正手続きの具体的な内容についての法律が「国民投票法」で、2007年5月に制定されました。正しくは「日本国憲法の改正手続に関する法律」といいます。

 これとは別に、国会の組織や運営のあり方を定める「国会法」という法律も同様に、憲法改正の手続きに関する事項を定めています。「国民投票と法」というカテゴリーは、憲法、国民投票法、国会法の三本柱で成り立っています。

 国民投票法という法律が存在することは知っていても、条文に目を通したことがある方は、ほとんどいらっしゃらないでしょう。また、国民投票法(案)が国会で審議されていた頃のニュース報道を覚えている方も「そういえば、その後どうなったっけ?」と、素朴な疑問に駆られることがあるのではないでしょうか。国民投票法は、制定されて12年目を迎えますが、運用実績が一度もありません。国会・行政運営でいうところの「先例」は、何一つありません。国民に馴染んでいる法律とは、到底言えないのです。

 この講座では、国民投票法の第1条から順番に条文を読み込んでいくような進め方はしません。各回、主なトピックを拾いながら、掘り下げていきますので、気軽に読み進めていただければ幸いです。

 初回となる今回は、「国民投票までの流れを知ろう」と題し、その手続きを大まかに説明します。次表をご覧ください。

(表1)国民投票までの流れ(衆議院→参議院の場合)

出典:筆者作成

手続きには、6つの段階がある

 まず、手続きの出発点(0)として、国会法改正、国民投票法制定を挙げました。これらの法律が整備されるまでに、憲法施行(1947年)から60年もの期間を要したのは厳然たる事実です。

 そして表は、

Ⅰ 憲法改正原案の起草・提出
(1)各党個別による、憲法改正項目の検討
(2)各党合同による、憲法改正項目の協議
(3)憲法改正原案の起草
(4)各党における、了承手続き
(5)憲法改正原案を共同提出

Ⅱ 国会審議 
(6)衆議院本会議における趣旨説明、質疑
(7)衆議院憲法審査会における審査
(8)衆議院憲法審査会における採決
(9)衆議院本会議における審議
(10)衆議院本会議における採決
(11)参議院本会議における趣旨説明、質疑
(12)参議院憲法審査会における審査
(13)参議院憲法審査会における採決
(14)参議院本会議における審議
(15)参議院本会議における採決

Ⅲ 憲法改正の発議
(16)憲法改正の発議
(17)国民投票の期日の議決
(18)憲法改正案の公示、国民投票期日の告示

Ⅳ 国民投票運動期間
(19)国民投票運動

Ⅴ 投票日
(20)国民投票の期日
(21)憲法改正の成立

Ⅵ 憲法改正の公布、施行
(22)憲法改正の公布、施行

 と、便宜上、6つの段階、22の項目に分けています。

 表1の「国民投票運動期間(19)」の右側に、「国民投票広報協議会@国会」と、点線で囲っている箇所がありますが、憲法改正の発議を終えた後、国会が果たすべき役割というものも、しっかりと押さえておく必要があります。
 また、この表は、憲法改正原案の審査、審議が衆議院から参議院へと流れるプロセスを示していますが、参議院から始まる逆パターンもあるので、この点は注意してください。

 今回はイントロなので、各段階、各項目の詳しい内容には触れませんが、憲法96条が示す憲法改正手続きの「骨格」を、国民投票法、国会法という法律が「肉付け」しているという点を、まずはご理解ください。

「改憲国民投票」を行うまで、どれくらいの時間がかかるのか?

 国会法改正、国民投票法制定までに60年もの期間を要した、という話をしました。現在も、「(1)各党個別による、憲法改正項目の検討の段階」のところでずっと立ち止まっています。
 近年の自民党の動きだけみても、新憲法草案(2009年10月)、日本国憲法改正草案(2012年4月)、憲法改正に関する論点整理(2017年12月)と、話題は続いているのですが、段階としては(1)であって、(2)に進む気配はまったく見られません。

 安倍総理は、「2020年憲法改正施行宣言」(2017年5月3日)を以て、「(停滞する憲法改正論議に)一石を投じた」と繰り返し述べていますが、前記の論点整理では「両論併記」へと、むしろ後退しています。「(憲法改正は)スケジュールありきではない」(安倍総理)と言わざるをえなくなったのも、現在の自民党内の状況からすればもっともなことです。
 「○○年憲法改正実現!」と宣言したところで、何の意味もありません。(1)の段階を脱するのでさえ展望が開けないというのが実態です。
 よく講演会などで「憲法改正国民投票はいったい、いつ行われるのか?」というご質問を受けるのですが、それに対しては、「私は120歳くらいまで生きるつもりですが、その間に、一度くらいあるかもしれないし、ないかもしれない」と答えているくらいです。

 また最近、国会の関係者、憲法の取材を長く担当している記者の間でも、「俗にいう“改憲賛成勢力”ないし“改憲勢力”という概念には、ほとんど意味がない」「(改憲勢力が)3分の2を超えていようがいまいが、違いはない」と言う方が増えてきました。憲法改正に積極的な姿勢を示していても、思い描いている内容があまりにもバラバラで、結局は何も進まない(進んでいない)ことを率直に表現されているわけです。私もまったく同感です。

 テレビ、新聞は、これからも様々な形で、各党、国会の「憲法改正論議」を報じていくでしょうが、読者の皆さんには、ニュースが伝える事実を冷静、冷淡に見る力を養っていただきたいと思います。表の(22)の段階にたどり着くまでは、想像以上に長く、険しい道が待っているのです。

●マガジン9編集部では、国民投票に関して読者のみなさんが疑問に感じていること、南部さんに聞いてみたいことを募集します。件名を「国民投票講座」として、編集部までお寄せください。

 私の講演会のお知らせです。ご関心のある方は、ぜひお越しください。

「いま知りたい!憲法と国民投票のこと」
 ・2018年2月3日(土)15時~17時
 ・阿佐谷地域区民センター3階 第5集会室
 ・資料代300円
 ・主催 杉並・生活者ネットワーク
(参加申込み)
電話:03(5377)5080 FAX:03(5377)1070
または
suginami@seikatsusha.net まで

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸