第108回:香港東北部の乱開発と中国「最下層人口」じゃ、俺たち勝手なことやっちゃうよ〜(松本哉)

 ただでさえ社会状況の厳しい香港が、最近ますます厳しくなっている。香港人の友人の一人で、阿禮(アリ)という人がいるんだけど、彼は今年の8月に監獄へ入り、現在懲役13ヶ月の刑を受けている。当然悪人でもなんでもなく、普通に面白いやつ。香港では「徳昌里」というたまり場のようなスペースを運営していて、この界隈の人々は音楽イベントをやったり日替わりのヴィーガン料理レストランをやったりしている。本人も音楽をやっており、今年の7月には台湾で行われた音楽イベント「愁城鬧事」の時にも香港から来てライブをやっていて、東京や沖縄、中国などから来たミュージシャンたちと、みんなで一緒に飲んだりバカな話をして遊んだりしていたのが最後に会った時だ。トークショーもその阿禮と一緒にやった。
 さて、じゃあなんで捕まったかというと発端は香港の東北部(中国の近く)の開発問題。ご存知の通り香港は巨大な都市国家のようなところで、田舎は超少ない。なので香港東北部は自然も豊かで数少ないホッとするようなところなんだけど、ここの開発を許可する法律が香港立法院(国会)で審議され、2014年の6月13日に強行採決された。で、この時にその立法院前ではその強行採決に抗議する人たちと警官隊と小競り合いに。で、その時にデモ参加してた人や東北部の村人ら13人が不法集会罪に問われ、2年後の2016年8月には社会服務令(要はボランティアでなんかやれば許してやるっていう刑)に。で、実際にその社会奉仕活動も終え、全部終わったかと思われたが、今年になって突如その問題が再審査になり、刑も覆り、なんと8〜13ヶ月の実刑が今年8月に突如確定して、その13人は即時入獄! 厳しいね〜。

獄中の阿禮氏に書いた手紙。こっちは全力で書いたんだけど、つたない中国語と落書きのようなマンガなので、香港人からは「チビッコが友達に書いた手紙みたいだ!」と言われる始末(笑)。ちなみに今回のマンガはこの日本語版

 そもそも当日のデモもそんな暴力的な不法集会ではなかった上に、刑がそんな簡単に覆る手順がそもそもおかしい。最近どんどん自由がなくなっている香港社会。政治圧力が影響して、社会に反発するような勢力を潰そうとしてるんじゃないかと言われている。
 よく、海外の人たちから「どうして日本人はデモとかに参加しないの?」「やったとしてもなんであんなにおとなしいの?」とよく聞かれるが、「いや〜、海外はデモで捕まっても当日や翌日に出てこられるけど、日本はデモで捕まったりしたら2〜3週間捕まることもあるからね〜、日本は厳しいよ〜」とか答えたりもしてたけど、香港はもう軽く追い抜いちゃってる厳しさ。ひゃー、これもう日本も言い訳してる場合じゃないな〜。

香港。プライベートスペースとは思えない音響設備!

 さて、そんな中、最近偶然にも香港に行くことになった。
 前も少し紹介したアジア圏各地の謎の大バカたちが集まるイベント「NO LIMIT SEOUL 2017」が、9月に韓国ソウルで行われた。ここで仲良くなった人の中に中国広州から来ていたDie! Chiwawa Die!というパンクバンドがあり、東京の高円寺からも参加していたバンドの「パンクロッカー労働組合」とみんなで広州でイベントやろうということで盛り上がる。そして、せっかく広州行くんならその隣の香港でもなんかやったら面白んじゃないかってことに。で、話はあっという間に進み、その2ヶ月後の11月末に広州と香港でライブイベントや素人の乱トークイベントなどが行われることになった! 素早い!!!!
 そして早速、11月末に中国入りして真っ先に入って来た情報が、いま北京で発生している「低端人口」の問題。これ、中国語で「最下層人口」の意味で、簡単にいうと貧乏人追い出しの問題。中国は日本をしのぐ格差社会で、地方から出て来た貧乏な人たちは狭い家をシェアして住んでいるんだけど、そんな家で11月に起こった火事(27人死傷)をキッカケに、そんな貧乏な人たちの家に対して、違法だとか難癖をつけて、「3日以内に退去せよ」のような強制追い出しの連発! これが北京中で始まったもんだからとんでもない数の人たちが極寒の北京で家を失い路頭に迷うことに! こんなニュース全然知らなかった。しかも、中国内でも結構報道規制されてるらしくあまりニュースになってない。たまにネットでもだれかが報じるが、一瞬で削除される有様。でも、そんな状況でも中国の人たちはたくましくて、飄々として「ネットなんて野暮なものどうでもいいよ」と、意に介してない! それにどんな手を使ってるのか、すでにいろんな情報もらくらくと知っている。すごい! うーん、今の日本社会、みんなネットの情報ばかりを全てだと思い込んでる節がある中、「ネットはヤボ」と断言する中国人のセンス、相当先を行ってるのかもしれないな〜。日本も安倍首相を筆頭にした悪の政治家たちが共謀罪なんか作ったりして、だんだんいろんなことが規制されてくるこの世の中。こっちでもそのうち面白い情報や本当のことなんかが、ネット上から徐々にフェードアウトしていって、ネットだけ見てた人は気付いたら全てから取り残されていたなんてことにもなりかねないので、これは要注意だ! うかうかしてられないぞ!

広州は街が賑やか。親切に街を案内してくれる広州人たち

 香港にしても中国にしても、普通の観光旅行やただの知り合いに会いに行くのとは違って、アジア圏のアンダーグラウンド文化圏の繋がりで遊んでると、こんな地下情報もどんどん入ってくるのがまた面白い。行って話をするだけで、国やら国境やらっていうバカバカしいものを超えて地下文化圏の大マヌケなやつら共通の立場を共有できるのがいいね。

 さてさて、そんないろいろな問題が発生しているこのタイミングで偶然か必然か乱入して来たのが日本の「パンクロッカー労働組合」と「THE 天国畑 JAPON」という二つのバンド。広州ではライブハウスでのイベントやスタジオライブ、あとは去年日本で自分が出版した『世界マヌケ反乱の手引書』という本の中国版の出版記念イベントなどなど。日本と同様あまりいいニュースの少ない中国なので(どの国もそうか)、ここぞとばかりのバカ騒ぎと大宴会で広州人も盛り上がりまくる。

広州の新スペース「上陽台」

 そしてそのまま香港入りして、今度は極秘のプライベートイベント。なぜかというと、香港は最近何かと規制が厳しくて、巨大なコンサートホール以外の、小規模なライブハウスなどは実質的に開業不可能。以前は倉庫などを改築したスペースでライブハウスとしてイベントなどが行われていたが、現在ではそんなことしたら警察が踏み込んで来て捕まるので、それもできない。…てことで、仕方ないからみんなで住んでるシェアスペースのリビング(と言っても超広い)で、爆音で超巨大プライベートライブイベントを開催。もちろん、どれだけネットで検索してもこのイベントの情報は出てこない。ま、うまくやるためのいろんなテクニックがあるんだが、ネットはヤボなので、機会があれば直接様子を探ってもらいたい。

広州のライブハウスで。飲みまくったり踊ったり、大騒ぎに!!! 中国のライブの盛り上がりはヤバい!!

 さて、いろんな制限や規制がある中でも、軽々とやってしまう香港や中国の人たち。しかも、日本から遊びに行く我々を本当に親切に歓迎してくれるので、もう感謝の気持ちしかない。いうまでもないが、ここでも新しい友達が大量にできたり、NO LIMIT SEOUL で知り合った韓国の友達も遊びにきていたりと、新しい交流がどんどん生まれる。
 いや、しかし、みんな色々頑張ってるな〜。毎回海外に行くたびに思うけど、少し環境の違うところでも、みんなその置かれた環境の中でいろんな裏技を駆使しつつ面白いことをやりまくってる。一箇所の環境下だけで考えてたら色々行き詰まってきたり、考えが固定化して謎の自己規制が働いてきたりしてしまうけど、いろんな場所のいろんな人たちと交流してたら、かなりいろんな新作戦も生まれるし、すごくいい。そして重要なのは、国や環境が違っても、「金もうけやら謎の権威やらなんて知ったこっちゃねえし、やりたいことは自分たちで勝手にやっちゃうよ」という、同じ独立地下文化圏の中でウロチョロして行くことだ。
 さあ、そうとなったら、そんな謎の交流を継続して大事にしつつ、次はまた我らが日本の中でも色々やっちゃいましょうかね〜。

中国「低端人口」の話題はすぐにネット上から消滅する。やはりネットは野暮だ

松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。