第17回:北海道で初の震度7、山並み総崩れ、大被害!(柴田鉄治)

 9月6日未明、北海道中央部を襲った地震は、北海道では初の震度7を記録、山並みが軒並み総崩れという大災害を引き起こした。空から写した写真を見ると、地滑りで山肌が露出した様子がずらりと並んだ姿が何とも異様だった。
 被害も甚大で、震源地から200キロも離れた札幌市内まで地盤の流動化現象が起き、何万人もが避難するという騒ぎとなった。また、発電所がやられ、全戸が停電するという災難もあり、1週間たっても復旧せず、全道に20%の節電が続いた。折から観光シーズンとあって1週間で50万人がキャンセルしたという。
 こんな大被害をもたらした地震はどんな地震か。地震の規模を表すマグニチュードは6.7、その後7.0に修正されたが、それでも小さな、小さな地震なのである。3・11東日本大震災のマグニチュード9.1と比べると、ざっと1000分の1くらいなのだ。
 このことは、何を物語るのかというと、地震国・日本では、巨大地震だけでなく小さな地震にも目を配らなければならないということだ。私たちはどうしても巨大地震に目が向いてしまいがちで、これまでは東海地震、今年の防災の日には「南海トラフ巨大地震」が起こったという想定で訓練が行われてきたのも不思議ではない。
 しかし小さな地震でも北海道のような大被害が出るなら、その対策は大地震対策より難しい。さまざまな気配りが大事だろう。
 この北海道地震の直前には、25年ぶりという巨大台風21号が関西地方を直撃して、海上につくった関西空港を冠水させるという大被害が出たほか、電柱700本が倒れるなどで停電が各地に広がった。7月まで遡れば、北日本各地の集中豪雨で広島、岡山などで甚大な被害が出た。6月には大阪・北部地震。改めて「日本は災害国家」であり、2018年は災害の集中した年として記憶されよう。

自民総裁選始まる、「災害国家、日本をどうする?」

 折から自民党総裁選が始まった。自民党内の行事だといっても、事実上、首相を選ぶ選挙である。安倍首相と石破茂氏の一騎打ちの形になったが、論戦のスタートとなる8日に予定されていた日本記者クラブでの記者会見は、北海道地震を理由に中止となった。
 なぜ中止したのか。論戦をしたくない人がいて、誰かが忖度したのかもしれないが、中止せずに「災害国家、日本をどうする?」というテーマに絞ってやればよかったのではないか。もし、両候補者が抽象的な答えしかしなかったら、記者が質問すればいい。「米国から超高価な対空ミサイルを買うのをやめて、災害対策に回す気持ちはないか」と。
 中止になった日本記者クラブの記者会見は、6日後の14日に行われた。記者団からの質問は、「もり・かけ疑惑」に集中した。まず、読売新聞記者が「最大の問題は内閣不支持の一番大きな理由が『総理大臣が信頼できない』ということだ。一体なぜこういうことになっているのか」。安倍政権に近いといわれる読売新聞の質問だけに安倍首相の顔もこわばり、いつも通りの「今後は謙虚に丁寧に政権運営にあたりたい」という答弁に逃げた。
 続く毎日新聞記者の質問で「首相自身が『関与』の幅を狭めたり、広げたりしているのではないか」と問われると、「答弁も関与の定義も変えていない」と言い、さらに朝日新聞記者から「首相との面会を虚偽だと説明する加計学園になぜ抗議をしないのか」と問われると、「すでに学生が学んでいるので、平穏に」と考えたという。
 こんな状況だから、石破氏が争点にあげる「正直・公正」が大きな威力を発揮するかと思いきや、自民党内では議員の8割が安倍氏支持で、安倍氏の圧勝だというのだから、国民と自民党内では意見がまったく違うようだ。
 安倍氏は憲法改正が争点だと言うが、国民はそんなこと望んでもいないし、憲法改正は国会のやることなので首相の提案は筋違いなのではないか。
 とにかく、予想通り安倍氏の圧勝に終わるのかどうか、結果を静かに見守りたい。

大坂なおみ選手が全米オープンテニスで初制覇!

 明るいニュースが少ないなかで、テニスの大坂なおみ選手が全米オープンの決勝戦で、セリーナ・ウィリアムズ選手を破って優勝したというニュースは素晴らしい。四大大会で日本人が優勝したのは初めてで、男子の錦織圭選手を追い越しての栄冠だ。
 決勝戦の会場は、セリーナ・ウィリアムズ選手の女王復帰を期待する観衆で埋まり、大坂選手を応援する人はほとんどいなかった。審判の判定にまでブーイングが起こる始末で、大坂選手もやりにくかったに違いない。
 それでもサービスエースをびしびし決め、ラリーにも打ち勝っての堂々の勝利だった。そして終わってからの挨拶が、また素晴らしかった。「みなさんがセリーナを応援していたのは知っています。こんな終わり方ですみません。試合を見に来てくれてありがとう」と語ったのだ。
 ブーイングの観客を非難することなく、「見に来てくれてありがとう」と観客にお礼の言葉まで語ったのである。とっさの挨拶でこんな100点満点の言葉が出てくるなんて、ただものではない。会場全体が温かい空気に包まれたというのも、当然のことだろう。
 大坂選手は父親がハイチ系米国人、母親が日本人で、日米両国籍を持った国際人だ。テニスだけでなく「国際人」としても優秀極まりないと思う。韓国や中国の人たちにヘイト・スピーチを投げかける人たちに見習ってほしいものだ。

今月のシバテツ事件簿
9・11米国同時多発テロの日本のメディア

 2001年9月11日、イスラム教徒のテロ集団が航空機を乗っ取り、米国・ニューヨークのビルに激突するという惨事があった。当時のブッシュ米大統領はすぐ、報復としてアフガニスタンに空爆を仕掛けた。テロは犯罪であって戦争ではない。テロの報復として罪もない一般市民の頭上に爆弾を落とすなんて、許されるはずのない行為である。
 ところが、当時ブッシュ政権の支持率は90%を超え、日本のメディアまでそれを支持したのだから驚く。朝日新聞まで「限定ならやむを得ない」という社説を掲げた。私は、すぐ、古巣の論説委員室に飛んでいき、「おかしいではないか」と抗議した。
 論説委員室の説明は、「一般市民には被害を与えない、テロ集団に限定しての攻撃ならやむを得ない」という主旨だった。この説明を聞いて私はさらに驚いた。「一般市民には被害を与えない空爆なんてあり得るのか」と。
 私は子どものころ空爆を体験し、わが家も東京大空襲で焼けた。空爆に「限定」などありえないことを体験しているが、私より10歳以上若い論説委員たちには空爆体験はない。論理的には限定もあり得ると考えてしまったのだろう。
 さらに、支持率90%に気をよくしたブッシュ大統領は、世界中の反対の声を押し切って、国連の支持もないまま2003年、英国と一緒にイラクに攻め込んだ。イラク戦争の勃発である。その結果は大義名分の「イラクが所有する大量破壊兵器」も出てこず、中東情勢を泥沼化させるという大失敗に終わった。
 このイラク戦争に当時の小泉政権は自衛隊を派遣し、これに対しては名古屋高裁で違憲判決も出ている。また、読売新聞や産経新聞はイラク戦争に賛成の立場をとり、米国による「侵攻」ではなく「進攻」として報じた。同じようにイラク戦争に賛成した米国のメディアはのちに反省を表明したが、読売・産経はまだ反省していない。

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柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。