第21回:「平成の終わる年」明ける(柴田鉄治)

 天皇の意向を国民が理解し、政府も追随して退位が実現して、「平成」が終わる年、2019年の年が明けた。5月1日から変わる元号を政府が1カ月前に発表するそうだから、メディアは元号のスクープ合戦などやらなくて結構だ。スクープ合戦はメディアらしいテーマでやってもらいたい。
 元号はあってもいいが、年号の表式は西暦に統一してもらえないだろうか。何年前や何年後を考えるとき、元号では分かりにくくて困るからだ。政府・官庁が率先してやってくれないとどうしようもないテーマだから、この機会にぜひやってもらいたい。
 天皇の85歳の誕生日に先立つ記者会見での言葉に「平成の時代が平和だったことを嬉しく思う」という部分があったが、その言葉には私も感動した。戦争を体験した人がどんどん減っていく時代だけに、戦争を体験した世代はこの言葉を次世代に繋いでいくことを大事にしたい。
 私も学童疎開で栄養失調になったり、東京大空襲でわが家が焼けたりした世代で、「戦争だけはごめんだ」と骨の髄までしみ込んでいる人間だが、集団的自衛権の行使を認める安倍政権の安全保障政策には心配でならない。
 軍事予算も初めて5兆円を超えたが、自衛隊が空母を持ったり、それに乗せる高価な戦闘機を米国から買ったりせずに、その費用を災害対策費に回すように希望する。何があっても戦争だけはやるな、とメディアのチェックを年明けにあらためて期待しておきたい。

ゴーン事件、やっとフランス側にも理解が広がったか

 日産自動車のゴーン会長事件は、会社のカネを私物化した事件だから、本来なら会社が処分を決め、その後に刑事訴追をするのが普通なのに、最初から地検特捜部が出てきたところが「日産のクーデターだ」と言われる所以だが、やっとフランスのルノー側にもゴーン会長のやり口に対する批判の動きも広がったようだ。
 最初はルノーの会長は解任しないとしていたフランス側も、株主総会で会長を解任し、日本側と歩調を合わせてきた。この際、日本側もフランス側の批判に応え、容疑者の人権より捜査側の意向を重視して長期拘留などを平然と許容するような日本の司法制度の改革に乗り出すべきだろう。
 ところで、ゴーン事件と対抗するかのように、フランスの捜査当局も東京オリンピックの招致に絡む贈収賄事件として、竹田恒和JОC会長の捜査に乗り出した。それを受けた竹田会長の記者会見が、僅か7分と記者からの質問も受け付けない状況をみて、「何かやましいところがあるのかな」と思った。
 質問を受けつけない記者会見なんて、記者会見とは言えないことはいうまでもない。東京オリンピックの招致に日本はアフリカ諸国の票を『買った』という噂が当時から広がっていただけに、日本の捜査陣もメディアも『オリンピック疑惑』をもう一度、チェックしてみたらどうだろうか。
 東京オリンピックといえば、安倍首相の『嘘』も有名だ。開催地を決めるIОCの会合で「福島原発事故はコントロールされている」と大嘘をついたことだ。

安倍首相は大嘘つき、その後の「もり・かけ疑惑」でも続々と

 安倍首相が平気で嘘をつく人であることは、その後の「もり・かけ疑惑」で次々と明るみに出た。森友学園事件で「私や妻が少しでもかかわっていたら総理だけでなく議員も辞める」という大嘘に始まって、加計学園事件では「加計学園から獣医学部新設の申請が出ていることは、それを決めた17年2月15日まで知らなかった」という嘘が有名だ。
 文科省や愛媛県などから「その前から知っていたことを示す文書」が次々と出てきても、頑として訂正もせず、そのため加計学園の事務局長が「私が嘘をつきました」と言わされるはめになって、処分までされているのに…。
 安倍首相がどれほど嘘つきか、その具体例を列挙した『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社新書)という本まで昨年末に出ているほどだ。
 安倍首相がこれほど嘘をついても辞めないのはなぜか。理由の一つは、与党内に安倍批判をする政治家がいないからだろうが、もう一つは、トランプ米大統領の登場によって政治家の嘘を許容する空気が世界的に広がったことも挙げられよう。
 トランプ氏の当選後、真っ先に駆け付けたのが安倍氏で、意気投合したのも2人がよく似ているからかもしれない。
 安倍首相だけではない。公文書改ざんの財務省の麻生財務相、統計不正の厚労省の根本厚労相も、責任を取ろうとしない。安倍政権は、閣僚から官僚まで『無責任体制』が広がってしまったような気がしてならない。

沖縄・県民投票、3択方式は失敗のもと

 一方、沖縄の民意を無視して辺野古基地新設を強行する政府の動きも続いているが、あらためて民意を問う2月14日の県民投票が、賛成・反対のほかに「どちらでもない」を加えた3択の案に変った。それによって、投票に不参加を表明していた5市町村が参加することになりそうなのはいいが、3択方式は失敗のもとなので要注意だ。
 選挙で「A候補でもB候補でも、どちらでもない」投票があり得ないように、「どちらでもない」人は棄権すればいいのだから、3択にする必要はもともとないのだ。
 世論調査でも、NHKの調査が回答に「どちらともいえない」が多くて民意が分かりにくいことはよく知られており、「わざと分かりにくくしているのだ」という批判まである。読売新聞の世論調査でも憲法9条「改正」の賛否を訊くと反対が多くなるので、3択にしたことも知られている。
 3択になって全県民が参加することはいいことだから、今後は、賛・否のどちらかに投票するよう、PRすることが大事だろう。

テニスの大坂なおみ選手が世界一に

 暗いニュースが多いなかで、今月は明るいニュースも、スポーツ界を中心に少なくなかった。なかでも素晴らしかったのは、テニスの大坂なおみ選手が昨年の全米オープンに続いて全豪オープンでも優勝し、世界一になったことだ。
 大坂選手は21歳。日米両国の国籍をもつなど、複数の国にルーツがあるところも素晴らしい。これからの世界は、国家主義・自国主義や人種差別などをなくしていくことが大事で、「地球全体が一つの国家だ」となれば、戦争もなくなるだろう。
 大坂選手の今後の活躍を期待し、ウインブルドンや全仏オープンも制してグランドスラムを達成してもらいたい。
 大相撲初場所で、モンゴル出身の玉鷲が初優勝したのも、同じような意味で明るいニュースだといえよう。国技といわれる大相撲で、モンゴル勢が横綱を独占したことに不満を持った人たちが、稀勢の里の横綱昇進に大喜びしたのもつかの間、けがに泣いて、またまた寂しい初場所となった。
 ところが、代わって新しい力士に注目が集まり、その中から34歳のベテラン、玉鷲が優勝して話題を集めた。昇進は遅かったとはいえ、連続出場の記録もすごく、大相撲に新しい人気をもたらした。
 政界の暗さとスポーツ界の明るさ、今年はどんな年になるのだろうか。

今月のシバテツ事件簿
阪神・淡路大震災とオウム事件から24年

 1995年といえば、私が定年直前の現役最後の年だった。年明けの1月、たまたま大阪出張と重なって、阪神・淡路大震災の現場で、高速道路が横倒しになっていたり、ビルの中層階がぺしゃんこになっていたりする姿を見た。「関西には大地震がないという『迷信』があって、手抜き工事をしたな」というのが私の実感だった。
 地震予知はできないのに「東海地震だけはできるかもしれない」という迷信と、「次の大地震は東海地震だ」という予想が広がっていたこととも重なっていたのかもしれない。
 阪神・淡路大震災についての反省が充分になされなかった理由は、その直後に、東京でオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こったからだ。無差別・大量殺人という大変な大事件で、「平和な日本でこんな事件が起こるとは」と驚いたことを思い出す。
 昨年、このオウム事件の犯人らの死刑が執行され、死刑制度の是非があらためて話題となった。「死刑は国家による殺人ではないか」という視点から死刑を廃止した国も少なくないだけに、日本でも死刑制度の是非を再検討すべきではないか。
 ただ、日本では死刑制度を支持する国民が多いようだが…。

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柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。