第23回:トランプ大統領の「ロシア疑惑」と安倍首相の「もり・かけ疑惑」(柴田鉄治)

 トランプ氏が大統領に当選する前の選挙中から話題になっていた「ロシア疑惑」、ロシアがトランプ陣営に肩入れしたのではないかという問題を調べていたマラー特別検察官の捜査報告書が司法長官に提出され、3月24日、書簡の形で議会に報告された。
 司法長官が議会に提出した書簡は4ページで、ロシアによる選挙介入と、トランプ氏の司法妨害疑惑の2点に焦点を当てて結論をまとめたもの。選挙介入に関しては、ロシアが大統領選挙中にトランプ氏が有利になるような工作をしたことが明らかになっており、ロシアの軍当局者らが起訴されたが、捜査報告書には「トランプ氏陣営や関係者がロシア政府と共謀したり、協力したりした証拠は見つからなかった」と記載された。
 トランプ氏の司法妨害については、「通常の訴追判断をしないことを決断した」と記載されているが、捜査報告書には「大統領が犯罪をしたという結論は出さないが、潔白だとするものでもない」と記されているという。
 この書簡の発表を受けて、トランプ大統領は「完全に潔白だ」と記者団に強調したようだが、真っ白どころか、灰色というより、黒に近い灰色だというもののようである。とくに、司法妨害については、前のFBI長官をクビにしていることでもあり、現司法長官の「訴追はしない」という判断がそのまま通るかどうか、予断を許さない。
 現に、民主党のペロシ下院議長らは声明を出し、報告書と基礎資料の全面公開を求めた。トランプ氏の「ロシア疑惑」はまだまだ、当分、目が離せない。

安倍氏の「もり・かけ疑惑」には、特別検察官もいない

 トランプ氏の「ロシア疑惑」も2年半前の選挙中からくすぶっていた事件だが、安倍首相の「もり・かけ疑惑」も2年以上もくすぶり続けている事件だ。しかも、司法妨害ではなく、司法が進んで権力者に擦り寄った事件なのだ。
 これまで何度も繰り返して書いてきたように、安倍夫人が名誉校長を務める森友学園の小学校の用地に超格安で国有地を払い下げた背任罪、国会で嘘の答弁を繰り返したうえ、公文書まで改ざんした犯罪、そうした政府関係の犯罪を取り調べることを使命とし、「巨悪は眠らせない」と豪語してきた地検特捜部が、全容疑者を不起訴にしたうえ、払い下げを受けた側の籠池泰典前理事長夫妻を詐欺罪などで逮捕して、300日近くも長期拘留したのだから驚く。
 もし日本にも米国の特別検察官のような制度があったなら、すぐにも任命して「もり・かけ疑惑」を調べてもらいたいものだ、と思う。
 米国では権力者の犯罪に対する捜査が始まると、FBI長官のクビを飛ばすような露骨な司法妨害が行われるのに対して、日本ではそんな必要はなく、捜査当局のほうが権力者の意向を「忖度」してやってくれるのだから、気楽なものだ。
 いや、日本でもかつては法務大臣が自民党幹事長の逮捕を妨害した事件があったが、「指揮権発動」と大問題となり、法務大臣のほうが責任を取らされた。半世紀前のことだが、そんな事件が明るみに出るだけでも、いまより健全だったのではあるまいか。

今年は参院選と地方選挙が重なる「亥年の選挙」年

 今年は統一地方選挙と参院選挙が重なる12年に1度の「亥年の選挙」年である。それがなぜ話題になるかと言えば、選挙に強い自民党が地方選挙で疲れて参院選で大敗することが多く、「亥年の選挙」年に政権交代がしばしばあったからだ。
 そのため、今年の参院選も、安倍首相は衆議院を解散して、衆・参同時選挙に持ち込むのではないか、といった観測が、かなり前から言われていた。
 といっても、衆・参同時選挙は、もし衆院選で負ければ政権交代になるわけだから、昨年に3選されたばかりの安倍首相が、そんな冒険をやるとも思えないが…。
 統一地方選挙は、21日に告示された11道府県知事選挙に続き、24日に告示された札幌、相模原、静岡、浜松、大阪、広島6政令市の市長選も始まった。そのなかで、大阪府と大阪市で奇妙な事態が起こっている。大阪維新の会の松井一郎・大阪府知事と吉村洋文・大阪市長が、同時に辞職して入れ替わって選挙戦に出るというのだ。
 4年前の住民投票で敗れた「大阪都構想」の復活を狙っているようだが、そんな選挙民を無視した党利党略の奇妙な戦略が許されるのだろうか。もちろん自民党は、それぞれに対立候補を立てて戦う構えだが、首相官邸は、憲法改正に積極的な維新勢力の協力を得たいからと、秘かに秋波を送っているそうだ。政界とは、もともとそんな党利党略の渦巻く世界なのかもしれないが…。それにしてもひどすぎないか。

安倍首相の4選? いや、自民党に人材がいないのだ!

 二階・自民党幹事長が安倍首相の4選を言い出した。それに呼応するかのように、読売新聞が自民党員1042人に「次の総裁にふさわしい人は?」と訊いたところ、安倍晋三氏が25%でトップ、石破茂氏が21%で2位、小泉進次郎氏9%で3位という結果が出たと報じた。
 安倍氏のあとがまた安倍氏とは、また読売新聞の「安倍氏よいしょ記事」かと思ったら、そうではなかった。25日付けの読売新聞の世論調査によると、安倍氏のあとにまた安倍氏でよい35%、よくない51%で、反対意見が多いのだが、自民党支持者に限れば、よい56%、よくない31%と賛成が多いのだ。
 つまり、自民党支持者は、自民党内に安倍氏以外の総裁候補はいないとみているようなのだ。この数字には、少々驚かされた。

沖縄・辺野古基地、民意を無視して土砂投入域を拡大

 沖縄の辺野古基地の新設をめぐる県民投票から1か月、政府は民意を無視して工事を強行する方針で、25日、新たな区域で土砂の搬入を始めた。沖縄では反発と不信感が広がるばかりだ。
 新たな区域は、キャンプ・シュワブの南西側の約33ヘクタール。昨年12月に土砂投入が始まった東隣りの6.3ヘクタールの区域と合わせると埋め立て予定地の4分の1にあたる。政府は来夏にも陸地化する予定だが、シュワブ北東側には軟弱地盤が広がっており、地盤改良工事が必要になる。
 玉城デニー知事は「民意を無視し、工事を強行することは民主主義を踏みにじり、地方自治を破壊するものだ」との怒りのコメントを出したが、政府の姿勢にはまったく言葉もない。「亥年の選挙」で政権交代を早めるよう、全国民に訴えたい。

今月のシバテツ事件簿
「3・10」と「3・11」を考える

 「3・10」は1945年の3月10日、東京大空襲の日、麹町のわが家が焼けた日だ。
 当時、10歳だった私は、東京郊外の疎開先から「東京の空が真っ赤に染まった」のを、わが家にひとり住んでいた父を心配しながら眺めていた。
 その父が翌朝、よれよれの姿で現れたときは嬉しかったが、3日後に父と焼け跡を見に行ったところ、狭い敷地いっぱいに焼夷弾の殻が100発近く落ちていて、父が助かったのは奇跡だと思ったことを覚えている。
 この東京大空襲では10万人の死者が出た。
 一方「3・11」は、2011年の3月11日、東日本大震災の日だ。「3・10」から66年が過ぎているが、各地の慰霊祭で両方の死者に黙とうをささげている姿を見て、3月10日・11日と続く2日間を「新たな決意の日」としたらどうか、と考えた。
 「3・10」は2度と戦争はしないと決意すると同時に、無差別空爆は戦争犯罪だということを忘れない日としたい。
 「3・11」は、「災害国、日本では、いつ、どこで何が起こるか分からない」と、あらためて肝に銘じると同時に、「原発をやめる」ことを決意する日としたい。福島原発事故の惨状をみれば、原発の再稼働を急ぐ政府や電力会社の方針が間違っていることは明らかだろう。
 「新たな決意の日」では、印象が薄いので、何かいい名前を考えていただきたい。

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柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。