第24回:「亥年の選挙」始まる、大阪では知事・市長の「入れ替え選」、ともに勝つ(柴田鉄治)

 参院選と統一地方選が重なる12年に1度の「亥年の選挙」が、4月7日の統一地方選の前半戦から始まった。その結果、大阪府知事の松井一郎氏と大阪市長の吉村洋文氏が、同時に辞職して入れ替わって立候補するという大阪維新の会が打ち出した「奇策」が大成功し、世間をアッといわせた。
 4年前の住民投票で敗れた「大阪都構想」の復活を狙ったもので、選挙民を無視した党利党略からの奇妙な戦略が大当たりするなんて、どうなっているのか。しかも、地元の大阪では自民党や公明党が対立候補を立てて激しく争ったというのに、憲法改正を狙っている安倍首相ら官邸は、維新の会の大勝に秘かに大喜びしているというのだから、わけが分からない。
 そのうえ、東京でも、先の知事選で小池知事に大敗した自民党が次の知事選に誰を立てようかと都連が模索しているとき、党本部の二階幹事長が小池知事を支持しようと言い出して、都連を唖然とさせている。
 政界とは、もともと党利党略の渦巻くそんな世界なのかもしれないが、それにしてもひどすぎないか。しかも、東京、大阪という日本を代表する二大都市で同時にそんなことが起これば「日本がおかしくなった」と世界中が思うのではなかろうか。
 4月15日の統一地方選の後半戦では、86市長選のうち3割が無投票当選となった。県庁所在地では津市で現職が3選、高松市では現職が4選した。市議選まで無投票になったところが全国に11市もあった。
 無投票当選が増えるということは、日本の民主主義が機能不全に陥っていることを示しているといえよう。日本社会は、本当に大丈夫か。

衆・参同時選挙、萩生田光一氏が示唆?

 亥年の参院選は、統一地方選で自民党の力が弱まり、参院選で大敗したことが少なくない。それを防ぐには野党の力も弱める必要があると、衆・参同時選挙に持ち込もうとする動きが出てくる。ただ、今年は、同時選挙をやって負けたら安倍3選がすっ飛んでしまうので、そんな危ないことはやらないだろうといわれてきた。
 ところが、安倍首相の側近、萩生田光一・自民党幹事長代行が消費減税の延期の可能性を口走り、「信を問う」ために同時選挙の可能性があると示唆したことで、またまた燃え上がってきた。萩生田氏は個人的な意見だと主張しているが、安倍氏の意向を忖度した発言ではないかともみられている。
 いずれにせよ「亥年の選挙」として、6月の参院選までは目を離せない。安倍首相は平気で嘘をつく人柄からか、国民から信頼はされていないのに、不思議と内閣支持率が下がらず、二階幹事長から4選の声まで出ているのだから驚く。
 読売新聞社が自民党員1042人に「安倍氏の次の総裁は誰か」と訊いたところ、安倍氏を挙げた人が25%で1位、石破氏が21%で2位だったという。安倍氏の4選もあり得るというのは、自民党に人材がいない、ということなのかもしれない。

平成の次の元号は「令和」、発表の仕方をめぐってひと波乱?

 天皇の退位を前に、次の元号「令和」が4月1日に発表された。元号が昭和から平成に代わったとき、人々の印象にもっとも残った光景は、当時の小渕官房長官が「平成」の文字を掲げた光景ではなかったか。あのときは昭和天皇の逝去と重なり、改元はひっそりと行われたのだから無理もない。
 今回は前とは違って、改元の儀式もひっそりと行う必要もなく、大騒ぎとなった。新元号の発表を最もやりたかったのは安倍首相だろうが、それでは菅官房長官の立つ瀬がない。会見で記者の質問を封じようとして評判を落としているときだけに、菅官房長官も譲れない。
 そこで、安倍首相が考えたのは、新元号の解説者をやるという方法だった。「新元号は万葉集が出典で、人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」と解説したのだ。出典が中国の古典ではなく、万葉集という国書であるところがお気に入りだったようだが、令和という漢字はすべて中国から来たものだし、突然、国文学者に変身したかのような安倍首相の解説は奇妙な光景だった。
 新元号について、有識者から意見を訊いた会合では外部に漏れないよう参加者から携帯電話まで取りあげたという話が流れてきたこと、新聞には「こんなに大きな活字があったのか」と驚くような大見出しが載ったことなど、新元号をめぐる人間模様は興味深かった。
 ただ、年号については、昭和、平成だけでも、「あれから何年?」と数えるときのややこしさは多くの人が実感しているところだろう。西暦に統一して、新元号はなるべく使わないようにしてほしいところだが……。

日産自動車は、なぜ「外部の力」に頼ろうとするのか

 日産自動車は、経営が悪化したら外国からカルロス・ゴーン氏を社長に呼んできて、経営を立て直した。そのゴーン氏が会社のカネを私物化したら、今度は、東京地検特捜部に秘かに訴えて、特別背任罪で逮捕してもらい、臨時株主総会でやっと取締役を解任できた。なぜ、こんなにも「外部の力」に頼らないと、自社の改革ができないのか。
 しかも、剛腕の経営者でなければ経営の改善はできなかったにしても、会社のカネを私物化した悪事については内部監査で摘発し、社内処分をしてから刑事訴追するという普通の会社のやり方ができなかった理由が、よく分からない。
 地検特捜部を指揮する検事総長が「巨悪は眠らせない」と豪語した、その「巨悪」とは、政治家や高級官僚などの悪事を指摘した言葉で、ゴーン氏は経済界の大物かもしれないが、政界の権力者ではなく、巨悪には当たらない。
 それなのに、108日間も拘留して、海外から「人質司法だ」という批判の声が高まり、やっと保釈が実現したかと思ったら、ゴーン氏が記者会見して無実を訴えると発表した翌日に、またまた4度目の逮捕をするというのだから驚く。これでは日本の司法は、捜査陣に甘く、被告の人権に辛いと言われるのも当然だろう。
 ゴーン氏は、日本の会社の社長の給与を巨額に跳ね上げさせた人だといわれている。ゴーン氏が登場するまで日本の会社は、社長の給与と新入社員の給与の差が最も小さい国だとされてきた。しかしゴーン氏の登場後、高給取りの経営者が増え、日本政府も2010年から年額1億円以上の収入がある上場企業の経営者を有価証券報告書に公表するようになったが、その数は昨年3月に4103人になったという。
 ゴーン事件では日産自動車の訴えを訊いた検察庁も、「もり・かけ疑惑」では、国有地を超格安の値段で払い下げた背任罪の疑いがありながら、国会で嘘の答弁をし、公文書の改ざんまでしていた財務省の理財局長ら容疑者全員を不起訴にした。
 巨悪は眠ったままなのに、詐欺罪で逮捕した森友学園の籠池泰典前理事長夫妻は1年近く拘留したのだから、「口封じのための国策捜査だ」という声が出てくるのも無理はない。

米国の捜査陣は? トランプ大統領のロシア疑惑

 トランプ米大統領のロシア疑惑を調べていたマラー特別検察官の報告書が先月、公表されたとき、ロシアとの共謀や大統領による司法妨害などが「証拠不十分」とされたことでトランプ大統領は「素晴らしい報告書だ」と持ち上げていた。それが4月18日に400ページにのぼる報告書全文が公表されると、そこにはトランプ氏があの手この手で捜査を止めようとしたことが記されており、メディアがこれをこぞって報じたため、トランプ氏も「いかれた報告書だ。違法に始まった捏造だ」と態度を一変させた。
 米国の司法省には、大統領は刑事訴追しないという暗黙の了解事項がある。それに従って司法長官が報告書の一部を公表して「証拠不十分」と結論づけただけであって、マラー特別検察官自身は「どちらともいえない」として、結論は議会に委ねるとしていたものだ。
 議会の民主党は、報告書の全文公開を受けて追及の構えを見せている。その結果がどう出るかは、予断を許さない。

今月のシバテツ事件簿
航空自衛隊のF35A戦闘機が墜落、パイロットが行方不明に

 今年度の日本の軍事予算が初めて5兆円を超えた。憲法9条で、陸・海・空軍は保有しない、と決めた日本が、これでいいのだろうか。
 中米のコスタリカは、日本の憲法9条と似た条項を持ち、軍事費をすべて教育費に替えて教育水準を高めることに使っている。もちろん自衛隊のような軍隊は持っていない。
 F35A戦闘機は、米英など9か国が共同開発した最新鋭のステルス型機で、昨年1月に配備が始まった航空自衛隊の次期主力戦闘機だ。1機147億円で、それを政府は現時点で105機購入することになっている。
 青森県沖の太平洋上で4月9日夜、消息を絶ったF35A戦闘機は、航空自衛隊三沢基地所属で、40代の3等空佐が操縦していた。他の3機とともに同基地を離陸して対戦闘機訓練を実施中、突然、訓練の中止を宣言して消息を絶ち、同基地の東方135キロの海域で同機の尾翼の一部が発見・回収された。パイロットは見つかっていない。
 墜落した機体を回収して、原因を解明することが当面の急務だが、100機も購入する計画は見直してもらいたい。コスタリカのようにいますぐ自衛隊をなくすわけにもいかないだろうが、それでも軍隊というより災害救助隊の性格を強めていくべきだろう。
 ステルス型の戦闘機が災害救助に役立つことなど全くないのだから、事故を契機に購入計画を抜本的に見直そうではないか。

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柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。