第30回:紛争中の中東への自衛隊派遣は、何たる暴挙!(柴田鉄治)

 今月のニュースの中で私が最も気になったのは、紛争中の中東に自衛隊を派遣する計画が国会審議も経ずに政府によって進められていることだった。調査・研究という名目で、米国が主張する「有志連合」には参加しないというが、もし米国とイランが衝突でもしたら、本当に米国側につかなくとも済むのか。
 日本はいま、世界でも珍しい米国とイランの両国に親密な国だ。イランの大統領は米国のトランプ大統領とは会わないが、安倍首相とは何度も会っている。日本の役割とは、まさに、この両国との緊密さを活用し、米国とイランの調停に力を入れることだろう。
 それなのに、自衛隊を派遣するなんてどうかしている。両国との緊密な関係など、あっという間に吹き飛んでしまう可能性すらある。
 過去の戦争の歴史を振り返ると、実に様々、予断を許さない。日本が直接的に戦争に巻き込まれる恐れもないとはいえない。日本に軍事・外交の専門家はいないのか。

即位礼での天皇のお言葉の好評にホッとした

 22日の即位礼正殿の儀での新天皇のお言葉に「よかった!」という声が、日本国内だけにはなく外国の識者からも寄せられたことにホッとした。とくに、「憲法を守って世界平和に尽くす」という部分が素晴らしかったというのである。
 というのは、30年前、前天皇の即位のときのお言葉に「憲法を守り」とあったことに自民党の一部から異論が出て、今年5月の新天皇のお言葉は「閣議決定」とされ、「憲法を守り」が「憲法にのっとり」という言葉に替えられた。今回の即位礼でのお言葉も「憲法にのっとり」は変わらないのだが、「国民に寄り添い」「世界平和に尽くす」という固い決意の言葉と一体になって、「平和憲法を守る」と同じような響きをもたらしたのだろう。
 安倍首相は改憲論者であり、外国からは日本が平和憲法を捨てて軍事国家への道を進もうとしているのではないか、と警戒する声が強い。国民の間でも平和憲法の改憲には反対の意見が多いのだから、象徴天皇のお言葉が「憲法を守って」というように聞こえても問題はあるまい。
 前天皇と新天皇の「世界平和に尽くす」という決意の強さは、先の戦争に対する反省から生まれたものではあるまいか。

人類絶滅の危機にそっぽを向く日米両首脳、16歳の少女が「許さない」と

 人類が絶滅するかもしれない危機が2つある。核戦争が起こるか、地球環境が激変するかだ。それを防ごうとする国連の努力のうち一つは、122ヵ国が賛同して生まれた「核兵器禁止条約」。もう一つは今年9月23日から始まった、77ヵ国が2050年までに地球温暖化ガスを実質ゼロにすると表明した国連気候行動サミットだ。この二つの動きに、日米両国の首脳が揃ってそっぽを向いているのだから驚く。
 米国は核兵器の最大所有国だから核禁条約に賛成しないのは分かるが、唯一の被爆国、日本が反対する理由が分からない。米国の「核の傘」のもとにいながら核禁条約に賛成してはなぜいけないのか。気候サミットには、パリ協定に反対している米国のトランプ大統領さえ、途中で席を立ったといえ出席したのに、安倍首相は出席しなかったのだから世界からどう見られたか。
 その国連気候行動サミットで、スウェーデンの16歳の少女が怒りを込めて「もしあなたたちが私たちを見捨てる道を選ぶなら、私は許さない」と演説したと報じられた。英、独、仏、印などの首脳は参加していたサミットだけに、少女の怒りは特に日米両国首脳に向けられていたように私には聞こえた。

また原発をめぐる不可解なカネ

 関西電力の幹部たちが原発立地の福井県高浜町の元助役から巨額のカネを受け取っていたことが、共同通信のスクープによって明るみに出た。立地町村に関電がカネを配るなら分かるが、逆なのである。原発を食い物にする人のなんと多いことか。
 高浜町の元助役、森山栄治氏から関電の関係者20人に渡ったカネは3億2000万円。森山氏は地元の有力者で、同氏には原発工事の受注企業からカネが流れていた。関電の発表では奇怪なことに、八木誠会長と岩根茂樹社長の名を公表しただけで、あとのことは一切明らかにせず、しかも当初は2人とも辞任さえしないとしていた。
 岩根社長は、今年6月に大手電力10社でつくる電気事業連合会の会長に就任したばかりで、八木会長もかつて5年間も電事連の会長を務めた人だ。
 さすがに厳しい批判を浴びて2人とも辞任することが発表されたが、原発を推進したことで、日本の社会もおかしくなってしまったようである。
 今回の関電疑惑と30年ほど前の「リクルート事件」がそっくりだという論評がある。警察が動かなかった事件をメディアが追及して明るみに出した点はよく似ているが、明るみに出てからの地検特捜部の動きが全く違った。
 リクルート事件では、地検特捜部が頑張って竹下内閣を総辞職に追い込むほどの意欲を見せたが、今回の関電疑惑には動こうともしない。安倍政権がらみの「モリカケ疑惑」や原発がらみの事件には、最初から忖度してやらないと決めているかのようである。
 検事総長が「巨悪は眠らせない」と言ったのは、いつのことだったか。

豪州と中国で二つの「メディア事件」! 日本のメディアは?

 外国に目を転じると、オーストラリアと中国で起こった二つのメディア事件が目にとまった。オーストラリアでは、軍の内部情報などを報じた記者の自宅に家宅捜索が入ったことなどに抗議して、主要紙がそろって一面黒塗りの紙面を出した。「政府は何を隠しているのか」という共通のイメージを掲げて……。
 中国のほうは、それとは反対に、政府が国内メディアの記者や編集者に、習近平国家主席の思想の理解度などを問うテストを実施するというのだ。合格ラインは80点で、再試験にも不合格なら記者証を没収される。記者証がなければ取材はできない。
 中国ではもともと政府とメディアに一体感があり、メディアに権力をチェックするような機能はなかったが、テストまでするというのだから、チェックしようとするような記者が出てきたのだろうか。
 ところで、日本のメディアはどうか。もちろん中国とは違うが、オーストラリアのように一斉に黒塗り紙面で政府批判をするところまではいっていない。政権寄りと、批判派と、まあまあの「二極分化」といったところか。

今月のシバテツ事件簿
新聞と週刊誌の特ダネ競争

 私が現役の社会部長をしていた30年前は、新聞と週刊誌の役割は明確に分かれていた。政治を動かすようなスクープは、ほとんど新聞の役割で、週刊誌は、同じスクープでも社会を動かすようなものは少なく、スキャンダルなものが中心だった。
 ところが、最近はどうか。9月の内閣改造で経済産業相に任命された菅原一秀氏のクビが就任1ヵ月半で飛んだのは、週刊文春によるスクープの結果だった。「またも文春砲がさく裂」と報じられたように、週刊文春のスクープは最近、目立っている。新聞は見るかげもない、といったら言い過ぎだろうか。
 菅原経産相の公選法違反として報じられた事件は、公設秘書が選挙区内の支援者の通夜に、現金2万円入りの香典袋を手渡すなど、公選法に禁じられている有権者への寄付行為をおこなったというもの。
 ところが、またまた「ところが」だが、朝日新聞の25日付け夕刊の「素粒子」、26日付けの「天声人語」によると、10年前の週刊朝日に「若手ホープ、菅原一秀の『お中元リスト』に公選法違反の重大疑惑」という記事が載っていたというのだ。メロンやカニ缶が並んでいるリストまでついて……。
 そうなると、週刊文春を褒めるより、「朝日新聞よ、どうした?」と言いたくなる。新しい大臣が任命されるとき「身体検査」という言葉で手が汚れていないか、調べることは珍しくないのだから……。
 新聞よ、がんばれ! とあらためて言いたい。

柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。