第32回:今年も「よい年」とはいえなかった!(柴田鉄治)

 「年明けて新しい時代が滑り出し」――令和元年の今年、この1年を振りかえってみると、総じて、あまり良い年とはいえなったように思う。
 毎年、読売新聞が今年の10大ニュースを読者から募集しているが、今年の10大ニュースに選ばれたものを並べてみると、1位の新天皇が即位して「令和」に改元、はともかく、あとは暗いニュースも少なくない。明るいニュースもなにか粒が小さいような気がする。

 1位 新天皇が即位。「令和」改元
 2位 ラグビーW杯で日本チームが善戦、8強に
 3位 京都アニメーション放火、36人死亡
 4位 消費税10%スタート
 5位 東日本で台風・大雨被害、死者相次ぐ
 6位 ノーベル化学賞に吉野彰氏
 7位 沖縄・首里城が焼失
 8位 ゴルフ、渋野日向子が全英女子優勝
 9位 マリナーズ・イチローが引退表明
 10位 徴用工問題で日韓関係悪化

 例年、読売の10大ニュースは、明るいものが上位に来るのだが……。もちろん、ノーベル賞やラグビーW杯、全英女子ゴルフなど明るいニュースもあるとはいえ、それより今年は台風19号の被害など、「災害国家、日本」の印象のほうが強かったように思う。

災害国家なのに地球温暖化には冷たい日本、CОP25で2度も『化石賞』

 それだけ「災害国家、日本」が目立ったのに、日本は異常気象の原因である地球温暖化には冷たい。国際的な環境NGOグループが地球温暖化に対する対応に熱意がない国に与える「化石賞」を、今月スペインで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)の会期中、2度も受け取った国なのだ。
 COP25には、次世代を担う政治家として人気の高い小泉進次郎環境相が出席して、演説までしたのに、化石賞となってしまった。

本来なら「安倍政権の総辞職」が1位のはず?

 そして何より、今年を暗い年にした最たるものは、安倍政権の「モリカケ疑惑」に続く「桜を見る会」についての大失態などだろう。本来なら安倍政権が総辞職して内閣が代わり、それが大きなニュースになっていたはずが、安倍政権の強引な居座りで、吹っ飛んでしまった。それでこんな10大ニュースになったわけだ。
 1位の新天皇の即位に絡めていえば、安倍政権は、新天皇の即位後最初のお言葉を、閣議決定した。この際、先の改元、昭和から平成の改元の際に、即位した天皇が述べたお言葉に「憲法を守り」とあったことに、自民党のなかから疑問の声が出たようだ。
 そのため、5月の即位の礼でのお言葉は「憲法を守り」ではなく「憲法にのっとり」と変わったが、新天皇は「国民に寄り添い」「世界平和に尽くす」といった言葉を強調して、「憲法を守り」と同じような効果を出したような気がする。
 私の見るところ、前天皇も新天皇も、先の戦争に対して強い反省の気持ちを持っておられ、日本の平和憲法に対して深く理解しておられるようだ。
 安倍首相は憲法改正論者で、自民党政権が戦後一貫して憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を、閣議徹底で合憲として、米国の戦争に参戦する道を開いた人なのである。まさか、戦争好きとは思わないが、どうやら軍事は好きなようだ。来年度の予算編成で、防衛費は5.3兆円と過去最高になり、米国から武器を「爆買い」するのも、緊張している中東に自衛艦を派遣しようとしているのも、そう考えると分かりやすい。

米国とイランが対立する中東への自衛艦派遣は、やめるべきだ

 中東では米国とイランが激しく対立している。日本の自衛艦の派遣は「調査・研究」が目的で、米国の要請には応えないということだが、もし米国とイランが本格的に衝突しても、それで済むのかどうか。
 日本はいま、米国ともイランともいい関係にある世界でもまれな国なのだ。その日本の特色を一気に失ってしまう恐れの大きな賭けだ。
 それなのに、自衛艦派遣の決定を国会開会中には議論せず、国会が終わってから閣議決定で決めるとは、国会軽視ではないのか。安倍政権の国会軽視は驚くほど多いのだ。

ローマ教皇が来日、広島、長崎で安倍政権を叱る!

 今年のニュースとして無視できないのは、ローマ教皇の38年ぶりの来日だ。ヒロシマ・ナガサキの被爆地を訪れ、核兵器は、使用はもちろんのこと所有しているだけでも犯罪だとする談話を発表した。国連で採択された核兵器禁止条約に反対している安倍政権に対して、厳しく「叱りつけた」感じである。
 ローマ教皇に言われるまでもなく、核兵器を一般市民の頭上に落とした米国の行為は「戦争犯罪」だが、所有しているだけでも犯罪だという視点は、すごい。核兵器所有国は、米・露・英・仏・中の主要5か国だけでなく、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮とますます広がりつつある。犯罪国が増える一方なのだ。
 平和には2種類あると、よく言われる。武器を持たない「真の平和」と、軍事力のバランスで保たれる「仮の平和」である。仮の平和では、核兵器を持ちたがる国が増える一方で、真の平和の実現にはならない。
 日本も5兆円もの防衛費を災害対策費に回せば、真の平和国家に少しは近づくように思うのだが、どうだろうか。

伊藤詩織さんの勇気が実った!

 安倍政権の「悪事」にはもう一つ、安倍氏と親しい人の犯罪まで見過ごすというものがある。性暴力犯罪の被害者、伊藤詩織さんが勇気をもって警察に訴え出たところ、逮捕状まで出ていたのに、加害者が安倍氏と親しいことがあってか逮捕状は棚上げされ、検察庁まで不起訴処分にした。それを伊藤さんが新たに訴え出た、加害者に損害賠償を求める民事訴訟で、裁判官が伊藤さんの勝訴判決を出したのである。
 性犯罪の被害者が、顔も氏名も出して訴えることさえ勇気のいることだが、その勇気がやっと実ったのである。民事裁判だけでなく、検察庁ももう一度、捜査をやり直すべきではないか。
 いまや世界的にも、性暴力の被害者も黙ってはいない時代になりつつある。日本も伊藤さんの勇気を無駄にしないよう、みんなで応援しようではないか。

今月のシバテツ事件簿
私が南極点に立った日

 アポロ11号が月面に降りて、人類が初めて月面に立った日から今年で50年が経った。その半年前の1968年12月19日、私は南極点に立っていた。
 村山雅美隊長ら11人の「極点旅行隊」を出迎えるためだ。南極点には米国の「アムンゼン・スコット基地」があり、米国隊に頼んで、飛行機に乗せてもらったのである。
 米国隊は親切で、南極点での出迎えに、朝日新聞の私だけでなく、NHKと共同通信の記者も同行した。ニュージーランドのクライストチャーチから南極のマクマード基地(米国)までざっと8時間。さらに南極点まで2時間余の飛行である。
 飛行機のパイロットは、私たち記者3人にサービスして、南極点を通り過ぎ、日本旅行隊の上空まで飛んでくれた。真っ白な雪原の上に描かれた、まっすぐな直線――旅行隊の雪上車の跡である。
 その上空すれすれまで降りて、手を振っている旅行隊にあいさつし、パイロットは米国の雑誌を上空から落としてプレゼントとした。
 翌日、私たちの待ち受ける南極点に、日本隊は雪上車に旗を立ててやってきた。ふと見ると、NHKの記者が「カメラが壊れた」と言って座り込んでいる。どうやら、海抜2800メートルの南極点で「高山病」にやられたらしい。
 南極点まで取材に来て、肝心の到着風景が撮れなかったでは、気の毒すぎる。村山隊長の配慮で、翌日、日米総出で到着風景を再演して、撮影しなおしたのである。
 もちろんNHKは、その再演の画像は使わなかったが……(念のため)。

       

柴田鉄治
しばた てつじ: 1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。