第2回:コロナ禍の最中に考えた「お茶出し廃止」について(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

1年前、今日の日を想像できていたか

 今、この世界で起きていることについて、1年前に想像した人は果たしているのでしょうか? 行き過ぎたグローバリズムや新自由主義経済による格差拡大、気候変動による自然災害の多発、軍事拡大により高まる国際緊張などなど、私たちの平和な暮らしが脅かされつつあることは認識しつつ、だからこそもういい加減に進む方向を変えるべきだ、といった議論はありました。東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開催にも苦々しい思いを抱きながら、それでも決まってしまったことは今さら仕方がないなと諦めてもいました。
 しかし、まさかそれが中止(延期)に追い込まれることになるとは。そしてその原因が「ウイルスによるパンデミック」だとは、危機意識の高い人が比較的多い私のまわりでも、そんな警告を出している人はいませんでした。

 私自身といえば、ちょうど1年前の2019年4月21日は、統一地方選挙の投開票日でした。まさにその選挙で私は豊島区議会へとおくられたわけです。そう、あれから1年。いろんなことがありすぎて、なんだか遠い目になってしまいます。が、あの時私には確かに、「民主主義の学校と言われる地方自治、その中心にある地方議会に身を置くことで見えてくるものがあるのでは。そして足元の政治から変える、地域から若い人たちが新しい政治をつくるその一助となれば」という思いがありました。こう書くと気恥ずかしいほど熱い「志」を持って飛び込んだ区議会でしたが……。
 適応力はある方だと思っていましたが、1年間は右往左往の日々でした。議会用語やそこにある文化風土(先生と呼ばれたり、議員同士でも呼び合うことなど)には、いまだにとまどうこともあります。1年すぎてようやく議会のしくみや流れがわかってきたところです。

議会はとにかく「会派」主義

 区議会は、年に4回(2月、6月、9月、11月)定例会が開かれます。これ以外に必要に応じて臨時会が開かれます。ちなみに昨年度は、選挙後の5月に臨時会が開かれ、その後、6月に令和元年第2回定例会(6月19日〜7月8日)、9月に第3回定例会(9月18日〜10月29日)11月に第4回定例会(11月19日〜12月11日)、2020年2月に令和2年の第1回定例会(2月18日〜3月18日)が開催されました。

 豊島区議会では、議席番号の奇数の議員が1年目と3年目に決算と予算の特別委員会のメンバーになり、偶数の議員が2年目と4年目にメンバーになることが決まっています。私の議席番号は9番ですので、昨年度の決算と予算委員会に委員として参加しました。1年生議員の「会派に属さない一人議員」だったので、本当に大変でした。自分の中でも経験のないことですし、取り組み方として何が「正解」なのかがわからないので、資料をひたすら読み込み、各部署の責任者や担当職員からの説明を受けることしかできなかったのですが、2年目からは現場に出ていかないと説得力が持てないなと思いました。

 この「会派に属さない一人議員」について、どういう状況にあるのか説明したいと思います。まず「会派」とは、「所属政党を同じくする人や、同じ意見や考えを持って活動を共にする議員の集まり。会派の代表者で構成している“正副幹事長会”では、各会派の意見について調整を行う」のことです(「としま区議会のはなし2019」より)。 
 会派や議会運営については、議員の構成が変わるたびに協議されます。昨年の選挙後に決まった申し合わせは、次の通りです。

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 豊島区議会における交渉会派とは、原則として、5人以上の議員で構成する会派をいう。ただし、円滑な議会運営を図るため、現状においては、5人以上の会派の正副幹事長及び4人の会派の正副幹事長のうち1人をもって正副幹事長会を構成する。
 なお、4人の会派は、上記に加え、正副幹事長のうちひとりを発言のできるオブザーバーとして出席させることができる。
 また、3人の会派および2人の会派は、幹事長をオブザーバーとして出席させることができる。
 ただし、3人の会派は、交渉会派が認めた場合において、幹事長を正副幹事長会の構成員とすることができる。

 令和元年5月16日

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 「交渉会派」は、豊島区の場合は5人以上の議員で構成する会派を言います。5人以上でようやく「交渉権」を持てる会派として認められるわけですから、一人議員なんて……推して知るべし。「会派」の人数が何人かによって、議会における影響力、発言権、情報収集においても大きな差が出るのだということは聞いてはいましたが、それはもうあからさまでした。一人議員の私は、「正副幹事長会」という代表者会議では、オブザーバー参加どころか中継テレビを見ることすら許されず。ここで大事なことのほとんどが決められてしまうという会議で、何がどのように話し合われていたのかは、後ほど職員から説明を受けるしかなく、肌で感じることはできませんでした。
 しかし本来、会派を組んでいないからといって、一人議員が代表者会議に参加できないのは、まったくもっておかしなことです。議員は一人ひとりが、平等に尊重されるべきとの「議員平等」の大前提があるわけですから。

人は変わることへの抵抗がある、しかし…

 議会のルールについても、議員が決めます。それを検討する会が、会派の正副幹事長会のもとに設置される「議会改革検討委員会」です。そこに話し合いたい検討項目を会派ごとに提出して、全部の会派が「検討しよう」とする項目のみ、この委員会で検討していきます。そして全会派一致で可決されたもののみが認められるのです。
 昨年の第3回定例会から、議場のモニターに手話の同時通訳が映し出されていますが、これについては2年間にわたる検討と議論が重ねられたそうです。私は昨年、4名の「会派に属さない一人議員」の代表として議会改革検討委員になっていましたが、委員会が開かれたのは、これまで4回。そこで何が話されていたのかというと……討議内容は「各委員会におけるお茶出しの廃止と飲料を入れたマイボトルの持ち込み」について。えーっ!? 何やってんの? という怒声が聞こえてきそうで、思わず「すみません」と謝りたくなるのですが、これが事実です。
 しかも、毎回話し合っても決着がつかないのです。理由は最大会派の自民党さんが、お茶出し廃止とマイボトルの持ち込みに「これまでおいしいお茶を入れていただいて、議論を深めてきたから」「多様な形状のマイボトルが机上に出ているのは、見た目がよろしくなく、ネット中継をみた区民が不快に思うかも」などと、いろいろな理由をつけずっと難色を示しているからなんですが。

 働き方改革を全庁的に唱えているのに、議会事務局の職員に仕事の手を止めさせて、委員会が開かれるたびにお茶の用意をして提供させる。なんでそんなに不合理的なことを続けるのでしょうか? 私は素朴にそんな疑問を他の議員にこっそり聞いてみたところ「自分の代の時にお茶出しを止めた」という「歴史」を作りたくないからではないのかな? と。えっ、そんな理由? 自民党の親分のあの人は、憲法を自分の代で変えたいと必死なのに? とますます謎は深まるばかりでした。

 本当のところはわかりません。しかし人には思っている以上に「変わる」ことへの恐怖や抵抗力があるというのは、このところ感じているところです。3・11で経験したように、あれほど悲惨な原発事故が起きても、日本社会が大きくは変われなかったのも記憶に新しいでしょう。

 その一方で、まだまだ先の見えないコロナ禍について悲観的なことはいくらでもあるけれど、「本当に大事にするべきものは何なのかについて、真剣に皆で考えるための機会がやってきたのだ。一人ひとりがじっくりとこの問題に向き合い、そこからの『パラダイムシフト』を起こして、社会や政治もいい方向に舵を切ろう」という希望もあるはずです。

 そんなことを「委員会におけるお茶出し廃止」をめぐる問題のなかで考えたりしました。結局、この「お茶出し」は、緊急事態宣言が出ているこの期間はやめましょう、という議長提案が正副幹事長会であり、当面は職員によるお茶出しは行われないことになり、ほっとしています。

 区議会は、5月に臨時会が開かれ、6月には第2回定例会が今のところ予定どおり開会の予定です。国会同様、区議会においてもコロナ対策の補正予算を組み見直す必要もあるでしょうし、区民の支援や給付につながるものであれば、なるべく早く議会で承認をする必要もあるでしょう。そこで、どれだけ今後の豊島区政の方向性やメッセージにつながるものが出てくるのかに、私は注目しています。

 

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塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9