第3回:区議会臨時会は、「ソーシャルディスタンス」で(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

緊急事態宣言下における議員活動とは何かを考え続けている

 5月の連休があけても緊急事態宣言は解除にならず、都内の公立学校においては5月いっぱいの臨時休校が決まりました。
 3月の春休みから数えると、これで3ヶ月近く子どもたちは学校に行けていないことになります。地域の保護者の方の声を伺うと、こうした事態をある程度覚悟はしていたようですが、途方にくれている感も伝わります。命を守ることが最優先とはいえ、子どもの教育を受ける権利もきちんと担保しなくてはなりません。インターネットを通じて授業を受けるリモート学習の準備が急ピッチで進められているものの、「遅すぎる! もう家庭で親が教えるのも限界だ」という切実な声も飛んできます。

 もちろん、これは教育現場だけの話でなく、あらゆる現場において、そして一人ひとりの生活もまた、混乱と不安の中にあります。
 豊島区役所の相談電話窓口には、これまでとは比べ物にならないほど多くの相談ごとが寄せられています。例えば保健所には約6300件、「としまビジネスサポートセンター」には事業の資金繰りなど約5000件、生活困窮者支援の「くらし・しごと相談支援センター」には約2200件、「緊急小口・総合支援資金」には約2000件の相談が来ていると報告を受けています(5月11日現在)。区庁舎にも、毎日大勢の区民の方が相談にみえます。対応する職員も本当に大変です。危機に際し私たちはかつてないほど、くらしに密着した「基礎自治体の行政」というものについて考えるようになっており、関心も高まりアクセスも増えているという状況でしょう。

 そして今、私自身は区議会議員として、このような危機において果たすべき役目というのは何なのだろうか? ということも考えます。私がやるべきことは何なのだろうか? と。「正解」はわからないまま、日々目の前の相談事に対応している、というのが実情です。

改めて、区民の生活と命を守るのが地方自治体の本旨

 区議会議員は区民の声を聞き、また拾い、行政に届け、それを政策に反映させるのも大事な仕事です。私もこの間、保育園のこと、学校のこと、仕事のこと、生活費のこと、給付金のことなど、心配や要望の生の声を聞かせてもらい、それらを「緊急要望」という形にまとめ、行政のトップである区長、副区長に直接申し入れをして意見交換をしてきました。関連する部署の責任者である課長、部長、教育委員会、教育長らに時間をとってもらい、現状やコロナ対策の進捗について聞き、また地域の方々の声を伝えてきました。

 実は、私には最初、このような要望を組織のトップに直接伝えるという行為について、私ごとき新人議員がいいのかな? との躊躇がありました。いわゆる一般の会社や組織において、新入りメンバーが、いきなり部長や社長に提案したり、物申したりするというのは、ありえないことですよね(でも、そういうのも日本の古い会社の慣習かもしれないと、今、書きながら思っています。ベンチャー企業では、社員も社長もフラットな関係にあると聞きますから。私も古い組織体質が染みついているのかもしれません)。
 しかし、そもそも行政組織と議員との関係は、会社組織と会社の構成メンバーという関係とは全く違います。議員は、豊島区で言えば何千人かの市民の信託を受けた立場であり、区の側も議員個人の意見を聞くというよりは、議員の後ろにいる市民の声として受け止めているのだと実感します。だからこそ、職員も区長も忙しい中で時間をとって議員と会うわけです。
 行政の担当者に「区民の要望や声を伝えてくれてありがとうございます」と最初に言われた時は、びっくりしたものです。これは、今でも度々聞く言葉です。

 また、こんなこともありました。「豊島区に住んでいる兄弟がいるのだが、コロナで無職になり、貯金も底をつくのではないかと心配をしている。今私が東京に行くこともできず、何かアドバイスをいただけないか?」といった地方在住の方からの切実なメールが届きました。私が「区民の生活と命を守るのが自治体の役目なので、区は絶対にご兄弟を守ります。貯金もないということでしたら、生活保護を受けることについても、これは権利なので躊躇することなく申請してもらいたい。私が同行することもできるので、お知らせください」とお返事したところ、大変安心しましたとの返事をいただきました。
 私が「区は絶対守ります」と言い切れるのは、区長はじめ区の職員が議会で「区民の生活と命を守る、福祉が行政の本旨である」と答弁をしているし、私も何度もそれを確認しているからです。もしそれと異なる行為があった場合は、区に対して「答弁と違ってますよね」と言えるわけです。

臨時会で決めた新型コロナウイルス感染症対策の補正予算

 5月11日に、新型コロナウイルス感染症対策の補正予算とそれに伴う条例改正を早急に審議し決議をするため、豊島区議会臨時会が招集されました。次の定例会は6月16日からの会期ですから、それを待っていては10万円の特別定額給付をはじめ、様々なコロナ対策のための事業が行えません。連休中に国の補正予算が成立したことを受け、どこの自治体も臨時会を開き、補正予算を審議したことと思います。

 今回、豊島区では、12項目にわたるコロナ対策についての補正予算が組まれました。そのほとんどが国や東京都の補助金を充てるものですが、それだけでは間に合わず、区の財政調整基金を取り崩して充てているものもあります。
 例えば「中小商工業融資事業経費」に、区は一般財源から6億5250万円を計上しました。内容としては、融資に係る利子・信用保証料を区が全額補助するというものです。たくさんの中小企業や商店、商業施設を抱える区としても、これら事業者を支えなくてはなりません。地域経済が止まり、倒産や廃業が出れば失業者も増えます。それを食い止めるためにも、真っ先にここを手当てしなければ、という区のメッセージが表れているのだなと受け取りました。
 6億5250万円というのは区にとっても大きなお金ではありますが、その金額は区内にある中小企業や商店のうち1500件が申し込んだと想定して算出されたものです(1500件という数は、現在の中小企業資金および中小企業借換資金の申し込み件数の推移をみて出されました)。が、池袋エリアだけを考えても、これで果たして足りるのか、しかも「融資」なので5年の猶予があるとは言え、返済をしなければいけません。ここはどうしても、国のさらなる大規模な支援が絶対に必要です。

 「ICT環境整備・活用事業経費」についても、7億5千万が一般財源からの経費計上となりました。これは公立の小・中学校が臨時休校になったことによる家庭学習支援、いわゆるリモート学習のためのタブレットパソコン貸与などの整備費です。これについては、国が進める「GIGAスクール構想」(*)の財源と「地方創生臨時交付金(1兆円規模)」を見込んで、前倒してのスタートを切ったということです。あとで財源の帳尻を合わせるとして、「一刻も早く、学習環境を整えてほしい!」という保護者からの強い要望を受けての実施となります。

(*)2019年末から、文部科学省が打ち出した「全国の児童生徒向けの1人1台パソコンの端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を、全国の学校現場で持続的に実現させる」構想

議場の「ソーシャルディスタンス」とはどういうもの?

 さて、3月の議会は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、会期を1週間短くして閉会しました。その後開かれたいくつかの委員会でも、議員の座る間隔を開け、出席する理事者(担当する所管の責任者。課長や部長など)の人数を制限するなど、いろいろな対策が取られていました。臨時会を行う本会議場ではどうするのだろうと思っていたら、開会に先立って区議会事務局より「本会議場のソーシャルディスタンスについて」の提案がありました。
 その具体的な実施方法は、概ね次の通りです。

  • 開会(再開)時には、全員出席することとし、開会(再開)後、採決以外の議事について、議席番号が奇数の議員または偶数の議員のどちらかが退席する(今回は奇数番号が退席)。
  • 退席した議員は、別室のモニターで本会議の状況を視聴する。
  • 採決の際、退席中の議員は、事前に別室から本会議場にもどり、採決に加わる。
  • 会派内に欠席議員がいる場合は、定足数(議員定数の半数以上)を、欠くことのないようにする。
  • 理事者の出席についても、必要最小限となるようにする。

 地方議会には、議員定数の半分以上の議員が出席をしていなければ成立しないという「定足数の原則」があります。地方自治法第113条で「議会は、議員の定数の半数以上の議員が出席しなければ、会議を開くことができない」と定めてあります。逆に言えば、今回のように半数が出席すれば、成立し継続することができるのです。
 また、今回の臨時会は、素早く補正予算を成立させるために、〈議員協議会—本会議—常任委員会—正副幹事長会—議会運営委員会—議員協議会—本会議〉という決められた手順を1日で終わらせることになりました。議員も「スムーズな運営」に協力するということで、常任委員会での質問や議論も最低限で済ますという、臨時の運営体制ではありました。

議会もリモート会議ができる体制を整えておくべき

 豊島区議会における新コロナウイルスの感染拡大予防への対応は、3月議会を1週間前倒しして閉会したことに始まり、他の自治体に比べてもわりと早かったと思います。また、今どうしてもやらなくてもいいのでは、という判断で延期や中止になった委員会や、報告として資料配布だけで終わった審議会もいくつかあります。5月21日に予定されていた「議会報告会」も中止となりました。
 人との接触をしない、三密の状況を作り出さないことが今回の新コロナ感染対策には一番なのですが、それでも本来はどれもこれも必要な会議です。議論もしっかりと尽くさなくてはなりません。「スムーズな運営」に協力しなくてはいけないと理解する一方で、そんなジレンマも感じています。だからこそ、会議を簡略化するだけではなく、別の対策も考えるべきではないでしょうか。

 会社などでは、この機会に積極的にリモート会議を取り入れたところも多いですし、私も編集の仕事の方では、ZOOM会議を頻繁に使うようになり、その利点も感じているところです。テレビ番組でもスタジオ収録やロケができなくなったので、のきなみ「リモート」を使っての制作に変わっているようです。
 そんな変化が劇的に起きている中、議会では「リモート委員会」を検討しないのだろうか、と思っていたところ、総務省から『新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法について』とする通知が4月30日に出されていました。
 これによると、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策としての限定的な措置ではありますが、条例や会議規則などを改正・変更した後にリモートでの委員会開催が可能となることがわかります。

 では、実際に取り組んでいるところがあるのか、と思い調べてみたところ、茨城県取手市議会はコロナ危機がやってくる前からリモート会議を実践しているようですし、東京都小金井市議会の委員会でも、今回取り組んだところがあることがわかりました。これらについては、「地方議会は、新型コロナにどう対応したか?」(早稲田マニフェスト研究所)に詳しく書いてあります。
 早稲田マニフェスト研究所の提言を読むと、地方議会が委員会をリモートで行う場合は、すべての議員が端末とWi-Fi環境を備えているという前提の下、条例や会議規則の変更さえすればいいようです(イギリス議会のように本会議をリモートで行うには、さらなる法改正や解釈変更が必要になるようです)。豊島区議会は、すでに議員が一人一台タブレットを貸与されていますので、物理的にはすぐにでもできそうです。
 問題は会議規則の変更でしょうか。会議規則の変更は、議会改革検討委員会で検討する項目にあたるとなれば、前回のコラムで紹介した通り、豊島区議会は「お茶出し廃止」についても数年間を要したほど、規則変更には慎重(?)な姿勢です。
 ただ、今回のコロナ危機が収束したとしても、今後第二波、第三波がくるという専門家の意見もあります。市中感染が進んだとしても、議会の議論を止めて良いわけでは決してありませんから、今後のことも考えてリモート会議ができるような体制をつくる前向きな議論は、今必要でしょう。

 ちなみに今臨時会の議員協議会、常任委員会など委員会において、職員による議員一人ひとりに対してのお茶出しが行われなかったことは、大変に良かったことでした(緊急事態宣言が出されていなかったら、今もまだ「お茶出し」は続いていたかもしれませんね)。

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塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9