第7回:公務員の数が少ない問題とロスジェネ(塚田ひさこ)

チャコの区議会物語

決算特別委員会を傍聴して

 9月16日から始まった第3回定例会も今週金曜日(10月23日)に最終日を迎えます。前回のコラムにも書きましたが、今定例会のメインは「令和元年度豊島区一般会計歳入歳出決算認定」ほか4本の認定であり、決算特別委員会が8日間に渡って行われました。私は、今年は委員ではないものの、同じ会派のメンバーが2人、委員として参加していますので、じっくり傍聴をしてきました。

 決算委員会は、決算の認定をするかどうかを審議する委員会ですが、この機会に様々な疑問点について聞き、また問いただす場所でもあります。会派が違っていても「ここは、私も同じような疑問を持っていた」「この事業については、私も昨年取り上げた」など、地域の問題についてはけっこう共通点はあるものです。なかでも同じような問題意識を持つベテラン議員の質疑だと「なるほど、こういう論理展開で答弁を引き出すのか」「大事なことは、しつこいぐらい繰り返し聞いていくことも必要なのだな」など、具体的にわかり勉強になります。

 昨年は議員になって初めての「決算・予算委員会」だったので、まったく余裕がなく他の委員の質疑応答まで耳に入っていなかったのでしょう。それに比べたら今回は自分の出番がないというのが大きいですが、区議活動も1年半を経て区の事業についておぼろげながら見えてきたのだな、との実感もありました。

 ちなみに私の所属する「無所属の会」の委員からは、

 ・議会の会議録の速やかな公開。
 ・多文化交流センターの設置やスピーチコンテストなど、豊島区に住む112カ国の外国人との多文化共生を実感できる施策の充実について。
 ・18歳の誕生日に合わせたバースデーカードの送付を含め、主権者教育・選挙啓発への取り組みについて。
 ・災害時要援護者名簿の名寄せ(データの統合)など、実践的な対応が出来るような検討について。
 ・デートDV予防教室を現行の中学生のみから小学生にまで拡大する事について。

 ……など18の事業について、いずれも「未来の子ども、若者支援、働き方改革、苦しい人や弱い人、声を上げられない人に対して、行政が寄り添い、支えあう仕組みをどのように設計していくのか。制度からこぼれてしまった人に対しては今後どうするのか」を基軸に質疑を行い、「意見開陳」を決算特別委員会の最終日に行いました。

 さて全ての質疑を聞いて浮かび上がってきた課題は様々ありますが、最も大きなことは職員の人員不足の問題です。今回の決算は、新型コロナウイルス感染症の影響をまだ受けていない今年3月までのものですが、現場はこの間その対応にずっと追われているわけですし、それについての質疑も多くありました。とにもかくにも、現場の人手が足りていません。10万円給付金をはじめとするさまざまな支援金や貸付金の受付窓口、感染症対応の最前線に立った保健所、政府が突然決めた学校の一斉休校に対応した教育現場を統括する教育委員会、緊急の対応を余儀なくされた保育園を管轄する保育課などなど、ありとあらゆる部署で人が足りないことは、もう明らかでした。

 だったら、マンパワーを増やせばいいじゃないですか? と言いたいところなのですが、そう簡単にできることではありません。なぜなら「定員管理計画」という厚く高い壁が立ちはだかっているからです。

定員管理計画にしばられる職員数

 昨年、私が議員になって初めてヒアリングさせてもらった時、当時の人事課長に「なぜ職員の数を増やさないのでしょうか?」と素朴な疑問から聞いた覚えがあります。課長からは「職員数というのは、定員管理計画によって、きっちりと決められています。今は『第7次定員管理計画』で策定された10カ年計画(2017年~2026年度)にのっとってやっていますので」との答えでした。

 バブル経済の崩壊以降、リーマンショックをはじめとして、日本の経済状況が低迷を続ける中、本区を含めた各自治体ではこれまでに経験したことのない厳しい行財政運営を強いられることになりました。
 こうした状況を背景として、義務的な経費である行政内部コストの削減を重点とした行財政改革に取り組む必要性が高まり、各自治体では職員定数の適正化を図るため、定員適正化計画等が策定されてきました。
 急速な少子高齢化等の社会構造の変化、地方分権への対応や国制度の改正など、区を取り巻く環境は大きな転換期を迎えています。とりわけ少子高齢化による影響は、区税収入の減少と医療・介護等の社会保障関係経費の増加を同時に引き起こす要因となることから、今後の財政運営上の大きな懸念材料となっています。
 また、近年の経済状況は回復基調にあるものの、依然として財政状況は不透明であることから、地方自治法に掲げられた「最少の経費で最大の効果」を生み出し、変化に強い持続可能な行政運営を実現することが課題となっています。
 この実現のためには、行政の質の向上と定数の適正化を同時に進めていき、より戦略的な定員マネジメントが必要となってきます。

*参考:第7次豊島区定員管理計画

 この「第7次定員管理計画」は、区のホームページにも掲載されているものですが、最初に読んだ時、新自由主義経済の見本みたいな文章に、驚いたものです。とにかく、ここで掲げられている「定員適正化」によって、平成5年(1993年)には3,098人いた職員は、現在は2,000人弱になっています。区の人口は3万人近く増えて、現在29万人にまでなっているのに、です。ただ、この管理計画は自治体が独自に決めているというよりは、総務省が調査のうえで出している「地方公共団体における適正な定員管理の推進/参考指標」の方針に従い、行っているものでもあるようです。中途半端な書き方になってしまったのは、この計算式が複雑で難しすぎて、とても理解できたものじゃなかったからです。このあたりについては、一度専門家に聞いて、解き明かしていきたいものです。

公共サービスを担う人件費が「削減ありき」でいいのか

 そうはいっても現場で人が足りないことは確かなのに、職員の数を増やさずにどうするのか? という問いに対しては、非正規雇用や会計年度任用職員、さらには人材派遣会社からの派遣社員を入れて業務をこなす、という答弁がこれまで何度も繰り返されてきました。行政サービスにおいても多様な人材を活用して民間の活力やノウハウを取り入れるため、というのもお決まりの答えですが、人件費を抑えることが第一の目的になっているのは明らかです。

 そうなると今度は、会計年度任用職員や派遣で働く方たちの待遇面への心配が出てきます。区民の困りごとの相談を聞く窓口に立つ側の人間が、年収200万円以下で毎年契約更新をしなくてはいけない有期雇用では、生活も立場も安定せず、メンタルもきつくて大変だというのはよく聞く話です。公共サービスを担う側の人間の生活や心身状況がギリギリでは、良いサービスを提供できるわけもなく、それがひいては住民への不利益になります。これでは誰も得をしない。まったくの悪循環なのです。

 日本はこの20年あまり、行政改革を進めてきた結果、世界にも類を見ないほどの「小さな政府」になっており、自治体公務員など公務員ひとりあたりの住民数が海外と比べても多い、という状況です。公務員の「定員管理」の根本的な考え方を変える時にきていると、強く感じます。公務員の数をしぼるために、ある時期においては、特別区の23区もそうですが、多くの自治体が正職員の採用をまったくしない年もあったのです。そのことによる歪みが、今まさに現れているように思うのです。

応募が殺到した公務員の採用

 最近、人事院からの就職氷河期世代を対象とする公務員採用試験についての発表がニュースになっていました。

 まずは、東京都における特別区職員採用試験について、事務職の募集枠37名に対し申込者数は2479名、そのうち受験者が1,514名で、採用予定者に対する倍率は、40.9倍です。同じく就職氷河期世代を対象にした各省庁共通で実施する初の国家公務員中途採用試験には、1万943人の申し込みがあったとのこと。採用予定人数は157人なので、60.7倍となります。これより前に話題になっていたのは、兵庫県・宝塚市の就職氷河期に限った市職員募集です。この時はたった3人の募集に、全国から2,000人近くが応募し、倍率はなんと600倍でした。

 これらは政府が発表した「就職氷河期世代支援プログラム」の一環として行われたものです。このプログラムでは、令和2~4(2020~2022)年度の3年間で氷河期世代の正規雇用を30万人増やす数値目標を作り、国家公務員も令和4(2022)年度までに計450人以上を採用するとしており、自治体もそれに続いたということです。

 政府の「就職氷河期世代支援プログラム」は、遅すぎる感が否めませんが、それでもやらないよりはやった方がましだし、特別区はもっと正職員を増やしてもいいのでは、と思います。この異常なほど高い倍率は、それだけ正社員になりたいのになれなかった人が多く、支援を必要としていることの現れでもあるでしょう。

ロスジェネ&就職氷河期世代が声をあげる時

 それというのも就職氷河期世代、なかでも作家の雨宮処凛さんがマガ9コラムでもよく言及している「ロスジェネ世代」(現在、30代半ばから40代半ばの層)の問題はここにきて、ますます深刻になると想像ができるからです。そして、これは公務を非正規や派遣社員が担っている現状ともリンクすることであり、その一方で地域においては、なかなかロスジェネ世代の問題が顕在化していないことも気になっています。

 雨宮処凛さんの著書『ロスジェネのすべて 格差、貧困、「戦争論」』には次のような記述があります。

 〈厳しい雇用環境のなか、「自己責任」を刷り込まれ、同世代がネットカフェ難民化するのを見てきたロスジェネ。自分はまだ大丈夫だとしても、友人知人に必ず一人は「将来、大丈夫か?」と心配になる同世代がいるロスジェネ。現在、35〜44歳で未婚で親元にいるのは300万人にのぼる。一昔前はほとんどいなかった層だろう。この層はこのまま親の介護に突入し、「介護離職」当事者となる可能性もある。介護離職だったらまだいい。介護殺人や介護心中をどう防ぐかも大きな課題だ。〉

 〈35〜44歳の独身女性のうち、非正規で働く人は41%。ロスジェネ独身女性の4割が不安定雇用なのである。ロスジェネは、未婚率も高い。〉

 実は、区政の中でこの層に対しての施策というものが、すっぽりと抜けているのではないか、という感覚をこの間ずっと持っています。シングルマザー、子育て世代、子ども、高齢者、外国人といった方々への政策は、重要課題として位置付けられ、議会でも様々取り上げられているのを聞きます。しかしロスジェネ世代の問題、特に女性については、私が先の一般質問で少し触れましたが、私の知る限りは他の議員からはあまり聞いたことがありません。しかし非正規雇用だと収入が低いために自立ができず、35歳〜44歳で未婚で親もとにいる人も多いといいます。雨宮さんが言及しているように、このまま彼らが親の介護に突入し介護離職になったとしたら……。いわゆる「8050問題」「7040問題」は、自治体においても大きな時限爆弾を抱えているようなものです。

 ちなみに豊島区では、第二次ベビーブーム世代(1971~1973年生まれ)は、男性7,243人、女性6,751人の合計13,994人で全体の4.83%。ロスジェネ世代の35〜44歳まで広げると、30〜39歳が50,233人、40〜49歳が46,675人の合計96,908人となっているので、推計ですが「ロスジェネ」と「第二次ベビーブーム」世代を合わせた就職氷河期世代は、豊島区に4万人以上はいるのではないかと思われます。

 もちろん、これらの方々がすべて独身で、非正規で親と同居……などとは思いませんが、国の統計の割合から考えると、4割弱が非正規だろうし、豊島区は一人暮らしの率も高いので、女性でシングルで一人暮らしという方も一定数いるのではないか、と想像しているところです。

 ロスジェネ世代が抱える課題については、これから調査やヒアリングの機会を増やしていかなければと思っているところですが、マイナスな面ばかりではない、と思っています。どこの地域でも人口のボリュームが多い「ロスジェネ世代」が、政治にコミットし地域でつながってアクションを起こすということが、この硬直しきった社会や政治状況を打破していく大きな可能性の一つではないか、とも考えているところです。

 それに「ロスジェネ」や「第二次ベビーブーム」世代を合わせた就職氷河期世代の30代半ばから40代というのは、何かとエネルギッシュに動ける年齢でもあるし、世界を見渡せば今注目を集める新しいリーダーも、この年齢層が大活躍をしています。日本においても同じようにこの世代にはおおいに輝いてもらいたい。そのためには雇用の機会を作るなど、国をはじめ公がしっかりと支援をすることが必要なのです。

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塚田ひさこ
塚田ひさこ(つかだ・ひさこ):豊島区議会議員・編集者。香川県高松市生まれ。香川県立高松高校、成城大学卒業後、サントリー(株)など民間会社勤務を経て、2005年憲法と社会問題を考えるウェブマガジン「マガジン9条」(現「マガジン9」)の立ち上げからメンバーとして関わり、運営・企画・編集など事務局担当。2019年5月地方統一選挙にて初当選。email:office@toshima.site twitter:@hisakotsukada9