閉会直後、突然の辞職。その理由は?
前回の予告では、「予算特別委員会で審議され可決された、2022年度(令和4年度)の予算について」書くはずだったのですが、3月23日に定例本会議が閉会した翌日の24日に、豊島区議会にとって驚くべき「事件」が明るみに出たので、そのことについて書きます。
この件、既に新聞各社やテレビのニュースなどでも流れていましたので、ご存知の方もいるでしょう。自民党の元都議が、政治資金パーティーに参加するよう豊島区職員に依頼したとして、自民党豊島区議団幹事長と副幹事長の2名が政治資金規正法違反(公務員の地位利用)の罪で略式起訴されたというものです。
また、豊島区の幹部職員である総務部長と文化商工部長の2名も略式起訴されました。略式起訴された2名の自民党正副幹事長は24日に議員を辞職し、豊島区は25日に緊急記者会見を開き区長、副区長らが謝罪をしました。区のホームページにもその内容について記載をしています。
参考:「豊島区職員に政治資金パーティー参加依頼 区検が自民区議2人と区部長2人を略式起訴、区議は辞職」
私はこの事件については、25日の新聞報道で初めて知り非常に驚きました。当該の2名の自民党議員が辞職した、というのはその前日の24日午前中に、私が所属する「無所属の会」の幹事長からの連絡で知っていたのですが、これについても「えっ! なんで辞職? 前日の本会議場で予算についての説明や賛成討論をしていたのに??」と、謎だらけでした。「無所属の会」の幹事長も、電話をしてきた当該議員にいくら理由を尋ねても「一身上の理由」とのことで、それ以上のことは話してくれなかったそうです。区民から信託を受けて議会に送り出された議員が辞職をするのは、相当な理由がないとできないことです。ですから私は最初にこの話を聞いた時、「7月の参議院選挙に出馬するのだろうか……」と思っていました。
しかし実は、前述したような事件を起こし略式起訴されたことによるものだったのです。
なぜ閉会直後の、このタイミング?
非常に驚いた理由として、辞職した2人の元議員は、豊島区議会最大会派である自民党の幹事長と副幹事長という、いわば2トップであり、予算特別委員会でも副幹事長が委員長を務めていました。また議会最終日には、幹事長が予算案への賛成討論を行いました。
区議会において予算の審議を行う特別委員会は、今年度行う区の事業をつぶさに確認してチェックをする最も重要な委員会であり、その審議内容や結論も重いものです。もちろん質疑や審議は委員会のメンバー全員で行うものですが、とりわけ委員長として本会議最終日に報告をし、また賛成討論をした2人の責任は大きなものだったはずです。
区の報告によれば、区職員への捜査は1月から入っていたようですから、同じようなタイミングで捜査は当該議員にも入っていたと思われます。「起訴されるかもしれない」という事案を抱えながら、誰にも相談もせずに重要な役職を担っていたことにも驚くばかりです。
また、にわかには信じ難いことなのですが、同じ自民党会派のメンバーや議長も、23日の議会閉会後に初めて「辞職する」ということを知った、というのです。当該議員らに理由を尋ねても「一身上の都合」とだけで辞意が固かった、事件の内容については新聞報道で知ったとの説明が繰り返されるだけで、私としては違和感しかありませんでした。
会派は違えども議会というチームのメンバーとして活動してきたわけですから、何の説明もなく辞職して「さようなら」で終わってしまうのも寂しいというか、呆気に取られるばかりです。
なお議員の辞職については、地方自治法に次のような定めがあります。
第126条【辞職】 普通地方公共団体の議会の議員は、議会の許可を得て辞職することができる。但し、閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる。
今回の場合は、閉会直後だったために、「議長の許可を得て」辞職をしたわけです。なお、議長は最大派閥の会派より選出されているので、辞職した議員らと同じ自民党です。議長は、常に公平な立場で議会に関連するさまざまな出来事について把握をして調整をすることも重要な役目です。区のほうには今年の1月ごろには検察の捜査が入っていたのなら、何らかの報告が議長にあって然るべきと思いましたが、議長は「一切知らなかった」ということでした。
政治資金パーティ参加の何が問題なのか?
さて、そもそもこの件は、何が問題なのでしょうか?
2人の議員と2人の区職員幹部が略式起訴され、その後、30日には罰金命令と公民権停止が出たわけですが、これは、政治資金規正法第22条の9第1項の「政治資金パーティーの対価の支払への公務員の関与等の制限」に違反したことによるものです。
(政治活動に関する寄附又は政治資金パーティーの対価の支払への公務員の関与等の制限)政治資金規正法 第22条の9①国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の職員で次に掲げる者は、その地位を利用して、政治活動に関する寄附を求め、若しくは受け、若しくは自己以外の者がする政治活動に関する寄附に関与し、又は政治資金パーティーに対価を支払って参加することを求め、若しくは政治資金パーティーの対価の支払を受け、若しくは自己以外の者がするこれらの行為に関与してはならない。
※「次に掲げる者」:区職員は第5号「地方公務員法第三条第二項に規定する一般職に属する職員」に該当する。なお、一般職は、特別職に属する職以外の一切の職。
政治資金規正法とは、1948年に制定され、政治家や政治団体が取り扱う政治資金の規正について定めた法律です。第1条は、その目的をこう定めています。
この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。
ざっくりと要約すると「民主政治の健全な発達に寄与する」ことを目的として立法されたものだということです。
ですから、今回の行為「政治家が選挙資金パーティー権の購入と参加を区の職員に強制する」のに加えて「幹部職員が部下にそのパーティー券の購入や参加を強制する」のは、「民主政治の健全な発展」を阻害する行為だったということになります。新聞によると当人たちは「強制するつもりはなかった」と語っているとのことですが、実際にはその関係性から「強制力」を持っただろうことは容易に想像できます。議員と行政の執行機関の関係における一線を踏み越えてしまったとも言えるのではないでしょうか。
再発防止のためには何が必要か?
「区職員の政治資金規正法違反に関する記者会見」で発表された区長のコメントには、以下の文言があります。
区政への信頼を根幹から揺るがす極めて重大な事件であることから、現在、「事案全容の把握」、「原因分析」、「再発防止策の検討」のため、調査を開始しております。本件が発生した背景には、職員の政治資金規正法の内容に関しての理解不足、また、公務員の政治的中立性に対する意識不足があったと認識しております。
同様のことは、区議会側にも言えます。再発防止のためには、「事案全容の把握」、「原因分析」、「再発防止策の検討」を目的とした調査が必須です。それについて今度どのようにしていくのか急遽話し合うべきだとして、各会派の正副幹事長会が開かれています。
2人の議員の辞職後、すでに3回の臨時正副幹事長会議が開かれました。私はその3回とも傍聴を含め(2回は所属する会派の副幹事長が病欠のための代理)参加してきました。辞職した議員が所属していた自民党の正副幹事長から何らかの経緯の説明があるだろうと思っていたところ、一貫して「自分たちも23日の議会後に初めて辞職したいと言われてびっくりした」という言葉しか聞くことはできませんでした。それでは自浄能力を発揮してきちんと調査をして報告をしてください、という他の会派からの強い求めに対しても「速やかに行います」「わかり次第お伝えします」との言葉を繰り返すのみです。
どの会派の代表者も、この事件の重大性と議会の責任を重く受け止めて再発防止に努めなければならない、と言っているのですが、3回目の会議においても、自民党からこの度の責任をとり、委員長のポストを3つ辞退し、公明党と都民ファーストの会・民主に振り分けるということで、なんとなく落ち着きつつあります。真相解明にはほど遠い状況に、私は唖然としていました。これでは「再発防止」など、とてもできないのではないでしょうか。
事件を起こした当該議員が辞職をし、反省を示すために委員長のポストを第2、第3の会派に譲った。それは議会の中においては「大きな反省」なのかもしれませんが、非常に内向きな話であって、区民にはどうでもいいことではないかと思うのです。なお、今回の辞職によって、第1会派が「公明党」、第2会派が「都民ファーストの会・民主」となったわけですが、ポストの振り分けについても、私たちの会派には何か相談があるわけではなく、これまでと同じように3つの大きな会派の中だけで決めてしまう状況でした。私たちはポストが欲しいわけではありませんが、こういうやり方に(これまでの議会のあり方をみていた)私は「これは果たして公平なのか」「少数派の希望は聞いてもらえない」という居心地の悪さをいつも感じます。
*4月4日と5日の正副幹事長会議の後に、5月の臨時会までの応急的な体制の整備として、委員会の役職について話し合う「世話人会」が開かれました。そこに会派の代表の幹事長が出席をし「無所属の会」は、「現状どおりで特に求めるものではない」との発言を行いました。無所属の会の幹事長より世話人会での報告を受けておりましたが、その具体的なやりとりについては把握をしておらず、このような書き方になりました。5月10日の正副幹事長で「事実と異なっている」との指摘を受け、議事録を確認しましたところ、指摘は正しいと確認しましたので、この文章についてはここで訂正をします。読者の皆様に誤解を与えたことに対してお詫びいたします。
議会の感覚は一般社会から大きくずれている?
例えば、ある会社で社長、副社長が不祥事を起こして辞めた場合、その会社は記者会見を速やかに行い、会社のイメージが失墜してしまわないよう、まずは顧客や社会に対しての説明責任を一生懸命に果たすのではないでしょうか。そして会社の公式のホームページには、謝罪なり経緯の説明なりが掲載されると思うのです。しかし今の時点(4/6)においても、自民党豊島区議団のホームページには、この件について一切の言及はありません。当該議員のSNS発信も止まったままです。こんなことが通用する業界は、豊島区議会「村」だけだと思います。
当該議員のお2人は3月24日に略式起訴された後、30日付で東京簡易裁判所から「いずれも罰金20万円、公民権停止1年の略式命令」が出されています。公民権停止は1年ですから、来年4月下旬に行われる予定の地方統一選挙には出馬できることになります。選挙によって再び信託を得たのならば、議会でまた活動するのは咎められることではないと思いますが、事件について経緯などの説明をしないままでいるというのは、誠実さに欠ける行為です。さらには組織全体の行為として「不自然」なことが多すぎるので、結局は有権者の政治不信にもつながります。
現に、この件について区民である友人数名に聞いてみたところ「そんなに驚かなかった。そういうことはやっているだろうなと思っていた」との回答です。そして人によっては「だから選挙行っても仕方ないよね」という、最もショックな言葉を聞くことにもなりました。「持ちつ持たれつの関係なんでしょ」と言われているようにも感じました。「こんな事件起こして何をやってるんだ!」と怒ってくる有権者のほうがまだ、民主主義を信じているということだと思います。本当に根深い「事件」であり、その後の対応が問われています。
しかしながら、今の豊島区議会のあり方を見ていると、議会の中だけで事を納めてしまおうとする力がいつも働いているように感じます。外に対しての発信もなるべく少なく、議論も時間制限をかけようとする。その結果、有権者はしらけ切っているし、政治への興味がわかず、選挙にも足を運ばない、そういった悪循環に陥ってしまっているのではないか。そしてそれに対しての議会側の危機感も乏しいのです。これを「議会民主主義の形骸化」と言わずして何というのでしょうか。
今のところ「真相解明」のための特別委員会を議会内に開こうといった具体的な話は出ていません。でも、ぜひそうしていかないと、本当にまずいのではと私は危機感を募らせています。
私も議会に入って4月末で4年目を迎えます。ちょうど3年前の今頃は、選挙期間に入る直前のころでした。「議会に新しい風を入れる」「普通の感覚で議会改革を進める」という思いにも燃えていたわけですが、議会改革においてどんな新しいことができたか、といえば、「委員会での職員による各議員へのお茶くみ」の廃止ができた、くらいでしょうか。自虐ネタになりそうですが、そんな徒労感に襲われながらも、これからの1年は、任期最後の年となります。このままで果たしていいのだろうか? いいわけがない、という思いを強くしています。