第132回:期待外れの、参議院改革協議会「提言」(南部義典)

思わず、耳を疑った提言内容

●「参議院が行政監視機能の強化策 苦情受け付け窓口設置へ」(NHK 6/2 4:28 配信)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180602/k10011462081000.html

 参議院改革協議会とは1977年11月、参議院に設置された組織です。与野党各会派の代表者が集い、参議院の組織、運営に関する課題について検討を行って、これまでいくつかの改革を実現してきました。よく知られているものに「押しボタン投票」があり、1998年の通常国会から採用されています。

 現在の協議会は、2017年2月に組織されました。ちょうどその頃、森友学園、加計学園の問題に焦点が絞られ始めたのは単なる偶然だったかもしれません。が、「歪められた行政」をどうやって是正するか、行政監視の機能をどう強化するかは、言わずもがな参議院の存在意義に深く関わるテーマです。協議会の議論の行方に私は大きな関心を寄せ、期待を込めて見守っていました。

 しかし、先週1日、協議会がまとめ、議長に手渡したとされる「提言」は、甚だ失望する内容でした。全文はまだ公表されておらず、前記NHKの記事を頼るしかありませんが、私はこのニュースを聞いたとたん、思わず耳を疑いました。「今さら、何を言っているのだ」と。

行政監視委の活性化は、すぐに対応可能

 まず、「行政監視委員会を活性化させるため、委員の数を5人増やして35人とし、国会の閉会中も委員会を開催すること」とあります。

 参議院は少数会派が衆議院よりも多く、「委員の数を5人増やす」ことは、少数会派に対する具体的な配慮になります(この点は評価できます)。しかし、「国会の閉会中も委員会を開催すること」(継続調査)は、あくまで運用の問題であり、なぜすぐに実践しようとしないのか、甚だ疑問です。現在、第196回国会の会期中ですが、参議院行政監視委員会は5月23日に一度、開かれているだけです。月曜日と水曜日が定例日になっていますが、開催実績は一回だけです。総務省行政評価局が行っている調査について、野田総務相、讃岐行政評価局長から説明を聴取しただけで、所要10分で終わっています。委員の質疑は、行われていません。

 普段、熱心な運用がなされていない委員会が急に、国会閉会中の開催を決めるとは思えません。もし、本気で運用を変えようとするなら、参議院議長に「提言」する間もなく、実行すればよいだけの話です。

 6月4日には、財務省が森友案件の改ざん報告を公表したばかりですが、かくもスケールの大きな非違不正をチェックし、内閣の責任追及に結び付けていくという覚悟はあるのでしょうか。森友学園、加計学園の案件に本気で対峙しようとするならば、国会開会中はもちろん、閉会中も、関係者を招致して、質疑(場合によっては証人喚問)を行い、その調査結果を踏まえ、報告書を仕上げるくらいの決意を明らかにすべきでしょう。

国民の苦情を受け付けるだけでは意味がない

 次に、「参議院のホームページ上に行政に対する苦情の窓口を設けること」とあります。目新しいことを述べているようで、実は衆議院で先行実施されているものです。その問題点は、本連載の第40回「国民の苦情“6,300件”が、国会で放置されている!」、第105回「衆議院はなぜ、国民の苦情救済を放っておくのか?」で、すでに指摘しています。協議会がどのような「苦情窓口」を想定しているのかは不明ですが、衆議院と同様のことを始めるだけであれば、二番煎じで全く意味がないと言わざるを得ません。

 私が指摘しているように、衆議院決算行政監視委員会は、手紙、ファクス、メールで行政の苦情を受け付けているだけです。制度としては20年以上続いていますが(こういう制度があることを知っている国民はごく少数です)、一件たりとも調査を行ったことがありません。封建時代の「目安箱」でさえ、一定の機能を果たしていたことに比べても、衆議院の苦情窓口はまったく存在意義のない、見せかけだけの制度に成り下がっています。これと同じレベルのものを参議院に設けても、国民に誤解を与えるだけであり、かえって税金のムダ遣いにだけでしょう。

まずは、共謀罪法案審査の反省を

 ちょうど一年前の今日、参議院本会議では、野党会派が提出した秋野法務委員長(当時)の解任決議案が審議されていました(結果は否決)。①法務委員会で共謀罪法案の審査を進めるため、職権で委員会の日程を立てたり、②衆議院と同じく、主要野党会派の反対を押し切って林刑事局長(当時)の委員会常時出席を決めたり、「数の力」に頼る無理やりな、やりたい放題の委員会運営が当たり前のように行われていました。最後は、委員長の「中間報告」という形で、共謀罪法案は可決、成立したわけですが、かくも愚かな振舞いに対して、参議院はまだケジメを付けていません。私は今でも、衆議院以上に悪の限りを尽くしたと思います。

 一年経って、国民の多くは共謀罪立法のことを忘れていますが、どんなに格好いい事を言っても、反省と行動が伴わなければ、信用は得られません。協議会「提言」が、高い理想を思い描くのであれば、まずは共謀罪法案審査の反省(総括)が不可欠です。審査がこれから佳境に入る働き方改革法案、IR法案などで、愚行を繰り返してはならないことは、言うまでもありません。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院・参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所、2017年)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社、2007年)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書、2018年)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店、2018年)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会、2017年)、などがある。(2018年4月現在)(写真:吉崎貴幸)