第62回:タローがシンゾーにケンカを売った?(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 植木等さん、我々の世代なら知らない人はいない。1960年代、空前の人気を誇った、いわゆる国民的大スターだった。
 植木さんは「ハナ肇とクレージーキャッツ」というバンドのギタリストだったが、その破天荒な突き抜けっぷりによって、歌や映画の分野で大ヒットを飛ばし続けた。映画『ニッポン無責任時代』に主演し、“無責任”という言葉を流行らせたのも植木さんだった。
 いま観ても、映画『無責任シリーズ』や『日本一シリーズ』などは、そのテンポの軽快さと、カラリと晴れた青空のような陽気さに驚くばかりだし、共演の浜美枝、団令子、星由里子、酒井和歌子などの女優陣も新鮮だった。

役人は 気楽な稼業と 来たもんだ~?

 植木さんの大ヒット曲はたくさんあるが、その中に『ドント節』がある。その歌に「サラリーマンは 気楽な稼業と 来たもんだ」という一節がある。
 二日酔いでもなんでも、タイムレコーダーさえ押してしまえば、まあ何とかなるもんだ…という、サラリーマンの悲哀を逆手に取ったようなうっぷん晴らしの曲だった。
 なぜそんな歌を思い出したのか? 最近の、お役人たちの所業を見ていて、ふっと「役人は~気楽な稼業と来たもんだ~」という歌詞が浮かんでしまったのだ。
 むろん、官僚たちの仕事が“気楽”なわけはないし、早朝から深夜まで、大変な重労働だという話はよく聞く。しかし、それでも最近の高級官僚たちの姿を見ていると、気楽なもんだなあと思ってしまう。
 ウソはつく。データは捏造する。バレなきゃいいだろうと安倍官邸に不利な資料は隠す。果てはバレる前に廃棄する。国家の根幹にかかわるような経済指標が不正だらけだとすれば、国家の方向性だっておかしくなるはずだ。それを承知で、高級官僚たちは不正に手を染める。
 考えてみれば、そんなことをやりたくてやるわけがない。政権中枢からの圧力が背景にあるのは誰にだって想像がつく。
 今回の統計データ不正の責任者とされた大西康之厚労省政策統括官が、2月1日に大臣官房付に“更迭”された。野党が一致して「大西氏の予算委への出席を要求」していたのだが、政府はこの更迭によって「大西氏はもはや責任の現職ではないから出席はさせられない」と野党要求を拒否した。
 何のことはない。更迭とは言いながら、安倍政権は大西氏の国会での口封じをしたわけだ。
 むろん「あとの面倒はきちんと見るからな」という確約があってのことに違いない。あの森友問題の際の佐川宣寿財務省理財局長の処遇を見ればすぐに分かる。最終的には世論の激しい反発を受け辞任せざるを得なくなったとはいえ、佐川氏は国税庁長官という高位に抜擢されたのだった。
 どんなに問題を起こしても、それが「安倍政権のため…」という背景があれば、問題官僚は将来を確保してもらえる。~役人は 気楽な稼業と 来たもんだ~と、皮肉のひとつも言いたくなるではないか。

何をニヤニヤしてるんですかっ!

 麻生太郎財務相の妄言には慣れっこになってしまったとはいえ、またやらかした。3日の福岡での会合で、少子高齢化に絡み、こんな発言。
 「歳をとったヤツが悪いみたいなことを言ってるヘンなヤツがいっぱいいるが、それは間違い。子どもを産まなかった方が問題なんじゃないか」
 口調が下品なのは今に始まったことじゃないが、ほんとうに懲りない男である。だが、それをテレビで見たとき、ぼくはおかしな気分になってしまったのだ。
 あれ? タローがシンゾーにケンカ売った?

 だって、麻生氏は確かにふたりの子どもをもうけてはいるが、盟友(?)の安倍氏には子どもがいない。「子どもを産まなかったほうが問題」なんて言えば、そりゃ安倍氏への皮肉になってしまうだろうよ。
 もっとも、そこまで考えてお話しになる方とは到底思えないので、いつものように、ちょっと会場の笑いをとろうとしての軽いジョークのつもりだったのだろう。まあ、“ナチスのやり方”まで冗談とはいえ褒め讃える時代錯誤オヤジなのだから、深い考えなどあろうはずもない。
 この発言に関して4日の国会で大串博志議員(立民)に質問されると、例によって口をひん曲げてのニヤニヤ笑い。さすがに大串氏が立腹して「何をニヤニヤしてるんですか!」と声を荒らげて一喝。すると麻生氏、こんな際の常套句「誤解を招くことがあったとすれば撤回します」という例の答弁で誤魔化しにかかった。
 いつも思うのだが、ぼくらは誤解なんかしていないよ。麻生氏の言ったとおりに受け取って、それが許せないと怒っているんだよ。
 どんなに失言や問題発言を繰り返しても、安倍首相がオレを辞めさせることなんかできないと、麻生氏は高をくくっている。もしオレを斬れば、安倍内閣はガタガタになる。斬れるもんなら斬ってみな、である。だからオレは何を言っても許される。
 多分、「シンゾーはオレの手駒だ」くらいにタローは思っているのだ。キングメーカーの地位にいると、自分では錯覚している。
 もし安倍首相が麻生財務相の首を切ったら、世論は大喝采するだろうし、安倍支持率も急上昇するだろう。それほど麻生氏の偉そうな態度や、庶民を小馬鹿にした物言いには、みんながウンザリしている。
 しかし、党内勢力の繋ぎ止めだけが頼りの安倍首相にとって、悲願の「安倍改憲」のためにも、麻生氏を辞任させるわけにはいかない。
 タローはなにを言っても怖くない。安倍側近たちが、マスメディアに圧力をかけて守ってくれるんだから。

ウソをつき続けるNo.1と、暴言を吐き続けるNo.2

 何という人たちが政府を構成しているのだろう?
 こんなふたりがやりたい放題なのだから、このままではこの国に明るい未来はない。
 ほんとうに、ひどい国になったものだ…。

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。