第141回:県民投票の結果を、国の政策にどう反映させるか?(南部義典)

 沖縄県は14日、「“普天間飛行場の代替施設として”国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立ての是非」を問う県民投票を告示しました。24日の投開票日に向けて、県民投票運動期間はすでに後半に入っています。

 思えば、つい1カ月ほど前には、県内5市がなお、県民投票の事務に協力しないという方針を頑なに譲らず、その行方が危ぶまれていました。その後の妥協策として「どちらでもない」という選択肢が加えられてしまったにせよ、すべての市町村で、18歳以上の全有権者115万人が参加できる体制になったことは素直に歓迎していいと思います。

選択肢は、国民全員に問われている

 「“普天間飛行場の代替施設として”国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立ての是非」は言わずもがな、沖縄県民にのみ問われ、判断が強いられる問題ではありません。国民全員で共有すべきものです。沖縄県内でいかなる政治的決定がなされ、多数の県民意思が示された(いったん確定した)としても、本土側との関係では常に少数派に置かれるという構図が、1972年の本土復帰以来ずっと続いているからです。

 何を決めても本土側に無視されるという不平等を、正当な民主主義のプロセスによって公正、平等なものに変えていけるかどうか、今まさに問われているのです。したがって、県民投票に参加する資格のない、北海道から鹿児島県までの有権者は、今回の県民投票のプロセスにコミットしながら、その結果を国の政策にどう反映させるかという点で知恵を絞らなければなりません。結果を待っていては遅いのです。

 しかし、この点に関して、私は国会の残念な対応を認識しています。

 それは、ちょうど昨日(19日)のことですが、衆議院予算委員会による地方公聴会が北海道と長野の2カ所で開催されたことです。私は、県民投票運動期間にちょうど当たるので、沖縄県(名護市でなくとも、那覇市でよい)で開催し、現地の声を聴くべきであると考え、力の及ぶ範囲で主張してきましたが、予算委員会の与野党理事、与野党の国会対策委員会の役員に沖縄県選出議員が一人もいないこともあって、残念ながら新幹線で移動が便利な北海道(函館)、長野の2カ所になってしまった次第です。もっとも、衆参の委員会は閉会中も含めていつでも地方公聴会を開いたり、委員派遣(視察)を行えるわけですが、何十年に一度、巡り合うかどうかわからない今回の県民投票のタイミングを逃した(県民投票のプロセスにコミットしない)という点では、明らかに失態であったと言わざるをえません。

 また、この通常国会では、統計不正、児童虐待、外交の諸問題が山積しており、一つひとつの案件の重要度に鑑み、内閣、政府の責任を追及しなければならない必要性は十分理解できます。しかし、沖縄県では23年ぶりに県民投票が実施されるという政治状況であるにもかかわらず、沖縄の問題(日米地位協定の見直し、米軍基地の整理縮小、県民投票後の国の対応など)に焦点を当てて予算委員会の集中審議を開こうという話が一向に聞こえてきません。過去に、沖縄の問題で予算委員会集中審議を開いたことはありますが、最後がいつだったか思い出せないぐらい、古い話と化しています。遅きに失していますが、予算委員会集中審議は投票の翌日である25日以降、速やかに開催すべきです。これが実現しないうちに予算案が衆議院を通過しては、「沖縄無視」がここでまた重なることに他なりません。

迅速に対応すべき法整備

 今回、県民投票が行われることになった経過などを踏まえると、いくつかの立法上の課題が見えてきます。国会の権限と責任において、必要な法律改正を迅速に行うべきです。

 第一に、地方自治法の改正です。冒頭、県内5市が当初、投開票の事務を行うことを拒んだエピソードを紹介しましたが、これは単なる、沖縄県と5市との間の「痴話喧嘩」ではありません。沖縄県議会議員選挙、沖縄県知事選挙では通常起きないことがなぜ、県民投票では露呈してしまったのか、その原因を探り当て、正していかなければ再び同じことが起こりえます。

 結論からいえば、県議会議員選挙、知事選挙等において、本来県が行うべき投開票事務を当然に、市町村が行うこととされるのは、地方自治法にその旨、明文の規定があるからです(市町村が投開票事務を拒めば、形式的に法律違反になります)。一方、都道府県レベルで行われる住民投票の投開票事務については、その実質は選挙とはほとんど異ならないにもかかわらず、根拠規定がありません。そのため、一部の自治体が「拒否する」という事態を許してしまうのです。

 なお、この問題に対しては、かつて東京都で原発都民投票の実現をめざした市民の皆さんが、前述の地方自治法改正を各党に働きかけるべく、具体的なアクションが始まっていると伺っています。非常に力強いです。あとは、各党の対応が焦点となるところ、先々週8日には、宮城県で女川原発の再稼動の是非を問う住民投票に関する条例制定の直接請求が行われたばかりであり、都道府県レベルで同様の問題を繰り返さないためにも、地方自治法改正は極力急ぐべきです。

 第二に、一般職公務員(国、地方)による住民投票運動に対する規制のアンバランスを是正することです。住民投票運動とは、住民投票で問われる案件の選択肢のいずれかに対し、賛成・反対といった投票を勧誘する運動を指しますが、国家公務員法(人事院規則)、地方公務員法でその条文上の規制ぶりが異なるために、一般職国家公務員は住民投票運動が許されても(国家公務員法第102条、人事院規則14-7)、一般職地方公務員は住民投票を行うことはできません(地方公務員法第36条)。違反行為は、懲戒処分の対象となります(地方公務員法第29条)。下の引用条文をご確認いただければ分かりますが、「公の投票」(赤字)という文言があるかないかの違いです。

 今回の沖縄県民投票にあてはめてみれば、防衛省沖縄防衛局の職員は県民投票運動が可能ですが、名護市や沖縄県の職員は県民投票運動を行うことが許されず、行った場合は懲戒処分の対象となるのです。よく、1997年名護市で行われた住民投票で、防衛施設庁(当時)の職員が地域住民の(条件付き)賛成の投票を得ようと、各世帯を戸別訪問して回った例が引き合いに出されますが、これを許すのは国家公務員法(人事院規則)の規定がずっとそうなっているからです。

 この問題は、国家公務員の側がけしからんというのではなく、地方公務員の住民投票運動を禁止する地方公務員法の規定を改正し(現状、言論・表現等の自由を保障する憲法第21条第1項に違反すると考えます)、国家公務員と同等の扱いにすべきです。言うまでもなく、国会が動かなければ、このアンバランスはこの先いつまでも残ってしまいます。

 県民投票は公職選挙法の適用を受けず、まさに投票箱が閉まる時刻まで運動が可能です。いま、静かに「投票棄権運動」を展開している皆さんも、後悔しないように、一人の主権者として、そして沖縄の歴史の伝承者として、毅然と政策決定に向き合ってほしいものです。

▼国家公務員法(昭和22年法律第120号)
(政治的行為の制限)
第102条 職員は、政党又は政治的目的のために、寄付金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
第110条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(19)第102条第1項に規定する政治的行為の制限に違反した者

▼昭和24年人事院規則14-7
(政治的行為の意義)
6 法第102条第1項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。
(8)政治的目的をもって、第5項第1号に定める選挙、第2号に定める国民審査の投票又は同項8号に定める解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。

▼地方公務員法(昭和25年法律第261号)
(懲戒)
第29条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
(1)この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

(政治的行為の制限)
第36条
2 職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもって、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもって、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第252条の19第1項の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第1号から第3号まで及び第5号に掲げる政治的行為をすることができる。
(1)公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。

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https://kenmin.okinawa/

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)