本会議が始まりました
新型コロナウイルス感染症対策で、議会もいつもとは違う雰囲気です。全員マスク姿で、「密」を避けるため座る位置もソーシャルディスタンス。換気のため、会議室の普段は開けない窓も開放されていて、風の音がヒューヒューとうるさかったりすることも。そんな中ですが、2020年第2回定例会(6月16日〜7月15日)が予定通りに始まりました。
まず、いいニュースです! 本会議初日(6月16日)に、全会派での共同提案となった議員提出による2つの決議と1つの意見書が可決されました。
1:性暴力の根絶を目指す決議
2:性犯罪に関する刑法規定の見直しを求める意見書
3:SDGsの実現に向け「誰一人取り残さない」まちづくりを推進する決議
これは本当に良かった、と安堵しています。特に「性暴力の根絶を目指す決議」と「性犯罪に関する刑法規定の見直しを求める意見書」が、「全会派での共同提案」となり、初日に賛成多数で(反対したのは、沓沢亮治議員一名)で可決できたことは、大きな意味があります。
第1回のコラム『否決された豊島区の「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」』にも書きましたが、いろいろな経緯があって一度は否決されてしまいました。そのため、もう今後、豊島区議会の中では会派を超えてこの問題について議論することはできないのではないかなどと、暗い気持ちにもなっていたのです。
議会外からの大きな反応
しかし、暗くなっている暇はないほど、この「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」が「否決された」ことのインパクトは大きかったようです。新聞やネットニュースにも取り上げられ、豊島区内外の市民から「なんで?」と驚かれ、例の「職員がお茶出しをやっている」件(コラム第2回)と一緒になって、「豊島区議会何やってるんだ」というメールやメッセージを個人的にもらったり、ツイッターでもメンションされ意見が飛んできたり。私もこの件をコラムに書いたことで、いくつか取材をいくつか受けました。
性被害当事者として著書も出しているライターの小川たまかさんから取材を受けた時、決議が否決に至った経緯について長々と説明をしているうちに、私も自分の気持ちより、会派や議員の立場でしかものを言っていないような気がしてきて、自分で話しながらもうんざりしてきました。
それでふと小川さんに「小川さんご自身は、この件についてどんな印象を持たれたのでしょうか? 例えば、最初に沓沢議員の伊藤詩織さんに関するツイートを目にした時は?」とたずねたところ、「それはもう、『今から包丁を持ってあなたの家に行きますよ』と言われているのと同じような恐怖を覚えました」という返答でした。
それが何を意味しているかというと、「あなたを殺しに行きますよ」と同義であり、それについて豊島区議会はお墨付きを与えてしまったことになる、とも考えられるわけです。私は頭を殴られるような衝撃を受け、言葉を一瞬失ってしまいました。その後もずっと小川さんのこの言葉が頭から離れませんでした。
性暴力を受け、勇気を持って声をあげ、裁判で勝訴を得た伊藤詩織さんに、被害を軽んじるような、嘲笑うかのような誹謗中傷を投げつけるツイートを、区議会議員という公人名で発信する、そのリツイートが繰り返される。それを見た当事者がどんな恐怖をおぼえているか。
二次被害、いわゆるセカンドレイプが、どれほどまでに強い衝撃、はかりしれない恐怖を与えているかということに対しての、認識や想像力が足りていなかった。当事者に、被害者に、私たちは寄り添ってこれていなかった。そうでなければ、私ももっと死に物狂いで他会派をまわり説得したはずだ。その熱意も足りていなかったのではないか、そんな中での否決の決議だったのではないか、などなどさまざまな思いがめぐりました。
小川さんは、当初「性暴力の根絶を目指す決議」に反対した会派の議員にも取材をし、Yahoo!ニュースに載ったコラム〈「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」否決の波紋 区議による二次加害ツイートが発端/豊島区議会(小川たまか)〉にも詳しく書かれています。
また、豊島区のHP経由でも区議会事務所あてに、先の決議が否決されたことに対して、「抗議の意見」が送られてきました。そこには、「男性中心社会で女性差別の現状が大幅に改善されたとはいえない日本でくらす一女性として、沓沢議員の投稿と今回の決議否決は別物とは思えない。ああいった投稿が公的な立場から発せられることそのものが、性暴力や性差別がなくならない根本的な原因と密接に関係がある」という、市民の的確で激しい抗議の内容が綴られていました。この内容については、個人情報は伏せられた上で区議会議員に回覧されました。
議会内への影響
そういった様々な波紋が、外から議会内へと、投げかけられていきました。これは想像ですが、反対した会派や区議のところにも、なぜ否決したのかという取材や、区民からさまざま声があったのではないでしょうか。
今回、同時に決議された「SDGsの実現に向け『誰一人取り残さない』まちづくりを推進する決議」は、公明党豊島区議団によって起案されたものですが、これを今出す理由として、代表者会議で「先の性暴力のこともずっと考えてきて、ここに含まれている。何も問題を放置してきたわけではない」という話が出ていました。ちょっと唐突だったのでびっくりしたのですが、たしかにSDGs(国連が定めた「持続可能な開発目標」)の中には、「あらゆる暴力をゆるさない」という目標があります。みなさんがこの問題について、気にかけていたことがわかり、私自身、「SDGs実現の決議」についての認識も新たにでき良かったと思いました。
さて、今回の「性暴力の根絶を目指す」決議文の起案は、「都民ファースト・民主」により、本会議に先立ち代表者会議にて提出がなされました。この中の一文に「また、その後の過程において、周囲からの発言や対応で被害者が更なる心理的・社会的ダメージを受ける二次被害も大きな問題であり、このような被害があることも併せて啓発し、性暴力の根絶を目指すことが重要である」とありますが、この「周囲からの発言や対応で」の前に「インターネット・SNSを含む」という文言を入れた方が、よりわかりやすくなるのではとの意見もあり、私もそう思った一人です。しかし、それは「周囲からの発言」に含まれるということになりました。この文章にちゃんと「インターネット・SNSを含む」も集約されています、という議論もあったことを、ここで付け加えておきます。
こういった一連の交渉は、代表者会議など正式の場ではなく「控え室」で行われていたりもするのですが、短い時間でも貴重な意見交換ができました。
例えば、被害当事者が、直接に知り合いから顔を見て「たいしたことないわよ、忘れなさい」とか「あなたも悪いところがあったんじゃないの」と言われて傷つく場合もあるし、まったく知らない匿名の人からネット上で、見るに耐えないような言葉を投げつけられることもあり、さまざまな二次被害、セカンドレイプがあるということ。そしてそれら全て「性暴力である」と考えることもできるのだということなど、別の会派の方とも二次被害の問題についても話ができたことは良かったことです。
結果的に「性犯罪に関する刑法規定の見直しを求める」ところにまで踏み込んだ意見書を採択することができました。ベテラン議員が起案された内容には学ぶことも多く、率直にこれで良かったと思っています。前回の時にもご指導いただけていたら……とは思いましたが、議員というのはある意味、みんながライバルと考える「一匹狼的な議員」も少なくなく、たぶんそんな甘えは通用しないのね、ということも学びました。
請願・陳情をつかって区政への要望を伝える
この件に関連しては、もう一つ市民による行動が進行中です。沓沢議員の差別的な発信に端を発した「議員によるツイッター上での差別・ヘイト発言への対応を議会に求める請願」が、区民より出されています。請願者は、区内在住の卜沢(うらさわ)彩子さん。自らも被害者として性暴力撲滅の啓発活動に取り組む活動をしてきた方ですが、請願を出すのは今回が初めてとのこと。請願を出すにあたり、ネット上で署名も集め、現在5000人ほどの署名が集まっています。卜沢さんは請願を出す趣旨への理解を求め、署名議員をお願いするために、各会派に思いを伝えてまわりました。なんとお一人で! これがどれだけ勇気のいることか……。もし私なら、果たしてできただろうか、と正直思います。
もちろん私は署名議員になりましたが、他会派の議員名前もたくさん並んでいました。自民党豊島区議団の議員の名前はありませんでしたが、署名議員にならなくても、賛成にまわるということはありますので、委員会での議論に注目したいと思います。これについては、新聞記事にも、経緯など詳しく取り上げられています。
ここで「請願・陳情」についての説明を少し。聞いたことはあっても実際に請願(陳情)者になったことのある人は、少ないのではないでしょうか? 実は私もそうです。請願・陳情は、住民の側からの要望や意見を区議会に提出することができる制度で、どこの自治体にもあると思いますが、自治体によって微妙に異なります。
例えば、豊島区議会では請願は議員の紹介が必要ですが、陳情は議員の紹介がなくても出すことができますし、議会においてはどちらも同じ扱いになります。
郵送による受付もしていますので、全国から「請願・陳情」が送られてきます。受け付けられた請願・陳情は各委員会に付託されて、そこでしっかりと審査・議論がなされたうえで「採択」「不採択」「継続審査」の採決がとられ、その結果が本会議にかけられます。自治体によっては、全会一致でないと採択されないところもありますが、豊島区議会は多数決で採択がされます。
他の自治体に比べ、住民にとって開かれて敷居が低い制度であるという見方もある一方で、議会内での多数派の意見がそのまま豊島区議会としての意見書として出されてしまうことには、矛盾も感じています。郵送で受け付けをしていることもあり、区政に直接関係のない国の政策についての陳情が送られてくることも少なくないのですが、昨年の第1回定例会では、「沖縄県・辺野古移設の促進を求める」という意見書を国に提出することが委員会で採決され本会議にまわされました。これについて私は本会議の決議の前に「なぜ、沖縄の人たちが新しい基地はいらないという民意を示しているのに、豊島区議会でその民意を踏みにじるような意見書を出すのだ」と反対討論もしましたが、賛成多数によって採択されてしまいました。
「沈黙もまた暴力」になる
さて、今回の「あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」に関して、昨年12月末に発信された沓沢議員のツイートに端を発した卜沢さんたちの運動ですが、当初は、この問題を軽くみようとする動きも正直あったかと思います。良いことだとは思っていなくても、騒ぎ立てて問題を大きくするのではなく、「スルーして沈静化させる」方向に持っていきたい人が多かったのでしょう。
でも、性暴力をはじめ、差別、人権の侵害は、声をあげなければ変わらないということを、私は改めて強く認識しました。市民が、区民が勇気を出して声をあげ、メールやファックスを送り、また陳情書を持って各会派の重鎮と対峙するなどして話をされたことなどが、議会を動かしたのだと思っています。都知事選挙前ということも、あるかもしれません。でもとにかく、「人権が踏みにじられた時には声をあげる」「沈黙もまた暴力」ということを、改めて強く感じました。
請願者は、その趣旨を明確にするため本人が希望した場合は、審査する委員会が認めた時に、その委員会において意見陳述を行うことができます。今回、請願者は意見陳述を行いたいという強い希望をもっています。引き続き、この件についてはまた報告をしたいと思います。
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(参考サイト)
・あらゆる性暴力の根絶を目指す決議」否決の波紋 区議による二次加害ツイートが発端/豊島区議会(小川たまか)
・ 性暴力根絶へ決議案可決 豊島区議会 法規、施策推進も明記(東京新聞)