第178回:“国民投票法改正案” 残り会期1か月では無理、下手すれば越年する(南部義典)

GW前に提出された改正案

 自民、公明、維新、有志の会の衆議院4会派は4月27日、国民投票法改正案を共同で提出しました。その内容は、以下の表の項目8~10で国民投票の欄が「×」になっている3項目で、制度の上で選挙に後れをとっているものを国民投票にも埋め合わせる(×を○に変える)ことです。2021年6月には表の項目1~7に対応する国民投票法の改正法が成立したことも記憶に新しいところですが、選挙と国民投票において有権者の投票環境や選挙管理委員会が行う投開票の実務に関する「較差」が残っていては、有権者が不便を感じるばかりか、実務上の混乱を生んでしまうために、法改正を都度行って較差を解消させることが必要となります。両制度の較差解消の作業は、ある意味で恒例の行事と化してきており、2022年もその宿題が回ってきた感じを受けます。

 (表)選挙と国民投票の制度上の較差
項目 選挙 国民投票 備考
1 有権者名簿の閲覧制度の創設 1~7は、2016年の累次にわたる公職選挙法改正で実現した項目であり、2021年の国民投票法改正で対応した(×→○)。
2 在外有権者登録制度の隙間を埋める改正
3 共通投票所の創設
4 期日前投票の事由の追加、時間の弾力化
5 洋上投票の対象の拡大
6 繰延投票日の告示の期限の短縮
7 投票所に入場可能な子どもの範囲の拡大
8 開票立会人の選任に関する規定の整備 × 8と9は2019年、10は2022年の公職選挙法改正で実現済み。
9 投票立会人の選任要件の緩和 ×
10 FMの放送設備による広報放送 ×

 項目8の改正が行われた背景ですが、2017年10月に行われた衆議院議員の総選挙で、大型の台風21号が接近していたために船舶が欠航し、離島から投票箱を運べず開票作業ができなかった事例が各地で相次いだことから、開票日に近い日で現地で開票所を設けることとする場合の開票立会人の選任(3~10名)に関する規定を設けるものです。項目9はこれに関連し、投票立会人となる者を地域外からも選任できるようにするものです。項目10は、ラジオ局(基幹放送事業者)のAMからFMへの周波数切り替えに伴い、FMで選挙の政見放送、候補者経歴放送が流せる制度改正が行われたため、憲法改正案の広報放送もFMで可能とするものです。

 確かにこれら3項目はいずれも形式的な内容で、4月27日提出の自公維有案は速やかに成立しそうな感じを受けます。しかし、立法手続きの実際は容易に進まず、成立は早くても2022年秋、下手をすれば2023年の今ごろではないかと思います。

残り会期1か月間しかない

 まず、現在開かれている通常国会は、6月15日が会期末です。国民投票法改正案の審査を行う衆議院、参議院の憲法審査会は、それぞれの定例日が木曜日、水曜日となっており、片手で数えられるほどしか開催可能回数が残っていません。とくに、ことしは7月(10日?)に参議院議員の通常選挙が行われるため、会期延長を長く行うことができません。かなり窮屈なスケジュールです。

 残り会期1か月余りで法案を提出するということは、後に審議する参議院側の了解(根回し)を得られていることが必要条件になりますが、この点は自民党内で方針の不一致があります。時事通信の配信記事(「自公維など、国民投票法改正案を共同提出 与党内に異論も」)によれば、参議院自民党の幹部は「残り会期で改正案を仕上げることは参院ではあり得ない」と公言しており、「参議院に自公維有案を送るな」と、メディアを通じて釘を刺しているものと理解できます。

 通常国会で法案成立の可能性がないとなると、次の国会以降に継続せざるをえません。ただ、次の国会(臨時国会)は参議院選挙の後(例年8月上旬)に召集されるところ、正副議長、委員長の人事などを決めるだけの数日程度の会期で終わってしまいます。そして二度目の臨時国会が秋ごろ、改めて召集されるのが通例ですが、その国会でようやく自公維有案の成立の可能性が出てきます。つまり、今から半年先になってしまうのです。

 さらに、2022年内に決着しないとなると、2023年の今ごろになる見通しです。前回も触れましたが、例年1月中下旬に通常国会が召集されても、1~2月末までは衆議院で、3月末までは参議院で予算案の審議が集中的に行われるため、憲法関連はこれら「休眠期間」が明けた後になってしまいます。

広告規制を「無視」したことは、他党の反発を確実に招く

 自公維有案は改正必須の3項目を内容とするものの、以前から議論が続いてきたインターネット広告の規制(グーグル、ヤフーなどのプラットフォームが対象)、広告放送の規制(政党によるものを全面禁止とする案など)、運動資金の規制(上限額の設定、収支報告の義務化など)を全く無視しているために、広告規制の必要性を重視する他の政党(野党)との摩擦、対立が一層大きくなると予想されます。来週以降、立憲民主党が自公維有案の「対案」として、前述の広告規制を中心に盛り込んだ国民投票法改正案を独自に提出する動きをみせていますが、法律案の修正合意など時間がないことに変わりありません。立憲案が提出されても「出しっぱなし」に終わる可能性の方が高いといえます。

 また、自民、立憲両党の間で、憲法改正論議の方向性についてよほど意気投合していれば話は別ですが、今月3日のとある憲法集会で、立憲の奥野総一郎議員(衆議院憲法審査会の野党筆頭幹事を務める)が憲法改正論議を進めようとする自民党を指して「ロシアより許せない」と発言したことが(同日謝罪、撤回したものの)なお波紋を広げており、憲法審査会の場で粛々と事が運ぶような政治環境にはありません。結局、両党にらみ合いの「こう着状態」が、しばらく続くことになります。

15年経っても、不完全な国民投票法

 今回取り上げた国民投票法は、2007年5月18日に公布され、来週18日でちょうど15年の節目を迎えます。節目ではありますが、憲法改正の手続きを定める法律としては未だに完全体ではなく、国民投票を正常に執行させることができません。冒頭の表では、3つの「×」が残っているほか、今後、公職選挙法で何らかの関連する改正が行われれば、国民投票制度の「×」はさらに増えていきます。なぜ、こんな簡易な改正でいちいち滞るのか、という率直な疑問も生まれますが、このレベルでも全党が円満に事を運べない局面が平成末期からずっと続いているのです。より難題といえる広告規制、運動資金規制などは、なおさら出口が見えません。

 逆にこの間、直接的、間接的に民主主義が軽んじられ、膿んでいく現象が顕著です。国民投票法は性格上、国家的テーマである憲法改正の手続きに直結するため、とくに最近は制度の改善を目指すことよりも政治的局面で(政治的な損得を基準にして)利用されることの方が目立っています。自民などがあえてこのタイミングで、成立させられないことを百も承知で法案提出に踏み切ったのは、憲法記念日や参議院議員選挙を前にした「売り込みPR」だと考えざるを得ません。早い話「話題作り」です。私は極めて下らないと考えますが、こういうPRでも刺さってしまう層が現実に一定数いるのです。そうなってくると、政局色を抜いて制度(の是非)を論ずることが非常に困難となり、解決すべき課題、論点がますます増えていってしまいます。

 5年後には、憲法が施行80年となり、国民投票法が公布20年となります。今と大して変わらない政治状況であることが容易に想像付くのですが、憲法改正の「中身の議論」だけが勢いよく先行しようとするのは一体どういう訳なのか、頭の中のもやもやが消えません。手続論に向き合わないストレスフリーな感覚は、自民党(とその周辺)に限らず、昨今のメディアにもみられることで、妄想に妄想を重ね、思考の中での憲法改正論に歯止めが利かなくなっています。憲法、国民投票法を政局から守ることの重要性、必要性を、先日の憲法記念日に改めて感じた次第です。

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南部義典
なんぶよしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任。現在、国民投票総研代表。専門は国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『図解 超早わかり18歳成人と法律』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)などがある。ポータルサイトhttps://nambu2116.officialblog.jp/ (2021年10月現在)