『シルバー・デモクラシー 戦後世代の覚悟と責任』 (寺島実郎/岩波新書)

 日米関係の本質が衆目にさらされるという点に限っていえば、米国の大統領がドナルド・トランプでよかったと思う。彼の言動からは、米国の対日外交は自国の利益に従って行われているに過ぎす、日米同盟を一蓮托生のようにみなしているのは日本側だけであって、米国側には選択肢のひとつだというのがわかる。――ヒラリー・クリントン大統領では見えにくかったのではないか。
 国際社会の力学への想像力が私たちに欠けていることを著者は常々語ってきた。
 在日米軍の北限がなぜ青森県三沢の通信基地なのか? 「ソ連侵攻の場合、まず北部方面の自衛隊が戦って、米軍は南に構え、行動を選択する」。つまり、北海道は捨てるという方針だからである。米中関係については、蒋介石が大陸から台湾に追われ、中華人民共和国が成立したことで米国の対中政策が迷走。日本はその間隙を縫って米国からの支援を一身に受けたわけだが、「もし蒋介石が本土の中国を掌握し続けていたら、日本の戦後復興は三〇年遅れたであろう」という。
 先般の南北朝鮮首脳会談、今後の米朝首脳会談に関する決定が、米国から日本への事後報告だったことは、著者の従来の指摘の正しさを証明しているだろう。
 本書の副題である「戦後世代の覚悟と責任」には、自分たちが歩んできた日本の戦後民主主義とは何だったのかを問いかけ、新たな時代の日本の立ち位置を構想しようとの提言である。
 自らも「団塊の世代」に属する著者の同世代への批判は厳しい。70年代の大学紛争で過激な社会主義運動や左翼運動に身を投じた若者の多くは「真っ赤なリンゴ」と言われた。表向きは赤いが、中身は真っ白だから、就職後はすぐさま企業戦士に。その変わり身の早さを揶揄した表現である。
 「真っ赤なリンゴ」から上の世代、とりわけ中間層から富裕層にかけての約2700万人は手持ちの金融資産、株式投資に敏感だからこそ、アベノミクス的「資産インフレ誘発政策」を支持しているという。数々の疑惑や不祥事にまみれた安倍政権の支持率が30%超で維持されているのは彼らのおかげなのだ。
 著者が提言する「シルバー・デモクラシー」ははたして可能なのか。正直眉唾なのだが、2025年問題(団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になる)を迎えるにあたり、「日本の国がどうあるべきか」というビジョンを当事者として示せるか、否かで、見えてくる風景は違ってくるだろう。
 私たちの社会は正念場に立っている。

(芳地隆之)

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