第118回 “2020年憲法改正施行宣言”って、一体どういうつもり?

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「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」、そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、「憲法」の観点から検証していきます。

 安倍総理の“2020年憲法改正施行宣言”(5月3日)から、2週間が経ちました。自民党の幹部は、工程表づくりとその根回しに右往左往しているようですが、政権パートナーである公明党、さらに衆議院、参議院の憲法審査会という枠組みでの受け止めをみると、永田町内では、総理の宣言に対する賛同よりも、真正面からの異論、批判的な意見や冷めた見方のほうが拡がっている印象を受けます。
 
 結論から申し上げれば、私は、総理の宣言どおりに2020年に憲法改正が施行されることはないと思います。それは、改正の内容が悪いから、ではありません。内容を云々する以前の問題として、一定のスケジュール感の下、国会審議と国民投票を計画的に実施し、有権者の過半数の承認を得るという、先例のない一大政治プロセスのすべてを2020年までに完了させられるほど、自民党が器用で機動的な組織政党であるとは、到底思えないからです。
 
 自民党はことし結党62年になりますが、自主憲法の制定ないし改正を党是としつつも、総裁の口から「2020年目標」が発せられたのは、つい2週間前の話です。党幹部も含め、みな「初耳」なのです。党内論議の蓄積も何もないまま、泥縄の対応で四苦八苦しているのが、党内の現状にすぎません。また、世間で思われているほど、自民党はトップダウンが効きませんし、一枚岩ではありません。
 
 総理の宣言を鵜吞みにし、興奮を抑えきれず、浮足立っている人をみると、思わず苦笑いしてしまいます。これまで、憲法調査推進議員連盟の発足(1999年)、衆参各院の憲法調査会報告書の公表(2005年)、自民党新憲法草案の公表(2005年)、憲法改正国民投票法の制定(2007年)、衆参各院の憲法審査会の始動(2011年)、自民党憲法改正草案の公表(2012年)、といった出来事でも、同じように騒いでいたのではないでしょうか。このうち一度でも、「憲法改正の一里塚」を本気で実感させる出来事があったでしょうか。現在、憲法改正に賛成する政党・会派の勢力が、衆参両院で「3分の2超」といわれますが、参議院憲法審査会は昨年の通常選挙の後、かえって開催の頻度が下がっている事実を、どう評価されているのでしょうか。総理の宣言で、状況は“好転”するのでしょうか。

一党が主導する、憲法改正発議はありえない

 憲法とは「公権力行使の根拠とその限界を定めた、永続性を有するルールである」という各党の共通理解の下、単独・連立の違いはあるにせよ、いずれの政党も「政権を獲得する可能性」があり、また、国会で「多数派になる可能性」を秘めていることを前提に、憲法論議は、大政党も小政党も対等の立場で進められてきたのが、2000年以降の衆議院憲法調査会で培われた伝統(慣例)です。
 
 憲法96条1項は、憲法改正の発議要件を「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」としています。どの政党が国会(衆議院)で多数派を占め、政権を獲ったとしても、その政党が単独で憲法改正のイニシアティブを取ることはできません(⇔法律は、政権交代の都度、内容が変わることはありえます)。
 
 全党対等を基本とする進め方は、憲法調査会長を務めた中山太郎氏の苗字を取って、「中山原則」ないし「中山方式」とも言われます。中山原則に従うと、大政党の言い分が、その議席数に比例して通らなくなる一方、小政党の存在感が相対的に大きくなるため、議論はどうしてもスロースタートになり、ゆっくりとしたペースを維持せざるを得ません。議論を続けるほど、大政党の側に不満が募ってきます。もっとも、中山原則の運用を誤ると、憲法(改正)に関してその時々の多数派の意見がより強く、より濃く反映されてしまい、憲法の性格を歪め、憲法の体系を動揺させてしまいます。以上のような意味で、憲法(改正)論議はどうしても、憲法96条1項の要件、前記の中山原則に従い、必然的に「2人3脚走」、「3人4脚走」といった、多人多脚走のシステムにならざるを得ないのです。
 
 今回の総理の宣言は、自由民主党総裁という立場で議論の主導権を握るべく、一方的に発せられたもので、中山原則を大きく損なうものであることを厳しく批判しなければなりません。総理の宣言は、多人多脚走のシステムを理解せず、ただ、議論に時間がかかることに苛立ちを抑えきれず(しびれを切らし)、言わば、走っている途中、一人が何の前触れもなく、勝手に猛ダッシュを始めるようなものです。その組が一体どういう結末を迎えるか、想像に難くありません。

国民の賛同は拡がっているのか

 憲法9条を改正し、自衛隊を明記することについて、読売新聞(5月12~14日)、産経新聞(5月13~14日)の2社が、世論調査を行いました。<読売新聞>賛成53%、反対35%、<産経新聞>賛成55.4%、反対36%と、お互いに類似した結果が出たのですが、憲法改正を強く推す両紙の世論調査で、賛成がかろうじて過半数に達している程度であったことから、おそらく朝日、毎日、東京など別の新聞社の調査では、賛否が逆転するのではないでしょうか(その可能性が高いと思います)。2019年中に国民投票を実施するという、自民党幹部からの威勢いい発言も飛んでいますが、あと2年程度で、国民の賛同、理解を安定的、着実に拡げられるのかという点は、甚だ疑問が残ります。国民投票における否決のリスクを負ってまで、冒険的な憲法改正発議を行う必要性、その合理性はありません。
 
 2020年、東京オリンピック・パラリンピックが開催されることは間違いありませんが、憲法改正が施行されるという政治的な“唆し”については、眉唾物として冷静に受け流すのがいいのではないでしょうか。私はそれが、主権者としての賢明な態度だと思います。

(追記)共謀罪法案について

 きょう17日、衆議院法務委員会では、自民、公明、維新の三党のスクラムで、共謀罪法案が強行に修正議決される段取りになっていましたが、野党4党が午前10時すぎ、金田法務大臣不信任決議案を提出したことから、「流会」となりました。委員会の採決は早くてもあさって19日、本会議の委員長報告、採決は23日になる見通しです。

 衆議院法務委員会で、共謀罪法案の審査は1カ月ほど続いてきましたが、金田法務大臣の答弁ぶり、鈴木法務委員長の運営采配ぶりは、本当に酷いものでした。終始一貫、徹頭徹尾、鈴木委員長の職権で日程設定、議事運営が進んでいきました。与野党対立が勃発し、合意形成が不可能な状態に陥った場合、委員長の出番が例外的に生まれることはありますが、頭から委員長主導で、数の力で物事を押し通し続ける運営というものを、私は初めて目の当たりにしました。
 
 参議院段階で金田法務大臣の答弁能力が飛躍的に向上するとは思えないので、この点は諦めるしかありませんが、政治家同士の有意な討議を否定し、議院の存在意義を損ねるような悪しき委員会運営は、参議院では絶対に繰り返してほしくありません。
 
 衆議院法務委員会ではこの後、性犯罪厳罰化法案(刑法改正案)の審査へと続きます。立法事実に真摯に向き合い、国民代表機関の名に相応しい対応をとってもらいたいと願うばかりです。

『法学セミナー 2017年6月号』(日本評論社)に、私の連載「緊急提論 国民投票法制が残す課題(3・完)年齢条項見直しのロードマップ」が掲載されました。関心のある方は、ぜひご覧ください。

”史上初めての憲法改正を、自らの手で何とか成し遂げたい”というのは、国民主権と民主主義を理解しない、ただの妄想です。
/衆議院本館3階「第1委員室」(2017.5.3 筆者撮影)

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南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) 写真:吉崎貴幸